荒木麻美のパリ生活
オリンピック中のパリを出て、モンブランのふもとの町とイタリア北部のコモ湖でバカンス(後編)
2024年10月12日 08:00
パリオリンピックの期間中、モンブランのふもとにあるサン=ジェルヴェ=レ=バンに1週間滞在したのち、イタリア北部にあるコモ湖に行きました。コモ湖はその美しい自然と町並みで有名なところで、古代ローマ時代からの歴史ある避暑地。貴族や富裕層の屋敷が多くあります。
サン=ジェルヴェ=レ=バンからコモ湖まではクルマで5時間ほどです。フランスからスイスに入り、まだ雪の残る道路を過ぎたと思ったら、夏真のコモ湖に到着です。避暑地と聞いていたのに日中の気温は30℃半ばくらいでとても暑い! 苦手な蚊もいる! 私が「まったく避暑地じゃない」と言うと、フランス人の夫は「イタリア南部の気温に比べれば涼しいということでは?」ということでした(笑)。
コモ湖では家族経営のベッド・アンド・ブレックファスト「B&B Balcone Fiorito」に泊まりました。
坂の上にあり、庭から湖が見下ろせる家の1部屋を借りたのですが、オーナー一家も住んでいるので、庭に出ると、飼っている犬と猫がしょっちゅう遊びにやってきます。趣のある家具に囲まれた部屋にいると、夏休みに祖父母の家に遊びに来たかのよう。朝食は湖を眺めながら庭で食べるのですが、お母さんの焼いたスコーンやパンがとても美味しくて、朝から幸せな気分でした。
宿の近くにある森を歩いていくと、湖を見晴らすように立つ小さな教会があり、その先をさらに進むと、テラスからの眺めが素晴らしいレストラン「Ristorante La Baita」(Via A. Wyatt, 60, 22017 Menaggio CO, Italy)があります。創業50年、バーベキュー料理で有名です。本場のティラミスをデザートに食べてお腹いっぱい! 食後に飲むイタリアのエスプレッソはフランスよりも苦いと思いましたが、クセになる美味しさです。
別の日には家から6kmくらいのところにある滝を見に行ったのですが、涼を取ってほっと一息。その後、マスの養殖場を持つレストラン「La Vecchia Chioderia Dei Cinque Cantoni」(VIA MOLINO, 7, 22010 Grandola ed Uniti CO, Italy)に寄り、マス料理を堪能しました。
観光の合間には何回か湖で泳ぎましたが、どこも人がいっぱいでひしめきあうという感じではなく、泳ぐ人、日光浴をする人、ウォータースポーツを楽しむ人たちが、ほどよい距離感で思い思いに楽しんでいました。
せっかくイタリアに来たのだからとイタリアンジェラードを食べたり、パン屋とお惣菜屋さんでテイクアウトしたイタリアン料理に舌鼓を打ったりもしました。レストランもそうですが、フランス料理よりもシンプルで、どれも美味しい!
コモ湖はイタリアで3番目に大きな湖なのですが、コモ湖を囲むように小さな町が点在しています。私はそのうちの一つ、メナッジオという町にいたのですが、各町をつなぐ連絡船が出ているので、1日は連絡船を使ってヴィラ巡りをすることに。連絡船の料金は移動距離ごとに分かれているのですが、私はゾーン3までの1日券を15ユーロで購入しました。1日で複数の町に行きたい場合、このチケットはとてもお得です。チケットは船の発着所で買いました。
メナッジオからベッラージョへは船で20分です。コモ湖で一番有名な町で、高級リゾート地の雰囲気です。船着き場から少し歩くと、ヴィラ・メルツィに到着します。屋敷のなかには入れませんが、手入れの行き届いた見事な植物園とそのなかにある礼拝堂や博物館を楽しめます。日本風の庭園もありました。
ベッラージョからトレメッツォに行きます。船で15分、町が見えてくると、赤とオレンジのかわいらしい建物が並ぶ景色に目を引かれます。ここではヴィラ・カルロッタを訪問。ここのイタリア式庭園は必見です。ヴィラのなかから望むコモ湖の美しいこと! お屋敷地下の炊事場では、使用人たちがどのように働いていたかを、映像と合わせて見ることができて興味深かったです。
トレメッツォから船で45分、ヴァレンナは小さくて静かな町です。船を降りて町中を抜けると、「ヴィラ・モナステロ」(Viale Giovanni Polvani, 4, 23829 Varenna LC, Italy)に到着です。もともとは修道院だったヴィラで、その後の所有者たちが美しい館に変えていきました。現在は湖に沿って長く続く植物園に季節に応じた花が咲き乱れ、最後の所有者が改装した屋敷の内部も見学できます。
最後に行ったのは、ヴィラ・バルビアネッロです。コモ湖のヴィラのなかでおそらく一番有名なのはここでしょう。映画「007 カジノ・ロワイヤル」や「スター・ウォーズ」の舞台にもなった美しいヴィラです。15名までのガイド付きツアーは大人気で予約を取れず、すっかりあきらめていたのですが、コモ湖を去る日に空きが出るという幸運が! メナッジオからはクルマで20分。チケット売り場の前を通ると、長い列ができていましたが、これは当日券で庭だけを見る人たちです。でも庭だけではとてももったいない。行くことが決まったら早めに予約を入れ、30分ほどのガイドツアーで屋敷内部を見ることを強くお勧めします。
ヴィラの最後の持ち主は、グイド・モンツィーノ伯爵です。事業で成功した父親の後継者であった彼は、1973年にイタリア人ではじめてエベレストの登頂に成功した探検家でもありました。彼が情熱を込めて改修したことが伝わってくる美しい屋敷内ですが、興味深かったのは、極左のテロリスト集団「赤い旅団」によって誘拐されるのではという恐怖から、ヴィラ内のあちこちに抜け道を作ったというガイドさんの話です。伯爵は生涯独身で、心臓発作により60歳で亡くなりましたが、裕福な探検家という華やかな表の顔の裏では常に何かを恐れる毎日に、特に晩年には本当の意味で満たされた時間がどれだけあったのだろうかと、あれこれ想像を巡らせてしまいました。
コモ湖は見どころがたくさんで、食事も美味しかったですし、サン=ジェルヴェ=レ=バンも含めてとてもよい夏休みとなりました。ただ私のように暑いのが得意ではない人は、コモ湖には真夏を避け、春か秋に行くほうがよいように思います。また、コモ湖はミラノからなら日帰りも可能ですが、せっかくならせめて1泊での滞在をお勧めします!