ニュース

京急、バリアフリーかつ立体的に見える「錯視サイン」を羽田空港国際線ターミナル駅に設置。エレベータ利用促進図る

2019年1月28日 設置

京急が羽田空港国際線ターミナル駅に錯視サインを設置。同じように目の錯覚を利用して京急車両が飛び出すフォトスポットも設置している。ちなみに写真のモデルは、同駅を管轄する京浜急行電鉄株式会社 羽田空港国内線ターミナルの齊藤功司駅長

 京急(京浜急行電鉄)は1月28日、羽田空港国際線ターミナル駅に、目の錯覚を利用した案内表示「錯視サイン」を設置した。同社によると、錯視アートの展示会などではなく、錯覚・錯視を利用した業務サインを駅構内の案内に採用するのは国内初であるという。

 設置しているのは、羽田空港国際線ターミナル2階の品川・横浜方面行きホームへ向かう改札の先。ここは改札を抜けて右側にエレベータがあるが、改札からまっすぐ向かうとエレベータが死角の位置にあることから、エレベータの前を素通りし、視線の先にあるエスカレータを利用する人が少なくないという。

京浜急行電鉄株式会社 鉄道本部 運輸営業部 営業環境デザイン課 主査 戸川雅也氏

 説明にあたった京急 鉄道本部 運輸営業部 営業環境デザイン課 主査の戸川雅也氏によると、「1度に30名乗れる大型のエレベータで、コンコース階に戻って扉が開いて待機するようになっているが、なかなか利用が進まない」との課題を示す。

 さらに、エスカレータ利用には手荷物落下事故のリスクがあり、実際、京急でも2018年に荷物落下によって人が怪我する事象が発生した。

 そこで、効率的な誘導と駅の混雑緩和を目指し、「立体的に見えることでハッと気付いていただき、視線を集めることができる」(戸川氏)と、インパクトのあるサインによってエレベータがあることに気付いてもらう効果を期待している。

京急 羽田空港国際線ターミナル駅の2階改札口
京急 羽田空港国際線ターミナル駅にお目見えした「錯視サイン」
平面のシートを立体的に見せる京急の「錯視サイン」

 一方、通常の立て看板などと違い錯視サインで使っているフロアシートには凹凸がない。これにより、視覚障がい者や車いす、ベビーカーの利用者にも安全で、1日平均2万8000人の乗降がある同駅の混雑時でも邪魔にならないといったメリットがある。また、国籍や言語を問わず同じ効果を得られることから、2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、国籍や言語を問わず同じ効果を得られる。

 錯視サインは、地面に貼り付けたフロアシートを、利用者が多い有人カウンター寄りの改札を抜けて真っ直ぐ進んだことを想定した位置に設置。サインから6m手前の位置に来たときに最も立体的に見えるように設計されている。また、できるだけ広い範囲で立体的に見えるようにしているほか、ピクトグラムを使用することで、国籍・言語を問わないという錯視サインのメリットを活かしている。

 戸川氏は「言語の壁を越えて、お客さまが直感的に感じるもの。音声案内や文字情報に続く、新しい案内方法」と、錯視サインの効果に期待を示し、「2019年のラグビーワールドカップ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控える。羽田空港国際線ターミナル駅は東京の世界からの玄関口と考えており、錯覚を利用した新しい取り組みをとおして、お客さまの効率的な誘導と、安全・安心な環境作りに努めたい」と話した。

 他駅への導入については、「設置期間は設けていないものの、まずはお客さまの動向などを効果を見極めながら慎重に検討したい」と具体的な展開は現時点で決まっていないとのこと。フロアシートを貼るには広い面積が必要だが、「デザインによっては壁面に使うこともできる」とするほか、「電源を取ったり、高さ制限だったりを気にせずに設置できる」といったメリットを挙げ、さまざまな用途を検討していく考え。

 なお、コスト面についても、印刷代などを含むシートの製作費そのものは、通常のシートを使った案内と変わらず、デザイン費にコストが多めにかかるという。そのため、多くの駅で使えるような汎用的なデザインも考えたいとした。

 京急の羽田空港国際線ターミナル駅では、錯視サイン導入に合わせて、京急の車両が飛び出すフォトスポット「飛び出す!赤い電車とけいきゅん」を設置。電車の上に乗っているかのような写真を撮ることができる。フォトスポットも、錯視サイン同様に設置期間は定めていない。

京急 羽田空港国際線ターミナル駅に設置された「錯視サイン」
違う角度から見ると平面のシートを貼っているだけなのが分かる
京急の車両が飛び出すフォトスポット「飛び出す!赤い電車とけいきゅん」

 さらに、この錯視サイン導入に合わせて、錯視研究の第一人者である明治大学 先端数理科学インスティテュート 所長・同特任教授の杉原厚吉氏の作品展「杉原厚吉のふしぎ?錯視展」も駅構内で実施。5月6日まで展示が行なわれる。

 同氏は、「脳は直角が大好き。変わった形の四角形も、直方体に見える位置に来たときに、脳がその解釈を優先する」と錯視のメカニズムを説明。これを数学に予測することで、錯覚を計算で設計することができることを示した成果物を展示している。

 ちなみに、先述の錯視サインは平面に描かれた図形が特定の位置で立体的に見えるのに対し、杉原氏の作品は立体物を2つの場所から見たときにまったく違った形に見える、同氏が「変身立体」と呼んでいるもの。例えば、普通に見ると右向きの矢印に見えるものが、後ろに置かれた鏡では左向きの矢印のように見えるといった錯覚を起こしている。

 杉原氏は今回の展示について、「こういう場で見ていただけるのは光栄に思っている。特に、外国からたくさんのお客さんが日本に来る玄関口なので、ここで楽しんでいただいて、日本では数学を使ってこんな目の研究もされているんだ、と分かっていただける機会になるとうれしい」と期待を述べた。

明治大学 先端数理科学インスティテュート 所長・同特任教授 杉原厚吉氏
1月28日~5月6日に同駅構内で実施している「杉原厚吉のふしぎ?錯視展」。別の角度から見るとまったく異なる形に見える立体物の錯視作品を展示している