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成田空港、ロボットスーツとロボットを試験導入、効果を検証

荷物を運ぶスタッフの負担を軽減、日本のロボット技術を内外にアピール

2017年1月24日~2月18日 実施

チェックインカウンターにおいて、スタッフがロボットスーツを着用して乗客の荷物を預かるシーンをデモンストレーションしている様子

 NAA(成田国際空港株式会社)は1月24日、空港スタッフの作業負担を軽減するため、サイバーダインの「HAL 作業支援用(腰タイプ)」を試験的に導入。その模様を報道陣に公開した。また、成田空港内の「Narita TraveLounge」では、パナソニックプロダクションエンジニアリングの自立搬送ロボット「HOSPI」を試験導入し、下げ膳の実証実験も公開した。

 NAAがロボットなどを試験的に導入した背景としては、政府が掲げる経済政策の一環として「改革2020プロジェクト」があり、このなかには「先端ロボット技術によるユニバーサル未来社会の実現」がある。成田空港は外国からの訪問者を多く迎え入れる場所でもあるので、日本の先端技術であるロボット技術を現場業務やサービスに活用してアピールしていきたいという狙いがある。

 空港業務においては、各航空会社やNAAでも労働人口の減少による雇用の確保が大きな課題となりつつあり、また荷物の上げ下ろしなど、重労働作業も多い。今後、労働力の不足、労働力を支援するためにロボットを実際の業務に活用して、体にかかる負荷の軽減やサービスの拡充につなげていきたいとしている。

 空港業務の支援については「HAL 作業支援用(腰タイプ)」を10台、利用客に対するサービスとして「HOSPI」1台を実証実験する。前者については、テストしたあとにレポートをまとめるなど、業務推進の役割を果たしながら各事業者への導入を目指すものとし、後者に関しては共同開発という位置付けになる。

サイバーダインの「HAL 作業支援用(腰タイプ)」を装着した空港スタッフ

 サイバーダインの「HAL 作業支援用(腰タイプ)」は、腰部にぐるりと巻くロボットスーツで、腰や椎間板にかかる負担を軽減してくれるものだ。重い荷物を持ち上げる、動かすといった作業が多い旅客手荷物のハンドリング現場においてテストされるとのことで、今回はANA(全日本空輸)とJAL(日本航空)の2社で10台を3週間ほど試験導入する。

 仕組みとしては、腰回りに取り付けたセンサーから得られる生体電位信号(人が体を動かすときに脳から筋肉に送られる信号)を読み取り、それに合わせてモーターが駆動し、動きに合わせた動作をサポートする。サポート動作は、ロボットスーツを固定した腰を支点とし、大腿部の固定板を押すような動作になる。

 これにより、荷物を持ち上げる作業の腰にかかる負担が減り、最大で40%ほど重量負担が減らせるとのことだ。「体感的には半分くらいの力で済み、とくに低い場所から持ち上げるときはかなりサポートしてくれます」と使用者はコメント。中腰時はその状態をホールドしてくれるのもポイントで、なかなか好評だった。

25kgの重さがあるダンボール箱を持ち上げる様子
通常なら腰に負担がかからないように腕にも力を入れるところだが、HALを装着していると腰に対する負荷が軽減されるので腕の疲労も少ないとのこと。また、モーターは左右に取り付けられており、それぞれが独立して駆動するので、腰を回転させながら持ち上げるような動きもスムーズにできる

 このロボットスーツは身長140~180cm、体重40~80kg、腹囲120cm以下の人であれば使用でき、また重さもカーボン製で約3kgと軽いので女性でも装着可能だ。駆動にはリチウムポリマー電池を使い、45分の充電で約3時間の使用が可能。現在実証中だが、サイバーダインの担当者によると、空港業務においてはおおよそ4時間ほど使用できるとのことだ。

 製品価格だが、こちらはレンタルのみとなっており、期間や導入台数によって料金は異なるが、おおよそ2年契約で1台当たり1カ月で10万8000円、3年契約だと1台当たり1カ月で9万5000円となっている。

 成田空港では1月24日から2月18日まで実証実験が行なわれるが、すでに空港リムジンバスを運行する東京空港交通が2016年11月に本格導入を決めている。こちらは、リムジンバス乗降所の現場スタッフが約1年間検証した結果、作業負担軽減の有効性が確認されたとし、10台が投入されている。

重さ30kgのトランクをカウンター内に運び込んでいるところ。サポート動作が始まると「ウィーン」とかすかに音が聞こえる
腰部のベルトを2カ所締めて、しっかりと体に固定する
青く光っているのは操作ボタンで、下が電源ボタン。上が5段階でサポートの強弱を変えられるプラスボタン。反対側にマイナスボタンがある。
フレームは軽くて丈夫なカーボン製。重さは約3kgと見た目よりも軽く感じる
大腿部に固定プレートをベルトで取り付ける
カートリッジタイプのバッテリを搭載しており、駆動時間は約3時間。HALを装着したままバッテリ交換もできる
内側はクッション材でおおわれており、装着感も考慮されている

 HALが業務支援を目的としたものであるのに対し、パナソニックの自立搬送ロボット「HOSPI」は直接利用客に対してサービスを行なう。こちらは2016年10月15日にオープンしたばかりの 「Narita TraveLounge」において、1月23日~27日まで実証実験が行なわれる。

Narita TraveLounge内で食事後の食器を片付けるミッションを与えられた「HOSPI」。本来のボディカラーは病院内を意識した清潔感のある白を基調としたものだが、ホテルやラウンジ用に高級感のあるメタリックグレーに塗装しているとのこと

 HOSPIは病院内における搬送専用のロボットとして開発されたものであり、薬剤や検体などを人の手を使わずに自動で安全に運搬してくれる。その技術を活かし、ホテルや空港ラウンジにおいて利用客へのサービスを検証するのが今回の目的だ。Narita TraveLoungeにおいては、食事後の食器をカウンターまで搬送するのがテスト内容。

 NAAとしては現在のところ導入の予定は無いとしながらも、今回の検証結果をもとに、パナソニックプロダクションエンジニアリングと今後もこのような取り組みを続けていきたいとしている。

「ご使用後の食器やトレイを回収しています」と表示させながら動き回る。あらかじめ地図情報を記憶させることで移動ルートが設定されている。複数の高性能センサと障害物回避アルゴリズムにより、安全に効率よく移動する
利用方法は難しくない。HOSPIの画面をタッチするとその場に停止するので、あとは画面の指示通りにドアを開けて食器をセット。ドアを閉めるとスタッフのいるカウンターまで戻っていく
意外にも素早い動きで戻るHOSPI。担当者によると、最高で秒速1mで移動可能とのことだ。カウンターに到着すると、設定されていると通りに後ろを向いて停止
「働き者で助かります!」とスタッフ
ラウンジ前には実物大の看板も設置して動作検証中であることをアピール