旅レポ

入山可能となった阿蘇中岳・草千里ヶ浜

阿蘇火山博物館や阿蘇スーパーリングでカルデラの歴史を学習

阿蘇山ロープウェイのりば

 熊本応援企画の第7回目は、阿蘇山中岳・草千里を紹介していく。生活道路や阿蘇大橋の寸断など、いまだ目的地への移動に制限はあるが、2016年10月より阿蘇山の中央火口である中岳の噴火警戒レベルが3から2となり(2017年3月9日現在は1)、火口から1kmの距離までアクセスが可能となった。

 その中岳山頂付近には、火口までのロープウェイ(運休中)、そして手前には阿蘇火山博物館や絶景が広がる草千里ヶ浜といった阿蘇のカルデラを歴史や匂いで体感できる観光スポットが集中している。

阿蘇山中岳・草千里へのアクセスは限定的

 今回はアクセスルートが限定的であるため、熊本市内、熊本空港、九州自動車道熊本インター方面から向かう場合のルートから説明していこう。この草千里エリアへは、豊肥本線阿蘇駅前から県道111号の阿蘇東登山道「阿蘇パノラマライン」を登っていくルートしか使用できない。その他の阿蘇北登山道と阿蘇南登山道は通行止めとなっている。

 熊本市・熊本空港は、阿蘇駅から西側にあり、通常であれば国道57号を使用するかたちとなるが、熊本地震の影響で迂回が必要となっている。大津のミルクロード入口交差点(HOTEL AZ 熊本大津店とローソンが目印)から北に進み、峠越えをして赤水駅付近に降りてくるかたちとなるが、阿蘇の街並みを見下ろせるポイントもあり、これはこれで気持ちのよいドライブルートとなっている。

 ミルクロードを降りてきて左折し、国道57号を道なりに10kmほど進むと阿蘇駅が見えてくる。すぐ隣には「道の駅阿蘇」もあるので、地元のフルーツなどを購入してみるのもオススメ。豊肥本線は運休中なのでレンタカーでの移動がよいだろう。

 それでは駅前の交差点を南に進み、阿蘇パノラマラインを登っていくとしよう。途中の絶景も撮影ポイントだが、片側1車線の箇所もあるので停車場所に注意が必要となる。

豊肥本線 阿蘇駅前交差点
豊肥本線 阿蘇駅
道の駅 阿蘇
ここから阿蘇パノラマラインへと入っていく
途中、阿蘇の街を眺めることができるポイントがいくつかある
杵島岳の山腹がすぐそこまで迫ってくる
米塚と呼ばれる古墳のような形状の山

草千里ヶ浜

 阿蘇駅前から阿蘇パノラマラインに入り、20分ほどで中岳手前の草千里エリアに到着する。距離にして13kmほど。自然な池ができている草原一帯は「草千里ヶ浜」と呼ばれているが、ここからも中岳火口から吹き上がる水蒸気の様子を確認することができる。さらに2kmほど進むと、火口すぐそばの阿蘇山ロープウェイのりばの駅舎にたどり着く。

草千里ヶ浜

 阿蘇パノラマラインの最後のカーブを越えると、左手に阿蘇火山博物館、そして右手にはどこまでも広がる草千里ヶ浜が現われる。

現在は入山規制されている烏帽子岳の登山道案内図
草千里ヶ浜の向こうに見えるのが烏帽子岳(1337m)
中岳火口方面
烏帽子岳方面
阿蘇パノラマライン入口方面

 広大な草原や自然にできた池、シーズンによっては乗馬体験もできる草千里ヶ浜だが、2月初旬に野焼きが行なわれ、通常時期よりも景色が黒く見えているとのこと。この一帯がグリーンに色づくのは4月下旬。レストラン・カフェの「ニュー草千里」や阿蘇火山博物館のある駐車場は無料開放されているので、気兼ねなく千里ヶ浜を満喫することができる。

 草原と空のみと遮るものがなく、開放感にあふれているが湿原のように泥濘んでいる箇所もあるのでハイヒールやスニーカーよりも、トレッキングシューズでフィールドに降りることをオススメしたい。

