旅レポ

万博に出展中のウズベキスタン、パビリオンは世界遺産「イチャン・カラ」のモスクがモチーフ

ウズベキスタンのヒヴァにある城壁で囲まれた旧市街「イチャン・カラ」

 ウズベキスタン芸術文化開発財団主催で行なわれた「ウズベキスタン共和国」ツアーに参加した様子をお届けしている。

 前回は首都タシケントを案内したが、今回は観光はちょっと休憩にして、今回のツアーを主催した財団と、大阪・関西万博に出展中のウズベキスタンのパビリオンについて紹介しよう。

 ウズベキスタンは10月13日まで、大阪の夢洲で開催されている大阪・関西万博で、「知の庭:未来社会の実験室」をテーマに掲げてパビリオンを出展している。

 286本もある木材の柱が印象的なモダンなデザインで、この西入口近くにあるパビリオンをすでに目にした人もいるかもしれない。この柱のデザインは、ヒヴァにある世界遺産「イチャン・カラ」内にある「ジュマ(金曜)・モスク」がモチーフになっている。外周を囲む大屋根リングも木材の柱で作られているので、それと呼応するようにつながりが感じられる位置にある。

大阪・関西万博のウズベキスタンパビリオン(写真提供:ACDF)
「イチャン・カラ」は旧市街全体がこのような高い城壁に囲まれている
ウズベキスタン西部の都市ヒヴァにある城壁で囲まれた世界遺産の旧市街「イチャン・カラ」にある「ジュマ・モスク」。大阪・関西万博ウズベキスタンパビリオンのデザインモチーフとなっている
「ジュマ・モスク」の柱がパビリオンの柱の森のモチーフとなっている

 このパビリオン建設の委託をしたのが、今回のツアーを主催したウズベキスタン芸術文化開発財団(The Uzbekistan Art and Culture Development Foundation:ACDF)だ。ウズベキスタンの遺産、芸術、文化の保護と育成を行ない、ウズベキスタンの文化遺産を国外に広く紹介することを目的として、2017年に国の主要機関として設立されている。

 ACDFの委託で出展する万博パビリオンは今回が初となるとのこと。この万博パビリオン事業以外にも、新しいウズベキスタン国立美術館(State Museum of Arts)の建設も手掛けていて、この設計には安藤忠雄建築研究所が関わっているなど、日本と関係が深い。また、2025年9月5日~11月20日に開催される第1回「ブハラ・ビエンナーレ」でのコミッショナーを担当している。ブハラ・ビエンナーレについては、ブハラも訪れているので、そこで紹介しよう。

 ACDF会長はウズベキスタンパビリオンコミッショナーも兼務する、ガヤネ・ウメロワ氏が務めている。今回のツアー中のヒヴァ滞在時に写真撮影に応じてもらえた。

ウズベキスタン芸術文化開発財団 会長 ガヤネ・ウメロワ氏。ブハラの「イチャン・カラ」にて撮影
ウズベキスタン芸術文化開発財団 副会長のアジズベク・マンノポフ氏は、今回のツアーに同行
ACDFの事務所は首都タシケントにある。古く趣のある建築物

 ウズベキスタンパビリオンの設計は、ドイツの建築設計会社アトリエ・ブリュックナー(ATELIER BRUCKNER)が担当している。1997年に設立さえれた本社はドイツのシュトゥットガルトにあり、ワールドワイドに220を超える国際プロジェクトを成功させ、350の国際的な賞を受賞している。ウズベキスタンパビリオン以外にも、安藤忠雄設計の新ウズベキスタン国立美術館では、エグゼクティブ・アーキテクト、インテリア・アーキテクト、展示デザインを担当している。

 アトリエ・ブリュックナー 広報・コミュニケーション部長のバーギット・マイヤー氏は、パビリオンのデザインについて、「古来より人々はオアシスの木陰に集い、休息し、知恵を交換してきました。ウズベキスタンパビリオンは、大地を土台とする展示構成から、多様な地形を反映したテラスフロアが重なり、成長、知識、文化交流の象徴である木製の円柱が印象的な屋上庭園へとつながる、多層構造のデザインになっています。

 来場者は可動ステージで上昇しながら、深い文化のルーツから未来のビジョンへと、過去・現在・未来をつなぐ旅を体験できます。ウズベキスタンの歴史と文化を探求しつつ、保護、教育、交流という理念を現代に合わせた形で表現することを目指しました。デザインは、かつてシルクロード沿いの宿場であったキャラバンサライやジュマ・モスクからデザインの着想を得ています」と伝えている。

 パビリオンは、没入感のあるメディア・インスタレーションの展示室から、中央の360度メディアショーに移り、3分のショーを見ながら上階のジュマ・モスクから発送を得た庭まで上昇していくという作りになっている。

「イチャン・カラ」内の「ジュマ・モスク」でパビリオンの解説をするアトリエ・ブリュックナー 広報・コミュニケーション部長 バーギット・マイヤー氏
夜のウズベキスタンパビリオン。大屋根リングに隣接していて、西ゲートに近い(写真提供:ACDF)
パビリオンはウズベキスタンのさまざまな素材からアイディアを得ている。ジュマ・モスクもその1つ
3つの要素が融合された作り。下から大地(土壌)、風景(テラス)、庭園(円柱を使った屋上彫刻)
パビリオンの立面図。中央には可動式ステージがありシームレスにつなぎ、旅を体験
建築中のウズベキスタンパビリオン
柱を支える天井は幾何学的なパターンで組まれている
1階の没入感のあるメディア・インスタレーションの展示室
立体感あるメディア・インスタレーションの一例
360度メディアショー
円形ステージは上昇しながら上映され庭に到着する

 また、ウズベキスタンパビリオンにあるスーベニアコーナーの壁を彩るタイル製作を担当した、陶芸家のアブドゥルバヒド・ブホリイ氏のブハラにあるアトリエを訪問する機会もあった。この工房は、ACDFなどの支援を受け2006年に設立されていて、古来から受け継がれてきたブハラの伝統的なゆう薬の調合を復活させた。ブルーを主体にした作品に反映させている。ブルーはウズベキスタン国旗にも使われていて、象徴的な色となっている。

 パビリオン向けに製作されたタイルは、細長い形状で単純なブルーではなく、エメラルドグリーンがかった深い色合い。ぜひ現物を見てみてほしい。

アトリエはブハラの住宅街にある
アトリエの玄関。青い表札が印象的
陶芸家のアブドゥルバヒド・ブホリイ氏
作業スペースで説明してくれた
陶芸作品はブルーを主体にしたものが多い
ウズベキスタンパビリオンで使われるタイルの作品
このような感じでスーベニアコーナーで使われている
アトリエ・ブリュックナー 広報・コミュニケーション部長 バーギット・マイヤー氏とともに

 大阪・関西万博に行ったなら、ウズベキスタンパビリオンも訪れてみてほしい。9月1日には、ウズベキスタンのナショナルデーを祝うイベントが、EXPO ナショナルデーホールの「レイガーデン」にて開催される。9月1日は1991年にソ連から独立したことを記念する日となっている。

村上俊一

1965年生まれ。明治大学文学部卒。カメラマン、アメリカ放浪生活、コンピューター雑誌編集者を経て、1995年からIT系フリーライターとして活動。写真編集、音楽制作、DTP、インターネット&ネットワーク活用、無線LAN、スマホ、デジタルガジェット系など、デジタル関連の書籍や雑誌、Web媒体などに多数執筆。楽曲制作、旅行、建築鑑賞、無線、バイク、オープンカー好き。