旅レポ

サミット目前の伊勢市で「桜めぐり プレスツアー」に参加(その3)

河崎問屋街の往時の風情を残す「伊勢河崎商人館」とG7伊勢志摩サミット向けの企画を見学

 伊勢市情報発信センターの「桜めぐり プレスツアー」レポートは今回が最終回。江戸時代に創業した酒問屋「小川酒店」を伊勢市が修復整備し、伊勢河崎の問屋のシンボルとして残した「伊勢河崎商人館」の見学や、「G7伊勢志摩サミット」開催に向けて企画されている商品を見学をしたのでレポートする。

江戸~明治期の街並みを残す「伊勢河崎商人館」を見学

 伊勢市駅の東側を南北に走る「八間道路」を北に数百メートル進み「河崎」交差点を右折、勢田川(せたがわ)に架かる中橋の手前の交差点を左に曲がると、外壁が黒いクラシカルな建物が目につき始める。この辺りが、伊勢の台所と呼ばれた河崎エリア。河崎は16世紀ごろから、全国各地から伊勢神宮門前町の山田・宇治へ物資を運ぶため、勢田川を利用した水上運送と人馬で物資を送る陸上輸送を仲介する川の港としてにぎわった場所である。

 見学した「伊勢河崎商人館」は、江戸時代から伊勢と伊勢を訪れる人々の生活をまかなった問屋街の代表的な酒問屋「小川酒店」を、伊勢市が修復整備し伊勢河崎の問屋のシンボルとして残した施設であり、NPO法人 伊勢河崎まちづくり衆が運営している資料館。

 川に面した蔵を持ち、全部で蔵7棟、町家2棟など約600坪の敷地を持つ、河崎を代表する商家で、すべての建物が2001年(平成13年)に国の登録有形文化財に指定されている。勢田川に面した3棟の蔵は、商人蔵として店舗30店が入っているほか、河崎まちなみ館と内蔵資料館の展示室で、伊勢と河崎の歴史と文化の展示も行なわれている。母屋には京都の茶室を移した部屋もあり、茶会なども開かれるとのことだった。

現在も茶会などが行なわれる座敷。庭にある石は、茶会などにも使用されていた井戸
家の主の寝室。窓からは自分の蔵はもちろん、水運の仕事に直結していた川も見える
母屋とは別棟になっており、商談などを行なっていたと言われる洋間
商人の家らしく、土足のまま移動できる土間廊下
土間廊下をわたる際に、いちいち靴を履かないで済むように渡り棒が設けられている
土間廊下の横にあるのは下駄箱。土間に履物を置きっぱなしにしないためのもの

 江戸時代には、多いときで年間500万人が伊勢を訪れていた。日本の人口が3000万人といわれる時代に、6人に1人が伊勢を訪れていたとのこと。その500万人の来訪者のすべてを伊勢だけでまかなうことはできなかった。伊勢河崎商人館の事務局長である西城利夫氏によれば「地方から物資を運び込む必要があって、その場所が河崎だったんです」と河崎の町の発展理由を教えてくれた。

 そして「今から40年くらい前までは、勢田川の風景は当時と変わっていなかったが、船で運ばれてきた物資を蔵に横付けして運び込んでいたんです。そのなかで、お酒を扱う問屋だったのがこの建物で、300年以上の歴史があります」「当時の小川酒店は、東海三県の『白鹿』の代理店で、ここから三重県内はもちろん、愛知県にも白鹿が送られていきました」と盛んに物資がやりとりされた様子を話してくれた。

「白鹿」の代理店の看板と、勢田川に入ってきた船から荷物を陸揚げしていた蔵を改造したカフェ

 西城氏はさらに話を続け「1909年(明治42年)になると、この場所でサイダーを作っていました。明治時代は砂糖が高価なものでしたので、高等飲料と呼ばれていました。商品名は、『Sサイダー』、このSはこの家の小川三左衛門さんの頭文字から取ったものです。ロゴマークの『X』は、小川家の家紋である『違い鷹の羽』をデザインしたもの。名前もロゴマークも、明治の時代にしては洒落ています。1960~70年代までは製造されていたので、Sサイダーの味を覚えていらっしゃる方々にご意見をいただきながら復刻して飲んでいただけるようになりました」とのこと。甘味料として現在の清涼飲料水で使用している液糖ではなく、伝統どおりの粉砂糖を使っているためすっきりとした味わいになっているそうだ。

