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無料になったANA国内線の機内Wi-Fiインターネットや、A321neoシートモニターを試してみた(後編)
使うとクセになるA321neoのシートモニター。エンタメコンテンツは充実の一言
2018年4月29日 07:00
ANA(全日本空輸)は4月1日から国内線の機内Wi-Fiインターネットサービスを無料化した。また、機内コンテンツの拡充や、2017年9月に就航したエアバス A321neo型機の全席にシートモニターを備えるなど、国内線の機内エンタテイメントサービスを強化している。
前回、無料になったWi-Fiインターネットサービスについて紹介したが、引き続き、エアバス A321neo型機に搭載されたシートモニターや、機内Wi-Fiとシートモニターで楽しめるコンテンツなどを確認してみたい。
エアバス A321neo型機なら国内線でもシートモニター付き
ANAが進めている国内線機内エンタテイメントサービス拡充のうち、ハードウェア面でのもう一つのポイントが、各シートへの個人用モニターの設置だ。現在、ボーイング 787-8型機の一部機材のプレミアムクラスと、エアバス A321neo型機の全座席に搭載している。
日本国内では、スターフライヤーが全座席にシートモニターを付けているが、頭上や客室の仕切り板にディスプレイを設置している機材が多いなか、個人用シートモニターの搭載はプレミアム感のあるサービスだ。
個人用シートモニターは、設置やメンテナンス、機体重量の増加による燃料消費量への影響など、コスト増につながる要素が多いこともあって、日本の航空会社に限らず運航時間の短い路線で使用することを想定した飛行機には付いていないことが多い。例えば、194席仕様のエアバス A321neo型機なら、194台のシートモニター分の重量が足され、194台のディスプレイが常に正常に動作する状態を維持しなければならないと想像してみると、航空会社にかかる負荷が大きいサービスということはイメージできるのではないだろうか。
そうしたなかで徐々に増えているのが、乗客個人が持っているスマートフォンやタブレットを利用してコンテンツを提供する手法だ。この方法であれば必要なシステムは、コンテンツを収納するストレージサーバーとWi-Fiアクセスポイント関連の機器で済むので重量増は最小限に抑えられ、各座席のモニターのメンテナンスコストなども不要となる。スマホやタブレットの普及に伴って現実的なものとなった。
ANA Wi-Fi Serviceの動画や音楽、電子書籍といったコンテンツ配信サービスはまさにこの仕組みだ。他社でもJAL、ソラシドエアが導入しているほか、アイベックスエアラインズがティアックと協力して2018年度からの提供を発表している。
ところがANAでは、2017年9月に導入した国内線向けのエアバス A321neo型機でプレミアムクラス8席、普通席186席の全194席にシートモニターを装備。さらに、2019年度下期以降はボーイング 777/787型機といった大型機へのシートモニター設置も発表しており、このサービスを強化する方針を示している。この装備が、利用者がANAを選ぶ理由になり得ると判断されたということだろうが、そのあたりは実際に試して利便性を確かめてみたい。
ちなみに、前回のANA Wi-Fi Serviceのところでも触れたが、国際線機材が国内線で運用されることがある。この場合、国際線仕様のボーイング 787型機/777型機/767型機、エアバス A320neo型機のように各席に個人用シートモニターを備える機材では国内線コンテンツの視聴が可能で、エアバス A320neo型機のみSKY LIVE TVの視聴にも対応するそうだ。シートモニターを備えないボーイング 737型機などの場合は、天井にあるオーバーヘッドモニターで国内線コンテンツが上映されることになる。
一度使ったらクセになる。コンテンツ視聴にはシートモニターがお勧め
さて、話をエアバス A321neo型機のシートモニターに戻したい。国内線のエアバス A321neo型機の場合、普通席には前席のヘッドレスト裏面部分に10インチのシートモニターが取り付けられている。これはタッチパネルにも対応する。
実は、個人的にシートモニターのタッチ操作はあまり使わないようにしている。以前に後ろの席の人がやたら強くタッチするので頭に衝撃が伝わって不快な思いをしたことがあった(実際、以前は反応のわるいタッチパネルもあったので気持ちは分かるのだが)。リクライニングでは後ろの席に配慮するように、タッチ操作では前の席に配慮と、ちょっと窮屈な感じはあるのだが、そんな理由でコントローラがあるならそちらを使うようにしているわけだ。
