旅レポ
「九州の小京都」熊本県人吉の街をゆく
県内初の国宝「青井阿蘇神社」を中心とした散歩ルートで“隠れ里”の雰囲気を味わう
2017年1月12日 00:00
熊本応援企画の第6回目は、県南部の人吉市。熊本市中心部からは鉄道で2時間(快速で1時間半)と、南北に長い移動を要し宮崎と鹿児島の県境もすぐそこ、という山あいの街だ。九州山地に囲まれた立地とあって、隠れ里といった雰囲気が醸成されてきたエリアでもある。今回は人吉駅前から徒歩でスタートし、4時間弱で回れるルートを歩いてみた。そのなかには人吉城跡や、国宝にも指定されている青井阿蘇神社という、“もう一つ”の阿蘇神社もある。
まずは人吉駅でオススメスポット情報をゲット
人吉市の中心部は九州自動車道人吉IC(インターチェンジ)から2km弱。熊本市の中心部からは90km近く走ることとなり、レンタカーで1時間ほどだろうか。レンタカー移動もよいが時間に余裕があれば鉄道の利用も視野に入れておきたいところ。
熊本駅からはJR鹿児島本線とJR肥薩線を利用するかたちとなるが、「SL人吉」や「いさぶろう・しんぺい」といったD&S(デザイン&ストーリー)列車でアクセスするのもよいだろう。所要時間は片道で1時間半〜2時間といったところ。特に肥薩線は、経由地でもある八代海に流れ込む球磨(くま)川沿いを走っているので、深い渓谷の眺めを楽しめる。人吉駅には、「人吉鉄道ミュージアム MOZOCAステーション868」や転車台といった“鉄”成分が多めのスポットもある。
筆者は福岡からクルマで現地入り。駅前に駐車して人吉駅の観光案内所で見どころを探ってみる。そこでは青井阿蘇神社から街全体をグルっと歩くルートマップを提案されたので、そのとおりに歩いてみることに。
人吉駅前には、からくり時計が建っており、1時間毎に臼太鼓踊りなど日本遺産にまつわる演舞が披露される。人吉駅と、もう一つの鉄道会社である「くま川鉄道」のサービスカウンターではレンタサイクルのサービスもあるので、より多くのポイントを回りたい! という場合は利用してみるのも手だ。
熊本県唯一の国宝「青井阿蘇神社」
JR人吉駅から駅前通りを400mほど行くと、最初の立ち寄りスポットである「青井阿蘇神社」(熊本県人吉市上青井町118)に到着。
茅葺き屋根の意匠が特徴的なこの神社は、806年(大同元年)に創建され、現在の本殿は江戸時代初期に造営されている。2008年には本殿、廊、幣殿、拝殿、楼門が熊本県初となる国宝に指定された。
名称にもあるとおり、阿蘇神社の御祭神十二神の内の三神の御分霊が、ここ青井阿蘇神社に祭られている。健磐龍命(たけいわたつのみこと)、妃の阿蘇津媛命(あそつひめのみこと)、その2人の子供である國造速甕玉命(くにのみやつこはやみかたまのみこと)の三神。
室町時代から江戸時代にかけて700年もの間、藩主を務めてきた相良氏が中心となってさまざまな文化財を生み出してきたが、ここ青井阿蘇神社をはじめとする人吉エリアは、その宝庫としても知られている。
人吉城正門が移設された「武家蔵」までの道のりに「川の街」を感じる
青井阿蘇神社をあとにし、再び駅前通りに戻り、さらに南に向かって次のポイントへ。すぐに大きな橋が現われて球磨川を渡る。次の目的地は、人吉城のかつての正門が移設されたという「武家蔵」。
そうして歩いている途中、「ゆうれい寺」の看板が現われた。永国寺という曹洞宗の寺院だが、幽霊の掛け軸が展示されている場所として聞き覚えのある読者もいるかもしれない。
そこから東に進むと、城の門のような入口をもつ建物が現われた。この門こそ人吉城の堀合門が移設された武家蔵だ。さっそく脇の入口から入場し入館料300円を支払う。その奥には、青井阿蘇神社でも見られた分厚い茅葺き屋根の「御仮屋:おかりや」と日本庭園がお目見え。御仮屋の中は囲炉裏のある部屋や、西郷隆盛が「西南戦争」の後に30日間ほど滞在した部屋が資料とともに公開されている。2階建て構造を持つこの屋敷には隠し部屋があり、屋根裏の隣にスペースが設けられているところも確認できる。今となっては貴重となった松の一枚板が用いられた床材など、建物全体が資料そのもの、といった内容だ。
城壁に「武者返し」が残る人吉城公園
武家蔵から歩くこと200m。小さな川に架かる橋を渡るとそこは「人吉城公園」の敷地内。中に進んでいくと「人吉城歴史館」なる建物や広大な芝生広場があり、その向こうに城壁跡が見える。
人吉城歴史館は、当時の藩主として人吉を統治していた相良家の資料など、人吉城が長きに渡り繁栄してきた資料が展示されている。入館料は高校生以上の大人が200円。建物の中心には、発掘作業によって出現した井戸が復元されていて見学することが可能だ。
人吉城歴史館から芝生広場を通って城壁方向に歩いていこう。ここまでくると球磨川に沿って城壁が続く様子が確認でき、まさに「天然の堀」といったところだ。中に入っていくと、球磨川に向けた「水手門」の位置関係もよく分かる。
三の丸があった場所は平地にならされており、人吉市が一望できる展望台となっている。そこまでたどり着くためには高低差のある石段を登っていかなくてはならず、少しハード。しかしその眺望は九州山地を背にする隠れ里の全貌が見られるので、ぜひ登っていただきたい。
景色を楽しんだら城下町として栄えた鍛冶屋町通りに向かってみる。
石畳の裏通り的な雰囲気の鍛冶屋町通り
人吉城をあとにして、水の手橋を渡り人吉市街地に戻ってきた。スタートからここまではゆっくり歩いたとして3時間ほどだろうか。今回のルートの最後に、かつて城下町として栄えた「鍛冶屋町通り」に立ち寄ってみたいと思う。
ここは、かつて60軒ほど鍛冶屋が密集していた通りだが、現在は包丁鍛冶店は数軒まで減少し、残った蔵が別業態となり営業している。通りに踏み入ってみると、2017年の正月が明けたばかりで、それほどひと気はなかったが、無料で見学できる店舗がいくつか営業中だったので入店してみた。
みそ・しょうゆ蔵の看板を掲げている釜田醸造所は、作業スペースをすべて公開して見学者の対応をしている。しょうゆの香りが立ち込める工場内の通路を、職人と挨拶を交わしながら進んでいくと、さまざまな機器や発酵部屋を見学することができる。最後にオリジナルの「みそアイス」(270円)を食してみたが、いうなればサッパリとした塩キャラメル風のモナカアイスが絶品だった。
しょうゆの次は「お茶」。釜田醸造所の隣には人吉球磨茶を販売する立山商店がある。ここでは茶葉の販売だけでなく、人吉球磨茶の歴史館としてさまざまな資料が展示されており、試飲をしながら人吉球磨茶を楽しめる店舗となっている。