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全国から選抜された15空港30名の保安検査員が技術を競う「保安検査コンテスト」
国内航空各社が加盟する定期航空保安協議会主催の第1回コンテスト
2018年6月18日 18:32
- 2018年6月13日 開催
国内の主要国内航空会社が加盟する国内定期航空保安協議会は6月13日、第1回目の開催となる「保安検査コンテスト」を羽田空港で開催した。これまでANA(全日本空輸)、JAL(日本航空)らが航空会社単位で実施していた保安検査コンテストだが、各社横断的な取り組みとして実施した初めてのコンテストとなる。
国内定期航空保安協議会はANA、JAL、ソラシドエア、スカイマーク、アイベックスエアラインズ、AIR DO、スターフライヤー、フジドリームエアラインズ、Peach Aviation、ジェットスター・ジャパン、バニラエア、Spring Japan、エアアジア・ジャパン、オリエンタルエアブリッジ(現地での配布資料記載順)が加盟する業界団体で、コンテスト開催に際しては国土交通省、全国警備業協会が後援した。
コンテストの利用客役をはじめとするスタッフは各社の従業員が務め、司会はJAL 空港企画部 伊藤明紀氏と、ANA 空港センター 品質管理部 津田尚子氏が担当。これまで両社は別々に全国の空港の保安検査員を集めてコンテストを実施していたが、「保安の強化という点では保安検査会社と一緒に航空会社もベクトルを合わせて取り組んでいくべきところなので、あるべき姿だと思う」と、本コンテストの意義を紹介した。
出場したのは、直近1年間の航空会社の利用者アンケートを中心に選抜された全国14空港(羽田空港は第1ターミナル、第2ターミナルからそれぞれ参加)、14社、30名の保安検査員。また、空港についても、大規模空港(新千歳、羽田第1/第2ターミナル、関空、那覇)、中規模(松山、熊本、宮崎、鹿児島、石垣)、小規模(旭川、三沢、福島、静岡、石見)と3カテゴリに分けて各5空港から選出した。
コンテストの開始にあたり、国内定期航空保安業議会を代表してANA 上席執行役員 空港センター長の服部茂氏が登壇し、「東京オリンピック・パラリンピックが間近に迫っている。航空業界としても航空保安の強化、検査品質の向上を図っていかなければならない。コンテストの場を通じて推進してまいりたい。全国の保安検査員が集まっているので、お互いの検査技術を高め合う素晴らしい場になればと思う」とコンテスト開催の意義を説明。さらに来場している保安検査関係者や出場者に対して、「応援団を含めて約250名が集まっているが、保安検査員のみなさんには朝から深夜まで支えていただいていただいている。厳格で円滑な保安検査に尽力いただいている皆さんの確実、迅速、丁寧な検査なしに、国民の足である航空輸送は成り立たない。これだけの大舞台なので、緊張される部分もあると思うが、自信を持っていただき、日ごろ培った実力を思う存分発揮していただければ」と言葉を送った。
続いて、来賓として国土交通省 航空局 安全部 部長の高野滋氏があいさつ。「今回は航空会社各社が横断的に開催する全国規模のコンテストと聞いている。保安検査は航空機の安全運航の確保に欠くことのできない重要な要素。航空機の運航は安全確保が大前提であり、保安検査員による確実な保安検査業務、これがあってはじめて航空機は空を飛べる。保安検査員の日々のご活躍、ご努力、ご尽力に心より感謝申し上げたい」と保安検査の重要性を強調。