このエアバス A321neo型機のシートは薄型なので、余計に衝撃が伝わりやすいのではないかとという不安があったのだが、タッチパネルの反応はすこぶるよく、触れる程度で正確な位置にタッチできた。シートピッチがそれほど広くない(=シートモニターまでの距離が近い)国内線の普通席ということもかえって奏功し、タッチ操作が実に快適だ。
もちろんコントローラでも操作が可能だが、これは初めて使うときに少し戸惑うかも知れない。下記の写真にある、四角い銀色のボタン。これがポインティングデバイスになっており、ここに指を当てて、上下左右に力をかけると画面上のカーソルが動き、ボタンを押すとそこが選択される仕組み。例えるなら、ThinkPadシリーズのTrackPointや、かつての東芝Dynabookシリーズのアキュポイント、Librettoのシリーズのリブポイントと同じ感覚だ(分かりにくい例えですみません)。これはこれで慣れると使いやすいが、タッチ操作の快適さが上回っている印象は残った。
コンテンツ利用の画面などは後述するが、この画面設計で好印象だったのが、左上のスペースに「到着までの時間」が表示されていることだ。現在時刻や高度などの表示に切り替わることなく「到着までの時間」がずっと表示されているのである。
視聴するコンテンツを選ぶときに、最後まで見られるかどうかは重要だ。国際線に比べて飛行時間が短めな国内線ではなおさらで、動画などのコンテンツの長さと到着までの時間を比べながら選択しやすくなっているので、“見始めたけど途中で目的に着いてしまった”という悲しい出来事を回避できる。
そして、このシートモニターの総合的な印象としては、乗る前には「なくても困らないもの」と思っていたのだが、乗ってみると「あったらクセになる」という感想に置き換わってしまった。スマホなどでも同じコンテンツは見られるし、インターネットをするなら自分のデバイスを使う必要があるので、正直、世の中のITリテラシーが高まったら不要な存在になるのかな、とも思っていたのだが、まったく違う優位性がある。
こと機内コンテンツを楽しむうえでは、目線の高さと画面の大きさ、そして手ぶらで見られることがうれしい。スマホやタブレットを目線の位置に持ち上げて見続けるのは疲れるが、手を下ろしてのぞき込むような姿勢で見続けるのは“スマホ首”と言われるように体に負担がかかる。画面が大きい方がよいとばかりにタブレットを使おうものなら、ますますよい位置で保持するのは疲れる。また、地面の凹凸の衝撃が伝わる地上走行中も安定して見られるのも利点だ。簡単にいえば、「同じコンテンツを見るならシートモニターの方がいろんな意味でラク」なのである。
技術的にはおそらくWebブラウザの実装なども可能だろうが、多くの操作が必要なことは自身のデバイスを使った方がストレスが少ないと思う。このシートモニターは、操作は“コンテンツの選択”、機能は“コンテンツの視聴”に割り切っているのも、そのよさを浮き彫りにしているように感じられた。
バリエーション豊富な機内コンテンツ。Wi-Fiとシートモニターで違いも
さて、最後に拡充が進んだコンテンツについて触れておきたい。ANA Wi-Fi Serviceでも、シートモニターでも、動画や音楽、電子書籍、そしてライブ放送の「SKY LIVE TV」を楽しむことができる。
ちなみに、ANA Wi-Fi Serviceではインターネット経由での動画閲覧などは推奨されていないので、動画を見ながら機内を過ごそうと思うなら、ここで配信されているものを視聴することが推奨される。ANA Wi-Fi Serviceのポータル画面に話を戻すと、ここに表示されているメニューのうち、「Information(インフォメーション)」「Shopping(ショッピング)」「Mileage(マイレージ)」の3つは、インターネット接続の必要がある。そのほかは、インターネット接続していない状態でも利用可能だ。
このうち「Entertainment(エンターテインメント)」が、その名のとおり動画や音楽、電子書籍といったエンタメコンテンツを利用するものとなる。コンテンツの数は数えるのが大変な(ほど多い)ので「SERVICE INFORMATION」に記載されている数字に頼ると、動画は48チャンネル、音楽は32チャンネル、電子書籍が43冊となっている。
