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JR東海、新幹線「N700S」量産車第一編成の搬出作業を公開

7月1日営業運転開始

2020年2月25日 作業公開

2020年7月 営業運転開始予定

トレーラーへの積み込み作業を待つ量産車第一編成(J1編成)16号車

 JR東海(東海旅客鉄道)は2月25日、愛知県豊川市にある日本車輌製造 豊川製作所で、新幹線の新型車両「N700S」量産車第一編成の、トレーラーへの積み込み作業を公開した。

 N700Sは2020年7月1日の営業投入に向け、量産車の製作が行なわれている次世代新幹線標準車両。東海道、山陽新幹線で使用している新幹線車両は1999年に「700」系が登場以来、2007年に「N700」系にモデルチェンジ、2013年にはマイナーチェンジモデルとなる「N700A」が登場と、環境の変化や技術の進歩に合わせた進化を遂げてきた。

 13年振りのフルモデルチェンジとなる新型では、「安全性、安定性、快適性、環境性能を最高レベルでお客さまに提供する」ことを目指し、「Supreme(最高の)」を冠したN700Sとして開発がスタート。

 2018年3月に確認試験車(J0編成)が先行デビューし、本線走行により各種性能試験を実施。そこから得られたフィードバックを反映した車両が、今回製作された量産車となる。N700Sは合計40編成が製作される予定となっており、7月1日の営業投入開始時までに5編成を導入、年内にプラス7編成で計12編成、2021年と2022年にそれぞれ14編成が導入されるという。

新型車両「N700S」量産車第一編成の、トレーラーへの積み込み作業を公開
新幹線「N700S」概要

電動車比率: 14M2T
ユニット構成: 4両1ユニット
乗車定員: 普通車1123名、グリーン車200名
車体サイズ:
[先頭車]車体長27350×車体幅3360×車体高3600mm
[中間車]車体長25000×車体幅3360×車体高3600mm
速度:
[東海道区間]285km/h
[山陽区間]300km/h
[曲線通過速度(R2500m)]285km/h
[起動加速度]2.6km/h/s
編成出力: 1万7080kW

 作業開始前にJR東海 新幹線鉄道事業本部 車両部 担当部長の田中英允氏があいさつ。N700Sは2018年3月に確認試験車を製作し、16編成および8両編成の性能試験、360km/hでの高速走行試験、バッテリー自走システムによる走行試験を実施。性能評価、機能確認を進めてきたと説明。量産車においては2020年度から3年間で40編性を順次投入し、この7月1日から営業を開始する予定だと述べた。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 車両部 担当部長 田中英允氏
日本車輌における新幹線電車製作の歴史

先頭形状は新たにデュアル スプリーム ウイング型を採用

 先頭形状などデザインまわりについて、JR東海 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長の藤井忠氏が説明した。

 まず、先頭形状は700系シリーズをさらに進化させた「デュアル スプリーム ウイング型」を採用。これは小牧研究施設による技術開発の結果で、「左右両サイドにエッジを立てた形状」とすることで走行風を整流し、トンネル突入時の微気圧波や走行抵抗を減少。乗り心地の向上に寄与していると説明。また、前照灯についてもエッジ部分に配置することで投影面積を拡大するとともに照射範囲を向上。さらに新幹線で初めてLED光源を採用することで、省エネルギー化や照度向上、長寿命化を実現しているとメリットを挙げた。

 サイド部に関しては東海道、山陽新幹線のアイデンティティにもなっている白地に青帯を踏襲、先頭部に青帯をプラスすることで「(Supremeの頭文字である)Sを立体的に表現」していると紹介。また、普段あまり目にすることがない台車まわりにポイントを移し、台車をカバーするスカートを下部カウルを延長した形状としていることに言及。これにより、台車の動作および研修作業員のメンテナンススペースを確保しながら空間を削減。走行風が入り込むことを抑制することで、走行抵抗の低減や降雪時における雪の舞い上がりを抑えているとした。

 そのほかボディとなるアルミ構体にもさまざまな改善をしており、例えば溶接量を低減することにより品質や製作性の改善を図るなど、「(N700Sは)あらゆる点においてN700Aより改善がなされている」と述べた。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長 藤井忠氏
先頭形状の違い
さらなる進化を遂げた先頭形状
第一編成16号車
横から見るとN700Aとの違いがわかりづらい
運転席まわり
ノーズ後方にSupremeの頭文字「S」をデザインしたラインが追加されている
ドア下部に第一編成を示す「J1」のステッカーが貼られる
先頭部正面。ライト上のエッジがN700Sの特長
先頭下部
先頭逆側
複雑な面を描く先頭形状
新幹線として初めてLEDヘッドライトを採用。約50%の省エネルギー化を実現
台車部分。本来はスカートが付く
台車後方にもカバーが付く
車両後端
後方から
スカート内部

N700S量産車に搭載される各種機器

 最初に量産車の設計責任者を務めるJR東海 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 課長 福島隆文氏が概要を説明。量産車の設計にあたっては2018年3月からN700S確認試験車による走行試験がバックボーンとなっており、約2年間、33.4万kmにもおよぶ走行データ、またその解析結果をフィードバック。仕様を決定していると明かした。

