旅レポ
12月12日に本番を迎える「タイ王室御座船パレード」のリハーサルを見学してきた
2019年12月12日 07:00
12月12日15時30分ごろから、タイのチャオプラヤー川流域で「タイ王国御座船パレード」が行なわれる。当初10月24日実施を予定していたが、水位や気象条件の安定が見込まれる12月に変更されていたもの。2006年にプミポン前国王の在位60年を記念し開催され、2012年には85歳の誕生日を祝し実施。今回はワチラロンコーン国王の即位を祝い、約7年ぶりにチャオプラヤー川にて美しいバージの水上行進を見ることができる。
それに先立ちタイ国政府観光庁のプレスツアーでバンコクを訪れ、10月21日に行なわれたドレスリハーサルを見学した。リハの様子とともに、バンコク内で開催中の「タイ王室御座船パレード」にまつわる展覧会なども含めて紹介する。
アユタヤ時代から続く伝統的なパレードは、優雅で時を忘れるほどの美しさ
「タイ王国御座船パレード」の起源はアユタヤ王朝時代まで遡る。700年以上の歴史を持ち、王室や信仰との関連性も深い。国王が国民の安否を水路から見守る意味もあり、通信手段が未発達の時代に新たな王の誕生を国民に知らせるためにも重要な行事だったという。
通常の2倍の大きさであるロイヤルバージは戦いが勃発すると軍事用にも転用され、パレードのフォーメーションや先首部分の大きな大砲が名残として現在まで見ることができる。平時はブッダの軌跡をたどる巡礼や「ロイヤル・カティン・セレモニー(僧衣献納式典)」などで利用、これらは軍事練習も兼ねていたという。
アユタヤ王朝時代の戦いから第二次世界大戦による破壊や焼失、再建を繰り返してきたが、タイ王国海軍・職人・美術関係者による再建を経て1959年にパレードが復活。華やかな52艘(王室御座船4艘、動物の船首像が飾られた10艘の御座船、38艘の護衛船など)のバージを再び見ることができるようになった。12月12日のパレードでは、ワチラロンコーン国王とスティダー王妃をはじめロイヤルファミリーが参加。約2300名の海軍軍人が5縦列に配列されたバージに乗りチャオプラヤー川を王宮を目指し約45分間かけてパレードを行なう。川沿いの約3.4kmのルートには多くの市民が王室への敬意を表わし黄色のシャツを着用する。
15時からリハーサルが始まるとボートソングが風に乗り静かに聞こえてきた。冒頭では準備できたことを歌い、そして国王を賛え、パレードの壮大さを歌う力強いものに変わっていく。パレードのためにタイ王国海軍の参加者は数か月間トレーニングを重ね、水上での漕ぐタイミングや歌の精度を上げてきたとのこと。
最初に現われたのは「トンクワンファー・バージ」と「トンバビン・バージ」。続いては「スエアタヤンチョン・バージ」。船首には虎が描かれており、華やかなイエローと縞模様が印象的だ。護衛艦・駆逐艦の役割を持つ。
「ドン・バージ」が進むなか「アスンパクシー・バージ」「アスンワユパック・バージ」が見えてきた。アスラの顔に鳥の体、そして藍色やグリーン、紫を使った色合いが印象的だ。全体は漆塗りの金メッキ加工を施しガラス片で装飾されている。
神話に登場する白い猿マハヌーンが印象的な「クラビプラップムアンマーン・バージ」も隊列をなしてくる。ラーマのもとで猿の軍を率いる戦士ハマヌーンの姿を目に焼き付けよう。対として「クラビランロンラップ・バージ」も黒い猿が船首に飾られている。
タイ式のまわしを身にまとった緑色の猿が船首に飾られた「パリーランタウィップ・バージ」と赤い猿の「スクリップクロンムアン・バージ」。伝説でバリはとても勇敢で賢い王とされており、太陽に敬意を払うために毎日東西南北を移動すると言われている。
ロイヤルバージが王宮に近づき、バージが集結しはじめるとボートソングと漕ぎ手の一体感がさらに増し、幻想的な空間ができあがってくる。ビブラートの効いた歌声と水の音、そして静かに進むバージとこの世のものとは思えない光景が広がっていく。
そして、彼らに守られるように7頭のナーガが輝くロイヤルバージ「アナンタナーカラート」がゆっくりと目の前に。長さ44.85mで54名の漕ぎ手により動かされている。黄金に輝く装飾は金やガラスのオーナメントをふんだんに使用。アナンタはサンスクリット語で無限・永遠、続いて蛇や王を意味するバージ名となっている。通常、中央のパビリオンには仏像やカティン・ローブが置かれている。
