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ノートPCを出さずに保安検査。成田空港でCT型手荷物検査機の実証実験開始

トレイが自動で運ばれるスマートレーンも導入

2018年2月15日 実施

成田空港がCT検査機の実証実験を開始した

 NAA(成田国際空港)は2月15日から、日本国内で初めてCT(Computed Tomography:コンピュータ断層撮影)型の機内持込手荷物X線検査装置を試験的に設置し、実証実験を成田国際空港 第1ターミナル北ウイング4階 国際線保安検査場で実施する。

 これは、2020年東京オリンピック・パラリンピックでの先進的な航空保安検査の実現に向けて、国土交通省、航空会社、保安検査会社、保安検査機器メーカーらの協力のもと行なうもの。自動で爆発物を検知する機能を有するCT検査機に、自動で手荷物トレイを搬送する機能などを持つ新しいレーンを組み合わせることで、高いレベルの保安検査を実現しつつ、利用者の利便性や検査効率を検証する。実証実験の初日に、報道関係者向け事前内覧会を開催したので、その模様をレポートする。

実証実験における保安検査機器はAnalogic、L3、IDSSの3社の機器を用意

 今回の実証実験は、Analogic「ConneCT」、L3 Security&Detection Systems「ClearScan」、IDSS「DETECT1000」3社のCT検査機を各2週間程度試用し、利便性や検査効率の効果検証を行なうものであり、期間は下記を予定している。

成田空港でのCT型機内持込手荷物X線検査装置の実証実験

Analogic「ConneCT」: 2018年2月15日~3月1日
L3「ClearScan」: 2018年3月12日~26日
IDSS「DETECT1000」: 2018年4月9日~23日
実施時間: 12時~15時
実施場所: 成田空港 第1ターミナル4階 国際線北ウイング保安検査場

 NAA 空港運用部門 保安警備部 航空保安対策グループの高松浩史氏は、今回の実証実験の目的を「現在のX線検査装置をCT検査機に置き換えることにより、より高度な検査が可能になります。その導入に当たって、どのような機械であるか、施設やお客さまの負担がどうなるかを確認したい」とコメント。

 CT検査機の特徴については「今まで使っていたX線検査機とは検査方法が変わります。今までは、X線のビームが1方向からのみ照射されていたので断面の映像をとらえることしかできませんでしたが、CT機では人間ドッグなどで用いられるCTスキャンと同じで1周回るので、バッグの中身を360度回転させるなどして内容物を確認できるようになります。

 爆発物に対する高度な検査が可能になっているだけでなく、今までは保安検査時にバッグからパソコンを出す必要があったのに対し、ECAC(European Civil Avitation Conference:欧州民間航空会議)によるCT機に関する認証『EDSCB(Explosive Detection Systems for Cabin Baggage)C2』を受けているので、パソコンをバッグに入れたまま検査が可能です。今回は航空会社と連携して、前半の1週間はパソコンをバッグから出して検査、後半の1週間ではパソコンを入れたまま検査を受けていただき、その結果も測定します」として、従来型X線検査機に対する優位性と実証実験の方向性も語った。

レーン入口にあるトレイを引き出して、手荷物や上着を入れてローラーの上に乗せるだけで、勝手にCT検査装置のなかに進んでいくので、搭乗者は手ぶらでボディチェックを通過すればよい
今回の実証実験で使用されているScarabee Avationのスマートレーンでは、CT検査で問題ない手荷物は手前のレーンに出てくるので、そのままピックアップして進めばよい
CT検査で不明瞭な物体が確認されると、手荷物は対面式カウンターへ進む。カウンターで検査員とともに対象物について確認する仕組み
CT検査機のそばにあるモニターでの1次チェックを行ない、判断できない場合は検査員によるチェックに手荷物が進む

 今回の実証実験で使用する3社のなかから実際の導入機種を選定するのかと問うと、「この3社を検討するのはもちろんですが、ほかのメーカーでも技術が進化していますので3社のなかから選ぶとは決まっていません」とのこと。また、「スキャンした画像はサーバーに蓄積される仕組みも持っていますが、実際の運用開始時にどのくらいの期間保存するかなどは未確定です」とのことで、ディープラーニングの応用による画像認識率向上などについても「AI化の話も出ています。どんどん検査員の負担を減らして機械で判断する、そんな検討は続けられています。先々は検査レーンの監視なども含めて、完全な自動化ができればうれしいです」とも語っていた。