また、世界各国で航空輸送をめぐるテロが頻発し、「保安情勢は厳しい状況が続いていると認識している」と述べたうえで、「日本では今後、東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催されるほか、G20サミット、天皇陛下のご退位とご即位、ラグビーワールドカップなど国際的な重要イベントを控えている。イベントを標的としたテロの発生に極めて留意したい。こうした情勢を踏まえて、国交省ではテロに強い空港を目指し保安検査の高度化を進めており、その一環として先進的な保安検査機器の導入を進めている。ここ羽田空港でもボディスキャナ、CT型X線検査装置の導入を開始している。高度な検査機器の導入の一方で、テロに強い空港の実現には検査員の1人1人のスキル向上が重要。一方で、ファストトラベルの議論も活発化しており、保安検査の円滑化を図りながら、厳格化を実現していく必要がある。そのうえでも保安検査員のスキルは重要と考えている」とコメント。
「各空港の代表として日ごろ培った技術をいかんなく発揮していただくのはもちろん、せっかくの機会なので、空港や会社の垣根を越えて、参加者の皆さん相互に意見交換、情報交換をして、さらなるレベルアップを図っていただければ」、コンテストに対する国交省 航空局としての期待を示した。
次に、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 警備局 局長の岩下剛氏が登壇。競技会場や選手村など大会関連施設の安全を守るのが使命である同局の現状について、「どのような警備をするかについてある程度概要がはっきりし、物資調達や個々の会場に応じた計画の立案に着手しているところ」と説明。「オリンピック・パラリンピックは世界で一番注目が集まるイベントなので、これを狙った各種不法行為は念頭に置かなければならない。オリンピックは参加アスリートの上限が1万1090人、パリンピックが4400人。世界206の国と地域からアスリートだけでもこれだけの数になり、関係者、事前キャンプや聖火リレーも入れると、数カ月前から9月6日まで、あるいはそのあとまで、世界各国の方々が日本にお越しになる。日本各地の観光地に行く動きもあり、多くの国内外の方々、この期間に国内定期便を利用して日本各地を訪れることになる。そこでオリンピック・パラリンピックを楽しみにきた人にどのような印象を与えるかということになるが、迅速、的確、丁寧、確実、こうしたことが求められる」と東京オリンピック・パラリンピックを見据えた課題を指摘した。
会場の警備について、「関係者、観客いずれも、持ち込み物品について一定程度の検査をさせていただき、安全な方のみ施設内に入っていただく。その意味では目的は同じなので、本日は我々の関係者もコンテストを見させていただくことになっている」と説明し、コンテストについては「競い合って高みを目指して全力を尽くすことになるが、併せてほかの会社、空港の方々のよい点を学び合う場にもなるのでは。皆さんと私どもは大会全体の安全の確保という点で志を一つにするものだと勝手に考えているので、今日の機会の糧として開幕まで残り772日、よい機会として本番に万全を尽していただければ」と期待の言葉を述べた。
そして、いよいよ出場者による実技へ。空港の保安検査場では利用者1名につき通常4~5名が対応にあたるが、コンテストでは、検査場の入り口で検査協力を依頼する案内担当者と、金属探知機に反応した利用者の検査を行なう接触検査担当者の2名で実施。接触検査員は大型金属探知機に反応があった利用者に対して、携帯金属探知機で所持品の検査を行なう。
審査は、「確実」「迅速」「丁寧」を主な審査基準とし、10分間の制限時間内に実施されるか、確実で丁寧な保安検査を実施しているかを5名の審査員が判断する。
出場者と登場順は下記のとおり。セノンは2空港、羽田空港は2つのターミナルからの出場なので、14空港、14社から計30名の出場者となる。勤務年数は幅があり、短い検査員は1年1カ月、長い検査員は16年8カ月というベテラン検査員も参加している。
コンテストへの出場者(登場順)
新千歳空港:佐々木颯人氏、貝田さつき氏(株式会社セノン)
