旅レポ
広島・江田島(えたじま)で世界的高評価の宿に滞在。紙布工場やオイスターカフェに瀬戸内の真価を知る旅
2025年8月22日 12:00
海外からも高い評価を受ける温泉宿!?
ということで、江田島の宿泊事情から……といきたいところだが、実はこの地には宿泊施設は数えるほどしかない。というのも、フェリーを使えば広島市内まで30分ほど、呉の町だってあっという間なので、多くの観光客はそちらに向かってしまうのだろう。
そんな背景もあり、もともとこの地にあった温泉施設「シーサイド温泉のうみ」、そして国民宿舎「能美海上ロッジ」はともに閉館となってしまう。それを受けた江田島市が観光振興のために宿泊施設を公募し、2021年7月に新規開業したのが、今回宿泊した「江田島荘」(広島県江田島市能美町中町4718)だ。全32室でスタッフは約60名とホテルとしては規模は大きくないものの、市内では最大の宿泊施設だ。
当初、宿の名前を聞いたときには「荘」という名称から大きめの民宿のような施設なんだろうな、と思っていたが、実際に訪れてみると普通にホテルの見た目だし、エントランスからなかに入りレセプションやロビーまわりを見ても同様の雰囲気。
新規開業となるこの規模の施設かつリゾート的な立地を考えると、それっぽい横文字系の名前になりそうなのになぜと疑問に思って尋ねてみると、当初はやはり横文字の名称も候補になっていたとか。ただ、「江田島」を入れたいことと、スタッフの約9割が江田島市民であり業界未経験者ということなどから、“より身近に感じられる温泉宿っぽい名前”になったという。
そんな宿の魅力は立地と温泉だ。前回の記事で紹介したように江田島は上から見たロブスターのようなカタチをしており、この江田島荘はちょうど頭の先端に位置する。広島港を結ぶフェリーの中町港から約1kmほどで、歩いてもアクセス可能(事前予約で送迎も可)と抜群の立地。
宿の目の前に広がる海はハサミに囲まれているため波が非常に穏やかで、風がなくコンディションのよいときにはウユニ塩湖のような「リフレクション」が見られるとか。記事冒頭の画像を見てもらえばその雰囲気が分かってもらえるのではないだろうか。
そして眼下には400mの砂浜を持つ人工の海水浴場「ヒューマンビーチ長瀬(長瀬海水浴場)」がある。シャワ-や更衣室、トイレなどを完備することから地元でも人気のスポットとなっているが、ホテルからは専用の出入口を使って徒歩10秒ほど(というか目の前)。宿泊者なら食事前でも風呂上りでも、はたまた寝る前や起床後など好きなときに満喫できる。これは贅沢。
そしてもう1つのウリとなるのが温泉。キッチリ書くと「塩化物泉・放射能泉(含弱放射能-ナトリウム・カルシウム-塩化物強塩温泉」。分かりづらいので少しはしょって書くと“塩分濃度が高く微量に放射能を含む温泉”ということになる。
源泉温度は31.8℃とちょっと低めながら、加水も加温もしていない源泉かけ流し。実際に入ってみるとゆっくりつかるにはちょうどよい加減の温さで、中東にある「死海」ほどではないだろうけれど、体がふわりと浮く感じがなんともおもしろく新鮮。ぬる湯が好きなこともあり、ついつい、夜・朝とゆっくり入ってしまった。ちなみに日帰り入浴も可能(11時~16時30分、最終入館16時)なので、まずは試しに温泉だけ入ってみるなんて楽しみ方もアリだ。
レストラン「locavore」でいただく地元の食材を豊富に使った料理もディナー、朝食ともに素晴らしく、短いながらとてもリラックスした時間を過ごすことができた。ホテル業界のアカデミー賞と言われる「World Luxury Hotel Awards 2024」において、「Luxury All Inclusive Hotel」部門でアジア大陸最高位、「Luxury Hot Spring」部門で世界最高位、「Luxury Small Hote」部門でアジア大陸最高位と3冠を受賞しているというのも、うなづける滞在となった。
紙布工場で歴史の重みに触れる
翌朝、最初に訪問したのは明治23年創業の津島織物製造(広島県江田島市能美町中町2267-2)。
ここで作られているのは「紙布(しふ)」の壁紙。紙布とは文字どおり紙で作った布のことで、その発祥は江戸時代。衣料をはじめさまざまな商品に採用されていたが、通気性や吸湿性が高く結露しにくいことから壁紙には最適だといい、国内はもとより海外でも高い評価を受けているとか。
ただ、次第に製造者は減少し、現在では2社が残るのみとなってしまったそうだ。同社はそのうちの1社で現在も生産を継続しており、その製品は冒頭で紹介した江田島荘で数多く採用されている。ラウンジの壁や客室のヘッドボードがそれなので、気になる向きはぜひ写真を見返していただきたい。
