荒木麻美のパリ生活

猛暑のパリを出てモンブランのふもとで避暑(後編)

「香草の魔術師」によるサプライズ満載の3つ星レストランにお気に入りの特産品も

 前編ではサン=ジェルヴェ=レ=バン周辺の山や湖の美しさについてお伝えしましたが、後編は3つ星レストラン訪問と特産品のお話です。

「マルク ・ヴェイラ劇場」でサプライズの連続

ラ・メゾン・デ・ボワ(La Maison des bois)

 今回のバカンス中も地産の美味しい食材を買ってきてはアパートで自炊をしていたのですが、一度だけレストランに行きました。最初に夫がそのレストラン「ラ・メゾン・デ・ボワ(La Maison des bois)」に行こうと言ってきたとき、私は外食がそれほど好きではないのと、3つ星レストランと聞いてさらに「そんな高級なところに行かなくても……」とちょっと渋い顔に。

 でも夫がレストランのシェフであるマルク ・ヴェイラがスキー事故とレストランの火事のために二度もレストランを閉めざるを得ず、それでも不死鳥のように復活してきた話や、レストランの敷地内に畑を作っており、食の安全に最大限こだわって作る料理は、きっと私が気に入るであろうという話を聞いて、そこまで言うなら行ってみようかなと思いました。

ラ・メゾン・デ・ボワ

所在地:Col de la Croix-Fry, 74230 Manigod
TEL:+33 (0)4 50 60 00 00
Webサイト:La Maison des bois(英文)

 サン=ジェルヴェ=レ=バンからレストランまではクルマで約1時間。コースを完食するべく朝から何も食べずにレストランに着くと、まずはテラスでアペリティフです。私たちはアルコールを飲めないので、ノンアルコールのカクテルをもらいました。セイヨウナツユキソウというハーブをメインに作ったジュースです。一緒にエスカルゴやハナウドを使ったポタージュなどの盛り合わせも。アペリティフをしていると、どのコースにするかを聞かれました。

テラスからの眺め
セイヨウナツユキソウを使ったノンアルコールのカクテル
前菜の盛り合わせ

 コースは2種類から選びます。395ユーロ(約5万1350円、1ユーロ=約130円換算)と295ユーロ(約3万8450円)のコースがあり、395ユーロのコースはベジタリアンメニューにもできます。295ユーロのコースはランチのみです。このほかに朝の10時からシェフやスタッフと一緒に畑に行ってハーブを摘み、シェフの料理のデモンストレーションを見てから料理を食べるコースもあり、750ユーロ(約9万7500円)となります。

