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N700系新幹線が宙に舞う! JR東海、新たな展示に向けリニア・鉄道館へ車両を搬入

2019年6月19日 実施

クレーンで吊り上げ、台車に載せられるN700系量産先行試作車1号車

 JR東海(東海旅客鉄道)のリニア・鉄道館では、7月17日より「N700系量産先行試作車」3両を新たに展示する。その最初の1両を6月19日未明に搬入。その後、先行して搬入していた台車への据付作業を行なった。

 リニア・鉄道館には現在、歴代の新幹線6形式10両(0系新幹線×4両、100系新幹線×2両、300系新幹線×1両、700系新幹線×1両、922形新幹線電気・起動総合試験車×1両、955系新幹線試験電車×1両)が屋内展示されている。今回新たに加わるのは、N700系量産先行試作車X0編成×3両で、鉄道館の建物脇の屋外に展示する(関連記事「JR東海、『N700系量産先行試作車』を「リニア・鉄道館」で展示」)。これによりリニア・鉄道館の新幹線車両は7形式計13両となる。

 なお、これまで屋外展示していた117系電車3両はすでに撤去しており、うち1両(クハ117)は屋内の収蔵車両エリアに移した。突き出される形で、これまで収蔵車両エリアにあったクロ381の展示が終了している。

リニア・鉄道館。N700系量産先行試作車は屋外に展示する

 N700系量産先行試作車X0編成は、当初Z0編成として2005年に落成した。当時もっとも新しい形式だった700系新幹線を上まわる最高速度と加減速性能を備えた次世代新幹線「N700系」の最初の編成として登場したもので、曲線区間の最高速度を高めるために車体傾斜装置を新幹線車両として初めて導入するなどの新機軸を備え、量産車の完成まで1年以上の試験走行を実施して多くのデータを取得。文字どおりN700系新幹線の長男坊として活躍した。

 このZ0編成はN700系量産車の製造が始まったあとも試験走行を続け、N700系が順次N700A仕様へと改造される際にも量産車同様の改造を受けてN700A X0編成となったが、次世代の新幹線N700S確認試験車が落成したことを受けて2019年2月に退役した。

 なお、それまでの新幹線では、先行試作車は量産車の仕様に改装されて営業運行に投入されることが常であったが、N700系Z0編成・N700A X0編成は最後まで一般の乗客を乗せて走ることはなかった。

 今回新たに搬入、展示する車両は、16両編成のX0編成のうち、先頭車両である1号車、中間車両の普通車である8号車、同じく中間車両でグリーン車の14号車の3両。6月19日に搬入したのはこのうち1号車で、X0編成の引退後、JR東海浜松工場で整備を受けていたもの。今回の輸送は、完成した新造車両を順次工場から車両基地へ移動させる通常の陸送とは性格が異なるため、目立たないように車両全体をブルーシートで覆ったという。

3時46分。トレーラーにけん引され、リニア・鉄道館の搬入口に新幹線車両が到着
トレーラーが慎重にバックし、新幹線車両のノーズ部分から敷地内に進入する
段差では一時停止し、車体が地面に接触しないよう入念にチェックされる
1km/h程度の非常にゆっくりした速度で慎重に搬入
台車はリモートで方向を変えられる
4時19分。新幹線車両が完全にリニア・鉄道館の敷地に入る
スペースを限界まで使用して切り返す
トレーラーが大きく切り返し、慎重に展示スペース付近まで進む
4時37分。ようやく台車の脇に到着。ここまでで1時間が経過した

 ここでいったん作業を中断し、残りの工程は8時から再開することとなった。

2号車寄りの台車
ノーズ側の台車
台車そのものが架設の台車に載っている。新幹線車両を載せたあとはこのまま展示スペースの線路まで移動し、その線路上で仮設の台車を解体する
トレーラーを引き抜く際に一時的に使用する「馬」
搬入作業は終了。明るくなってから作業は再開される
5時3分。リニア・鉄道館から見る日の出

N700系車両を台車へ据え付け

あいさつするリニア・鉄道館の天野満宏館長

 搬入した車両の台車への据え付けは8時より開始。その実施に先立ちリニア・鉄道館館長 天野満宏氏が報道陣にあいさつした。

 天野氏はまず、同館が2011年3月にオープンして以来、約489万人の来場者があったことに触れて謝意を表わした。今回の車両搬入については、「当館は東海道新幹線を中心に、高速鉄道技術の進歩をテーマとした展示施設です。ここに新たにN700Aが加わることで、開業当時から現在までの主力新幹線車両がすべてそろうことになります。世代を超えて、多くの方にこの新しい車両を是非ご覧になっていただきたいと思います」。と述べた。

