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JR東海の電導リニア「L0系」試乗会で500km/hを体験してみた。2020年春の改良型投入に向けて試乗会はいったん休止

2019年10月3日 実施

JR東海が「リニア中央新幹線」開業に向けて試験走行を行なっているリニアモーターカー「L0系」

 JR東海(東海旅客鉄道)は現在、最高500km/hで走行する「リニア中央新幹線」の2027年開業に向けて工事を進めている。超電導磁石を用いたリニアモーターカーを使い、東京(品川)~名古屋を最速40分で結ぶ計画だ。

 山梨県に建設した実験線では、L0系を使った走行テストを行なっており、2014年からは抽選で一般の見学客を乗せた試乗会も有料で実施し、約16万人がリニアを体験している。これまで使われてきたL0系による試乗会は10月でいったん終了となっており、一つの区切りとしてメディア向けに試乗会を実施した。

山梨県都留市にあるJR東海の山梨実験センター

 超電導リニアの研究が始まったのは国鉄時代の1962年であり、1964年に開業した東海道新幹線の営業前には構想が上がっていたことになる。その後は1977年に宮崎県に建設した実験線(7km)で走行試験を開始。1997年には山梨県に場所を移し、18.4kmの実験線で走行試験を始めた。

 現在は42.8kmに延伸され、これは敷設予定の東京~名古屋間285kmの約7分の1の距離にあたる。走行テストは頻繁に行なわれており、2015年には1日に4064kmの走行も記録。また、同年には有人走行で最高603km/hも記録している。

L0系が車輪走行から浮上走行へ(前編)
L0系が車輪走行から浮上走行へ(後編)
500km/hに達したL0系の車内風景
山梨リニア実験線の概要。全長は42.8kmで、トンネル区間は35.1km。最急こう配は40‰で、最小曲線半径は8kmになっており、ほぼ直線だが高低差はそれなりにある
2015年4月21日に603km/hを記録。列車の世界最速記録としてギネスに認定されている

 実験に使用する車両も順次改良しており、現在使用している車両は長いノーズが特徴的な「L0系」。ニオブチタン合金を用いた超電導磁石は、液体ヘリウムと液体窒素でマイナス269℃に冷却され、安定した超電導状態で強い磁力を作り出す。

 500km/hという高速走行を実現するため、スピードが出ている際は10cmほど浮遊した状態で滑走するが、150km未満ではゴムタイヤで走行する仕組みになっている。また、運転士は乗車しておらず、操縦は指令センターからリモートコントロールしている。

リニアの歴史や東京~名古屋間のルート、磁石による走行の原理や安全性を解説したパネル

 試乗したのはL0系の4両編成。先頭車の全長が28m、中間車が24.3mで、それほど長い編成ではない。ちなみに最長で12両編成まで可能とのこと。現行の新幹線をもとにデザインしているので内装も似ているが、窓が小さいことや、横幅が2.9mのため(N700系は3.36m)座席が5席(3席-2席)配列ではなく、4席(2席-2席)配列になっている。

 飛行機ほどの急加速や上下の揺れがないので、座席にシートベルトがないのも新幹線と同じだ。また、走行はほとんどがトンネル内のため、前方の様子や状態を常に表示するディスプレイが、そこかしこに設置してあるのは、リニアならでは。

車両の前方や天井近くに設置したディスプレイにさまざまな情報が表示される
車内は新幹線を少しコンパクトにしたような印象。座席にはドリンクホルダーやテーブルなども備えている

 今回走行したルートは、山梨実験センターを出発して、まずは東京方面に最高350km/hで移動。その後、名古屋方面に向かって約40kmの距離を最高500km/hで走行する。そして再度、東京方面に向かい、こちらも500km/hで車両基地まで走行する。最後は車両基地から山梨実験センターまでの短い区間を折り返して戻ってくる行程だ。

 3回ほど折り返すが、停車後はすぐに発車するので座席は名古屋方面を向いたまま。東京方面に向かう際は背を向けた方向に進むが、ディスプレイに映し出されるのは先頭車両から見た映像のため、高速で遠ざかる景色となる。

 発車のアナウンスとともに動き出すが、とても滑らかに加速していく。その後、1分ほどで150km/hに達し、「浮上走行に移ります」とアナウンス。ゴムタイヤが収納されて浮上するのだが、10cmほどなので飛行機のような足元から浮き上がる感覚はなく、振動が少なくなって静かになるのが今までの乗り物にはない不思議な感覚。接地している車輪やパンタグラフがない、リニアならではの特徴だ。その後もグングンと加速していき、走り出してから3分も経たずに500km/hに到達する。JR東海によれば、走行距離13.4kmで500km/hに達するという。

 ほとんどがトンネル内ということもあり、300km/hくらいまでは静かだった車内も、500kmでは「ゴォー」という風切り音に。車窓の景色はトンネル内のライトがものすごい勢いで過ぎていくので旅情を味わうというものではないが、ディスプレイに映し出されるスピード感あふれる前方カメラの映像は、映画のワンシーンのようだ。

500km/hに達した際の前方景色。トンネル内のライトが白線のように流れていく。小刻みな揺れはそれなりにある
たまに見える外の景色も体感したことないスピードで流れていく。飛行機の上空から見る景色とは一味違うのも面白い
もっともカーブの角度がある区間も500km/hで駆け抜けていくが、それほど遠心力は感じられなかった

 現在走行しているL0系は営業を想定した完成形に近いものだが、さらなる改良が施された改良型試験車が、2020年春に完成予定だ。先頭形状を最適化することにより先頭部の空気抵抗を約13%減らし、車外騒音や消費電力の低減を実現する。

 今後はL0系と改良型試験車の並行運用となる予定だが、車体入れ替えのため、試乗会は今秋でいったん終了し(受付はすでに終了)、2020年の春以降、データ取得後に試乗会は再開予定となっている。L0系の走行テストは行なわれているので、見学したい場合は「超電動リニア」のWebサイトをチェックしていただきたい。なお、山梨実験センターの向かい側には山梨県立のリニア見学センター「わくわくやまなし館」(入場無料)と「どきどきリニア館」(入場有料)があるので、こちらで見学することが可能だ。

2020年春に完成予定のL0系の改良型
近場にはリニアを見学できる施設が2つ用意されている
わくわくやまなし館の3階にある見学エリアからリニアを写したもの
あっという間に通り過ぎていくので、現在地や各種情報が確認できるディスプレイが設置されている

 また、JR東海ではリニア中央新幹線が開業したあとの社会や暮らしの変化について映像化したものをWebサイトで公開している。東京~名古屋間が最速40分、東京~大阪間が最速67分で結ばれる将来、ビジネスやライフスタイルにどのような恩恵があるのか、さまざまな動画の主人公から感じることができる。

Webサイト: リニア中央新幹線と日本の未来

JR東海「想像できる未来を、超えよう。」