 私たちはそれほどたくさん食べられないので295ユーロのコースを注文。以下、出てきた料理の写真を簡単な解説付きでご紹介します。

アペリティフが終わったら室内に移動します
数種類の自家製パンから好きなものを選びます

 出てきた料理はこちら。さすが「香草の魔術師」。変わったハーブがふんだんに使われていました。“”でくくったものが使われているハーブの名前です。

フォアグラと“スイートシスリー”。スイートシスリーというので甘いのかなと思ったら酸味の強いソースでした
“シロザ”と豆のスープ。シロザはホウレンソウのような見た目と味です
ウズラの卵のコンフィ、オキザリス乗せ。“オキザリス”は酸っぱいはずなのですが、そんなことはなかったです
ボーフォールのチーズパスタ、“キャラウェイ”入りブイヨン。サービス係が目の前でパスタのようになったチーズの上からブイヨンをかけ、溶けたものをスープとして食べるという趣向
アカザエビの石焼きと“セイヨウナツユキソウ”のボンボン。アカザエビとボンボンを一緒に口に含んで食べると、セイヨウナツユキソウのさわやかな風味とアカザエビの味が絶妙なマッチング
エゾマツの樹皮の上で焼いたレマン湖産マス、白バター風ソース。樹皮の上部を開けるとマスと樹皮の香りがふわっと漂ってきて食欲を誘います。ソースにはバターを使っていないとのことでさっぱり。一緒に出てきた野菜とハーブのブイヨンはほどよい塩味が効いていて、口直しにぴったりでした
子羊の鞍下肉の干し草包み、“タイム”のソースがけにブレット、モリーユ茸、黒トリュフのピュレ添え。サービス係が干し草に乗った肉を目の前で切り分けてサービスしてくれました
サヴォワ地方のチーズ各種。私のお腹にはチーズの場所はもうまったくなかったのでパス。夫は薄切りながら5種類ももらっていて驚きです。チーズを食べられない人にはヨーグルトもあるそうで
“レモンバーベナ”“セイヨウノコギリソウ”などをミックスして発酵させたレストラン特製ジュース。消化を助けるそう。これがもうとても美味しいので、販売しているか聞いたところ、していないそうでとても残念
サービス係が「こちらは『両面の皿』といいます」と言いながら何も乗っていないお皿を出したので、私には「?」だったのですが、夫はすぐに「あ、裏返せばいいのね」と言ってお皿をひっくり返すと、そこにはバニラクリームが。フランスではお皿を洗う手間を減らすために、こうしてお皿の裏を使うことが今でもあると聞いて驚きました
最後にデザート盛り合わせ。これで2人分です。ミントに似た味わいの“カラミンサ”のアイスや梨のスフレ、キノコやアプリコットのタルト、“ジェネピ”のアイスの詰まったチョコレートボールなど。デザートはすべて少しずつ食べましたが、ついに夫もギブアップ。残念ながら完食できませんでした

 コースを食べている途中でマルク ・ヴェイラ氏が、氏の代名詞ともいえる黒い帽子に黒い服を着て登場。客たちの目の前で謎の液体を、煙のもうもうと出る液体窒素で固め、客全員に配ります。その後、「目を閉じて。これを口に含んでください。あなたは今、森のなかにいます。草木の香り、ひんやりとした森の空気を感じてください……。さぁ目を開けて! 引き続き料理を楽しんでくださいね(ニッコリ)」というようなことを言って去っていきました。スター・シェフらしい演出ですね。

 ちなみに謎の液体はキノコと何かのハーブのさわやかな味で、口に含むとあっという間に溶けてしまいました。

 コースが終わると再びテラスに出て、私たちはコーヒーとハーブティーを楽しみました。レストラン特製のチョコレートなどの盛り合わせも出てきましたが、私はもう何も食べられないので見るだけに。

 このレストランで出てくる料理の材料は、レストランの敷地で栽培している野菜やハーブも含め、70%が地産品です。食材からのエネルギーを感じるお料理、すばらしい景色、シェフをはじめ、スタッフたちが客を驚かそう、喜ばせようとしながら醸し出す陽気な雰囲気に、お腹はもちろん、心も十分に満たされました。

 ただ私は食事を残すのが大嫌いなのですが、周囲のテーブルを見ても完食している人は少数派のようでした。私のような庶民の感覚からしたら、食材を大切にしているのならもう少し量を少なくしてもいいと思います。とにかく数年に1回くらいなら、こういうところに来るのもおもしろいですね。よい経験でした。

ハーブ担当だという人がテーブルにやってきて、料理に使われているハーブを見せてくれました

 食後、レストランの裏にある畑を軽く散策。手入れの行き届いた野菜にハーブ、元気なニワトリたちを見ていると思わず笑顔になってしまいます。敷地内にはホテルやスパもあり、スタッフに聞いたところ、「ルレ・エ・シャトー」に加盟してからは、日本を含めたアジアからも多くの人が来ているとのことでした。

敷地内には小さな教会までありました

お土産にロバのミルクの石鹸にヤギのチーズを

 パリは乾燥していることが多く、さらに水が硬水というのもあって肌が荒れがちです。酷使している手が特に荒れやすいので、私は手洗い用にロバのミルクの石鹸をよく使っています。街の市場をのぞいていたら、このロバのミルクの石鹸を売っていたので買いました。100gの石鹸を買い込んだのですが、「おまけ!」と言ってたくさんの小さな石鹸をくれてビックリ。

 アパートに戻って石鹸を早速使ってみると、普段パリで買っているものよりもしっとりとしてよい感じです。商品を売っていたグザビエさんが「アトリエを見学したかったらいつでもどうぞ!」と言っていたので、後日連絡を取って訪ねました。

