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飛行機の換気についてJALに聞いてみた。搭乗・降機中も機体の空調を積極活用してきれいな空気に

機内の換気についてリモートで説明する株式会社JALエンジニアリング 技術部システム技術室機装技術グループ グループ長 山本健太郎氏

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、不要不急の外出自粛が求められている一方、緊急事態宣言の解除も始まり、社会インフラの維持継続などの理由で移動の必要に迫られる人もいるはず。

 電車やバスなどの公共交通機関では車内の窓を開けることで空気の循環を促しているが、密閉された空間の飛行機ではどのような対応を行なっているのだろうか。JAL(日本航空)グループで航空機の整備を担当するJALエンジニアリングにお話を伺った。なお、本インタビューはビデオ会議システムによるリモートで実施している。

 説明していただいたのは、JALエンジニアリング 技術部システム技術室機装技術グループ グループ長の山本健太郎氏と、技術部システム技術室機装技術グループの坂田晃一氏。

外気取り入れ・流し出しとHEPAフィルターで客室の空気をきれいに

 そもそも、飛行機には常に新鮮な空気が取り入れられており、機内を循環しておよそ2~3分ですべて入れ替わる仕組みになっている。別掲した「機内の空気循環のイメージ」図は説明に合わせて見せていただいた資料(JALのWebサイトでも公開しているもの)で、まず前提として、旅客機の巡航高度3万3000フィート(約1万m)の外気はマイナス40~50℃なので、そのまま客室に取り込むわけにはいかない。

 そこで、機外から取り入れた空気をまずコンプレッサーで圧縮する。圧縮した空気は急激に温められるので、旅客機用の空調システムを使って、外気との熱交換で冷却したうえ、断熱膨張で体積を増やしてさらに温度を下げる。こうして冷やした空気と、コンプレッサーから送られてくる暖かい空気をミキサーで混合して、客室向けの適温を作り出している。

 エアコンで調節した空気は機体の側面から客室上部に回り込んで、客室内に供給される。機内でシートに座って天井を見上げた際、エアコンの吹き出し口を目にしたことがあるはずだ。その後、シート脇から客室の下に流れ出て、半分程度はそのまま機外に排気、半分程度はフィルターを通って再びエアコンに取り込まれる。

機内の空気循環のイメージ
与圧、換気、冷暖房の協調動作

 このとき、後者の空気の清浄化に使われているのが、家庭用の空気清浄機や掃除機などでもおなじみの「HEPA(High-Efficiency Particulate Air)フィルター」だ。HEPAフィルターの性能は、JIS規格で「0.3μmの粒子を99.97%以上捕集できる」と定めてあり、花粉や空気中の微粒子物質(PM2.5)などを除去してくれる。

 日本ウイルス学会によると新型コロナウイルスの粒子は0.1~0.2μmとされており、フィルターの目より細かいということになるが、だからそのまま通り抜けてしまうというわけではない。ウイルスのような微粒子には気体中の分子衝突で不規則な揺れが発生しており、フィルターの繊維に接触することで、むしろ捕集されやすくなる。山本氏の説明によると、フィルター中の粒子は滞空時間が長くなるほど繊維に捕集される確率が高まるという。

 なお、今回の説明で例に挙がったボーイング 787型機では、約60×40×14cm(幅×奥行き×高さ)のHEPAフィルター3枚が三角柱のようなホルダーに取り付けられており、これを客室の下に2基収めてある。天井には、形の異なる筒状のフィルターが1基用意されている。

 ちなみに787型機の場合、2基の大きなフィルターは1年弱(3000フライトアワー)、天井のフィルターは約2年(8000フライトアワー)と交換時期が決められている。

ボーイング 787型機のHEPAフィルター

搭乗中・降機中も機体の空調を積極利用するべくオペレーションを見直し

 ここまでの説明の多くは飛行中を前提にしたもので、地上で駐機中の旅客機は、空港の地上設備や専用車両を使って空調と換気を行なっている。搭乗するときから機内が適温になっているのはこのためだが、機体側の空調を使わないことで燃料消費を抑える効果もある。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、JALは搭乗中や降機中もより清浄な空気を維持すべく、機体側の空調を積極的に使用するようにオペレーションを見直したという。その分、燃料の消費量は増えてしまうが、坂田氏は「機内を清浄に保つことを優先した」とその理由を説明する。

 最後に、換気の仕組みとは直接関係ないが、機内の清掃・消毒についても紹介しておきたい。同社では、シートのテーブルやひじかけ、個人モニター画面、コントローラのほか、トイレのドアノブや蛇口などを夜間整備でアルコール消毒しており、国際線機材ではすでに実施していたが、4月29日から国内線機材でも同様の消毒を始めている。このほか、新型コロナウイルスの感染拡大防止のためのJALの取り組みは、Webサイト上で公開している。