草千里から見える中岳火口からの水蒸気。阿蘇パノラマラインをそのまま奥まで進み、阿蘇山ロープウェイのりばまで

阿蘇スーパーリング

 阿蘇山ロープウェイは現在運休中だが、建物内2階にある「阿蘇スーパーリング」という直径6mの巨大ジオラマを利用したプロジェクションマッピングシアターをオススメしたい。巨大な噴火を繰り返してきた歴史や、阿蘇の雄大な四季といった映像コンテンツを楽しめる。

阿蘇スーパーリングは阿蘇山ロープウェイのりばの建物内にある
中岳火口まで、約1km。ロープウェイで858m、高低差108mを進むと火山西駅に到着するが現在は運休中
ロープウェイは運休中。2016年10月の噴火で阿蘇山上神社も灰を被っていた

 1回8分間の上映で、料金は大人500円、小人250円。上映の前後に映像が投影されていないジオラマを確認することができるが、阿蘇のカルデラがよく分かる形状となっているので、ぜひ確認していただきたい。土産コーナーも充実しており、火山灰を固めて作られたくまモンの人形「わが灰」シリーズが販売されていた。購入できるのは全国でもここ阿蘇山ロープウェイのりばと、箱根ロープウェイの2カ所のみとのこと。

 1階に降りてくると、フロア全体がバス停留所の待合所といった雰囲気で、土産売り場や軽食「阿蘇山茶屋」がある。黒ゴマを練り込んだ「火山灰ソフトクリーム」はなめらかな口当たりとゴマの風味が効いており、筆者はペロリと食べてしまった。ちなみにこのあたりの気温は3℃ほど。

阿蘇スーパーリングは2階にある
券売所
様々な投影パターンと迫力の音響で五感に訴えかけるプログラム
ジオラマは実際の縮尺よりも縦方向に大きくデフォルメされているとのこと
実際の阿蘇山。阿蘇五岳と呼ばれるこのあたりは、お釈迦さまが仰向けに寝ているように見えることから「阿蘇の涅槃像」とも言われている。写真左が顔となり、中岳火口(水蒸気が出ている箇所)がへそのあたりとなる
閉鎖中のロープウェイ乗り場改札口
火山灰で作られたくまモングッズ「わが灰」シリーズ
フォトスタンドが1300円
人形のビッグが900円
1階の土産コーナー
1階の奥にある阿蘇山茶屋
火山灰ソフトクリーム(350円)

阿蘇火山博物館

 阿蘇火山博物館は、中岳火口壁に設置されたカメラにてリアルタイムで観察できる施設だが、現状は2016年の噴火の影響によりシアタースクリーンは休止中。しかし、その他の阿蘇の歴史や火山活動にまつわる学習ができる常設展示室だけでも、十分満足できる内容となっている。

草千里駐車場手前側にある阿蘇火山博物館

 1階の受付の隣は観光案内所となっており、この周辺の歩き方をレクチャーしてくれる。2階に昇ると、ジオラマや火山岩の実物など、多くの資料パネルが出迎えてくれる。さらに阿蘇に生きる生物の剥製や歴史までを、一度に知ることができる。

1階ロビー奥に受付と観光案内所カウンターがある
エスカレーターで2階に登ると、地球から日本列島の特徴、九州全土の地理などを説明するパネルが展示されている
阿蘇のカルデラができた順序を可動式のジオラマで説明するアトラクション
展示スペースの入り口付近
溶岩トンネルをくぐると、その先にある展示物が現われる
阿蘇火山の地形の説明図
過去噴火を繰り返してきた阿蘇の火山の活動記録は、火山灰の飛散エリアが広大であることが分かる。ちなみに約9万年前の噴火では、北海道でも堆積が確認されるほどの大規模噴火であることが証明されている
阿蘇火山の地形と地質断面のジオラマ
地球に分布している火山の説明ゾーン
日本の主な火山分布図。多くの火山が山地に沿っていることが分かる
阿蘇中岳の噴火の映像記録。噴火に至るパターンの説明も用意されていた。例外もあるとのこと
中継カメラで阿蘇中岳火口の様子を確認できるモニターゾーン。現在は過去の映像を上映中
1992年に起こった噴火によって噴石の被害を受けた火口カメラ
阿蘇に生きる自然動物を紹介するエリア。多くの剥製を見ることができる
古墳時代に出土した石器を展示している
火の神として祭られている阿蘇山の歴史を説明するパネル
「草泊まり」と呼ばれる小屋は草刈り時期のみに使用されていた野営の家
3階に上がると、5面の大型モニターを使用したシアターがあり、阿蘇にまつわる映画を上映している
3階の広場は展望室となっており高所から草千里ヶ浜が楽しめる
今回、館内をガイドしてくれた豊村克則さん「火山を知るということは自分たちの住んでいる日本、すなわち生活を守る手がかりを知るということなんです」と我々日本人の生活に密着していることを説明してくれた