 続けて福島氏がバッテリー自走システムについても説明。これは高速鉄道としては初めて採用されるシステムで、停電時などにトンネルや橋梁を避け安全な場所まで移動することを目的に開発されたもの。バッテリー装置にはPHEV乗用車およそ3台分となる大容量のリチウムイオンバッテリーが搭載されており、これを1編成16両あたり8台用意することで、架線からの電力が絶たれた場合でも30km/hでの移動が可能としている。走行可能距離は路線状況によって異なるものの、東海道新幹線では最長となる「新丹那トンネル(約8km)を含めすべてのトンネル、橋梁から出ることができる」という。

 このシステムの搭載にあたっては2018年9月に浜松工場において5km/hで試験を実施したのち、2019年7月から8月にかけてバッテリー両数を2両から4両に増やし、車両所構内や本線において30km/hで走行するテストを実施したと説明。また、走行用とは別にバッテリーを搭載しており、さすがに空調まではまかなえないものの、トイレなど一部設備においては号車限定で使えるようにしているとのこと。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 課長 福島隆文氏
バッテリー自走システムの概要
バッテリー装置
バッテリー装置には6台のバッテリモジュールを搭載
バッテリーモジュールは24個の電池が入っている
電池単体

 台車についてはJR東海 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長の大塚智広氏が担当。「あまりお客さまの目に触れるものではなく馴染みのないものですが」と前置きしつつ、「N700Sでよい台車ができましたのでご紹介したい」と説明を行なった。

 まず、台車は「1つの車両に2台あり、空気バネの上に車体が載り、モーターに電気を送り歯車装置で車輪をまわす」と原理を簡単に説明。新型では原理はこれまでと大きく変わっていないものの「軽量化」「省力化」「高機能化」を実現しているとした。

 大きな部分から見ていくと、台車枠(フレーム)を従来の「コの字型の鋼材を組み合わせて作る“もなか型”」から、「板の上にコの字型の鋼材を組み合わせる“ハット型”」に変更している。これにより、補強部材や溶接箇所を減らすことが可能となり、1台車あたり約75kgの軽量化とともに信頼性も向上しているという。

 台車に搭載されるモーターに関しても、従来の4極駆動から6極駆動に変更することで、1台車あたり約140kgもの軽量化とともに小型化も実現。これにより高性能な歯車装置の採用、ブレーキライニングの厚みアップなどを同時に果たしており、メインテナンス面など省力化にも貢献しているそうだ。

 前述の歯車装置は片刃の「ハスバ歯車」から両刃の「ヤマバ歯車」に変更。こちらは低騒音化、低振動化とともに軸受けの信頼性向上にも一役買っているとのこと。乗客へのメリットが大きい部分としてはフルアクティブ制振制御の採用が挙げられる。従来車ではオイルダンパーによるセミアクティブ制振制御としていたが、新たにモーターとポンプを加えたフルアクティブ制振制御を搭載することで、車体の揺れを大幅に抑えることが可能となった。この方式を採用して、従来のダンパーにモーターとポンプを取り付けることでアップグレードが可能なほか、トラブル時にもセミアクティブ制振制御が働くなどのメリットがあると説明した。なお、装着されるのはグリーン車(8、9、10号車)のほか、構造的に動揺が大きいパンタグラフ装着車(5号車、12号車)と先頭車(1、16号車)となる。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長 大塚智広氏
台車の概要
動力台車「TDT207X」
台車枠をハット型とすることで軽量化を実現
6極駆動により小型化されたモーター
モーターを小型化したことによりブレーキライニングの厚みをアップ。約2倍の長寿命化を実現
フルアクティブ制振制御装置。下部にモーターとポンプが備わる
コの字型の受けがある部分(左右とも)に収る

 駆動システムの進化もN700Sの大きなポイントになる。JR東海 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長の谷山紀之氏は、「高速鉄道で世界初のSiC(炭化ケイ素)素子を搭載した駆動システムを採用」していると紹介。この駆動システムとは、「架線からの電力を三相交流に変換しモーターへ供給する装置」のことで、主変換装置、主変圧器、モーターを組み合わせたもの。高効率で発熱の少ないSiC素子を採用することで、冷却機構の簡略化や損失低減が可能となり、さらに独自技術となる走行風冷却技術を組み合わせることで小型軽量化を実現しているという。

 駆動システムは1編成に14台搭載されており、N700系初期モデルと比べると単体で幅寸法55%(2200mm→1000mm)、重量は0.6t低減されていると説明。同時に従来は主変圧器と主変換装置を別の号車に搭載する必要があったが、同一号車に搭載することを可能としたことで設計の自由度が格段に向上。「標準車両の実現に貢献している」とメリットを挙げた。

東海旅客鉄道株式会社 新幹線鉄道事業本部 車両部車両課 担当課長 谷山紀之氏
駆動システムの概要
主変換装置
横から
下部に放熱用のフィンがある

トレーラーに積み込まれ浜松工場へ

 14時過ぎから始まった積み込み作業は、クレーンで車両を吊り上げ下部にトレーラーを移動、車両を降ろして固定するといった手順で行なわれ、30分あまりで完了。すでに積み込みが終了していた15号車とともに、2月25日の深夜にJR東海浜松工場に向けて出発。16両がそろったところで編成として組成され、試運転など営業に向けたプログラムが進められることになる。

移動用の台車から切り離され釣り上げられた先頭車両
トレーラーが所定の位置へ
トレーラーの上に車両を移動
慎重に位置合わせが行なわれる
トレーラーに固定
クレーンが取り外される
移動準備が完了
移動を待つ15号車