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関西エアポート、伊丹空港や神戸空港へ関空の一部機能移管を検討。観光ビジネスの日本経済への影響懸念

2018年9月6日 発表

9月6日に関西エアポートが台風21号被害に関する記者会見を実施した

 関西エアポートは9月6日、関西国際空港にある同社本社内で代表取締役社長 CEO 山谷佳之氏、代表取締役副社長 Co-CEO エマヌエル・ムノント氏による記者会見を開いた。この場において9月7日から関空発着の一部旅客便の運航を再開することを発表したのは既報のとおりで、本稿ではそのほかに会見で触れられた事柄についてまとめる。

 記者会見にあたっては、冒頭で代表取締役社長 CEO 山谷佳之氏、代表取締役副社長 Co-CEO エマヌエル・ムノント氏が「会見に先立ち、台風21号という非常に大きな台風の直撃を受け、特に関西国際空港をご利用のお客さまに多大なご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げる」と謝罪。頭を下げた。

 続いて山谷氏が、同氏による記者会見が台風直撃から2日後となる9月6日になったことについて、「昨晩(5日夜)は私もスタッフも持ち場を離れられなかった。会見の1時間は私どもにとって貴重な1時間だった」と説明。特に5日時点で島内に残されていた利用客を島外へ退避させるための対応に注力していたという。

 この島内に残されていた人について、当初発表では3000名とされていたが、ホテル滞在者、テナント従業員などを含めてトータルで約8000名であることが徐々に分かってきたという。最終的には翌日移動すると自発的に留まった約20名、体調不良で救急搬送された1名を除き、5日23時~24時にかけて全員が退避。

 山谷氏は「非常に厳しい環境のなかで(同日中の全員の島外退避を)できたと思っている。バス会社、船会社、警察、無理をしてでも無事にクルマを通そうというNEXCO西日本ら、関係者の大きなご協力があった」と感謝を述べた。

 一方で、退避を待つ利用者への情報提供が不十分であったとの指摘に対しては、第1ターミナルの停電の影響について説明。第1ターミナル地下1階にある高圧受電設備の6台のうち3台が冠水の影響で停止したが、その1台が館内放送をカバーしていたという。「館内放送を頼りに情報提供しようというシステムが崩れた。代替手段として人の声に頼らざるをえなかったところは悔しい思いをしており、ほかの伝達手段を用意しておくべきだった」と反省の弁を述べた。

関西エアポート株式会社 代表取締役社長 CEO 山谷佳之氏

 ムノント氏は「大型台風の影響でご不便をおかけした旅客の皆さま、関係者の皆さまにお詫び申し上げる。謝罪の気持ちでいっぱい。私たちにとって優先順位は人と安全。この2つに重きをおいて、これまでできる限り早く空港運営を再開できるよう手当をしていた。ケガをしたのはお客さま1名、そのほかのケガ、人的災害はない。航空機を台風が来る前に避難させておいたことも功を奏したと感じている」と、9月5日の対応を総括。今後については「できるだけ早く運用、運航を再開できるよう、すべてのことをやっていく」と述べた。

関西エアポート株式会社 代表取締役副社長 Co-CEO エマヌエル・ムノント氏

 会見では別記事でお伝えしているとおり、被害が軽微であった2期島にある第2ターミナルとB滑走路を利用して9月7日から一部便を運航することが伝えられ、同日夜にはピーチ(Peach Aviation)が到着11便、出発6便の計17便、JAL(日本航空)が1往復2便を運航することを発表している。

9月7日から国内線の運用を一部再開する第2ターミナル

 課題として挙げられていた連絡橋について、6日午前の記者会見時点では、9月5日からはじまった緊急車両の通行措置で大きな渋滞が発生したことなどを受け、「連絡橋のところは私たちの努力ではいかんともしがたいので、連携を図ることで、情報共有を深めて、どのようにお客さまの利便性、安全性を確保できるかを詰めていく。最寄り駅までアクセスする機能を提供できなければ、空港機能そのものが安全であっても全体のシステムとしては不完全ということになると思う」とし、事業者である国やNEXCO西日本(西日本高速道路)にスムーズな移動が確保できるよう依頼をしているとしていた。

 9月7日朝にはNEXCO西日本が連絡橋の道路開放について「関西国際空港連絡橋の交通開放について(PDF)」を発表。引き続き自家用車やレンタカーの通行は制限されているものの、これまでの緊急車両に加え、乗合バスなどの営業バス、タクシーやハイヤーなどの通行も可能となった(緊急車両以外は通行料金が必要)。

 対面通行が可能となったほか、連絡橋から高速道路への直接アクセスが可能になった。また、6日までは上りの「りんくう出口」を、緊急車両の出入り口として運用していたが、7日からは本来の「りんくう入口」からアクセスできるようになっている。

