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京急、「電動小型低速車」の実証実験開始。横浜・富岡西の急坂やバスが入れない地域で住民の足に
11月18日まで実証実験
2018年10月30日 14:43
- 2018年10月29日 実証実験開始
京急(京浜急行電鉄)は横浜国立大学、横浜市と協力して、10月29日から横浜市金沢区富岡西エリアにおいて、地域交通課題解決を目的とした「電動小型低速車」の実証実験を開始した。
京急沿線の横浜市金沢区富岡西エリアは急勾配な坂道が多く、バス停や鉄道駅へのアクセスが容易でない地域があり、交通課題を抱えた地域が存在しているが、「電動小型低速車」を実証実験として運用し、課題解決の可能性を探る。
この実証実験は、公益財団法人の交通エコロジー・モビリティ財団による企画募集で京急が採択され、7月に京急と横浜国立大学が締結した「産学連携の協力推進に係る協定」と、横浜市と京急が締結した「京急沿線(横浜市南部地域)における公民連携のまちづくりの推進に関する連携協定」の2つの協定に基づく取り組みの一環として実施するもの。
実証実験初日に横浜市富岡地域ケアプラザで行なわれた報道公開・試乗会をレポートする。
この実証実験は登坂力に優れ、小型である「電動小型低速車」の特徴を活かして、急勾配な坂の移動を補助するルート「富岡第1地区ルート」と、道幅が狭いといった地形的制約で一般的なバス車両が運行できない道路を、公共交通機関までの補完的機能として担うルート「富岡第3地区ルート」の2ルートを設定。定時定路線の循環運行を行ない、地域交通課題解決を目指す。
電動小型低速車は、運転手がハンドル操作する手動走行で、積載人数は運転手1名を含めた4名。最高速度は19km/h、登降坂角度は20度と登坂力に優れ小型なため、急勾配な坂道や狭い道路での運行が可能。電気自動車なので、低騒音で住環境への影響が少なく環境にやさしいのはもちろん、車両にはドアがないため開放的で、一般的なバスより車高が低く乗降も容易だ。
実証実験のルートと実施期間は「富岡第1地区ルート」が10月29日~11月7日、「富岡第3地区ルート」が11月9日~18日とどちらも10日間となっている。 電動小型低速車2台による定時定路線の循環運行で、日中1時間あたり2~3便を運行する。安全面を考慮し、京急文庫タクシーの社員である現役タクシー運転手が運転し、乗車運賃は無料。
乗車と降車は設定してある停留所で行なうが、利用者は事前会員登録(Webサイト、郵送、あるいは日時限定だが地域ケアプラザでも申し込み可)した富岡第1地区、富岡第3地区の住民モニターに限定。「富岡第1地区ルート」のモニター登録者は70歳代を中心に約100名が申し込んだとのことだ。
京急 生活事業創造本部 まち創造事業部 課長の一條英仁氏は「この富岡西エリアは、京急沿線のちょうど中央部で、古くから当社が沿線開発に力を入れていた場所です。1950年代から、富岡西地区で駅横にスーパーをつくったり公園をつくったりと総合的なニュータウン造りを進め、現在までに6000戸以上の住宅を供給しています。
しかしながら高齢化やライフスタイルの変化に伴い、違った形のアプローチによって持続可能な街づくりをしていく必要を感じ、さまざまな取り組みをしているところです。
そのなかでここは急勾配が特徴的なエリアで、高齢者や子育て世代が移動に対するストレスを感じるのではないかと仮説を立て、各種施策を検討していました。そしてこの実証実験を開始するに至りましたが、得られたデータをもとに地域内交通について、さらに検証を進めていきたいと思っています」と経緯について語った。
京急 生活事業創造本部 まち創造事業部 課長補佐の菊田知展氏は「沿線自治体として同じ課題を抱えている横浜市と、横浜市南部地域において沿線人口の維持・活性化を目的とした『まちづくり協定』を締結しており、その具体的な施策の第1弾が本実証実験です。交通エコロジー・モビリティ財団の企画募集に当社が採択され、横浜国立大学との共同研究として行なうもので横浜市からの協力も得ています。
今回の実験の対象となる富岡西地区は急勾配な坂道が多く、バス停や鉄道の駅へのアクセスが少し不便な交通課題を抱えた地域ですので、登坂力に優れている電動小型低速車を使った実証実験を行なうもので、急な坂道の移動を補助するルートと、地理的制約で既存のバス路線が運行できない場所を走行して、公共交通機関までのアクセスの補完的役割を担うようなルートを設定しています。
ルート設定は、町内会長や民生員へのヒアリング、住民へのアンケートによって決めていますが、そのアンケートの回収率は20%と高く、公共交通空白地域である富岡西5丁目では30%を超えていましたので、地域の方の関心が高いと考えています」と説明した。
横浜国立大学大学院 都市イノベーション研究院 特任准教授の有吉亮氏は「横浜国立大学は平成25年(2013年)から、文部科学省の科学技術振興機構から研究助成を受けていて、都市の交通問題に関する研究に取り組んでいました。大学の研究なので大それたことはできなかったのですが、横浜の山・坂が多い地域で、高齢化が進むなかで既存の公共交通を強化するもの、あるいは既存の公共交通が届かない場所の移動を、免許を返納したあとも継続できるようにするためにどうしたらよいかを研究していました。
横浜市内でも大学主導でいくつかの実証実験をさせていただきましたが、大学が単発で行なっていても地域に根付くものにはならないことが悩みでしたが、我々が取り組んできたことに京急が興味を持っていただいて迎えていただきました。
我々は地域の移動の実態分析やアンケート調査などの協力や、実際にカートに乗っていただく方のデータ分析を行ない、先々でこのカートが、どういった形でこの地域に入っていくのかなどを研究していきたいと思っています。まだ今回の実験は完成形ではなく、これから地域の皆さんと一緒に育てていくための第一歩です」と、横浜国立大学の取り組みについて語った。
横浜国立大学が制作したアプリは、バス路線までの補完的機能も重視されており、電動小型低速車の現在位置と乗車人員数が確認できるだけでなく、京急バスの位置情報も併せて1つの地図上に表示することが可能なので、バスとの乗り継ぎも便利になるだろう。京急は、沿線地域の交通課題解決や持続可能な郊外住宅地の実現を目指した事業の検討・推進を進めていくとのことだ。