 ここからは作業の一部始終を写真とともに時系列で紹介したい。

1. 新幹線車両のブルーシート取り外し
ブルーシートの表面を抑えていたネットを取り外す
ブルーシートを取り外すためにクレーンを使用する。なお、このブルーシートは新幹線用に特注された1枚モノ
ブルーシートを吊り上げ、ついに車両が姿を現わした
N700系量産先行試作車1号車
2. 新幹線車両を2台のクレーンで吊り上げ
車両を吊り上げるためのアタッチメントを車体に取り付ける
吊り上げるためのワイヤを車体に取り付け
吊り上げには2台のクレーンの連携が必須だ
トレーラーの台車を移動させるため、新幹線車両を吊り上げる
3. トレーラーを移動。代わりに「馬」を設置
トレーラーの台車を撤去
「馬」を用意
4. 馬に新幹線車両を仮置き
寸分のズレもないように、「馬」の上に慎重に新幹線車両を下ろす
「馬」に車体が仮置きされた状態
5. 新幹線車両に、車両と台車をつなぐ「中心ピン」を取り付け
運ばれる「中心ピン」。台車と車体をつなぐ文字通り要のパーツだ
中心ピンをボルトで固定し、指呼確認
6. 車に「空気ばね」を取り付け。
台車の左右にある「空気ばね」。N700系はこの「空気ばね」による車体傾斜装置を新幹線車両としてはじめて搭載した
「空気ばね」を取り付けた台車
7. 再び新幹線車両を吊り上げ、台車に載せる
再び慎重に車体を吊り上げ、台車に載せる
約10分かけてゆっくりと車体を沈めていく
8. 台車と新幹線車両を固定
作業員の姿は見えないが、台車の固定作業を行なっている。車体の地上高が非常に低いことが分かる
台車への据え付け作業はちょうど2時間かかり、10時20分に終了した
リニア・鉄道館への「N700系量産先行試作車」搬入 - トラベル Watch
仮設の台車に載せられた台車
車両最前部の乗務員ドアに書かれた編成番号。当車両はN700系Z0編成として製造され、N700A仕様への改装時にX0編成となった
車内のシートにはすべてカバーがかけられている。取材時点では、内装について営業車両と同等のものなのか、当編成独特のものなのか不明だという
2両目との連結部付近
N700からN700Aに改装された「スモールA」の車両であることが分かる
N700系のX編成は2000番台だが、このX0編成のみ9000番台となっており、識別上の大きなポイントとなる
2両目との連結部。N700系、N700Aは全周幌で覆われているため、通常はこの部分を見ることはできない
車両とそれを吊り上げたクレーン
展示予定の場所には、従来敷設されていた在来線用の狭軌のレールが取り外されており、代わりに新幹線の標準軌に対応したレールを設置済み
搬入した車両は、最前部の「前頭オオイ」が取り付けられ、早い段階で展示スペースに移動するという

 今回の搬入、展示にあたり、JR東海 広報部 東京広報室 係長の穂苅裕太郎氏にインタビューした。穂苅氏は、今回搬入されたN700系量産先行試作車について、「この車両は、現在東海道・山陽新幹線の主力として走っているN700Aタイプの最初の列車です。営業運転にこそ使用されませんでしたが、2009年に330km/hを記録し、新幹線の技術史にも大きな足跡を残した車両です。その車両の内外を皆さまにご覧いただけることをたいへんうれしく思います」と述べた。

 また、この時期に搬入したことについては、「これから約1か月、7月17日までに公開の準備を整えることで、夏休みにはリニア・鉄道館で初代0系から現在主力のN700Aまで、東海道新幹線で活躍したさまざまな新幹線を見比べていただくことができます。自由研究などにも活用していただけると思いますし、(N700Aでは)車内での飲食もできますので、ぜひご家族でご覧いただき、歴史に名を遺した車両を満喫していただきたいと思います」と話した。

東海旅客鉄道株式会社 広報部 東京広報室 係長 穂苅裕太郎氏

 今回搬入した1号車に続き、リニア・鉄道館には近日中に8号車、14号車もやってくる(搬入予定日は非公表)。なお、展示の際には西側から1号車、14号車(グリーン車)、8号車の順で連結されるという。新幹線技術の発展に多大な貢献をしたものの営業運行が行なわれなかった車両だけに、公開されるのが非常に楽しみだ。