 高松氏は「今回、CT機とあわせてスマートレーンを組み込んでいます。将来的にはCT機をスマートレーンとあわせた形の一体型のシステムを導入していく方針です」と、2月に契約予定のスマートレーンについても触れた。このスマートレーンは、オランダのScarabee Avationが開発したもので、利用者が手荷物や上着をトレイに置いたあとは、トレイが自動で保安検査機へ進む。利用者がトレイを押す必要はなく、ボディチェックを通り抜けるだけでよいため、混雑の解消にもつながる。

 また、従来型では検査後のトレイは検査員が元の位置に運ぶ手間があったが、使用後のトレイを所定の位置に置くだけで、トレイが自動でレーンの下を移動して、レーン入り口に出てくる仕組みになっている。「お客さまがトレイを持ち歩く必要はありませんし、検査員もトレイを運ぶことがないので、かなりの負担軽減になると思います。また、遅いお客さまを抜かしてボディスキャナに進んでいくことができますので、待ち列の減少も可能です」という。

 このスマートレーンは2月の契約締結後、成田空港 第1ターミナル 国際線北ウイング保安検査場、第1ターミナル 国際線南ウイング保安検査場、第2ターミナル 国際線保安検査場、第3ターミナル 国際線/国内線保安検査場に導入される予定とのこと。

スマートレーンとCT検査機。トレイに乗せたあとは機械任せなので、何も問題なければ負担減になる
Analogic「ConneCT」のデモ映像。バッグの中の荷物がタッチスクリーンの指先の動きでリアルタイムに回転させられるので、何であるかを把握しやすいだけでなく、何重にも重なっている物体に対して「上の物をどかしてみる」という操作も可能
CT検査機とスマートレーンの動作デモ。問題ない手荷物は向かって左側、不明な手荷物は右側のレーンに出てくる。ちなみに取材に来ていた報道陣も全員、手荷物を検査機に通したが、筆者やテレビ局のカメラクルーら数名はバッテリが不明な物体と認識された。もちろん筆者が所持していた取材社腕章の安全ピンまで詳細な映像で映し出されていた

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、2019年度の導入を見据えた今回の実証実験は国内初の試みであるが、視察に訪れていた国土交通省の職員から「今年度羽田空港への導入を予定している」とのコメントがあったので、実用開始は羽田空港の方が早くなりそうだ。

 NAA 空港運用部門 保安警備部 航空保安対策グループマネージャーの阿和波剛司氏は、「持ち込まれる手荷物の中身を、360度の方向から検査することができる、検査がしやすくなる、確実になる、これが大きなことだと思います。検査員の皆さんがより一層見やすくなることがポイントです。

 検査を受ける方にとっても、今までは漠然としていたものが、どこの何が問題なのか明確になるのがよいところです。今まではパソコンを出していたのが、これからはわざわざ出さなくてもよいので不満の解消になると思います。実際私も、パソコンを出して上着を脱いで検査を受けたあと、(検査場に)何か忘れ物はしていないだろうか、と気になることがありました。その面では、お客さまのストレスが軽減されるものと思っております」と導入のメリットについてコメントしていた。

「ConneCT」を使用した実証実験が2月15日12時にスタート

 2月15日12時に「ConneCT」を使用した実証実験がスタート。レーンの前で説明動画が流れていたり、操作方法について案内する係員がいたりと、特に混乱もなく開始された。注意点としては、トレイに乗りきらない場合は2つに分けること。特にこの季節だと厚手の上着などで1つのトレイには収まらない利用者も数人見かけた。

ストレートに問題なく通過すれば、時間短縮とストレス軽減が実現
仮に対面カウンターに進んだとしても、従来と同じ手荷物検査なので、危険物を所持していなければ問題はない
トレイの自動回収場所。勝手にレーンの下に潜って、レーン入り口に戻る仕組み
CT検査機とスマートレーンが設置された第1ターミナル 国際線北ウイング保安検査場 9レーンは、通常の半球形監視カメラ以外に、カメラが3基設置されていた。これは検査員が対面しているシーンや、物理的なレーンの長さに起因するレーンの状態監視用とのこと