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JR東日本、気仙沼線でBRT自動運転の実証実験を公開

テスト車は60km/hでスムーズに走行

2020年2月14日 実施

JR東日本は気仙沼線BRTでバス自動運転の実証実験を行なった

 JR東日本(東日本旅客鉄道)は2月14日、気仙沼線BRTの陸前横山駅にてバス自動運転の技術実証の様子を報道関係者向けに公開した。

 今回の実証実験は、同社が主催する「モビリティ変革コンソーシアム」において進めているプロジェクトの1つ。モビリティ変革コンソーシアムは161の会員(企業、大学・研究機関など)で構成されており、社会課題や技術進捗を背景に将来の公共交通の在り方を考え、モビリティ変革を創出する場として2017年9月に設立されたものとなる。

気仙沼線は柳津駅~気仙沼駅まではバスで運行されている。こちらは実際に使われている車両で、今回はすれ違い実験の対向車として使われた
陸前横山駅に停車中の実験に使われるバス2台

 2011年に発生した東日本大震災による津波で気仙沼線が壊滅的な被害を受けたことは記憶に新しい。JR東日本は路線の早期復旧を目指し、バス輸送「BRT」を採用。2012年8月20日より暫定運行を開始し、同年12月22日から本格運行に移行した。

 「BRT」とは、バス・ラピッド・トランジット(Bus Rapid Transit)の略で、国土交通省の説明では、連節バス、PTPS(公共車両優先システム)、バス専用道、バスレーンなどを組み合わせることで、速達性・定時性の確保や輸送能力の増大が可能となる高次の機能を備えたバスシステムとされている。

 今回のBRTの運行を自動化しようという実証実験の背景には、労働人口の減少などによる運転手の確保が難しく、その解決手段の1つとして期待されている部分がある。昨年度もBRT自動化の実験は大船渡線において行なわれているが、今回はさらに実際の走行を想定した取り組みになっており、バスは商用運行に利用されるものをベースとし、最高速度も60km/hに引き上げている。参加各社の担当と提供技術は以下の通り。

今回の技術実証の概要

【実証実験全体責任者】
東日本旅客鉄道株式会社
・BRT専用道実験環境整備

【自動制御責任者:共同実験リーダー】
先進モビリティ株式会社
・自動運転車両制御システム全般
・車両側における障害物検知

【磁気マーカシステム責任者】
愛知製鋼株式会社
・磁気マーカの敷設
・磁気マーカシステム制御管理

【車内遠隔監視システム責任者】
SBドライブ株式会社
・車内モニタリングシステムの設置
・遠隔監視システムの制御管理

【路車間通信責任者】
京セラ株式会社
・通信用路側機の設置
・信号などの路車間通信管理
・インフラ機器での障害物検知

【マルチホップ伝送システム責任者】
京セラコミュニケーションシステム株式会社
・マルチホップ伝送機器の設置
・上記による自営無線網の通信管理

【車体管理者】
株式会社ジェイテクト
・車両の提供
・ステアリング操舵システム機器の設置

【マルチGNSS測量責任者】
ソフトバンク株式会社
・GNSS受信機の設置
・車両のRTK測位など

【信号装置敷設責任者】
日本信号株式会社
・交互通行区間信号制御および信号情報提供
・専用道入出路ゲート制御および監視

【目標走行軌跡作成責任者】
日本電気株式会社
・自動運転車両の目標走行軌跡作成
・磁気マーカシステム制御管理

 自動運転の検証に使うバスは日野自動車の「日野ブルーリボンシティ」で、各種センサーや自動操舵装置などが搭載されている。自動走行の仕組みとしては、NEC(日本電気)が作成した道路状況に基づく走行ルートを走って行くのだが、道路の真ん中には愛知製鋼の10cmの円形磁気マーカーが設置されており、こちらを読み取ることで車線上で車両の正確な位置を把握する。この磁気マーカーの5枚中、1枚にはRF-IDタグも埋め込まれており、緯度情報と経度情報が記録されているので、地図上で正確な位置も分かるようになっている。また、ソフトバンクが提供するQZSS(みちびき)、GPS、GLONASSなどの人工衛星を使ったRTK(Real Time Kinematic)測位なども行なっている。

 車両の位置情報や信号制御は無線を通じてクラウドに送信されており、京セラの700MHz帯ITS無線とLTEを併用している。区間の途中にはトンネルもあるので、その中はKCCS(京セラコミュニケーションシステム)のマルチホップ伝送を使ったWi-Fiがカバーする。車両の位置情報や各種情報は「どこトレ」に送信され、その情報をもとに日本信号が専用道のゲート開閉制御や車両制御(信号制御)、交互通行の優先権の決定などを行なうようになっている。

