井上孝司の「鉄道旅行のヒント」
えきねっとQチケで乗り越し精算すると割高になる? 買い足し券を利用してみた
2025年6月4日 06:00
以前の記事で、JR東日本が2024年10月1日に東北エリアでサービスを開始した「えきねっとQチケ」の基本的な使い方について、前回の記事では、自動改札機がQチケに対応していない場合のセルフチェックイン・アウトについて解説した。
今回は締めくくりとして、乗り越しの際に登場する買い足し券、それと駅係員による入出場処理が必要な場面について取り上げる。
乗り越しと買い足し券
Qチケには、乗り越しのための仕組みが用意されている。それが「買い足し券」である。ただし、乗車券の買い足しはできるが、特急券の買い足しはできない。
これは、「A駅からB駅までの乗車券を購入していたが、予定が変わり、B駅より先のC駅まで行く必要が生じた」といった場面で使用する。原券に、「B駅~C駅」の買い足し券を加える形になる。
JRの制度ではもともと、区間の営業キロが101km以上となる乗車券で乗り越しを行なう場合に「打ち切り計算」が適用される。乗り越した区間は、原券の降車駅を起点とする別切りの乗車券として、改めて運賃を計算して収受する。一方、区間の営業キロが100km以下の場合には、実際に乗車した区間の運賃と原券の差額を収受する。
Q. きっぷで乗り越しをした時の精算金額は、どのように計算されますか。
A. あらかじめ目的地まで乗車券をお求めいただけない場合で、降車駅にて精算された場合の計算方法は2種類あります。
(1)お手持ちの乗車券が大都市近郊区間内のみを相互発着する乗車券で、同区間内の駅に区間変更する場合と、片道の乗車区間の営業キロが100km以内の乗車券で区間を変更するときは、既に収受させていただいた運賃と、実際の乗車区間に対する運賃との差額をいただきます。
(2)お手持ちの乗車券が(1)の場合以外の乗車券であるときは、変更区間に対する運賃をいただきます。
ところがQチケの場合、原券の距離に関係なく打ち切り計算になる点が異なる。ルールとしてはシンプルだが、短距離乗車での乗り越しは割高につきそうだ。
「買い足し券」は、「えきねっとチケットレス」アプリにおいて原券の「申込内容詳細」画面にある「買い足し券(乗車券)を購入する」をタップすると購入できる。その先の手順は、新規購入の乗車券と同じだ。
ただし、「買い足し券」を購入できるのは、すでに原券で入場して「使用開始」の状態になっている場合に限られる。入場前に予定が変わった場合には、原券をキャンセルして買い直してくださいということだろう。
そこで、まず原券として田沢湖線の前潟駅から盛岡駅までの乗車券を購入した。それから「予定変更が発生した」ということにして、東北本線の盛岡駅から矢幅駅までの買い足し券を購入した。
ここで「よくできているな」と思ったのは、乗り越しの起点となる盛岡駅の発時刻が自動的に、原券購入時に指定した列車の盛岡駅到着時刻に設定されていることだった。特に列車を指定する必然性がない普通乗車券のみの購入でも、列車を指定する意味はあるわけだ。
「買い足し券」の特徴として、購入した時点で直ちに使用開始となり、起点となる駅で入場した状態になっている点が挙げられる。そのため、購入後の変更や払い戻しはできない。「列車に乗ってから予定変更が発生して、買い足し券を購入する」という前提なのが分かる。
このため、原券と買い足し券の境界となる駅(今回の例では盛岡駅)で出場する必要はないし、そもそもできない。すでに「入場済み」になっている買い足し券で再入場を試みたら、エラーになってしまう。
そして田沢湖線で盛岡駅に到着したあと、東北本線の列車に乗り換えて矢幅駅に向かった。その時点では、原券は出場処理がなされていない。つまり、手元には「前潟→盛岡」と「盛岡→矢幅」と、使用中の乗車券が2セット存在している。
釈然としないまま、矢幅駅でセルフチェックアウトを行なって出場したところ、原券と買い足し券の両方が一度に「出場済み」になった。おもしろいのは、「前潟→盛岡」の原券でも、買い足し券に合わせて「出場 矢幅」と表示されること。
買い足し券を利用する際の注意点
買い足し券には、いくつか注意点がある。
まず、原券になんらかの割引が適用されている場合でも、「買い足し券」は割引の対象にならず、正規運賃でしか購入できない。
往復で購入した商品についてはどうか。往路の行程に対する「買い足し券」は往路の旅行中、復路の行程に対応する「買い足し券」は復路の旅行中に購入する必要がある。つまり、往路の行程途上で「復路の分も買っておこう」ということはできない。
前述のように、「買い足し券」は購入・即利用開始だから、そこで一度に複数の、それも方向が異なる「買い足し券」を購入したら区別がつかなくなりそうだ。よって、個別に買うことになるのはいたしかたないのだろう。
なお、「買い足し券」は区間に制限があるようで、原券の降車駅から「おおむね40~45km程度」という、いささか曖昧な書き方になっている。購入できる駅なら選択可能だが、対象外の駅は最初から選択不可能で、買えない仕組みになっている。
駅係員による入場処理が必要な駅がある
最後に、駅係員による入場処理を必要とする駅について取り上げる。該当するのは、以下に示した各駅から在来線の普通列車を利用する場合だ。
奥羽本線: 米沢、高畠、赤湯、かみのやま温泉、天童、さくらんぼ東根、村山、大石田、新庄
田沢湖線: 雫石、田沢湖、角館
これらの駅には、新幹線用のQRコード対応自動改札機はあるが、在来線用のQRコード対応自動改札機がない。また、セルフチェックインとセルフチェックアウトもできない。
駅係員による入場処理を行なった場合、以降の行程では自動改札機を利用できない仕様になっており、改札の通過あるいはワンマン列車を乗降する際には、駅係員や乗務員にQRチケット画面を提示する必要がある。
先に挙げた駅はいずれも、新幹線の新在直通運転先にある停車駅、かつ、新幹線と在来線の改札口が区別されておらず、自由に行き来ができる駅である。おそらく、新幹線の利用と在来線普通列車の利用を確実に区別するために、在来線については手作業で入場処理を行なうようにしたのだろう。
なお、新在直通区間の駅でも、山形、大曲、秋田の各駅では在来線ホームと新幹線ホームの境界に改札口があり、新幹線に対応する乗車券と特急券を所持していなければ通れない。だから、新幹線の利用と在来線普通列車の利用は区別できる。