 一方、鉄道復旧の見通しについて尋ねられた山谷氏は、「パネルが鉄道の線路に覆い被さった状態。それを取り除くのが最初。並行して線路の安全を確認。問題ないことの検証作業が必要。それを経ないと時期は見えないのではないか」と、自身の推測を交えて説明。「鉄道は大量輸送が可能で、JR西日本と南海電気鉄道の2本がアクセスを支えている。一刻も早く復旧してほしい」と切望した。

関西国際空港連絡橋
9月6日17時ごろには上り線へ仮設の中央分離帯とみられるブロックの設置が進められていた
関西国際空港連絡橋を走る鉄道。復旧時期の見通しなどは発表されていない

 会見に参加した記者からは、さまざまな視点から復旧時期の見通しについての質問がなされたが、山谷氏は「私たちも答えを出したいが、水面下でいろいろな情報を集めて調整を行なう過程にあり、一つずつ解決した項目についてお伝えしていくのみ」とし、現状報告が中心となった。

 例えば、9月7日の運航再開についても、当初は第2ターミナルの機能回復後、3日後には運航再開可能との見通しを明らかにしていたが、「各論に落とし込んで議論が進んだ結果。約8000名の(島外退避に関する)対応が終わり、9月6日に日付が変わったころに各論を詰めて『明日いける』となった」と内情を説明。

 第1ターミナルについては、先述した第1ターミナル地下1階の高圧受電設備6台のうち3台が冠水の影響で停止した問題について、「停止した3台のうち1台は比較的短期間で復旧できるのではないか、残り2台は塩水の冠水ということもあり機能回復が難しい」との中間報告を明らかにし、「少し楽観的ではあるが、6台のうち4台は使える前提でどこまで全体の回復が可能かを検討しているところ」とし、完全な機能回復についても並行して検討を進めるとした。

 現状があまり伝えられていない貨物便の運航については、貨物エリアに関しては一部冠水や軽微な損傷はあったとのことだが、「同時進行で、どの地区のどの施設が使えるのかの情報を集めているところ」と説明。旅客便同様、「物流に対応できる連絡橋が機能するかが大きな課題」と話した。

第2ターミナル脇にあるFedExの貨物エリア
第1ターミナル南側の貨物エリア

伊丹空港や神戸空港への代替も「既成概念を外して考える」

 9月6日には、大阪府の松井一郎知事が、総理官邸へ関空復旧までに伊丹空港や神戸空港への機能移管を陳情したことについて触れ、「関空の国際線は日ごろから申し上げているとおりインバウンドに関しての成長が極めて高い。その成長のポイントを失うことが、企業にとっても地域にとっても大きな問題と捉えている。海外からのお客さまをなんとかお迎えしたいという気持ちは衰えておらず、そのなかでなにができるかを1時間、1日単位で考えていきたい」とし、「大きくは悲観していないが、このような災害なので完全復旧まで長引くリスクは考える。どう代替するかを考えるのは重要。おそらく松井知事もそのような視点から、観光が大阪、関西、日本の観光の経済を支える大きなビジネスになっているので、水を差すわけにはいかないというお気持ちが強いのでは。それは私も理解するところ」と前向きに検討する姿勢を示した。

 一方で、国際線運航に不可欠な出入国審査場や検疫機能、税関施設のいわゆるCIQ施設などの課題も挙げられ、「神戸空港は小さなターミナルだし、CIQ施設があったとしても多くの人に対応できない。伊丹空港も同様なことがいえると思う。国際線の航空会社が使えるシステムもない。ただ、今は緊急時なので、そのような要件を少し外してスタートし、そこからなにができるか考える。関空の復旧対応はもちろん考えるが、そのうえで足りないことをどうするかを考えないと前に進まない。既成概念を外して考えているところ」と話し、国内線、国際線を含めて各空港へ機能移管するための要件を外す手続きを、国や地元関係者と協議して進めたいとした。

 また、関空の長期的な復旧計画について山谷社長は、海上空港の脆弱性に対する指摘に対して「海上空港であることを考えた場合に、高潮や地震における津波というのは大きなリスクという認識はあった。私たちはコンセッションの立場なので、空港機能を一から設計するわけではあく、受け継いで民間の力で活性化を図るのが本分だった。津波対策のなかで、1期島については嵩上げということで防潮壁なども設置されているなかで考えていかなければならない。この問題について抜本的に解決するには時間が必要。本当に50年に1度なのか、来年また起こる可能性があるのかも考えて対策を講じる必要がある」と回答。

 一方、「(運営権を持つ)44年間、残りは41年だが、この44年間のなかで、当初考えた折にこのような災害が2つか3つは必ず起こると思っていた。どんなビジネスでもそういうリスクがあり、それをいかにマネージメントするかに本質があると思っている。起こったことに対して嘆き悲しむ、この先ダメだという考え方はしていない。これをいかに上手にマネージメントしていくかに頭を働かせたい」と力を込めた。