ここでは工場見学とともに紙布を使った雑貨づくりの体験が可能となっており、今回は夏ということもあって団扇づくりにトライすることになった。
まずは歴史を感じさせる工場内へ。太い梁の下に年代モノの自動織機が並び、大量の糸車から織機へと伸びていく糸の眺めは圧巻。機械好きにはたまらない空間で何時間でも眺めていたいと思えるほど。計1時間半ほど滞在していたが団扇づくりもそこそこに入り浸ってしまった。工場見学は事前に電話での直接申し込みとなり、雑貨づくりは3名以上からで料金は1人1000円~。
江田島発の最新クラフトビール
昼食に向かう前に少しだけ立ち寄ったのが「江田島ワークス」(広島県江田島市能美町中町2372-1)。住所を見てもらえば分かるように津島織物製造のすぐ近くにある。
ここは日本酒を製造していた津田酒造の一角に誕生したクラフトビール(発泡酒)の醸造所で、2023年に誕生して以来、ゴールデンエールとIPA(インディアペールエール)、ヴァイツェンをメインに、江田島産の八朔やオリーブなどを使った江田島エールなど年間およそ6000Lを製造。津田酒造の店頭などで購入することが可能だ。
広島グルメといえばコレ
広島や瀬戸内のうまいものといえば外せないのが牡蠣。前回の記事で牡蠣の“か”の字もなかったのは、ここに立ち寄る予定があったためだ。場所は呉の対岸あたり、ロブスターでいえば右のハサミのなかほど。もともとは小学校だった地に冷凍食品やフライなど牡蠣の加工を行なうとともにオープンしたのが、目的地となる「OYSTER CAFE江田島」(広島県江田島市江田島町秋月2-49-52)だ。
工場の脇にあるエレベーターで3階に上がると、一面がガラス張りとなっている客席からは瀬戸内や呉の町を一望することができる。ここでは牡蠣工場が一体となっているメリットを活かし広島産をはじめ厳選した牡蠣を全国から取り寄せ浄化、厳しい検査を経た牡蠣のみを使用することで一年中いつでも生牡蠣を提供することが可能だという。当日は時期的に江田島産ではなく尾道の近くにある田島産とのことだったが、配膳されるとあっという間に殻だけになっていた。牡蠣フライやスパゲティも美味しく、ここでも江田島を含めた広島の美味しさを堪能することができた。
江田島ブランドを自らの手で
最後の訪問先となったのが江田島焼の窯元「沖山工房」(江田島市江田島町宮の原3-14-1)。
その特徴は釉薬に牡蠣の殻を焼いた灰を混ぜていることで、工房主の沖山努氏が江田島ならではの作品をと試行錯誤して生み出されたもの。牡蠣殻釉薬を使った江田島焼きは独特の風合いや模様ができるという。この工房では作品の展示や販売を行なうギャラリーのほか陶芸体験も行なっており、初心者でも江田島焼の作品づくりが楽しめる。
本来、陶芸はゴミなどを取り除く土づくりから気泡を取り除き均一にする土練りにはじまり、成形したあと、乾燥、約800℃での素焼き、釉がけ、1230~1250度℃の高温で本焼きしたあと、紙やすりで底を仕上げて完成となかなかに手間と時間がかかる作業。でも、ここでは形を作るところ以外はすべてやってくれるため気軽に始めることが可能だ。
今回行なうのは手まわしろくろを使った「ひもづくり」と呼ばれる行程になる。用意されている粘土をひと握り取って円形に伸ばして底になる部分を作ったあと、ひものように伸ばした粘土を積み上げていく。言葉で書くと簡単だけど、普通の粘土のようにつなぎになる成分が入っていないこともあってなかなかに難しい。
沖山氏から「縮むので大きめに」「空気を入れないように」なんてアドバイスを受けながら形を作っていく。湯飲みを作ったつもりだったが最終的にいびつなナニカができあがってしまった。乾燥、焼き上げと時間がかかることもあって記事内で完成形をお見せすることができないのが残念だ(棒)。
広島といえば市内をはじめ厳島や呉、尾道あたりが代表的な観光スポット。だが、広島市内からフェリーでわずか30分あまりの江田島にも魅力的な場所が数多く存在していた。瀬戸内海となれば夏がメインと思われるかもしれないが、食をはじめとして秋から冬にかけても見逃せない「コト」「モノ」はたくさんある。ぜひ、いつもと違う広島を体験してみてほしい。

























































































































