旅レポ
リラクゼーション in フィンランド(前編)
レーモンカルキの湖でアイスフィッシング世界大会!?
(2016/4/12 00:00)
フィンエアーに招かれたプレスツアーに参加した筆者らは、ヘルシンキ空港に隣接するフィンエアー本社での発表会のあと、空港からバスに2時間ほど揺られ、ヘルシンキの北、湖水地方と呼ばれる地域に到着した。氷河期の分厚い氷によって大地が削り取られ独特の地形をなしたこの地域は、無数の湖と深い森のある手つかずの自然が残された、フィンランドらしさをもっとも感じ取れる場所の1つ。
そのなかでも比較的大きなパイヤンネ湖の、ほぼ南端に位置するリゾート地「レーモンカルキ」で、いくつかのアクティビティプログラムにチャレンジすることになった。最初のプログラムはアイスフィッシング、氷上での釣りだ。日本でも厳寒期に北海道や富士山の麓などで湖面に張った氷に穴を開け、ワカサギを釣ったりするアレである。
ガイドによると、1月から4月初旬までの約3カ月間が、レーモンカルキでアイスフィッシングの可能な季節。ただ、雪が多く積もっていると湖上のフィッシングポイントにたどり着くのに苦労するため、積雪が少なくなる3月がハイシーズンだという。今回のプレスツアーは開催されたのが4月初旬で、タイミングとしては本当にギリギリ。現地ガイドが「来週になったら氷に乗れないだろう」と話すほどだった。
レーモンカルキに集ったのは筆者ら日本人4名、ガイドを含めたフィンランド人2名、ロシア人2名の計8人。レーモンカルキを訪れる多くの観光客は、だいたい丸1日のんびりとアイスフィッシングするとのことだが、今回は朝10時から13時までの3時間という短期決戦。「もっともたくさん釣れるのは誰か」という“世界釣り大会”の様相を呈することに……なるかと思いきや、意外な結末が待ち受けていた。
なお、レーモンカルキではアイスフィッシング以外にも、冬場はスキーやスノーモビル、かんじきをはいて雪の降り積もった場所をトレッキングするスノーシューなどを体験でき、夏場は手こぎボートやモーターボート、普通の釣り、乗馬、森と湖畔のウォーキング、ゴルフを楽しめる。ほかには小型飛行機で遊覧飛行したり、レンタルした自転車やセグウェイで散歩したりもできるという。
フィンエアーが、乗り継ぎの合間に現地の各種アクティビティを体験できる「StopOver Finland」を4月から開始する件は弊誌記事で触れたとおり。残念ながら今回のレーモンカルキにおけるアクティビティはいまのところStopOver Finlandで取り扱う予定はないとのことだが、フィンランドではこういった内容のアクティビティはかなりポピュラーで、湖水地方の多くの場所で体験できる。StopOver Finlandの提供プログラムも随時拡充される計画なので、いずれは気軽に予約できるようになるかもしれない。
ちなみに、アイスフィッシングにかかる費用は、1人当たり日本円でおよそ2000円前後といったところ。防寒装備や釣り竿など各種レンタル品もこれに含まれるので、かなりリーズナブルに楽しめる。
レンタル装備による万全の防寒対策でアイスフィッシングへ
北欧のフィンランドといえば「寒そう」というイメージをもつ人が多いはず。その認識はあながち間違ってはいないけれど、真冬は平均気温でマイナス10度以下、レーモンカルキでは時にマイナス30度以下になる一方で、真夏の8月頃は30度を超えることもある。季節による気温の上下動がけっこう激しいのだ。
レーモンカルキを訪れたこの春先は、時折雨が降ったり、晴れたりとめまぐるしく天候が変化したが、夜間でも体感上はマイナス気温まで冷え込むようなことはなく、陽が出ている日中はぽかぽか陽気で気持ちがよい。軽い防寒具さえあれば周辺を歩き回るのに十分だ。
というわけで、到着翌日の朝10時、アイスフィッシングをスタートする前に、まずは防寒用のオーバーオール、ブーツ、グローブの3点フルセットを借りて着込む。それほど冷え込まない季節とはいえ釣りの最中は動くことがあまりないため、レンタルして万全の装備で挑むのが得策だ。そして、この季節の溶けかけた湖面の氷はよく滑るから、現地の本格的な雪中用ブーツも借りておきたい。筆者はさらにグローブも借りたものの、実際には「魚が食いついた時の感覚が分かりやすい」とのことで、素手のままで釣りをするのが一般的のようだ。
フィッシングポイントは湖岸から100メートルも離れていないすぐのところ。朝のうちにガイドが人数分の穴をドリルで開けており、すぐにアイスフィッシングを始めることができるように準備してくれた。ドリルで穴を開ける方法も教えてくれるので、勘を頼りに自分で好きな場所に穴を開けてもよい。湖面に張った氷はカチカチのアイスブロックというわけではなく、シャーベット状の柔らかい状態。なのだが、この時は70cmほどの厚さがあり、穴を開けるにはそれなりの体力が必要になる。
30分でポイント移動。4回移動したその成果はいかに!?
