旅レポ

リラクゼーション in フィンランド(後編)

サウナのち湖、ときどきヨガサウナ。そう、ここは“混浴”のサウナワールド

サウナで温まりながら同時にハーブの香りのフットバスも

 フィンエアーによるプレスツアーの2日目。午前中のアイスフィッシングで見事釣り上げた人も、そうでない筆者のような人も、誰もが満ち足りた表情でレーモンカルキのメインビルディングに引き上げ、次なるリラクゼーションプログラムに向かった。フィンランドといえばサウナ、サウナといえばフィンランド。ここレーモンカルキには「Sauna world」と称する施設が屋外にあり、フィンランド人の心のよりどころでもあるさまざまなタイプのサウナに入浴できる。

メインビルディング。滞在中の朝食・昼食時にも利用した

 フィンランドのサウナは、日本のお風呂と同じような位置付けのものともいえるし、それ以上に精神的、文化的に根付いたものであるともいえる。日本では身体を温めるのに湯船を使うが、フィンランドでは多くの人が湯船ではなくサウナで温まる。サウナでビジネスミーティングを開いたり、そもそもサウナのなかで出産する慣習もあるのだという。サウナに入ると自分が生まれたときのことが深層心理的な部分で思い起こされ、特別な気持ちになることもあるようだ。

 自宅にサウナルームを設置している家庭もフィンランドでは少なくなく、ここレーモンカルキで筆者らが宿泊したキャビン(ロッジ)1つ1つにも、例外なくサウナルームがビルトインされていた。このサウナはドライサウナ、もしくはスチームサウナとして利用可能だ。

湖を臨むキャビンに宿泊。レーモンカルキのキャビンのなかでは最もハイクラスで、10人宿泊できて1泊500ユーロ(約6万円)
ベッドルームの1つ。これと似たベッドルームが計4つある。両親や親戚、あるいは友人家族と割り勘で利用すれば、それほど高くはつかないのでは
リビングとキッチン。食器や調理器具が揃っており、材料さえ用意すればいつでも料理できる
薪を燃やせる暖炉も
ウェルカムフルーツがうれしい。床暖房完備で室内は常に暖かい
大きめの屋外用グリルも使える
シャワールームの一角にあるサウナルーム。電気で石を温め、その熱で室内の温度を上げる仕組み。室内の温まりは少し時間がかかるが、30分もすれば十分に本格的なサウナらしくなる
バルコニーではジャグジーバスが常に温まっていた

ガラス張りのサウナでヨガ&ウィスク

 Sauna worldでは、キャビンにあるドライ・スチームサウナのような「トラディショナル」なタイプもあるが、それ以外に特徴的なサウナの1つとして、ガラス張りの幅広のサウナルーム「ガラスサウナ」がある。入浴しながらガラスを通して湖の景色を眺めることができる仕掛けになっていて、単純にスチームサウナとして使うこともできるし、最近注目を集め始めている「ヨガサウナ」をインストラクターとともに実践することもできる。

サウナワールドの屋外施設の全景
メインビルディング内にあるトラディショナルなドライ・スチームサウナ
前面がガラス張りになったガラスサウナ
外の湖のある景色をゆったり眺めつつサウナに入り浸れる。ちなみにSauna worldの利用はグループの人数にもよるが1日1000ユーロ(12万円)程度から、とのこと
入浴前に帽子をかぶることを勧められた。フィンランドではサウナで帽子を被る習慣は特にないとのことだったが、長時間サウナに入ったときに頭部の温度が上がりすぎるのを防げるとのこと

 最初にトライしたヨガサウナでは、ガラスサウナの腰掛けに普段通りに座るか、あるいは座禅を組んで、瞑想のポーズや、身体をねじるポーズなどをじっくり時間をかけて行なっていく。スペースが特別広いわけではないため、基本的には座った状態で上半身のみを使うポーズが多いものの、ヨガならではのストレッチ運動の難しさは変わらない。高温のサウナルームのなかということもあって、通常のヨガよりも早くに汗が落ち始め、息が上がってしまう。

 ワンセットで15分間ほどと思われるが、慣れない筆者にとってはかなりきつい内容だった。途中でもしっかり水分を補給し、気分がわるくなりそうなら外に出て休憩してもかまわない。無理せず楽しめる範囲で入浴したいところだ。

写真右のインストラクターによる指導でヨガサウナ中。言い忘れていたが、フィンランドのサウナは混浴のところが多く、公衆浴場では男女ともに水着を着用して入浴する
タイトルで「混浴」と書いたけれども……
何か期待してましたか?

