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JR東海、リニア中央新幹線が通るトンネル用シールドマシン公開。2027年・品川~名古屋開業を目指す
世界初の新機軸で大深度地下を掘削
2020年1月31日 19:38
- 2020年1月29日 公開
- 2021年度初頭 掘削開始
JR東海(東海旅客鉄道)は1月29日、リニア中央新幹線のトンネル建設部分のうち、首都圏大深度地下の工事に投入するシールドマシンが完成したことを受け、メーカーのJIMテクノロジー製造部(三菱重工神戸造船所内)において報道公開した。
東京、名古屋、大阪の3大都市圏を結ぶ新たな大動脈として期待される中央新幹線。既存の鉄道のようにレールと車輪を用いず、超電導電磁石(超伝導電磁石)により浮上・推進する超電導リニア方式を採用し、最高速度500km/hでの営業運転を予定している。
2027年開業予定の東京(品川)~名古屋間が最速40分(現在の新幹線「のぞみ」で約90分)で、さらに将来的には大阪までを最速67分(同約142分)で結び、都心部同士を直結することで航空機を圧倒する速達性・利便性・大量輸送を実現する。また、現状の東海道新幹線が大規模災害により被害を受けた際のバイパス路線としても有望視されている。
本格着工した中央新幹線
2014年12月、中央新幹線 品川~名古屋間285.6kmの工事がスタート。路線の大半は都市部の地下や山岳部を通るトンネルであり、工事が始まっている区間も大半が地下のため大規模に工事が始まっていることが実感しにくいが、相模原市橋本駅付近の「神奈川県駅(仮称)」は2019年11月に着工しており、さらに「北品川非常口」と呼ばれる立坑は2019年12月に完成するなど、2027年の開業(品川~名古屋)に向けて着実に工事は進んでいる。
中央新幹線の一連の工事のうち、特に難易度が高く工期が長期間に及ぶと考えられるのが、首都圏・名古屋の市街地の大深度地下トンネルと南アルプストンネルだという。今回公開したのは、このうち「首都圏第一トンネル」の一部区間を掘削するためのシールドマシンだ。
中央新幹線品川駅は現在の品川駅の地下に建設され、次の「神奈川県駅」も地下駅となる。この区間は全線地下トンネル(首都圏第一トンネル)で、これを東側から「北品川工区」「梶ヶ谷工区」「小野路工区」に分け、計9か所に立坑を掘る。その後、この立坑同士をつなぐトンネルを掘削するという手順で建設を進める。
なお、建設工事終了後、これら立坑は換気や保安作業に利用するほか、非常時の乗客乗員の脱出口となるため、それぞれ「非常口」と名付けている。このうち、品川駅から「北品川非常口」「東雪谷非常口」「等々力非常口」までを結ぶ全長約9.2kmの大深度地下トンネルを、今回公開したシールドマシンで掘削する。この区間が大深度地下に建設されるのは、電気・水道などの生活インフラ、道路や地下鉄などの交通インフラが縦横無尽に走っていることや、工事や列車の走行による振動などの影響を地上に与えないためだという。
シールドマシンは、すでに完成している北品川非常口の地下約83mに下ろし、立坑を掘った際の鉄筋コンクリート製の仮壁に向けて据え付ける。そして2021年度初頭、まずは東雪谷非常口を目指して南西方向に掘削を開始する。等々力非常口まで掘削したあとは、いったん分解して地上に引き上げ、摩耗や損傷した部分を整備したのちに、再び北品川非常口から下ろされ、今度は北向きに掘削を開始、品川駅を目指す。
ちなみに、従来はトンネル掘削の役目を終えたシールドマシンは取り出す方法がないため、そのまま地下に放置されることが大半で、「トンネルの数だけシールドマシンが埋まっている」とさえいわれる。今回はあらかじめ掘った立坑に飛び出してくるため、再び地上に引き上げての再投入が可能なのだ。
シールド工法とシールドマシンの仕組み
報道公開では、シールドマシンの仕組みについての説明も行なわれた。
シールドマシンとは、筒(シールド)の先端にあるカッターヘッドで土砂や岩盤を削り取って進みながら、シールド後方にセグメントと呼ばれる分割されたブロックをくみ上げていくことでトンネルの外殻も同時に構築できる掘削機械のことで、このトンネル掘削方法をシールド工法と呼ぶ。
大深度の硬い岩盤はもちろん、軟岩層や帯水層でも掘削可能で、長距離のトンネル掘削を低コストで行なえるのが特徴だ。今回のシールドマシンは外形が14.04mで、これにより建設するトンネルの外形は13.8m。1日約20m、1か月で約400m程度を掘り進む予定だという。