ちなみにこの数字はANA Wi-Fi Serviceを使って、スマホやタブレットでANAアプリを使って見る場合のコンテンツ数となっている。先にシートモニターのよさを伝えたばかりで気が引けるのだが、実はANA Wi-Fi Serviceで見られるコンテンツは、シートモニターで見られるコンテンツと一部異なる。
典型的だったのが動画の違い。動画のメニューを選ぶとリストが表示されるが、テレビドラマなどは特定のエピソードのみ、例えば人気ドラマの「逃げるは恥だが役に立つ」は第5話のみが配信されていたのだが、こうした点はどちらも同じだ。しかし、ANA Wi-Fi Serviceの場合は、連続ドラマとして「コードブルー 3rd season」が全話配信されている。
また、SKY LIVE TVも、シートモニターは「CNNj」「日テレG+(ジータス)」「日テレニュース24」の3チャンネルだが、ANA Wi-Fi Serviceは「スカサカ!」を加えた4チャンネルを視聴できる。またしてもテレビCMの話を持ち出すが、綾瀬はるかさんがスマホでサッカーの中継を見ているシーン。あれは実はスマホだから見られるということでもあるわけだ。
もう一つ大きな差があったのが地図。ANA Wi-Fi Serviceでは、「ANA Flight Path」と呼ばれる地図を利用できる。現在位置から算出したコックピットや左右窓から見える光景に地名を表示してAR的に見られる機能のほか、食べログやゼンリンから提供されたグルメ、観光スポットの情報を表示できる。ちなみに、この機能はインターネットに接続していない状態でも利用可能だった。
シートモニターの場合は飛行機の現在位置が分かる地図と、高度などの情報が表示された一般的なフライトマップとなる。ただ、機体に取り付けられたカメラの映像を見ることもでき、こちらにもよいところがある。
全般にはANA Wi-Fi Serviceの方がコンテンツが充実しており、ANA Wi-Fi Serviceしか使えない(=シートモニターを搭載しない)機材の方が圧倒的に多いことを考えれば、そちらが充実している方がより多くの人に恩恵があるのは間違いない。ただ、実際に触ってみないと違いに気が付けなかったのも事実で、双方の視聴可能リストなどがシートポケットに入っているとありがたいように思う。
もう一つ重箱の隅をつつくと、シートモニターでのコンテンツ選択時に「到着までの時間」が常に表示されていることに触れたが、これはANA Wi-Fi Serviceのコンテンツ選択画面には表示されない。一方で、ANA Wi-Fi Serviceではコンテンツをリスト表示しているときにそのコンテンツの時間が表示されているのに対し、シートモニターの場合はリスト上では表示されず、コンテンツを選んで説明を見る画面に変遷しないとコンテンツの時間が分からない。
と、気になるところはあるのだが、このコンテンツの多さはちょっと衝撃的だ。以前は、本や新聞を持ち込んだり、近年は電子書籍をダウンロードしておいたり、動画をスマホに入れておいたりと、機内で寝られそうにないと思ったときは“飛行機での暇つぶし”を事前に考えていたが、このようなサービスを体験してみると、事前に準備をするのが、なんだか古くさい作業のように思える。
先述の時間表示について、コンテンツが少なかったら確認の手間は少ないのであまり気にならなかっただろう。コンテンツの多さゆえに、コンテンツの時間と到着までの時間を瞬時に分かりやすく把握できると、コンテンツ選びの時間を短縮できて利便性は高まると思ったのだ。
個人的には電子書籍の充実がうれしく、いろんな本をめくっていると、いろいろなジャンルのことをかじれるし、本屋さんでの立ち読みのように気が引けることもない。
また、キッズメニューが充実しているのもポイントだ。記者の子供が小さかったころは、暇つぶしの絵本などを用意しておけば寝てしまうし、どうせ寝るだろうと思ってなにも考えずに乗ったらずっと起きて暇そうにしているという、いかにも子供らしい子供だった。そんな心配事の1つが解消されるのはうれしいことだ。
国内線ではもったいないと思うほどのコンテンツ量だが、行きでまずはこれを見て、帰りはこれを見て、次に乗ったらこれを見よう、と飛行機に乗る楽しみが一つ増えるのではないだろうか。量だけでなくバリエーションも豊富で、誰に対しても「たぶん、1つは気になるコンテンツがあると思いますよ」とお勧めしたくなる内容だ。ANA国内線のWi-Fi対応機に乗ったならば、無料インターネットだけでなく、コンテンツもぜひ確認してみてほしい。