旅レポ
中国返還20周年を控える香港のいま(その3)
定番中華からユニークな豚まんまで香港の食を満喫
(2016/4/20 00:00)
香港には色々な楽しみ方があるが、食事も大きな楽しみの一つ。基本的には上海、北京、四川、雲南といった中国料理が主流で、おなじみのお粥や麺類も種類が豊富。最近は、新しいトレンドも生まれてきているそうで、東京とはまた一味違ったグルメの街だ。
香港の朝といえば、やはりお粥が定番だろう。香港は外食が基本で、午前中は飲茶というのが一般的のようだが、朝食はお粥を食べて出勤する人も多いようだ。香港のお粥は、お米の形が分からなくなるほどドロドロに炊いてあり、日本よりも濃いめに味付けがされているので、そのままでも美味しく食べられる。
種類も豊富で、魚や牛肉など、さまざまな具が同じように柔らかく煮込まれている。日本のように病後に軽く食べるというよりも、しっかりとした「食事」という感じでボリュームもあり、いわゆる揚げパン(油炸鬼、油条とも)やライスロール(腸粉)と一緒に食べれば朝からかなり満足できる。
今回訪れたのは、中環(セントラル)の屋台街というローカル感満載のエリアにある「威記粥店」。朝食としては遅めの10時頃だったので客層は出勤前という感じではないが、地元民を含めて客足の多い人気店。
メニューには英語も書かれていて、漢字と組み合わせればだいたいの内容が分かるので、注文もそれほど難しくない。ライスロールは頼んですぐに出てくるし、お粥も30秒もかからないので、日本でいえば牛丼チェーン店に入ったぐらいの感覚ですぐに食べ始められる。
ライスロールのもちっとした食感に、粘りのあるお粥、そしてちぎってお粥に入れたりそのまま食べたりでアクセントとなる揚げパンと、味にも食感にもバラエティがあって、朝から食べ過ぎてしまうほど。やはり中国料理は大勢で行って取り分けるのがよい。
しかも安い。プレーンなお粥は9香港ドル。130円弱(1香港ドル=14円で換算)で、具が入ったものも17~19香港ドル(約238~266円)ぐらい。ライスロールも15香港ドル(約210円)、揚げパンは8香港ドル(約112円)で、量もたっぷりなので満足できる。
昼ご飯は観光の合間に軽く、ということであれば、ローカルのチェーン店「三洋餐廳」のような店もよいかもしれない。ファミリーレストラン的なイメージで、地元民の利用が多い。、メニューに英語がないのでちょっと難しいが、肩肘張らずに気楽に食べられる。
訪れたのは深水ポ(シャムスイポ、ポは土偏に歩)にある店舗で、「下午茶」メニューとして、揚州炒飯や星州炒米(シンガポール焼きビーフン)が30~38香港ドル(約420~532円)で食べられる。コーヒーや香港でおなじみのレモンコーラやレモンティーなども頼める。
注文したのは「粟米肉粒飯」、コーンと豚肉を乗せた卵とじのライスで、シンプルだが味も分かりやすくて、短時間で食べるにはよい。35香港ドル(約490円)だった。
同じように街歩きの際に小腹が空いた場合は、香港なら「スナック」もお勧め。一般的に日本人が想像する「スナック菓子」とは異なり、香港で「スナック」というと、手軽に食べられる食べ物で、屋台で軽くつまんだり、テイクアウトして食べたりするものらしい。日本だとたい焼きやたこ焼き、屋台おでんのような感じだろうか。
ミシュランガイドも香港・マカオの2016年版で「ストリートフード」というジャンルを新たに設けて23店を紹介しており、香港ではなくてはならないジャンルといってよさそう。
今回は、香港島の銅鑼湾(コーズウェイベイ)周辺にある「Mammy Pancake」を訪問。ここのパンケーキは、たこ焼きの焼き器のような鉄板に小麦粉や卵などの材料を注いで、同じ形の鉄板を重ね合わせることで、やや潰れた球形のパンケーキがくっつき合った独特の形状に仕上げたもの。外はカリッと、中はモチッとした食感で、栗やチョコレートチップなどを入れることで、さまざまな味を楽しめる。
個別に球形のパンケーキをもぎ取って一口サイズにしてから食べるようだが、手軽に持ち歩けて、食感も軽くてサクッと食べられてしまう。女性にはちょっと量が多いかもしれないが、シェアしながら食べるのもよいだろう。小腹が空いたときに最適だ。
基本的には若者の軽食という感じだが、ミシュランガイドにはハンバーガーの「The Butchers Club」、タイ料理の「迦南泰國小食(Canaan Thai Snack)」なども選ばれていて、時間がないときの食事にも便利そうだ。
お粥やストリートフードなど、安価な食事も楽しいが、香港は外国人にも人気の趣向を凝らした値段の張った料理も楽しめる。例えば金融街の中環には、(特に)欧米人にも人気のレストラン「Mott 32」がある。
この店名は、米ニューヨークのMott Street 32番街のこと。中国系のコンビニが1851年に開店した場所で、ニューヨークの中華街の発祥となったらしい。それにちなんで名付けられたようだ。
店はスタンダードチャータード銀行ビルの地下にあり、店内にはレストランに加えてバーカウンターも用意され、ゆっくりとした食事からお酒まで楽しめる空間になっている。照明は暗く、やや音楽は大きめだが、雰囲気は落ち着いている。