ピンクガルーダとレッドガルーダがフロントに施された2艘「クルットトレットトライチャック・バージ」「クルットフーンヘッド・バージ」らに守られるようにロイヤルバージ「スパナホン」と同じくロイヤルバージの「アネークチャートプッチョン」が悠々と水の上を走ってくる。
国王や高位の王室専用であるロイヤルバージ「スパナホン」は、美しい白鳥をデザイン。不死鳥とも言われている。ふんわりとした口元の房にはクリスタルが光る、最もエレガントなバージだ。漆と金、ガラスのオーナメントをたっぷり使い美麗で威厳のある姿に仕上げられている。本体の全長は46.15mで漕ぎ手は50名。
続くロイヤルバージ「アネークチャートプッチョン」は遠くから見るとシンプルに見えがちだが、実は船首には細かくナーガが彫り込まれている。中央の玉座は「ロイヤル・カティン・セレモニー(僧衣献納式典)」の前に国王が衣装や頭部の飾りを外す。なお、船の外装はピンク色で全長45.67m、漕ぎ手が61名必要だ。
そしてプミポン前国王時代に作られた一番新しいロイヤルバージ「ナライ・ソン・スバン」の姿も見ることができた。空を飛ぶガルーダにナーガが握られており、その上にヴィシュヌ神が乗った姿が勇ましい。全長44.30m、50名の漕ぎ手により進むことができる。在位50周年を祝い1996年に進水した。なお、「スパナホン」が王宮前の桟橋に到着するとパレードは完了。
チャオプラヤー川沿いのレストランで食事。寺にはバージの壁画も発見
ホテル「スパチュラ・リバーサイド・ホテル」に併設するレストランは、窓を隔ててすぐ隣がチャオプラヤー川。絶好の鑑賞場所のため、取材当日もチェアがすでに並べられていた。
なお、ホテルから徒歩5分の鐘が境内から発掘された「ワット・ラカンコシターム」も訪れてほしい。観光客向けではなく、地元民に愛されるお寺という印象で、エントランスの金色の鐘が目印だ。上を見上げるとロイヤルバージ「ナライ・ソン・スバン」のフロントに飾られたガルーダとヴィシュヌ神の姿を発見。本殿には大きな大仏と壁画部分にバージも描かれていた。
「アイコンサイアム」で「タイ王室御座船パレード」の展示会も実施
タイ最大級の複合商業施設「アイコンサイアム」では、「タイ王室御座船パレード」の実施に先駆け「Art Afloat」を実施している。パレードを形作る52艘の模型を各艘の歴史解説とともに展示。パレードの配置同様に並べられ、その規模の大きさも体験することができる。タブレットを使ったタイ語、英語、中国語での解説も。会期は12月12日まで。なお、「スパナホン」のモデル展示やデジタルサイネージによる映像演出も楽しめ、まさにお祝いムード一色となっていた。
さらに、過去の写真資料や歴史、実際にパレードで使用される衣装やオールなども展示。パレードでは、国王が現人神のような役割で漕ぎ手らは国王を守る天神的な役割のため衣装も非常に豪華。細かい装飾が施されたジャケットやハットにパンツ、孔雀の羽やゴールドとシルバーのオールなど華やかな道具たちをじっくり見てみよう。
お腹が空いたら「ソークサイアム」へ。ご当地フードを一気に食べ尽くす
展示をじっくり鑑賞したあとは、1階フロアから中2階まで広がる「ソークサイアム」を目指そう。タイの中央、北東、北、南と4地域の名物メニューや特産品、アートが大集結。しかもどこを撮ってもデコレーションが秀逸と評判なのだ。夜市に訪れたような雰囲気で屋台がところ狭しと並んでいる。屋内のため天気の心配もなく、座席も十分にあるためランチやディナー、お土産探しにぴったりだ。しかも、人工的な川も流れており水上マーケットエリアなどアトラクション感覚で過ごせる。
個人的に前回のアユタヤ滞在から気になっていた「ロティ・サイマイ」を頬張りながら、水上マーケットを散策。色鮮やかな「ルークチョップ」に目を奪われつつ、タイを訪れたなら飲まずにはいられない「チャトラムー」へ。お茶専門店でオレンジ色の「タイミルクティー」(50バーツ、約180円、1バーツ=約3.6円換算)が一番人気。しっかりとしたプラスチックカップに入れてくれるので、飲み歩きも安心だ。カレーを味わったりタイシルクを購入、凝ったデコレーションなどを写真に収めているとあっという間に2、3時間が経過。涼しい館内でまとめて買い物、食事をするならば迷わずここを訪れてほしい。