 実際に試飲させていただいたが、確かに現在の清涼飲料水のように口の中に甘さが残ることもなく、妙にベトつくこともなかった。

Sサイダーについて語る西城氏と復刻されたSサイダー。Sサイダー関連グッズなども販売されていた
サイダーの検査室。ガラス越しの天井に見える明かりは天窓で、そこに瓶を透かして目視し、不純物の混入を検査していたとのこと。写真右側の黒いタワーは給水タンク

 河崎の町が水運で栄えた理由については、「河崎より勢田川の上流に向かうと川幅が狭くなり大きな船が入りにくかったことから水運で栄えた」と教えてくれた。

 さらに「川沿いに倉が建ち並んでいたが、みんな川沿いの間口は狭く、川に対して横に細長く伸びているのは、多くの倉や問屋が隣立していたからです」と当時の繁栄ぶりについても触れ、「河崎エリアの道は江戸時代から変わっていないんです。当時の道は人間が歩いてすれ違えるだけの道幅でよかったのですが、河崎は川沿いに蔵が立ち並び、常に大八車が行き交い、荷物の積み下ろしをする必要があり、道幅が確保されていた。そのため自動車が普及しても必要以上に区画が整理されることがなかったので、古い街並みがそのまま残されているんです」とも教えてくれた。

資料館にある古地図を見ると、現在の道路とまったく同じだった。現在も一方通行路ではあるが普通車は通ることができる道幅である
商取引が盛んなため、必要に迫られて生まれた日本最古の紙幣とされる「山田羽書」に関する展示。「山田で造られたお金なので、山田羽書って言っているんです」と西城氏
蔵を改造した資料館や母屋の内蔵にはさまざまな展示があった。全部を見るにはけっこうな時間が必要

ボリュームと美味さでコスパが高い、まんぷく食堂の「からあげ丼」

 今回のツアーで案内役をしていただいた伊勢市情報発信センターの今村英靖氏は劇団に所属する役者であり、地元ケーブルTV局の番組で8年以上、一人でレギュラーを務めた経験を持つ方。どこに取材に行っても「顔パス」でOKがもらえることから、多くの伊勢市民が愛する「ソウルフード」の店に連れていってもらうことにした。

 案内されて訪問した店は駅に隣接する近鉄宇治山田駅ショッピングセンターと書かれた建物内にある「まんぷく食堂」。今村氏によれば「ここの『からあげ丼』は伊勢市民の多くが知ってて、高校生は学校が終わったら、まんぷく食堂に行き、からあげ丼を食べるんですよ」と教えてくれた。

到着時は、ちょうどお昼どき。月曜日だったが広い店内に人が押し寄せ、忙しそうだった

 メニューを見ると、丼物、定食、伊勢うどんも含めた麺類が並ぶ。伊勢生まれで伊勢育ちの今村氏が推奨する「からあげ丼」(630円)のレギュラーサイズをオーダーしようとしたが、「本当に大丈夫ですか? けっこうガッツリ系ですよ」と忠告を受け、素直に小さめの「プチからあげ丼」(550円)を注文し、待つこと約10分。目の前に出されたどんぶりは「どこがプチ?」と思えるサイズだった。

 食べてみると、単に親子丼の肉がから揚げになっているというよりも、スパイシーな味付けとなっており箸が進む。正直なところ美味しく、これなら伊勢市民のソウルフードと呼んでもよいと感じた。

サイズ比較用に七味唐辛子の容器を置いた写真。左がレギュラー、右がプチ。ぴり辛の鶏から揚げと玉子に甘酸っぱいタレがよく合う
昼食時だったので来店者が多く、すべてのコンロに鍋がかけられ、から揚げを手際よく調理していた

