井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
鉄道旅行とスマートフォン
2025年10月8日 06:00
白状すると、筆者自身はスマートフォンの導入がかなり遅かった部類に属する。Androidスマートフォンを導入したのは、なんと2019年の話であった(その前に2年ほど、Windows Mobile機を使ってはいたが)。
このスマートフォンというデバイス、国内外の鉄道旅行に際して、「あると便利なアイテム」というよりも「必須のアイテム」になってきている。単に情報収集や経路検索の手段になるから、という理由ではない。スマートフォンがないと列車に乗れない、スマートフォンがないと買えない商品がある、という状況になっているからだ。
QRチケットとMaaSの事例が増えている
これが交通系ICだったら、スマートフォンを利用する「モバイル○○」だけでなく、物理ICカードを利用する選択肢もある。ところが、QRコードを利用する場合には事情が異なる。
以前に、JR東日本の「えきねっとQチケ」や、JR四国のチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」(スマえき)を紹介した。これらはJR旅客会社が自ら構築・運用しているサービスである。また、複数の鉄道事業者の集まりによるものとして、「スルッとQRtto」や「KANSAI MaaS」がある。
それらとは別に、外部企業がデジタルチケットを販売する事例も出てきている。その一例として、JR九州の西九州エリアを対象とする「GO QUEST西九州フリーきっぷ」などを販売している「my route」が挙げられる。これは、トヨタ自動車が手掛けているサービスだ。
QRチケットやデジタルチケットは、スマートフォンでの利用を前提としていることが多い。情報収集やコミュニケーションの手段として多用されるスマートフォンだが、交通機関を利用する際の手段としても欠かせないものになってきた。
筆者の場合、国内以上に海外において、交通機関を利用する場面でスマートフォンが活躍している。スウェーデンみたいに「路線バスの車内で、現金は取り扱いません」なんていうことになると、事業者ごとに用意されているスマートフォンアプリをインストールして、クレジットカードの登録をしておかないと、身動きがとれない。
おそらくこの先、チケットレス化が進むとともに、スマートフォンを利用する場面はさらに増えると思われる。2年前の2023年にスウェーデンに行ったとき、ストレングネースの駅で「この券売機はもうすぐ撤去される。チケットはSJアプリ(SJ app)で購入してほしい」という掲示が出ているのを見て仰天した。明日は我が身である。
スマートフォンは鉄道利用の生命線になりつつある
かように「スマートフォンに頼る鉄道利用」が一般化してくると、スマートフォンが正常に機能しないとにっちもさっちもいかなくなる事態も起こり得よう。物理的な破損や故障は別として、まっ先に思い付く課題は「電源」と「圏外」である。
ネット販売のチケットでも、QRコードなどが静的な状態で読み取れればOK、紙に印刷したものでもよい、ということなら話は難しくない。念のために、紙に印刷したものも持ち歩くか、PDFファイルをノートPCのストレージに複製しておけば済む話である。これは、スウェーデンを訪れたときにやったことがある。予備のスマートフォンを用意して、そちらにもコピーしておく、なんていう手もある。
しかし、「スマえき」や「えきねっとQチケ」みたいに、アプリが動作した状態の画面を提示しなければならない場合には話が違う。スマートフォンが機能しなければ、入出場ができない。すると、電池切れや圏外は大問題となる。
電池切れはモバイルバッテリーを持ち歩くことで回避しやすくなるし、特急車では電源コンセント付きの車両も増えてきた。とにかく充電できるときには充電して万一の事態に備える、という考えにも理はある。
車内・機内や空港ラウンジなど、充電用USBポートの設置事例も増えている。しかし、USB接続を通じてなんらかのサイバー攻撃を受ける可能性も指摘されている。公共の場に設置されているUSBポートで充電する場面に備えて、データ通信非対応(充電専用)のUSBケーブルを用意するのも一案であろう。
では、圏外はどうか。実は鉄道の場合、トンネルを通っていると圏外になる場面が少なくない。新幹線のトンネルはすべて通信可能になっているし、地下鉄も大抵利用できるようになってきた。ところが、在来線は話が違う。実際、在来線の列車に乗っていると、列車がトンネルに入ってしばらくすると圏外になる経験を何度もしている。
それでも、電池切れは電源の確保、圏外は場所を変えるといった具合に、まだ利用者の側で対処する余地がある。しかし、キャリア側で通信障害が発生したら、利用者にはどうにもならない。ひたすら復旧を待つだけである。そこが、デジタルチケットの「ちょっとおっかない」ところではある。
GPSが使えないと問題になる場面もあり得る
また、「えきねっとQチケ」でセルフチェックイン・セルフチェックアウトを行なう場合、別の問題も関わってくる。
以前の記事でも紹介したように、「えきねっとQチケ」では端末の位置情報を利用して、セルフチェックイン・セルフチェックアウトの対象となる駅ないしはその近隣にいることを確認している。対象となる駅から離れたところにいると判断されると、操作ができない。こうすることで不正利用対策としているのだろう。
ところが、その位置情報の源は測位衛星からの電波を使うGNSS(Global Navigation Satellite System)である。するとこれも、トンネルのなかでは利用できないことになる。
普通、トンネルは通過するものだが、たまに例外がある。将来、「えきねっとQチケ」のエリアが上越線に拡大されたら、トンネル内にホームがある湯檜曽駅(下り線)や土合駅(下り線)で、どうやってセルフチェックイン・セルフチェックアウトをすることになるのか、ちょっと興味がある。もしかすると、QR読み取り装置を設置するという「大穴」(トンネルだけに)かもしれないが。
その点、駅に掲出したQRコードを読み取らせることで入出場処理を行なう「ポスター改札」を導入したJR九州のチケットレスサービスは、うまく考えたものだと思う。もっとも、これもスマートフォンのカメラが使えなければ、読み取りの手段がなくなってしまうのだが。




