釣り竿の使い方の説明を受け、いざフィッシング。フィンランドのアイスフィッシングではルアーを用い、ルアー先端にある釣り針にエサとして小さなワームを付けておく。釣り糸を4~8メートルほどある湖底まで垂らしてたわんだところで、竿のリールを少し巻き戻して底から20cmほど上に釣り針が浮くようにする。そのあとにやることといえば、時々竿を小さく動かしルアーを翻らせ、少し離れたところにいるであろう魚の興味を引かせるようにするくらい。あとはただ、折りたたみ椅子に座ってひたすら待つのみ。
ところが待てども待てども当たりがない。しばらくして我慢しきれず引き上げてみると、いつのまにか針からエサがなくなっていたが、魚に突かれたような感触はなし。新しいエサに変えても相変わらずのノーレスポンスだ。ほかの参加者もまったく手応えがないようで、30分ほど経過したところでガイドが「ここには魚がいない、別の場所に移動しよう!」とあっさり諦めた。
新たなポイントでも皆、まったく魚がかからず、再び30分ほどたったあたりでさらに移動することに。2回移動したあとのポイントでようやく別の日本人男性1人がエサに食いつかれた感触があったと話したが、単にエサを取られただけで釣り上げるには至らなかった。
それにしても、ただ座って釣り糸を垂らし、当たる気配すらない竿に神経を集中させて、ぽっかり開いた穴を見つめているだけなのに、なぜこんなにも満ち足りた気分になるのだろう、と不思議な気持ちになる。陽が出たおかげで通り抜ける風にも冷たさは感じられず、聞こえるのは周囲の氷が溶け出している音と、風が耳を打つ音、そして遠くで鳴く鳥の声のみ。周囲を見渡すと参加者の皆が目の前の穴を静かに見守っている。魚が釣れないからといって文句をつける人は1人もいない。
しかしついに3回目の移動で、ロシア人女性の1人が大物を釣り上げる。30センチはあろうかというまだら模様の「パイク」。日本のワカサギ釣りで釣れるそれに比べるとかなり大きく、“ダイナミック感”のある見栄えだ。しかしこれでもまだ子供とのことで、写真を撮ってひとしきり喜びを分かち合ったところでリリースとなった。
その後はフィンランド人女性が「パーチ」を1匹釣り上げるのが精一杯。パーチは調理して食べることもできる大きさだったようだが、「1匹だけあってもみんなが食べられないでしょ」ということでやはりリリースすることに。筆者はガイドに何度も釣れそうなポイントに穴を開けてもらい、懇切丁寧に釣り方をレクチャーしてもらったが、その甲斐もなく釣果はゼロであり、計4回の移動もまったくの徒労に終わってしまった。
日本人チームは1匹も釣れなかったかというと、実はなぜか1人だけずっと最初のポイントで粘っていた日本人女性が、そのときは誰にも打ち明けることなくこっそり5匹も釣り上げていたらしい。ガイドは「Five fish lady」として彼女の名を記憶にとどめることになったようだ。
釣果を気にせず全身で自然を感じたい
本来であれば丸1日かけ、あちこちポイントを移動しながら、焦らず、釣果も気にせずに楽しみたいところ。澄んだ空気や穏やかな風、木々のざわめき、遠くで聞こえる鳥の声や羽ばたき、それらナチュラルノイズのなかでも感じられる静寂、そういったものを全身で感じ取り、あるいはそれに身を任せてリラックスできるのも、フィンランドの大自然のなによりの魅力だ。たとえ結果がボウズでも、精神的には100%満たされること間違いなしのスポーツ兼ヒーリングアクティビティが、フィンランドのアイスフィッシングなのである。