ニュー草千里

 阿蘇火山博物館の敷地内には、ほかにも飲食店施設が複数立ち並んでいるが、現在は東端の「ニュー草千里」のカフェ「カフェ・リセット」と、土産販売スペースが営業中。さらに、展望レストラン「ASO BUONO」が時間を短縮して営業中だ。

限定的に営業中のレストラン・カフェ「ニュー草千里」

 取材時には1階の「カフェ・リセット」にはレンタカーで阿蘇パノラマラインを登ってきた観光客の姿が目立っていた。「ASO BUONO」は11時から15時(ラストオーダー14時)と短縮営業だが、4月下旬から営業を休止する予定とのことで、草千里を満喫できるのは4月中旬あたりといったところだろう。

 これから訪れる際は、ニュー草千里の公式サイトで事前に営業案内を確認していただきたい。なお、駐車場は現在無料開放中となっている。

現在は無料で開放されている駐車場
「カフェ・リセット」の店内
「カフェ・リセット」の土産コーナー

阿蘇神社

 もし、時間に余裕があるのなら阿蘇神社にも立ち寄ってみてはいかがだろうか。阿蘇神社も平成28年熊本地震の被害を受けた場所として本震から11カ月が過ぎようとしているが、崩れた楼門は解体用の足場が組まれている状態だ。拝殿はすでに撤去工事が完了しており、今後新たな拝殿の造営が開始されるだろう。

阿蘇神社

 通常の神社と違い、鳥居の向きが拝殿に対して直角に向いているが、これは鳥居の延長線上に阿蘇五岳があり、古くから火の神様として祭られてきたことがよく分かる。

 阿蘇神社に隣接する「阿蘇一の宮門前町商店街」には、200mほどの短い区間に古民家風カフェや食事処、アトリエなどが密集している通りとして、週末は観光客で賑わうスポットだ。

境内に入ると足場に囲われた楼門が解体を待っているところだった
拝殿は既に撤去工事が完了していた
鳥居の延長線上に阿蘇五岳が見える
復旧に向けて寄付の案内が掲示されていた
2016年9月当時の様子(筆者撮影)
阿蘇一の宮門前町商店街

少しづつ日常を取り戻しつつある阿蘇エリア

 今回紹介した阿蘇中岳・草千里エリアや阿蘇神社のある阿蘇市は、アクセス方法こそ限定されるが、ミルクロードから阿蘇市に抜ける道中や、草千里に向かう途中の阿蘇パノラマラインから阿蘇市街を見下ろす風景は、とにかく大自然を感じられる風景ばかり。さらに草千里ヶ浜の広大な草原に圧倒されつつ、火口から吹き下ろしてくる微かな硫黄の匂いに、日本の国土全体が火山と密接に生活している、ということを痛感できる。

 これから春を迎える阿蘇の山々は、今回の紹介した草千里ヶ浜の黄金色から新緑に変わり見頃を迎える。近隣には桜の名所も数多く点在しているので、ぜひ花見と火山のセットで楽しんでいただきたい。

赤坂太一

福岡市在住のライター。トラベル Watchでは、九州・山陽エリアの取材を担当することが多い。自動車誌をはじめとする乗り物系媒体に寄稿しているが、最近では一般紙から新聞の取材も。東京から福岡に移住して5年目をむかえた札幌生まれ。ブログはhttp://taichi-akasaka.com/