 また、グラスサウナでは、フィンランドの森を形作っている白樺やネズ(針葉樹)の枝葉と、ブルーベリーや各種ハーブ、ウォッカなどを材料に用いたフットバスに入ることも可能で、それらの材料を用いた「ウィスク」と呼ばれるフィンランド独自のリラクゼーショントリートメントも行なわれることがある。

ネズの枝葉を使うフットバス。袋部分にブルーベリーやハーブ類を封入している。さらにウォッカなどを混ぜ込んだお湯を入れる
フットバスに入りながらのウィスク

 ウィスクは、英語では「さっと払う」という意味になる。フットバスの最中に施術者が白樺の枝葉を手に持ち、それで客の身体を軽くはたいたり、サウナルームの天井に溜まった暖かい空気をかき回したりする。暖かさが一気に伝わってくるのと同時に、木の香りがふわっと鼻をくすぐる。ときにはネズのチクチクする枝で身体に軽く触れ、皮膚を刺激する。決して痛みを感じるものではなく、軽いマッサージ的な効果が得られるような、身体をリフレッシュさせる刺激だ。

 1人ずつ身体を横たえ、全身にくまなく枝葉の香りを浸透させるように施術する方法では、あたかも深い森のなかでうっそうとした草木に身を沈め、自然の香りを胸一杯に吸い込み、身体の表面からもそれらを吸収しているかのような気分になる。体中の毒みたいなものが一気に浄化されるような爽快感を味わえるだろう。

横たわって施術を受ける筆者。10分程度の体験だったが、木々やハーブの香り、サウナのほどよい温もりで、間違いなくリフレッシュできる

極上の癒やしはスモークサウナにあった

 フィンランドの昔ながらのサウナの1つに、「スモークサウナ」というものがある。サウナ小屋を薪を燃やした煙で半日がかりで燻し、そのあと煙だけを抜いて内部を暖めたサウナだ。煙を使っているので、当然ながら内部はすすで真っ黒。壁に触れてしまうと身体が黒くなってしまうので注意しなければならない。

薪を焚いて燻している最中のスモークサウナ
壁に触れると黒くなるので要注意
燻し終わったスモークサウナ。内部は照明が一切なく、暗い

 しかしこのスモークサウナは暖かさが絶妙で、ドライサウナやスチームサウナのような“鋭い熱”ではなく、じんわりと身体の内部から温まっていく“優しい暑さ”が感じられる。燻された木独特の香りがうっすら残るなかで、嗅覚によるリラックス効果も同時に得られるようだ。照明がないこともあって落ち着いた気分で、ほかのサウナよりも長めに入浴していられる。

 スモークサウナを出たあとは、気温の低い屋外でも身体に溜まった熱が長持ちするように感じられる。十分に温まったら屋外でしばらく涼むのもいいし、目の前にある湖に飛び込んでもいい。温まったら即冷やし、再びサウナで温まったらまた冷やし、を1日中繰り返すのがフィンランドでの一般的なサウナの楽しみ方である。

 とはいっても、周辺が凍り付いているだけに、水温が果てしなくゼロ度に近いのではないかと思われる湖の水。足をちょっと浸すだけで飛び上がりそうになるが、我慢して一気に全身を沈めると、冷たいというよりはビリビリという痛みのようなものに襲われ、思わずうめき声が漏れてしまう。たまらず、すぐに湖から上がってサウナやジャグジーバスに入れば、今度は手足の先端で毛細血管が急激に膨張するかのような感覚。

湖に飛び込むのはさすがに気が引け、そろそろと入る筆者
全身に力が入ってしまうような冷たさ
全身を一気に沈めてしまえば、大丈夫
でもない

 湖から出るときは「2度とこんな冷たい水に入るものか」と毎回思うのだが、不思議なことにこの湖水とサウナの往復による寒暖の刺激と気持ちよさを一度知ってしまうと、もう何回も繰り返さざるを得なくなる。この日筆者はおよそ3時間のサウナ体験の間、ほとんどスモークサウナに入り浸り、3回湖に飛び込み、3本のリキュールと1本のソフトドリンクを飲み干した。

湖から上がったら、ジャグジーバスに入ってほっと一息。体中のビリビリ感が癒えていく気持ちよさを味わう
ロシア人女性もジャグジーバスでリラックス
サウナ中はこれらリキュールやソフトドリンクなどが飲み放題。アルコール度数が5%前後のものを3本飲んだが、すべて汗になって蒸発してしまうのか、酔いはまったく回らなかった

「裸の付き合い」で親しくなれる、フィンランド式サウナ

 トラディショナルなドライ・スチームサウナに加え、そのなかで実践するヨガサウナとウィスクによるリラクゼーショントリートメント、そして煙で燻されたスモークサウナは、ここでしか体験できない特別なものだが、フィンランドでは当たり前に存在する日常の一部だ。初めて会う人や、まだよく分かっていない相手でも、サウナというツールを使えば無理なくコミュニケーションでき、親しくなれる。日本でいう「裸の付き合い」(水着着用ではあるが)を自然に実践でき、そして心身共に深いところから癒やすことができるのが、フィンランド式サウナなのである。

ぜひとも家族や友人と一緒に来たい、フィンランドとレーモンカルキ
ちなみにメインビルディングの近くにあるイベント用施設「Villa Vellamo」は、ハイセンスなサウナを完備。結婚式などにも利用できる

日沼諭史