井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

お得な乗り放題系きっぷ、どう探してる? デジタル版の企画商品を見逃さずに活用するには

筆者が初めて利用したデジタル版の企画商品は、JR四国の「週末乗り放題きっぷ」であった

 手元のJTB時刻表を見ると、「おトクなきっぷ」に関する情報を集めたページがある。「往復タイプ」「フリーパスタイプ」「現地のフリーパスと往復券のセット」など、その形態はさまざまだが、いずれにしても紙のきっぷとして発売されるのが通例だった。

デジタル版の企画商品がいろいろ出ている

 ただし過去形である。現在では、紙のきっぷではない形で販売する、さまざまな企画商品が出てきているからだ。

 例えば、以前に本連載で取り上げたJR四国のチケットアプリ「しこくスマートえきちゃん」(通称「スマえき」)では、フリーパスタイプの商品も扱っており、これは筆者も使ってみたことがある。

 JR四国でおもしろいのは、同じ商品で「紙のきっぷ」と「スマえき」の2本立てになっているケースがあること。JR四国の駅にいて購入する分にはどちらでも同じことだが、「スマえき」なら、どこにいても購入できて、かつ、窓口での待ち行列を心配する必要がない利点がある。

「スマえき」の「おトクなきっぷ」一覧。まず、タイプを選択する
そこで「フリー」を選ぶと商品一覧が現われる(2025年5月現在)

 このほか、筆者が試してみたところでは、JR東日本がSuica専用商品「のんびりホリデーSuicaパス」を販売している。エリアは基本的に、紙のきっぷで販売している「休日おでかけパス」と同じだが、東北新幹線(東京~小山)と上越新幹線(大宮~本庄早稲田)が対象から外されている。その分だけ(?)、「のんびりホリデーSuicaパス」の方が少し安い。

モバイルSuicaアプリの「定期・グリーン・チケット購入」で「おトクなきっぷ」を選択すると、企画商品の購入が可能
商品一覧の例。このうち筆者が購入したのは「のんびりホリデーSuicaパス」

 自動改札機を通れるところは「のんびりホリデーSuicaパス」も「休日おでかけパス」も同じだが、前者ならIC専用通路も通れる点がメリットとなろう。最近は磁気券に対応する通路が減っている。

「のんびりホリデーSuicaパス」をモバイルSuicaで購入した場合、その情報が、通常のチャージ分と同居する。そこで改札を通るとどうなるのかと思ったら、初めて改札を通過する際に使用開始処理が行なわれて、自動改札機の画面に「企画券利用」と表示された。

 以後、エリア内で乗り降りする分には「のんびりホリデーSuicaパス」の情報を利用するため、チャージ分は手つかずとなる。特にそのことを意識する必要はなく、普通にタッチして改札を通過するだけだ。

購入が完了すると、その商品の名前がトップ画面に現われる
改札を通過するたびに、このような通知が飛んできた。キモは「支払いなし」の表示にあり、あわせて、チャージ残高が減っていないことも確認できる

QR乗車券の企画商品もある

 かつて、近畿圏のストアードフェアシステム相互利用「スルッとKANSAI」において、近畿圏の民鉄各社を対象とするフリーパスタイプの商品を販売していた。近畿圏の民鉄線を一気に乗りつぶすときに重宝したが、消滅してしまって残念に思ったものである。

 ところが。2024年6月から、QRコードを利用する「スルッとQRtto」が登場した(QRttoは「くるっと」と読む)。これのために、近畿圏の民鉄各社では自動改札機にQRコードの読み取り装置が追加された。

阪神電鉄本線の今津駅で。「IC QR」との表示がある通路が並ぶ
「IC QR」表示の通路は、磁気券には対応していない。「スルッとQRtto」のQRコードを読み取らせる読み取り装置は、手前に張り出している

 基本的には、スマートフォンで利用するものと考えればよいだろう。Webサイトにアクセスして商品を購入してから、画面にQRコードを表示させる。それを、自動改札機の読み取り装置に読み取らせて通過する。JR東日本の「えきねっとQチケ」やJR九州の「QRチケレス」と同じ考え方だが、専用アプリを必要としないところが異なる。

 その「スルッとQRtto」における商品一覧を見ると、フリーパスタイプの商品がいろいろあるのが分かる。ことに今年は万博の関係もあって、さまざまな企画商品が設定されている。それをうまく活用すれば、お得な鉄道利用が可能になるかもしれない。

 鉄道事業者が自ら、あるいは鉄道事業者などが集まって構成する会社が手掛ける商品に加えて、外部のMaaS事業者が関わる形で販売される商品も出てきている。

 例えば、熊本デスティネーションキャンペーンに合わせて2025年4月15日~9月29日にかけて販売されている「くまもっとのりものきっぷ」は、MaaSアプリ「my route」で購入する仕組み。

 ところがその一方では、JR九州のネット予約サービスで購入する「くまもっとJR周遊きっぷ」も設定されており、こちらは紙のきっぷを発券する形。購入ルートも有効範囲も価格も異なる商品が併存しているわけで、いささかややこしくはある。

多様化する商品情報をいかにして把握するか

 このように、企画商品の媒体も購入経路も多様化しており、全体像の把握が難しくなってきた。自分の旅のプランに適合するお得な商品があるのに、存在に気付かなかったばかりに、使用しないで終わってしまった……なんていうことになれば、ちょっと悔しい。

 鉄道事業者が自ら販売している商品なら、それぞれの事業者のWebサイトで検索する方法がある。ただ、「スルッとQRtto」の商品は「スルッとQRtto」のWebサイトにアクセスする必要があるし、外部のMaaS事業者が関わっていれば、また別のルートで調べなれけばならないかもしれない。

 しかも、通年で販売されている定番商品ならまだしも、イベントやキャンペーンに合わせた期間限定商品もあれば、特定の季節・期間にだけ販売される商品もある。

 仕事や趣味で鉄道関連情報をあたっている人なら、各社のニュースリリースをこまめにチェックしているだろうから、それを通じて商品の存在を知ることができよう。しかし、誰もがニュースリリースをチェックしているかというと、そんなことはない。

 となると、トラベル Watchみたいなニュース媒体を活用してほしい、という話に落ち着く。「鉄道」カテゴリーの下に、さまざまなキャンペーンや商品設定に関する情報がまとめられているから、あちこちのニュースリリースを巡回するのと比べると大幅に楽だ。