伊勢神宮おひざもとの老舗割烹「大喜」が送る、「G7伊勢志摩サミット」向け企画

 近鉄宇治山田駅すぐ近くの割烹「大喜」は、伊勢志摩の旬の素材を中心とした和の情緒を込めた料理が自慢の店。伊勢神宮参拝の皇族方が何度も来訪されているという老舗高級料理店であるが、今年の5月26日から開催される「G7伊勢志摩サミット」に向けて、伊勢志摩産や伊勢志摩にちなんだ食材7種を使った「伊勢春慶サミット弁当」の販売を開始したので、実際に食してみることにした。

 その内容は伊勢海老具足煮、伊勢海老赤だし、さざえ壺焼き、鯛、干鯛、伊勢肉サイコロステーキ、鮑(あわび)やわらか煮、鮫のたれ、てこね寿司。早速いただいてみると、どれも素材の旨味や香りをうまく引き出していて美味なうえに品があるのは、さすが老舗の高級割烹料理店である。名称が「弁当」なので高額に感じる方がいるかもしれないが、これだけの味を揃えても5000円なので決して高くはない。

写真左上から、伊勢海老具足煮、伊勢海老赤だし、さざえ壺焼き、鯛、干鯛、伊勢肉サイコロステーキ、鮑やわらか煮、鮫のたれ、てこね寿司。刺身などの鮮魚については日によって変わることがあるらしい。重箱は、伊勢市で製造され生活のなかでも使用されている「伊勢春慶(いせしゅんけい)」の漆器(写真は重箱部分の食材を個別に皿に盛ったもの。実際には重なった状態で提供される)

 このメニューを企画したきっかけについて聞いてみると「みえフードイノベーション・プロジェクトの『伊勢志摩サミット開催記念コラボ企画』で、サミット応援メニューも募集するとの告知があったので、それに向けて作りました。G7伊勢志摩サミットの期間までの提供予定ですが、人気があれば継続販売についても検討します」とのこと。当日の昼にもビジネスユースと思われる4セットのオーダーがあったようで、伊勢市外からの来訪者への「おもてなし」として利用されていることからも、継続してほしいメニューである。

 また「伊勢にちなんだ7つの食材を使った弁当を食べていただいて、『伊勢には美味しいものがある』と覚えて帰っていただければうれしいです」ともコメント。ほかにもG7伊勢志摩サミット限定メニューとして、鳥羽志摩産の天然の鮑を蒸し上げて、薄味で煮込み真空パックした「鮑柔らか煮」も用意しているとのこと。

2012年に全館リニューアルされた「大喜」の店内やメニュー。人気商品は「伊勢海老定食」(5000円)、「てこね定食」(1500円)。伊勢海老、鮑料理、寿司、てんぷら、地酒、海鮮料理、ベジタリアンメニュー、伊勢海老づくしコースなどが主要メニュー。英語、韓国語、中国語(簡体字)のメニューも用意

「若松屋」のG7伊勢志摩サミットメニューは「Gu7ひりょうず」

「ひりょうず」と言う名称を聞いてもピンと来ない方も多いと思うが、一般的に言うと「がんもどき」に近いものを指し、漢字では「飛竜頭」と書くことから地方によっては「ひりゅうず」「ひりうず」などと呼ぶエリアもあるようだ。

「若松屋」は1905年(明治38年) 創業、味と品質にこだわり続け、板かまぼこ、はんぺいのほか、さつま揚げでは「ひりょうず」が人気のかまぼこ屋。「G7伊勢志摩サミット」に合わせて開発した「Gu7(ぐうセブン)ひりょうず」は、どんな思いを込めて企画したのかを、若松屋の代表取締役社長である美濃松謙氏に聞くチャンスがあった。

 Gu7ひりょうずを作ろうと思った理由については「伊勢ひりょうずは、松尾観音寺で観音様ともっともご縁がある日とされている毎月18日の観音市が始まった際に、特別な商品を作ろうと思い開発したものです。一般的に、がんもどきは豆腐屋さんが作るものですが、がんもどきは煮込まないと食べられないので、すり身を合わせたらどうなのかと考えて作りました。いろんな具材が入っていろんな味が楽しめる、名前も漢字では飛ぶ竜の頭と書くことから1300年続く竜神伝説に合わせてちょうどよいと思ったのがきっかけです。そしてG7伊勢志摩サミットを契機に、7カ国にちなんだ具を入れたらどうか、と考えました」と話してくれた。