写真に写っているものだけで2000香港ドル(約2万8000円)を超えるため、食事としてはちょっと高めではあるが、これを6人でシェアしたので1人あたりは5000円弱になる。それでも値段が気になるならば、お酒を飲みに来るだけでもよいかもしれない。食事のレベルはどれも高く、味付けはクセもなくて日本人にも食べやすいし、十分満足できる。
お酒といえば、最近の香港は空前のワインブームが訪れているという。2008年に酒税を撤廃したことによって酒の輸出入が急増。アジア圏に輸出される欧州などのワインがいったん香港を経由するようになって、アジアの一大交易地となったそうだ。それによって、香港内でワインを飲む人も増えているそうで、さまざまなワインが楽しめるようになっている。
それに加えて、もう1つのブームが地ビールだ。従来、香港には国産ビールはなかった。中国における「青島ビール」のような地ビールがなかったのだが、この酒税撤廃の影響もあって香港内でビールを製造する動きが活発になっているという。
Mott 32でも、「香港ビール(Hong Kong Beer)」という、そのままの社名のビール会社が出している「GAMBLER'S GOLD」が置いてあったし、ほかにも同社のビールを用意しているレストランはある。こうした香港内で醸造するビールが飲める店もいくつか登場しているが、その中で自家製のクラフトビールを飲ませる「Craft Brew & Co Beer」は香港でも人気の店だという。
アメリカのクラフトビールを参考にしたというさまざまなタイプのビールがあり、麦やホップといった原材料はカナダ、アメリカ、イギリス、オーストラリアから仕入れているようだ。醸造は香港内で行なっているという。
エールやペールエール、IPA、ラガーといった複数の種類があるが、どれもオリジナルビールということもあって全部飲みたくなる。そういった要望が多いのか、テイスティングメニューもあって、グラスでビールを飲み比べできる(150香港ドル、約2100円)。
飲めるのは「Summer Ale」「Kung Fu Lager」「Bohemian Pale Ale」「Liberty IPA」の4種類。Liberty IPAはアルコール度数が7%あり、この4杯だけでも適度にアルコールがまわってちょうどよい。夏場の香港は暑いので、サッと立ち寄って冷たいビールを飲んでまた観光する、といった動きもよいかもしれない。
訪れた店舗は地下鉄(MTR)西営盤駅(Sai Ying Pun)のそばにあり、香港内にはほかに2店舗ある。このあたりは、西営盤駅が新しくできて従来よりも発展した地域のようだ。
香港のグルメと言えば飲茶を思い出す人も多いだろう。そのものずばりの店名である「Yum Cha」は、伝統的な料理をモダンな盛り付け、小ぎれいな店舗で楽しめる人気店。セントラルの商業ビルであるNan Fung Placeの3階(現地の表記では2階)にあり、レストラン内は真新しく開放的な雰囲気。
器も洒落ていて、高級すぎず、明るい雰囲気で飲茶を楽しみたいという若い人にはよさそうだ。特に面白いのが、動物をかたどった像型点心。飲茶では、見た目を楽しくする点心が時々出てくるが、このYum Chaは点心師がかなり力を入れているようで、キャラクターとしても名物にもなっているようだ。
カスタード系の饅頭では、キャラクターに箸で穴を開けて中身を押し出すと、口から何かを出している、というお遊びができる。「食べ物で遊ぶなんて……」というような反応も聞こえてきそうだが、店としてそのやり方を広めているようなので、目くじらを立てることでもないだろう。
1品1品はそれほど高くはないが、やはりできれば複数人で色々と注文したい。友達同士で楽しく、気軽に食べるのに適したレストランだ。
せっかくの香港旅行にぜいたくに香港の料理を楽しみたいというのであれば、ホテルの高級レストランはどうだろうか。ミシュランガイドに2つ星レストランとして掲載されているのが、インターコンチネンタル 香港内にあるレストラン「欣圓軒(Yan Toh Heen)」。広東料理と点心の店で、ビクトリア湾を見ながら広々とした落ち着きのある店内で料理を楽しめる。
定番の北京ダックから、蟹の身がたっぷり詰まった「脆釀鮮蟹蓋(蟹の甲羅揚げ)」、穀物で育てたという牛の肉を使った「無花果蒜片炒穀飼牛(牛肉とイチジクとにんにくの炒め)」、ツバメの巣がたっぷりの「燕液竹笙上素卷(絹笠茸に詰めたつばめの巣ときくらげ)」といったコースが用意され、どれもレベルの高さにうなるほど。
繊細でしみこむような味付けで、一口一口が感動的。見た目にも美しく、さすがの2つ星といった印象。価格的にも今回のツアーでは圧倒的だったが、味も圧倒的と言ってもよいかもしれない。
香港の料理も千差万別で、これまで見てきたようなスナックからお粥といった安いものから高級料理まで、美味しいものがとにかく多い。日本だと東京も美食の街としては引けは取らないが、香港ならではの料理と雰囲気があって、一味違ったグルメツアーも楽しいだろう。
今回紹介のレストラン以外でも、香港にはたくさんの美味しい店がある。日本の食べログのようなWebサイトとして「Openrice.com」があり、日本を含む東南アジア各国をカバーしているが、香港のレストラン情報が充実している。こちらを参考にしてもよいだろう。
香港は日本からも近く、アクセス性もよい。料理は日本人の口にも合うし、美味しいし、歴史的な観光地も新しい観光地も豊富にあって、慣れた人でも新しい発見に出会えるかもしれない。