 グザビエさんが朝一で自分の牧場から取ってきたというロバのミルクを使って石鹸を作ります。さまざまなオーガニックの精油も目的に合わせて入れていきます。グザビエさんのところではロバのミルクを5~7%ほど、精油は2~3%くらい配合しているとのことでした。

 10年ほど前に始めたこの石鹸作り、すべて1人で作業しているので、納品が重なるとかなり大変とのこと。でもロバを飼い始めて約20年。愛するロバたちと仕事をできて幸せだそうです。

 アトリエでは新鮮なロバのミルクを味見させてもらいましたが、パリで買うものよりさらっとしていて、ライスミルクみたいな甘みがあってとても飲みやすかったです。フランスの自然療法では牛乳を勧めないのですが、このロバのミルクは消化がとてもよく栄養価が高いので、赤ちゃんから大人までよいとされています。

 グザビエさんの石鹸は日本にも輸出しており、高い評価を得ているようです。サン=ジェルヴェ=レ=バンに来ることがあれば、木曜日の午前中、街の中心で開かれる市場でグザビエさん自ら販売していますからぜひ試してみてください。

私が特によいと思ったのはGerme de Blé(小麦胚芽)の石鹸。乾燥肌にお勧めです

 トレッキング用などにロバの貸し出しもしているそうです。詳しくはサイトで確認してください。

Les Ânes Montagnards

Webサイト:Les Ânes Montagnards(仏語)

 サン=ジェルヴェ=レ=バン周辺では牛やヤギの乳製品を扱うところが多くあるのですが、我が家は牛の乳製品をあまり食べないので、アパートから一番近そうなヤギの乳製品を扱っている牧場に行ってみました。

 17時以降ならヤギを見られるというので行ってみると、います、います! 人に慣れているようで、「なでて~」と頭を柵から突き出してくる子もたくさんいて、本当にかわいい。ここで買われている猫2匹も人懐こくてすっかり癒されました。

 一通りヤギと猫をなでまわしたあとで、ヤギの乳製品を購入です。ヤギのミルクは味に癖の強いものが多いのですが、ここの商品はさっぱりでとても食べやすい。とても気に入りました。ただこの牧場、始めてまだ2年くらいだそうで、今のところは直売分しか生産できていません。

Chèvrerie Au Coeur de Montjoie

所在地:359 chemin du Vivier, 74170 Saint-Gervais-les-Bains
TEL:+33 (0)6 37 85 72 08

 ここまで買いに行けない場合は、石鹸同様、サン=ジェルヴェ=レ=バンで毎週木曜日に開かれている市場に行ってください。ヤギのチーズを売っているスタンドがいくつかあるのですが、サン=ジェルヴェ=レ=バン生まれ・育ちで石鹸を作っているグザビエさんお勧めは、「Ferme Les Montagnards」と「Chèvrerie De Bettex」というスタンドで売っているチーズだそうです。私も買ってみましたが、これも確かに美味しかったです!

 今回サン=ジェルヴェ=レ=バンに初めて行ったのですが、当初1週間の滞在予定を2週間に延ばしたほど、すっかり気に入ってしまいました。でも実は、サン=ジェルヴェ=レ=バンで一番有名なのはテルム(温泉施設)です。200年以上の歴史があるこのテルム、大規模な改修工事が入り、再オープンは7月下旬の予定でした。私も行く気満々だったのですが、再オープンが遅れたために今回は行くことができず……。サン=ジェルヴェ=レ=バンは冬にはスキー場になります。今回行かれなかったテルムと合わせて、次回は冬の魅力も味わってみたいと思っています。

Thermes de Saint-Gervais

Webサイト:Thermes de Saint-Gervais(仏語)

改修最後の仕上げ中のようでした

荒木麻美

東京での出版社勤務などを経て、2003年よりパリ在住。2011年にNaturopathie(自然療法)の専門学校に入学、2015年に卒業。パリでNaturopathe(自然療法士)として働いています。Webサイトはhttp://mami.naturo.free.fr/