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AIではなく人のスキルで。JALが遠隔操作アバターロボット「JET」による接客を羽田空港で検証。2020年の一部実用化目指す

働き方改革やサービス高品質化に向けた取り組み

2019年4月22日~24日 実施

JALが羽田空港で遠隔操作のアバターロボット「JET」による接客・案内業務の実証実験を実施

 JAL(日本航空)は4月22日から24日の3日間にわたり、羽田空港国内線第1旅客ターミナル内においてアバターロボットを活用して案内・接客業務を行なう実証実験を実施した。

 JALは利用者へのサービス向上や新サービスの創出、スタッフの働き方改革などを目的に、さまざまなイノベーションを起こす取り組みを進めている。今回の実証実験は、空港内のサービス向上と、スタッフの働きやすさを高めることを目的としたもの。JALではこれまでも、AIロボットによる接客や、車いす利用者の手荷物を自動搬送するなど、ロボットを使った実証実験を行なってきた。

 空港では待ち時間短縮を図ってさまざまな自動化が進められているが、一方でJAL デジタルイノベーション推進部 部長の斎藤勝氏は「自動化が進むなかで、自動で手続きができないお客さまや、不慣れなお客さまの対応が求められる」との課題を示す。

 その課題解決の一案が、今回の実証実験で使用されるアバターロボット「JET」だ。“アバター”の名のとおり、人間による遠隔操作を行なうロボットであることが最大の特徴となる。

 斎藤氏は、AIだけで対応することや、人の多い空港内で自動移動するロボットはまだまだテクノロジの進化が必要であるとし、「たどり着いた1つの答え。いますぐ活用できる技術で、実際にお客さまにサービスを提供するもの。人材×テクノロジでタッグを組んでお客さまにサービスを提供することが大事」とアバター活用の理由と有効性について述べた。

日本航空株式会社 デジタルイノベーション推進部 部長 斎藤勝氏
記者会見に臨むアバターロボット「JET」

 また、働き方の観点では、遠隔操作は人が動かすものとなるが、「バックオフィスではなく、フロントラインの接客を遠隔でできるようになるのが一つの目標」とし、在宅勤務や海外からの遠隔操作なども見据える。例えば、出産や育児、介護などで長時間の出社が難しいスタッフでも、接客や案内を行なうスキルを活かして自宅で業務してもらうといったことが可能となる。

 この取り組みを担当しているJAL デジタルイノベーション推進部 オープンイノベーショングループ アシスタントマネジャーの平松佐知子氏によると、2020年の一部実用化を目指して機能強化を進め、大~中規模空港や海外基幹空港などで実際に導入することを目指すという。

 さらに、その将来には、空港の各エリアに設置することでスタッフ自身が移動しなくてもタイムリーに接客することや、旅客の母国にある海外支店からサポートできるようになることなども目指す。平松氏は、「よいサービスを行なうには、人の数が必要。JETの存在が人の役割を果たすのではないか」とし、1人で複数台のJETを操作することも想定している。

日本航空株式会社 デジタルイノベーション推進部 オープンイノベーショングループ アシスタントマネジャー 平松佐知子氏
アバターロボット「JET」を使った実証実験
JETの実用化に向けたロードマップ。まずは国内主要空港でのトライアルを重ね、2020年の一部実用化を目指して機能強化を図る

 遠隔操作の対象となる「JET」と名付けられたアバターロボットは、インディ・アソシエイツ製で、同社が開発していたロボットに、背の高さやマイクの位置を変えるなどのJALの要望を取り入れて作られた。

 ちなみに、情報提供だけであればデジタルサイネージなどの存在もあるが、「移動したり、誘導したりできることや、こちらからお客さまにアクセスできる可能性を感じている。ロボットは接しやすさによって使っていただける率や効果が違うと仮説を持っている」とコメント。外観については、親しみやすい見た目とすることで「ハードルなく接してもらえるよう、デザインにこだわった」と説明している。

 ロボット本体は顔の部分にカメラ、肩にマイク、胸にステータスランプとスピーカーを搭載。このほかパネルに覆われた部分には、制御PCやマニュアル操作用のジョイスティック、バッテリなどを搭載する。ちなみにバッテリは鉛蓄電池を使用。駆動時間は約3時間とのこと。インディ・アソシエイツによると、リチウム系ではなく鉛蓄電池を使っているのは海外へ航空機で輸送することを想定したものという。

 操作側はHTCの「VIVE」を用い、ヘッドマウントディスプレイにカメラの映像が映り、首や体を動かすことでJETにもその動きを反映。そして、ヘッドフォンで音声をやりとりし、左右の手に持ったワイヤレスコントローラでJETの手を動かすことができる。JETとコントローラの間はクラウドを通じてやりとりしており、それぞれが5GHz帯のWi-Fiを経由してインターネットに接続されている。

JETの各部位
JETのプロフィール
アバターロボット「JET」
後ろはカバーに覆われているが、制御PCやバッテリなどが収められている
JETは空港案内・接客に従事するれっきとしたJAL社員
JETは肩と指が駆動可能。人にケガをさせるなどを事故を防ぐためトルクを抑えており、物を持っての行動は考慮していないという
操作は人の手で行なうのが特徴。操作にはVR技術を使っている
JALのアバターロボット「JET」の動作デモ。同じ部屋に操作者がおり、その声も入っている。5GHz帯Wi-Fiを使ったインターネット接続のため、通信状態によっては音声が途切れるシーンも見受けられる

 実証実験では、出発ロビーにある「JALスマイルサポート」の前に設置。スマイルサポートはお手伝いの必要な旅客を対応するためのカウンターで、このカウンターこそ人による接客が強く求められる場でもあるが、斎藤氏によると「(スマイルカウンターに来た利用者の)データを取ると、実は普通のカウンターに行っていただいた方が短時間で対応できるというお客さまは多い。一般カウンターがよいのか、スマイルサポートが必要なのかを判断して、よりよい方へ誘導する業務も担えるのでは」と説明。今回はあくまで実証実験ではあるが、実導入を見据えた一つの業務例として見ることもできるようだ。

 実際にその様子を見ると、ロボット(実際には遠隔操作をしている人間)が積極的に呼びかけを行ない、子供を中心に集まってくる様子。ロボットが自分を見つめて声をかけてくるところまではセンサーを使ってできるだろうが、そのあとのインタラクティブな会話はアバターならではの特徴だ。はじめは戸惑っているが、話し終わるころには名残惜しそうな雰囲気で離れる子供の姿もあった。

 今回の実証実験では1台のJETに遠隔操作を行なうスタッフと、念のための付き添いのスタッフ1名で対応しており、1人で複数台を操作することによるコスト削減や、遠隔操作ロボットならではの高い付加価値の創出にどうつなげるかが今後の課題。平松氏は今回の実証実験について「お客さまにどう受け止められるか。お客さまとの会話や反応を重点的に見ている」と目的を説明しており、2020年の一部実用化に向けて、まずは国内空港での実証実験を進めていく予定だ。

出発ロビーに設置されたJETを遠隔操作する様子
話し相手によって目の高さや位置を変えて接客
JALのアバターロボット「JET」を使った遠隔操作での接客(プライバシーに配慮して音声を一部加工しています)
JALのアバターロボット「JET」が羽田空港で接客(プライバシーに配慮して音声を一部加工しています)
接客の様子。顔を向けて声をかけられるので、思わず近寄る人が多く見られた