 また「G7参加各国の食材を集めようとしたが、イギリスについては迷い、調べていくとチェリーバレー種という合鴨を見つけることができた。日本は代表的なものがよいのでお米と思ったが、面白みがないので梅干しにしてみたところ、さっぱりして美味しかった。G7は首脳会議なので、それぞれの国が互いに言い分があると思うので、すべてがマッチするとは限らない。ならば、それぞれの国の具材の味や香りを楽しんだあとに、最後に梅干しが締めてくれればよい、そう考えた」と、G7伊勢志摩サミットに対する期待を込めた商品だそうだ。

 円形の伊勢ひりょうずを一つの世界ととらえ、各国が一堂に会し、お互いの素晴らしさを尊重し合い、お互いを高め、よりよい世界を作りだすように、このGu7ひりょうずもお互いの持ち味を発揮し、素晴らしい味わいを作り出すことを第一に開発したとのこと。

 「Gu7で商標を取ってしまったのなら、7品目の商品を継続するしかないですね」と聞くと、美濃氏は「次のサミットが決まるまで売ろうかな……」と笑いながら答えてくれた。本当に気さくな方である。

若松屋の店内や商品、外観。季節限定 月替わりかまぼこ、伊勢ひりょうず、御祝かまぼこ、チーズ棒などが人気商品。熟練のかまぼこ作り職人が、かまぼこの豆知識から作り方まで、懇切丁寧に指導する「かまぼこ体験工房」もある
伊勢を愛し、全国に伊勢と日本の文化を知らせたいと言う熱い思いを持つ若松屋 代表取締役社長 美濃松謙氏

 美濃氏に、伊勢エリアへ観光客を呼ぶために必要なことなにかと聞いてみたところ、「東京からこの伊勢志摩エリアに来たいと思ってもらうには、知名度の高い伊勢神宮のアピールは必須」と答え、「毎年のようにお伊勢参りに行きたいと思ってもらえることが大事だと考え、木札事業を始めた。木札の裏には干支と十干十二支を入れているので、全種類揃えるには60年かかる。今年も伊勢に行かないと、と思ってもらいたい」とのことだ。

 ちなみに木札の表には「参宮」という文字が入っているが、これは伊勢神宮にしか使えないもので、ほかの神社では「参拝」。この木札は下半期の土曜日に外宮前で、1日400個ほど無償配布しているという。

売り切れ店続出の「サミットビール2016」を製造する「伊勢角屋麦酒」の工場見学

 G7伊勢志摩サミットに向けた企画商品も多数出てきている伊勢市であるが、発売以来、売り切れ店続出となっているビールがあると聞き、その製造元である「伊勢角屋麦酒・麦酒蔵」(いせかどやびーる びやぐら)の工場見学をさせていただいた。

 伊勢角屋麦酒は、1575年(天正3年)に舟参宮の船着き場で茶店「角屋」として創業し、1923年(大正12年)から醸造業も始め、現在も角屋(かどや)味噌醤油のブランド名で、昔ながらの製法で醸造を続けている。クラフトビールの製造販売を始めたのは1997年。無濾過・非加熱の伊勢角屋麦酒ブランドは、2003年のAIBA金賞受賞や、多くの国際大会でも受賞を重ね内外から高い評価を得ているとのこと。

 その伊勢角屋麦酒がリリースした「サミットビール2016」(330ml、552円)は、アメリカ産のとき新種ホップ「SUMMIT」を使用し、G7にちなみ7種類のホップを使用し特徴のある飲み口であるが、アルコール度数も高くなく優しく飲みやすいビールに仕上げている。

