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新名神の新規開通区間で使われる新技術の数々を検証中。NEXCO西日本が「先進技術実証フィールド」公開

自動式ロボットカメラやペースメーカーライトなど

2017年6月14日 公開

新名神高速道路 神峰山トンネル(上り線)に設けられた先進技術実証フィールド

 NEXCO西日本(西日本高速道路)は6月14日、現在建設中の新名神高速道路 神峰山トンネル(上り)に設けられた「新名神高速道路 先進技術実証フィールド」(大阪府高槻市)を報道関係者に公開した。

 新名神は豊田JCT(ジャンクション)と神戸JCTを結ぶ、全長174kmの高速自動車道路。従来からある名神高速道路とのダブルネットワーク化を図ることにより、渋滞の解消や定時性の向上、所要時間の短縮、災害時のバックアップなど、中部と関西を結ぶ第2の動脈として幅広い効果が期待されている。

 すでに豊田JCT~草津JCT間が供用されており、現在は大津JCT(仮称)~神戸JCT間(79.8km)の工事が進行中。途中、城陽JCT・IC(インターチェンジ)~八幡京田辺JCT・IC間(3.5km)がこの4月に開通しており、残る高槻第一JCT~神戸JCT間が2017年度、開通区間を除く大津JCT~高槻第一JCT間が2023年度の供用開始を目指している。

 この新規区間では「先進技術により快適な道路空間を目指す」というテーマの実現に向けて「高速道路の長期保全対策」「交通安全の取り組み」「災害対策の強化」「情報の収集・監視の強化・業務の効率化」「最新情報板」「お客様満足度の向上」を掲げ、さまざまな取り組みが行なわれている。

 新名神高速道路 先進技術実証フィールドは、これらを実現するための新機能を実際に配置し、各種機能の確認を行なうための施設となる。高槻第一JCTから下り線を走行すると最初のトンネルとなる神峰山トンネルの上り線側に設置されているのが、「高機能LED照明(ペースメーカーライト、サイン照明)」「自走式ロボットカメラ」「路側表示板」「管理用無線LAN」などの、日本初となる新しい設備の数々だ。

新名神の概要
先進技術実証フィールドの概要
神峰山トンネル入口
トンネル内部
路面は現状ではコンクリートとなっているが、この上にアスファルト舗装が施され、最終的には排水溝と面一になる。これにより舗装のメンテナンスコスト削減が図れるという

高機能LED照明(ペースメーカーライト、サイン照明)

 トンネル内の照明は従来、オレンジ色の「低圧ナトリウムランプ」が主流だった。その後、蛍光灯が一部で用いられたほか、近年では低消費電力のセラミックメタルハライドランプ、長寿命のLEDなども採用されるようになってきている。

 そうしたなか、LEDを使った一歩先を行く照明システムとして誕生したのが今回の新機能。通常の白色LEDに加え、赤(R)、緑(G)、青(B)のLEDを用いることで、さまざまな表現を可能としているのが特徴だ。現在、点灯パターンは「ペースメーカーライト」のほか、警告表示として「サイン照明(非常時運用)」「サイン照明(注意事象運用)」の3タイプが想定されている。

 まず、ペースメーカーライトはここ最近、トンネルや下り坂から上り坂に変わる「サグ」部によく見られるようになった表示で、一定の速度で照明を移動させることで走行車両の速度を維持するのが目的。通常、側壁などに緑色に発光する「自発光デリニエーター」を設置するが、ここではトンネル照明をそのまま利用することでコストを抑えている。警告表示では注意事象運用が黄色、非常時運用が赤色で点滅する。下記の動画を見ると分かるようにトンネル全体がその色に染まるため、小さなLEDや文字表示とは一線を画したドライバーへのアピールを実現している。トンネル内での渋滞の緩和、事故時の二次災害の防止など、安全に大きく寄与することが期待される。

 こうしたLEDの制御には有線による通信ではなく、可視光を使ったICT(Information and Communication Technology)技術が用いられている。管制センターからの指令はトンネル電気室に送られ、その信号はLEDの微妙な光量変化によって伝達される。それを各照明器具に搭載されたセンサーが受け取り、それぞれの照明器具が発光制御を行なう。

 また、照明器具本体も現行のLED照明が27kgほどあるのに対して、サイン照明付きで15kg以下と大幅に軽量化されているほか、取り付けもトンネル覆工面からケーブルラック直付けとすることで、部品点数の削減が図られている。

