旅レポ
リラクゼーション in フィンランド(後編)
サウナのち湖、ときどきヨガサウナ。そう、ここは“混浴”のサウナワールド
(2016/4/14 00:00)
フィンエアーによるプレスツアーの2日目。午前中のアイスフィッシングで見事釣り上げた人も、そうでない筆者のような人も、誰もが満ち足りた表情でレーモンカルキのメインビルディングに引き上げ、次なるリラクゼーションプログラムに向かった。フィンランドといえばサウナ、サウナといえばフィンランド。ここレーモンカルキには「Sauna world」と称する施設が屋外にあり、フィンランド人の心のよりどころでもあるさまざまなタイプのサウナに入浴できる。
フィンランドのサウナは、日本のお風呂と同じような位置付けのものともいえるし、それ以上に精神的、文化的に根付いたものであるともいえる。日本では身体を温めるのに湯船を使うが、フィンランドでは多くの人が湯船ではなくサウナで温まる。サウナでビジネスミーティングを開いたり、そもそもサウナのなかで出産する慣習もあるのだという。サウナに入ると自分が生まれたときのことが深層心理的な部分で思い起こされ、特別な気持ちになることもあるようだ。
自宅にサウナルームを設置している家庭もフィンランドでは少なくなく、ここレーモンカルキで筆者らが宿泊したキャビン(ロッジ)1つ1つにも、例外なくサウナルームがビルトインされていた。このサウナはドライサウナ、もしくはスチームサウナとして利用可能だ。
ガラス張りのサウナでヨガ&ウィスク
Sauna worldでは、キャビンにあるドライ・スチームサウナのような「トラディショナル」なタイプもあるが、それ以外に特徴的なサウナの1つとして、ガラス張りの幅広のサウナルーム「ガラスサウナ」がある。入浴しながらガラスを通して湖の景色を眺めることができる仕掛けになっていて、単純にスチームサウナとして使うこともできるし、最近注目を集め始めている「ヨガサウナ」をインストラクターとともに実践することもできる。
最初にトライしたヨガサウナでは、ガラスサウナの腰掛けに普段通りに座るか、あるいは座禅を組んで、瞑想のポーズや、身体をねじるポーズなどをじっくり時間をかけて行なっていく。スペースが特別広いわけではないため、基本的には座った状態で上半身のみを使うポーズが多いものの、ヨガならではのストレッチ運動の難しさは変わらない。高温のサウナルームのなかということもあって、通常のヨガよりも早くに汗が落ち始め、息が上がってしまう。
ワンセットで15分間ほどと思われるが、慣れない筆者にとってはかなりきつい内容だった。途中でもしっかり水分を補給し、気分がわるくなりそうなら外に出て休憩してもかまわない。無理せず楽しめる範囲で入浴したいところだ。
また、グラスサウナでは、フィンランドの森を形作っている白樺やネズ(針葉樹)の枝葉と、ブルーベリーや各種ハーブ、ウォッカなどを材料に用いたフットバスに入ることも可能で、それらの材料を用いた「ウィスク」と呼ばれるフィンランド独自のリラクゼーショントリートメントも行なわれることがある。
ウィスクは、英語では「さっと払う」という意味になる。フットバスの最中に施術者が白樺の枝葉を手に持ち、それで客の身体を軽くはたいたり、サウナルームの天井に溜まった暖かい空気をかき回したりする。暖かさが一気に伝わってくるのと同時に、木の香りがふわっと鼻をくすぐる。ときにはネズのチクチクする枝で身体に軽く触れ、皮膚を刺激する。決して痛みを感じるものではなく、軽いマッサージ的な効果が得られるような、身体をリフレッシュさせる刺激だ。
1人ずつ身体を横たえ、全身にくまなく枝葉の香りを浸透させるように施術する方法では、あたかも深い森のなかでうっそうとした草木に身を沈め、自然の香りを胸一杯に吸い込み、身体の表面からもそれらを吸収しているかのような気分になる。体中の毒みたいなものが一気に浄化されるような爽快感を味わえるだろう。
極上の癒やしはスモークサウナにあった
フィンランドの昔ながらのサウナの1つに、「スモークサウナ」というものがある。サウナ小屋を薪を燃やした煙で半日がかりで燻し、そのあと煙だけを抜いて内部を暖めたサウナだ。煙を使っているので、当然ながら内部はすすで真っ黒。壁に触れてしまうと身体が黒くなってしまうので注意しなければならない。
しかしこのスモークサウナは暖かさが絶妙で、ドライサウナやスチームサウナのような“鋭い熱”ではなく、じんわりと身体の内部から温まっていく“優しい暑さ”が感じられる。燻された木独特の香りがうっすら残るなかで、嗅覚によるリラックス効果も同時に得られるようだ。照明がないこともあって落ち着いた気分で、ほかのサウナよりも長めに入浴していられる。
スモークサウナを出たあとは、気温の低い屋外でも身体に溜まった熱が長持ちするように感じられる。十分に温まったら屋外でしばらく涼むのもいいし、目の前にある湖に飛び込んでもいい。温まったら即冷やし、再びサウナで温まったらまた冷やし、を1日中繰り返すのがフィンランドでの一般的なサウナの楽しみ方である。
とはいっても、周辺が凍り付いているだけに、水温が果てしなくゼロ度に近いのではないかと思われる湖の水。足をちょっと浸すだけで飛び上がりそうになるが、我慢して一気に全身を沈めると、冷たいというよりはビリビリという痛みのようなものに襲われ、思わずうめき声が漏れてしまう。たまらず、すぐに湖から上がってサウナやジャグジーバスに入れば、今度は手足の先端で毛細血管が急激に膨張するかのような感覚。
湖から出るときは「2度とこんな冷たい水に入るものか」と毎回思うのだが、不思議なことにこの湖水とサウナの往復による寒暖の刺激と気持ちよさを一度知ってしまうと、もう何回も繰り返さざるを得なくなる。この日筆者はおよそ3時間のサウナ体験の間、ほとんどスモークサウナに入り浸り、3回湖に飛び込み、3本のリキュールと1本のソフトドリンクを飲み干した。