伊勢角屋麦酒の店内。通販も行なっており「サミットビール2016」のほか「ペールエール」も人気。期間限定商品も多い

 製造工場の見学時に解説をしていただいたHead Brewerの出口善一氏は、「原料、各工程での温度や時間で味や香りが変わってくるんです。なので、キチンとした管理を行なって安定した品質でお届けしています」と話してくれた。

 麦芽、ホップ、水などの原料を煮沸し糖化させて麦汁を作り、そのあとに冷却した麦汁に酵母を入れ、酵母が麦汁の中に含まれている糖分を食べて、アルコールと炭酸ガスに分解し熟成することでビールになるのは知っている方も多いと思うが、味の違いは原料と作り手によって決まるものである。

 出口氏に「麦芽をミルで粉砕し、52℃の720Lの湯に入れ、52℃から66℃、場合によっては異なりますが適切な温度で、でんぷん質を糖化させて、酵素の失活のために76℃まで上げる。そのあとに麦の殻と濾過盤を使って濾過、それから煮沸槽に移送させて90分煮ます。そのときにホップを入れて苦味付け、あとから入れるレイトホップで香りを付けます」と麦汁の製造工程について教えてくれた。

写真左上から右に、麦芽を粉砕するミル、糖化させて濾過する槽、槽の中の濾過盤、煮沸槽、温度管理をする操作パネル、酸化を防ぐため、空気を抜いて二酸化炭素を入れてからビールの瓶詰めをするボトリングマシーン
製造工程について解説いただいた出口氏と、温度や糖度などを時間軸で管理しているチャート。実際に熟成途中のビールを数種いただいたが、特徴ある味と口当たりだった

 製造された麦汁から生み出されるビールの味を左右する酵母について、酵母の研究や選定をしている女性は「糖分を酵母が食べてアルコールと二酸化炭素を作り出してビールになります。花の蜜は糖分を多く含んでいるので、それが研究を始めたきっかけです。花をバサっと採ってきて培養して、お酒作りに適した酵母を選定する研究をしています」と答え、「再来週には、母の日に向けてカーネーションの花から採取した酵母を使った発泡酒がリリースされます」限定販売品について教えてくれた。

アルコール度数が4%なので「女性を口説くときには不向きですね?」と聞くと「いっぱい呑んでもらうしかないですね」とのこと。「コミックの『もやしもん』みたいに菌と会話ができたら、どんなにビール造りが楽になるか……」とビール造りへの思いを語ってくれた

 実際に試飲させていただくと、温州みかん、伊予かん、サンフルーツのフレーバーが香り、女性が飲んでも似合うと感じた。アルコール度数は4%と抑え目ということ。

 伊勢角屋麦酒では伊勢角屋麦酒・麦酒蔵はもちろん、伊勢まちかど博物館に認定されている「かどや民具館」「角屋 味噌溜まり蔵」「二軒茶屋餅 本店」をスタッフが案内する見学も行なっている(要予約)。伊勢市の訪問時には、こちらへも足を運んでみてはいかがだろうか。

ツアーの最後は「二軒茶屋餅」

 伊勢角屋麦酒の工場見学を終え、その前身である茶店「角屋」の「二軒茶屋餅」をいただいた。伊勢神宮参宮客が多く行き交った舟参宮の船着き場には、名物餅を売る茶店「角屋」と、うどんとすしの「湊屋」だけが建っていたことから、この地を二軒茶屋と呼んで、それが餅の名になったと言い伝えられているのだそうだ。

 参宮客をもてなしてきた二軒茶屋餅は、こしあんを薄皮の餅で包み黄粉をふった素朴な味わい。実際に食してみると、その餅は薄皮であること以上に柔らかく、つきたての餅のようでもある。あんも甘さだけを強調したものではなく、包んでいる餅との相性も抜群で、何個でも食べられそうである。1575年(天正3年)の創業から続く「おもてなし」の心が、いまでも伝わる和菓子だった。

二軒茶屋餅の店内と外観。風情あるたたずまいが往年の伊勢を感じさせる。伊勢角屋麦酒・麦酒蔵の向かいにあるので伊勢角屋の見学の際には立ち寄ってみてほしい

酒井 利