石見空港:大屋瑞希氏、三浦茄音氏(企業警備保障株式会社)
宮崎空港:外山純輝氏、園田葵氏(宮崎綜合警備株式会社)
熊本空港:榊原野々子氏、藤川大貴氏(熊本空港警備株式会社)
羽田空港(T1):渡辺夏月氏、日野愛梨氏(株式会社にしけい)
静岡空港:金原有香氏、古橋隆太氏(ALSOK静岡株式会社)
松山空港:西岡康佑氏、細川彩氏(愛媛綜合警備保障株式会社)
那覇空港:濱崎義之氏、宮城浩次氏(沖縄綜合警備保障株式会社)
旭川空港:多田野彩加氏、原田咲月氏(株式会社セノン)
関西空港:八木翔平氏、永野景子氏(株式会社ジェイ・エス・エス)
福島空港:菅井光子氏、片野由美氏(ALSOK福島株式会社)
羽田空港(T2):齋藤秋江氏、橋本淳氏(株式会社全日警)
三沢空港:福山日菜氏、堀内萌衣氏(青森綜合警備保障株式会社)
石垣空港:小畠一祥氏、知花洸太氏(八重山ビル管理株式会社)
鹿児島空港:中村紅琳氏、高嶺雄太氏(鹿児島綜合警備保障株式会社)
実技では、各航空会社のスタッフが扮する利用者5名を対応。持ち込み禁止品を所持する人、航空会社カウンターを案内すべき問い合わせをする人、大型金属探知機が反応する人、日本語も英語も分からない人といった特別なケースが用意されていた。
案内担当者の対応では、持ち込み品が書かれたリストをしっかり提示して利用者からクラッカーや花火といった禁止品の申告を促す、見送りの人がいないかの確認などの対応が目立った。航空会社のカウンターを案内するケースでは「階段を降りて右手」など具体的な案内をする人も。
日本語も英語も分からないタイ人とフランス人の対応では、身振り手振りで危険物の確認、搭乗券の確認、荷物を横に寝かせてもよいかの確認が必要となり、各検査員ともさまざまな方法で必要なチェックを実施していた。
また、大型金属探知機に反応し、携帯金属探知機で確認するシーンでは、反応があったときに都度、その場を重点チェックする検査員と、あとでまとめてチェックする人の違いや、服の内側へ手を入れる際の声かけなどが検査員の個性が見られた。また、ナイフを所持していることが発見された例では、その場で廃棄するという方法だけでなく、見送りの人へ預けることや、搭乗時刻を確認して余裕があればカウンターで受託手荷物として預けるなど、提案内容や順序にも各検査員の心遣いが見られた
審査は、JAL、ANA、スカイマークから各1名と、国交省、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会から各1名の計5名が担当。審査員は下記のとおり。
審査員
日本航空株式会社 空港企画部 部長 前澤信氏
全日本空輸株式会社 空港センター 品質管理部 部長 吉岡和男氏
スカイマーク株式会社 空港本部長 兼子学氏
国土交通省 航空局 安全部 安全企画課 航空保安対策室 係長 安田松明氏
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会 警備局 会場警備統括部 会場警備統括総務課 主事 入口健太氏
実技の合間には審査員による講評を述べる時間も用意。
JAL 前澤氏は「これだけの観客がいるので緊張されるかと思ったら、皆さん堂々とされていてビックリしているのが第一印象。今日は皆さんご覧いただいたとおり、お客さまの担当の方の役割がバリエーションがあって、工夫されている。非常に難しい場面もあったように思うが、出場者の皆さん、保安の重要性、目的を把握されたうえで、難しい場面もお客さまをご案内、説明されていたと感服した」。
ANA 吉岡氏は、「優劣付けがたい、本当に採点に苦慮している。今回の審査ポイント、確実、迅速、丁寧という3つのポイントで採点しているが、各出場者の皆さん、ポイントに則って業務を行なっていると思って拝見している。一生懸命さが伝わってきて、見ていて感動をしている。やはり外国人の方の対応が個性があって、真剣ななかにも微笑ましいところを感じている」。