 高槻第一JCT~神戸JCT間には上下ともに10本ずつのトンネルが設けられるが、高機能LED照明が設置されるのは神峰山トンネル(上り)ほか、箕面トンネル(上下線)、東畦野トンネル(上下線)、川西トンネル(上下線)、六石山トンネル(上り)の計8本となる。これはサグ部になっているためだという。

新型LED照明。中央に制御信号を受信するためのセンサーがある
ラックに装着
光量確保のため試験的に2段になっている部分も
白色点灯時は上段のみ点灯
下段がカラーLED
ペースメーカーライト
サイン照明(非常時運用)
サイン照明(注意事象運用)
高機能LED照明の作動状況

自走式ロボットカメラ

 定点式の監視カメラに取って代わることが期待されるのが、照明器具の固定にも使われているケーブルラック上を走行する自走式ロボットカメラ。通常時は充電ステーションに待機しており、火災検知器や消火栓の使用信号、非常電話の利用などにより自動的に移動を開始するほか、管制センターや現地作業員が持つ端末からのマニュアル操作も可能となっている。内蔵するカメラはスイングアームにより本体からせり出す構造で、水平方向に左右-100~100度、垂直方向に-180~90度に回転させることが可能。火災時など現場に近づかなくても確認できるよう、光学30倍のズームレンズを備えている。

スペック

全長×全幅×全高:1500×315×230mm
速度:20km/h(前進/後進)
連続撮影時間:4時間
カメラ解像度:1280×720ピクセル
フレームレート:15FPS以上
水平画角:61.9~2.2度

 本体にはバッテリが内蔵され4時間の連続撮影が可能で、残量が少なくなると自動的に充電ステーションに戻る機能も備えている。また、ボディは防水性、防塵性を持たせた構造となっているほか、外装には耐食性に優れたFRP素材が採用するなど、トンネル内の環境を考慮した構造となっている。

 自走式ロボットカメラが設置されるのは延長が短いトンネルに限られており、神峰山トンネルのほか川西トンネル、六石山トンネル猪渕トンネル、道場トンネルの各上下線で計10本。それ以外の延長が1500mを超えるトンネルには壁面の50mごとに「双眼監視カメラ」を設置する。これは従来の進行方向に向いた監視カメラと異なり、前後両方向にレンズを設けるとともに画像合成を行うことにより、広範囲を監視することが可能となっている。

自走式ロボットカメラ。外観は新幹線のドクターイエローを思わせる
自走式ロボットカメラの概要
ケーブルラック上に脱落防止機構を備えたガイドレールが設けられ、そこを時速約20kmで走行。1台400万円とか
実際のロボットカメラ。路面レベルの高さからだとあまり見えない
ケーブルラックの高さまで来るとここまで見える
カメラ部
路面に落下物を発見。赤いLEDの部分にロボットカメラがある
スイングアームによりカメラをせり出す
現場作業員が持つタブレットでもコントロールが可能
30倍のズームレンズ搭載によりここまでアップにすることが可能
落下物発見~サイン照明(注意事象運用)点灯~自走式ロボットカメラ走行

路側表示板

 文字によりドライバーに渋滞情報などを伝える「道路情報板」。それを補足する役目を持つのが、この「路側表示板」で、おおむね1km間隔で設置される。道路情報板が広域情報を扱うのに対し、こちらは直近の情報提供が主目的で、事故や落下物などの存在をドライバーに注意喚起する。より直感的な動画による表示機能も搭載。

神峰山トンネル(上り線)入口前に設置されている路側表示板
文字や画像に加え、アニメーション表示も可能
路側表示板

管理用無線LAN

 これまで現場作業者とのコンタクトにはデジタル無線をメインに、映像送信には携帯電話などを使用していたが、大規模災害時などには使用に制限が出る可能性もある。そこで、この新区間では道路に光ファイバーを埋設するとともに、本線上約1km間隔で無線LANアクセスポイントを設置することで、場所の制限なく通信できる環境を整えている。加えてパトロールカーにもアクセスポイントを設置することで、車両周辺にも無線LAN環境を構築可能としている。

 無線LANアクセスポイントは長距離伝送特性に優れた4.9GHz帯(IEEE 802.11j)と2.4GHz帯のデュアルタイプとなっており、前者が車載器や可搬型機器、後者は作業者が持つスマートフォンやタブレットとの通信に利用する。路肩に設置される非常電話もネットワークを利用したものとなっている。

管理用無線LANの概要
アンテナなど
トンネル内に設置されたアクセスポイント
パトロールカーのアンテナ
車内にネットワークカメラを設置
現場から離れた場所でもリアルタイムで状況が確認できる
そのほかの特徴

※記事中のJCT、IC、トンネルなどの名称はすべて仮称。