旅レポ

マスク着用でCAに求められる「目の表情で伝える・感じ取る力」。JALの羽田~福岡線に乗って分かったコロナ後の新基準

2020年6月15日 搭乗

身近にウイルスがあるという前提で、JALの羽田~福岡線に搭乗してみた

 全国的な緊急事態宣言が解除され、6月19日からは段階的緩和がステップ3へ移行。県境をまたぐ移動の自粛が緩んでいくことで、新型コロナウイルスの脅威が日に日に弱まっていると感じている人も多いのではないだろうか。一方で、油断から再び感染拡大へ反転するリスクも潜んでいる。

 こうした状況下で、「旅客機」という大きな密室を運航する航空会社は、どのような取り組みをしているのだろうか。JAL(日本航空)が6月15日に運航したJL319便(羽田~福岡線)へ実際に搭乗して、その一連の様子を体験してみた。

6月13日から機内でアルコールシートの配布を開始。利用者と協力して「衛生的で清潔な環境を作っていく」

この日のJL319便は国内線仕様のボーイング 787-8型機
搭乗橋にも消毒液が用意してあった

 この日東京は30℃を超える気温だったため、搭乗中から機内の冷房はやや強めに効いているように感じられた。ちなみに、以前も本誌で紹介したが、搭乗・降機中も機体側の空調を積極的に使うことで、機体の高性能フィルターを使って客室の空気を清浄に保っている(関連記事「飛行機の換気についてJALに聞いてみた。搭乗・降機中も機体の空調を積極活用してきれいな空気に」)。加えて、運航中の機内の空気は常に循環しており、2~3分ですべて入れ替わる仕組みなので、密室ながら客室の空気がよどんでしまうこともない。

3席並びの中央は発売していない(6月30日まで)

 当日の羽田~福岡線は国内線仕様のボーイング 787-8型機による運航で、総座席数は291。ファーストクラス6席、クラスJが58席、普通席が227席という内訳だが、利用者同士が隣り合わないよう、ファーストクラス3席、クラスJ 33席、普通席150席しか販売していない(計186席)。この日のJL319便は満席だった。

 3席並びの中央が空いていることを除けば、機内の様子は普段と変わらない。席にはあらかじめイヤフォンが置いてあり、紙の機内誌と機内販売カタログもシートポケットに備えている。機内で流れる安全ビデオはいつもと変わらないが、万一酸素マスクが下りてくるような状況になった場合は、「着用しているマスクを外して直接酸素マスクを付けるように」というアナウンスが別途あった。

 ただし、枕とブランケットの貸し出しは行なっておらず、搭載もしていないという(病人用の毛布のみ数点用意がある)。客室の温度は機長やチーフパーサーの指示で変更することもあるそうだが、暑さ寒さの捉え方は個人差もあるので、これから夏に向けて冷房に弱い人は自前でブランケットを用意しておくとよいだろう。

 ちなみに、間隔を空けるために販売をブロックしている席については、「さまざまな感染拡大防止対策が整った」ことから6月30日でこの措置を終了し、7月1日からは従来どおり全席の販売を再開する予定になっている。

荷物入れのロックを確認するときも手袋を着用している
ドリンクサービスでは種類の異なる手袋を着用していた
現在ドリンクは紙パックで配布している
機内に備えている「拭き取り用アルコールシート」
積極的な配布はしていないので、必要なら自分でピックアップしよう
サイズは長辺が20cmくらい。パッケージ裏に記述があるが、飛行機の窓や個人用モニターの画面、革製品への使用を避けること

 着席が進むとマスクを着けたCA(客室乗務員)が頭上の荷物入れのロックを確認して回るが、このときすでに手袋を着用していた。利用者が触れるところに触るときは手袋を付ける、という方針になっているためだ。機体が上空で安定すると機内サービスに移り、飲食物に触れるときは先ほどとは別の、やや厚手の手袋を着用している。定期的に手指の消毒を行なっているそうだが、手袋も状況に合わせて交換しているわけだ。

 飲み物はホットコーヒーやソフトドリンクなどを紙コップに注ぐ形での提供は見合わせており、利用者が自分でストローを挿す紙パック式のドリンクを配布している。種類は基本緑茶のみで、子供向けにはアップルジュースを用意しているほか、薬を飲む人のためにギャレーには念のため水も備えている。ホットコーヒーやスカイタイム(キウイジュース)を飲みたいという向きもいそうだが、利用者からドリンクサービスについて不満はまったく聞かれないとのこと。

 そして、6月13日からは機内で「拭き取り用アルコールシート」の配布を始めている。一人一人に積極的に配ってしまうと接触になるので、かごに入れて搭乗中のドア付近、あるいはギャレーに置くなど、必要な人が自分で手に取る形にしている。利用者が触れる部分は事前に清掃を行なっているが、気になる部分があるなら利用者自身でも消毒清掃を行なえる。開けてみたところかなり水分たっぷりで、しっかりアルコール臭もする。肌が弱い人は手指には使わない方がよいかもしれない。

ファーストクラスの食事は食器にフタをして提供する
機内販売も従来どおり行なう
ただし、クレジットカード承認用のキーパッドは逐一消毒する

 このほかに利用者が触れるところと言えば、化粧室が挙げられる。化粧室内ではすでにスプレー式の消毒液が用意されていたが、化粧室のドアノブや個室の鍵など、利用者が触れる部分のCAによる消毒も近日中に始める。飛行機が空港に到着して、次の搭乗を待つまでの間に(化粧室を含む)清掃するというのは以前から実施しているが、今後は航行中も適宜、利用頻度を見ながら消毒を行なっていく。

化粧室内にはスプレー式の消毒液を設置済み
利用者が触れる部分についてはCAが適宜消毒する。この取り組みは近日中に開始するとのこと

 こうした一連の取り組みについて、搭乗前に羽田空港で客室本部長の鳥取三津子氏にお話を伺ったが、今は利用者も乗務員もお互いマスク越しになるので、「感知力を最大限に活かして接客することを心がけている」というコメントが印象的だった。以前と違って口元が見えず、機内では騒音で声が届きにくくなることもある。そんななか、目の表情で伝えること、感じ取る能力が求められていく。

 鳥取氏は、「お客さまとともに、常に衛生的で清潔な環境を作り、こうした取り組みに関する情報を迅速にお届けすることで、今後さらに安心いただける空の旅を提供したい」という。

羽田空港でお話を伺った日本航空株式会社 執行役員 客室本部長 鳥取三津子氏
福岡空港に到着。降機時も通路に詰め合わせないように間隔を取ることを促す
バゲージクレームでは自発的に間隔をあける様子が見られた

編集部:松本俊哉