スカイマーク 兼子氏は、「スカイマークとしては初めて保安コンテストに参加する。全体の印象は、参加の皆さんが迅速、確実、丁寧のキーワードを心がけているように思う。甲乙つけがたいが正直なところ。保安検査に対する協力要請、チケットの確認など各社いろいろ違いがあって、工夫されていると感じる。スタッフ間の確認会話をしっかりやっている会社があって、不具合を防止するように工夫されていると思う」とそれぞれコメントした。
優勝は羽田空港 第2ターミナルの全日警。「空の安全・安心は私たちに任せて」「OK!」で閉幕
全出場者の実技が終わり、いよいよ審査へ。3位までの入賞者には、表彰状のほか、全国の保安検査員の模範であることを示す「Best Performance of Security」バッジが贈られる。表彰状ならびに記念品の授与はスカイマーク 取締役 増川則行氏が担当した。
3位は鹿児島空港から出場の鹿児島綜合警備保障 中村紅琳氏と高嶺雄太氏。中村氏は「鹿児島代表として精いっぱい頑張れたので、空港のみんなによい報告をしたい」、高嶺氏は「優勝を狙っていたが、上には上がいる。よい勉強になった」とコメントした。
2位は熊本空港から出場の熊本空港警備 榊原野々子氏と藤川大貴氏、榊原氏は「このような素晴らしい賞をいただけて光栄。私自身もまだまだ勉強不足なので、本日の経験を活かして日々の業務を頑張りたい」、藤川氏は「こんな賞をいただけるとは思っていなかった。賞だけでなく、ほかの空港の方の検査も参考になった」とコメントした。
そして優勝は、羽田空港 第2ターミナルを担当する全日警の齋藤秋江氏と橋本淳氏。齋藤氏は「個人的な感想だが、いままで学生時代、いつも1位が取れなくて悔しい思いをしてきた。ずっと1位を取りたい人生だった。今日は1位を取れてうれしい。1位を取らせてくれた橋本君にも感謝。この賞に恥じないよう、検査場でも同じようなパフォーマンスができるよう努力していきたい」と涙ながらにコメント。一方で、コンテスト後の囲み取材では「羽田空港は『今日は混んでるね』という言葉をよくいただくので、迅速さをもう少し身に着けたいと、(ほかの出場者を)見ていて思った」とさらなる研鑽を積む姿勢も見せた。
橋本氏は勤続年数が1年2カ月とまだまだ若手。「勤務が浅く、経験も少なく、頼れる先輩とご指導いただいた方に感謝の気持ちで一杯。この賞を取れたことを誇りに思う。これからも精進していく」とし、ほかの出場者の実技も「ほぼすべてを学んだ」とコメントした。
表彰式後には、総評としてJAL 執行役員 空港本部長の阿部孝博氏が登壇。阿部氏はまず「素晴らしいパフォーマンスで、プロの仕事を見せていただいた」と出場者をねぎらい、「皆さんの持ち場である保安検査場では、日々同じ現象は起こらない。毎日、違う応用が皆さんの前に待っている。時にプレッシャーもある。次に待っているお客さまのプレッシャー、飛行機の出発時刻のプレッシャー。そんなプレッシャーのなかで最高のパフォーマンスを出していただいて、空の安全を一緒に守る。そういう大切な役目」と保安検査員の重要性を改めて強調した。
さらに空の安全について、「ここにいらっしゃる航空関係者全員で安全を守るしかない、(そうしないと)飛行機は飛ばない。みんながそれぞれの仕事をしっかりやる。そのなかでも、お客さまはカウンターに寄らずに直接保安検査場に来るケースがどんどん増えている。スマートエアポートがさらに進化する。皆さんがしっかりと持ち前のプロフェッショナルとして保安検査場を守っていただき、空の、日本の安全を守るしかないと思っている。航空業界にとって一番大切な保安を、一緒になって取り組んでいきたい」と話した。
そして、最後に優勝した全日警の齋藤秋江氏と橋本淳氏が「空の安全・安心は」「私たちに任せて」のかけ声に、来場した航空関係者全員「OK!」と唱和して、第1回の保安検査コンテストの幕を閉じた。