自動運転用の車両は日野ブルーリボンシティを使用。車両諸元は、全長10.555m、全幅2.485m、全高3.105m、ホイールベース5.3m、座席が22+1(乗務員)。操舵アクチュエーターや磁気センサーモジュールなどを搭載している
自動運転車両のシステム構成図
BRT専用自動車道は線路(単線)が敷設されていた場所なので道幅もかなり狭い
車体には自動運転中である旨と参加している企業のロゴが記されている
路面には保護シートを載せられた磁気マーカーが設置されている
バスはこの磁気マーカーを目安の1つとして走行する
約2450枚の磁気マーカーが4.8kmの間に2m間隔でズラリと並ぶ

 実験に使われたルートは気仙沼線BRTの柳津駅~陸前横山駅間(宮城県登米市)の4.8kmで、専用道路になっている場所だ。実験期間中は通常営業のBRTは専用道路ではなく一般道を迂回するので、自動運転を行なう車両とすれ違い想定用の車両だけがこのルートを使うことになる。専用道路の道幅は4mで(すれ違い用の退避区間は7m)、トンネル内は3mと狭く、その中をハンドル、アクセル、ブレーキを自動制御し、最高60km/hで走行する。目的の駅に到着すると(柳津駅、陸前横山駅)、BRT専用道に設置された発着場所に正着制御(ホームに向かって密着して停止するよう、ハンドルを自動制御する)するまでが自動走行実験の流れになっている。運転席にはドライバーも座っているが、自動運転中は緊急時に備えてハンドルをいつでも握れるようにするだけだ。

磁気マーカーが設置されている自動運転ルートまでは手動で走行し、パネルを確認しながら自動運転に切り換える。後は緊急時に備えて手を添えるだけ
運転手はまったく操作をしていないが、バスは快調に進んで行く
車内モニターには現在位置やスピード、ステアリングなどの操作状況、車外カメラによる映像などが表示される
車内には5台のカメラがあり、乗客もモニタリングされている。走行中に席を立つとアナウンスによって注意される
目的地に到着すると的確なハンドル操作と速度制御で、決められた位置にピタリと停車する

 実際に乗ってみた感想としては、考えていたよりもかなりスムーズに走行し、自動運転に対する不安などはみじんも感じなかった。走行ルートをプログラミングされているとはいえ、発進は穏やか、加速はスムーズ、無駄なステアリング操作もなく道路に対して真ん中をきっちりと走るので道幅の狭さに対する怖さもない。トンネルや待避所の前には信号機も設置されており、赤信号であれば一時停止し、青信号になってから発進する判断動作も適切にこなしていた。また、今回の実験ではあらかじめ決められていた場所ではあったが、道路脇に設置されたセンサーが障害物を検知し、停止信号を受けて停車する機能も確認できた。

トンネル前の一時停止から50km/hに加速して通過するまで
待避所で一時停止し、対向車とすれ違うまで
道路脇に設置された京セラのミリ波センサーが障害物を検知すると信号が赤に変わり、速度を落とす。障害物が除かれると青信号に変わって、運転が再開される。見通しの悪い場所に設置することでバスの安定運行に役立つ技術だ

 実証実験公開後は、JR東日本の執行役員である浦壁俊光氏がインタビュー対応した。実用化までの手応えについて質問されると、「BRTの通常走行に近い形でテストを行なったので比較的スムーズに走行できたのが体験できたと思います。技術に関してはもう少し足りない部分を補完して行けば使えるようになるのではないかと思います。一方、バックアップ体制や緊急時の措置など運用面については手つかずの状態ですので、どこまで自動運転させるかによっても変わってきますが、まだまだ序盤だと思っています」と話し、運用面における課題の解決が今後は必要であると述べた。

 また、自動運転において避けて通れない法整備に関しては、「現状では今回のような実験を関係各所や専門家に見てもらい、感想を伺っているというステージで、すぐに法改正をお願いするという段階ではございません」と明かした。まだまだ課題は多く残っているが、JR東日本としては自動運転は公共交通を維持していく上で必要な技術ではあるので、なるべく早い段階で実現するよう、関係各社と連携しながら取り組んで行きたいとしている。

東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 技術イノベーション推進本部 統括 浦壁俊光氏