井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

改札を入場しても、目的のホームに行けない?

近鉄名古屋線の戸田駅。上下線とも名古屋方の端部に駅舎があり、踏切をわたって行き来する構造。ラチ内には地下道や跨線橋がない

 日本の一般的な鉄道駅は必ず改札口(ラチ)があり、それを境に「ラチ外」と「ラチ内」が明確に別れている。そしてラチ内では、どのホームの間でも行き来できるのが普通である。

 ところが、この常識が通用しないことがある。ホームごとに専用の改札口を設置する一方で、ホーム間の行き来ができない構造になっている場合があるからだ。

大手私鉄の小駅でよくある、ホームごとの専用改札

 大手私鉄の複線区間にある小駅では、対向式2面2線、つまり上下線のそれぞれにホームを設ける構造が多い。そこで改札口を設置する際に、2種類のパターンがある。

 1つは、片方のホームに駅舎と改札口を設けて、他方のホームとの間は構内踏切、跨線橋、あるいは地下道を通じて行き来する構造。数を勘定したことはないが、おそらくはこちらの方が多数派である。

 もう1つは、両方のホームに駅舎と改札口を設けて、ホーム間を行き来する手段は省略する構造。この場合、入場する改札口を間違えると、反対側のホームに移動できないので慌てることになる。

 有人駅なら、改札口で駅係員に事情を説明して出場させてもらう。このとき、交通系ICを使用して入場していたら、忘れずに入場処理の取り消しをしてもらわなければならない。そうしないと、反対側のホームにある改札で入場する際にエラーが起きる。

 こうした構造になっている駅の多くは地平の駅だが、古い地下鉄の駅でも同様の構造になっている場合がある。ただし地下鉄の場合、ホーム間を結ぶ連絡地下道を追加設置した事例が多いようだ。

対向式2面2線の上越線 津久田駅。かつては、左側の下りホームに駅舎があった(今は撤去されて、待合室の建物しかない)。そこから跨線橋をわたって、右側の上りホームに向かう構造
近鉄奈良線の枚岡駅。反対側のホームから難波方面に向かう電車に乗るときは、ラチ外にある地下道を通って移動する必要がある。地下道に降りる階段の頭上に、番線ごとの位置関係を表示している様子が分かる
近鉄大阪線の長瀬駅。写真の駅舎は1番線のもの。反対側の2番線から難波・上本町方面に向かう場合には、枚岡駅と同様に、まず地下道を通って反対側に移動する必要がある。この駅に跨線橋も構内踏切もない様子は、Googleストリートビューで見てみると分かる

反対側の改札に移動する際の問題

「ホームごとに専用の駅舎を設けると、それぞれに自動改札機や自動券売機を設置する必要があって高コストになる。集約する方が合理的では?」と考えそうになる。

 しかしそれは「いまどき」の感覚で、昔は個別に駅舎と改札口を配する方が、跨線橋や地下道を設けるよりも安上がりだったのかもしれない。構内踏切という手もあるが、踏切事故の原因が増えてしまう。

 西鉄貝塚線の香椎花園前駅みたいな事例もある。ここはもともと対向式2面2線構成だったが、駅舎と反対側にある2番ホームは2007年にいったん廃止・撤去された(線路は残っていた)。それが復活して2026年3月から供用を開始したが、1番ホーム側の駅舎とは直結していない。駅の北側にある踏切を回って移動する必要がある。

 実は、この復活した2番ホームから出る電車は、朝に貝塚行きが3本だけ。それなら、その3本のいずれかに乗る人だけが2番ホームの改札を利用すれば済む話である。そのためだけに地下道や跨線橋を設けるのは、いささか不経済ではある。

西鉄貝塚線の香椎花園前駅。左側が復活した2番ホームで、専用の改札が設けられている様子が分かる。右手奥の1番ホーム・右側に駅舎がある

 反対側のホーム(に設けられている改札口)まで移動する場面で問題になるのは、冒頭に写真を出した戸田駅みたいに、踏切をわたるしかない場合だろう。自分が乗ろうとしている列車の発着時刻が間際だと、その列車を通すために踏切が閉まってしまう可能性がある。不運にもそういうことになれば、目指す列車が走り去るのを踏切から眺めるしかない。時間に余裕を持って駅に来ておく必要があるわけだ。

 この踏切遮断の問題は、ラチ内でホーム間の移動に構内踏切を使用する場合でも、同様に発生し得る。もっともこちらは旅客に配慮して、列車がホームに停車している間は踏切は開ける運用にしていることが多いが。

構内踏切を設けた駅の例(山陽電鉄の妻鹿駅)。上下のホームを構内踏切でつないで、電車が通るときにはその踏切を遮断する。駅舎は写真の左手、山陽姫路方面ホームにだけある
三宮方面に向かう列車が到着すれば構内踏切を閉める必要はなくなるので、電車が停車しているうちに遮断棹が上がる。だから、自分がいま乗ってきた電車を後追いで撮影できるというわけ

高架駅でも分断の事例がある

 高架駅や地下駅では、ラチ内コンコースとホームは異なる階層になるのが一般的。それなら、入場したあとで目的のホームに通じる階段、エスカレーター、あるいはエレベーターのところに向かえばよい。

 ところがこれにも例外がある。先に挙げた古い地下鉄の駅だけでなく、高架駅でもホームごとに専用の改札を設けている場合があるからだ。といっても、これはきわめて希少な話だが。

 その希少な事例が帯広駅。ここは島式2面4線の構成だが、1・2番線のホームと3・4番線のホーム、それぞれに専用の改札口がある。だから入場する際には、自分がこれから乗る列車が何番線から出るかを確認して、それに対応する改札口を通らなければならない。

帯広駅のホーム。いわゆる島式2面4線の構成だが、こちら側のホームと向こう側のホームの間をラチ内で行き来することができない
帯広駅は高架下を線路と同方向に貫通する通路があり、その両側に、1・2番線のホームに通じる改札口と、3・4番線のホームに通じる改札口がある(奥の方にある看板に留意されたい)。そのため、発車標はラチ外通路の頭上からぶら下がっている

 実は帯広駅、当初はこんな構造になっていなかった。1996年11月に現在の高架駅が供用されたときには、ラチ内コンコースの東西に改札口があり、ラチ内では2つのホームの間を自由に行き来できた。これは、高架駅では一般的な構造である。

 ところが、高架下の商業施設が駅施設で東西に分断される格好になってしまい、それに起因するのか何なのか、とにかくテナントの撤退が相次ぐ事態になった。現在も、商業施設「エスタ帯広」は東館と西館に分かれている。

 そこで東西の往来を容易にしようということで高架下のど真んなかを貫通する通路を設けることになり、その際に改札がホームごとに分かれて、現在の形態になった。

 真逆の展開になったのが宮崎駅。ここは1993年3月に高架駅の供用を開始したとき、現在の帯広駅と同様にホーム別に専用の改札口を設けていた。しかし、2020年3月から現在の構造に改められて改札が集約された。

無人駅では問題にならない

 この、ホームごとに専用の改札口があってラチ内で往来ができない形態が問題になるのは、有人駅、あるいは自動改札機を使用している駅。無人駅では物理的な入出場チェック手段がないから、ホームを間違えたことに気付いたら、そのまま外に出て、正しいホームに移動すれば済む。