1. シールドジャッキに推されてカッターヘッドが岩盤を削りながら前進する
2. 数メートル進んだら、シールド内にセグメントを送り込む
3. 送られてきたセグメントをシールド内のエレクターが掴み、円筒状に並べてトンネル外殻をつくる
大まかにはこれを繰り返すことにより、数メートルずつ前進していく。
完成した巨大シールドマシン
カッターヘッドには計12本のスポークがあり、その表面には岩盤などを削るための白、ピンク、赤、黄緑の「ビット」(または「カッタービット」)が取り付けられている。ビットは用途により色分けしてあり、スポーク上の最も数が多いピンクのビットが地山用、赤のビットがコンクリート仮壁用で、それぞれ先行して岩盤に切り込みを入れるため「先行ビット」という。
また、スポークの側面にある白のビットを「ティースビット」と呼び、岩盤の切削と、切削した土をシールド内に取り込む機能がある。少数見える黄緑のビットは「摩耗検知ビット」で、この内部に何層にもわたってセンサーがあり、摩耗して外側から順にセンサーが削り取られていくことで、カッターヘッド全体のビットの摩耗状況を把握する。
これらのビットの素材はタングステン合金で、このシールドマシンの場合は表に(見えている数が)約700個、後述の「サンライズビット」の裏面に隠れているものを含めると、実に1100個ものビットが取り付けられている。カッターヘッドは掘削時に約2分で1回転する。
世界初の「サンライズビット工法」で、より安全な工事を実現
中央新幹線首都圏第一トンネル大深度地下掘削用のシーリングマシンには世界初の新機軸を導入している。スポーク上の22か所にあるオレンジの部分がそれで、立坑のコンクリート仮壁を掘削する際には赤の仮壁用、岩盤(地山)を掘削する際にはピンクの地山用のビットに交換できるというもの。従来のシールドマシンでもビット交換そのものは不可能ではなかったが、それには作業員がスポークの裏まで入って直接ビットを交換する必要があり、少なからず危険を伴うものだったという。
鋼管の仕組みとしては単純で、仮壁、地山それぞれの場所に合わせていったんシールドマシンを止め、遠隔操作で複数のビットがついたドラムを回転させて交換する。この仕組みは熊谷組とJIMテクノロジーが共同で開発したもので、これを用いた掘削方法は「サンライズビット工法」と名付けられた。
首都圏第一トンネルでは、まず仮壁用ビットで北品川非常口の仮壁を切削し、岩盤に出ると地山用ビットに交換、そのまま土中を掘削する。やがて東雪谷非常口の立坑に到達すると再び仮壁用ビットに交換し、外部から仮壁を切り崩す。こうして立坑の仮壁と岩盤でビットを換えながら次の立坑を目指すわけだ。
万全の準備を整えて掘削を開始したい
シールドマシン公開の場では、事前説明を担当したJR東海 中央新幹線推進本部 中央新幹線建設部 土木工事部 担当部長の吉岡直行氏より、あらためて今回完成した首都圏第一トンネル大深度地下用シールドマシンの特徴や今後の工事計画の説明があった。
このシールドマシンはJR東海と、熊谷組、大豊建設、徳倉建設からなる共同企業体、そしてメーカーのJIMテクノロジーが力を合わせてつくってきたもので、1月24日に完成したという。中央新幹線トンネル用のものとしては最初につくられ、そして使用するシールドマシンである。
「このシールドマシンは頑丈ですが、大深度地下の硬い岩盤や水の圧力に耐えながら進んでいきます」と吉岡氏。東京と名古屋の都心部では大深度地下にトンネル建設が行なわれることについては「地上にお住まいの方に、騒音、振動の影響が少なく、(住宅などの)移転もないというメリットがあります」と説明した。また、今後の計画については、「いったんシールドマシンを分解して運べるようにし、4月には北品川非常口に運び始め、再び組み立てます。その後1年をかけシールドマシン発進の準備を万全にし、2021年度初頭にはトンネルを掘っていくことになります」と見通しを明らかにした。そのうえで吉岡氏は、「引き続き工事の安全と環境の保全、地域との連携を重視しながら、着実に工事を進めてまいりたい」と述べた。
【お詫びと訂正】初出時、シールドマシンの施工会社名に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。