旅レポ
天草南部・﨑津集落で潜伏キリシタンの暮らしを感じとる
2016年12月22日 00:00
熊本応援企画の第5回目。前々回の「三角西港(みすみにしこう)」、そして前回の「天草五橋」を経由して天草の南部へ。
天草にはキリシタン伝来の歴史を伝える史跡や教会が数多く存在しているが、今回は天草市河浦エリアにある「﨑津集落」を訪れてみた。﨑津天主堂を中心に、街の端々から感じられる潜伏キリシタンの生活の様子をくみ取っていこう。ちなみに﨑津集落は2年後の世界遺産登録に向けて、街の整備を促進させているところだ。
海に浮かんでいるかのような教会「﨑津天主堂」がお出迎え
同じ熊本県内でも天草エリアに関しては、雰囲気がガラッと変わる。“こちら”側は室町時代後期に盛んだった南蛮貿易の影響もあり、長崎県から天草下島にかけて遣唐使船が立ち寄る港が数多くある。
1613年にキリスト教に対する禁教令が発布され、多くのキリシタンは“潜伏”した。「島原・天草の乱」がはじまり天草は荒廃していくが、当時、陸路がなかった﨑津エリアは戦火の影響が少なかった土地として、多くの「潜伏キリシタン」が暮らす集落となっていった。
今回は、街のいたるところに“潜伏キリシタン”の息吹を感じられる﨑津集落を訪れてみた。時代の変遷と共に建て替えが繰り返されてきたシンボリックな天主堂を街の中心に据えて、名産品、風景、天草の海の幸、カフェなど、歴史を伝える観光地として大きな魅力を発している場所だ。
まず、集落の入り口には「天草市﨑津集落ガイダンスセンター」(天草市河浦町﨑津1117-10)があり、街歩きをする前に見どころなどを予習できるので、ぜひ立ち寄っていただきたい。2016年の4月にオープンしたばかりで、土産の販売や資料映像の上映などが行なわれている。2年後の世界遺産登録を目指して準備中とのことで、よりアピールしていく施設としての役割もある。
おだやかな雰囲気の集落のなかへ進んでみる
さて、ガイダンスセンターで見どころを教えてもらい、街の中心部方向へと歩を進めていく。視界に入ってくる風景は現代の港町のソレだが、内海特有の穏やかな水面に癒やされる。
一番目立つランドマークでもある﨑津天主堂へ向かう道すがらにも、レトロな雰囲気の理髪店や古民家を改装したカフェが並んでいたが、開店前に到着したため、最後に改めて立ち寄る計画で行く。
そうして、街の“ヘソ”的な十字路にたどり着いた。山側には、神社の参道、その逆側には土産物屋のような店舗が立ち並んでいる。﨑津天主堂は土産物屋の奥にあるので、最初にそちらに入っていこう。
﨑津天主堂までは100mもないほどだが、曲がり角の反対側に「﨑津資料館みなと屋」という建物がある。こちらも2016年8月にオープンしたばかりの歴史資料館だ。館内は撮影禁止のエリアもあるので、ぜひその目で確かめていただきたい。この周辺から出土した信仰品など、当時の生活が読み取れるような資料が数多く展示されている。
みなと屋を出て、﨑津天主堂まで数十歩。ゴシック様式の教会に到着した。現在の教会は長崎県の建築家である鉄川与助の設計により1934年(昭和9年)に完成した。当時、フランス人宣教師のハルブ神父が、この地に思い入れが強く、明治以来3回も建て直しが繰り返されてきたとのこと。こちらも教会内の撮影は禁止となっているが、国内でも例の少ない畳敷きが特徴的だった。
先程の十字路に戻り、「宮下商店」という茶屋で﨑津の名産品である「杉ようかん」を味わう。うるち米を蒸し、ついた餅を伸ばして餡をくるむといったシンプルな菓子だが、保存料をいっさい使用しておらず、優しい風味ともっちりとした食感がクセになる。日持ちしないので土産には不向きで、その場で味わうのが正解だろう。風味付けのために飾られた杉の葉のほのかな香りが特徴でもある。一皿110円。その向かいには観光案内所があるので、イベント情報やランチできるポイントを教えてもらうのもアリ。
﨑津を見下ろす展望台をはじめとした撮影スポット
﨑津天主堂から先の十字路に戻り、反対側を見ると山の斜面に諏訪神社が見える。その先の階段を上り山頂までいくと「教会の見えるチャペルの鐘展望公園」にたどり着く。ここは円形のステージ状となっている展望公園で、目の前の羊角湾や東シナ海を一望できる。南東方面に開けている景色は、時間帯によっては夕日を浴びる山々を眺めることができるだろう。
ただ一つ注意したいのが階段の段数だ。時間にして20分ほど階段を上り続けることとなるので、自分の体力と相談していただきたい。
続いて集落の南側にくると、「海上のマリア像」が見えるポイントにたどり着く。像は海側を向いているため、陸からはその横顔を見る格好となる。時間や天候によっては、船をチャーターして海上から見るプラン「海上のマリア像クルーズ」も用意されているので体感していただきたいポイントだ。ちなみにこの像は1972年に建てられ、地元の漁師が大漁と安全を祈願してから漁に出ていくというシンボルとなっている。また「天草夕日八景」の一つでもある。
天草の海の幸を堪能できるランチやカフェで休憩
風景を楽しんだら次はグルメ、ということで再び街の中心部に戻ってきた。飲食店も﨑津天主堂の周辺に集中している。朝から歩き続けて、ちょうどお昼頃になったので、ランチ営業している飲食店を探すこととする。
裏通りの風景を楽しみつつ歩いていると、「海月(くらげ)」という看板が目に入ってきたので入店してみる。店内はカウンター5席とテーブルが2卓、店の奥に高い座敷があり、すでにカウンターには数人が座っていた。メニュー表を見てみると、にぎり鮨を選んだ客はカウンター、ちらし寿司の選んだ場合はテーブル、と案内されたので、ちらし寿司をオーダー。「上」と「特上」があったが、せっかくなので2100円の「特上」をオーダー。
特上ちらし寿司は、「鯛」「このしろ」「ひらめ」「ブリ」など、9種の魚が盛られており、口に運ぶたびに舌触りが変わり食べていて楽しい。天草をはじめとする西日本の魚は、基本的にアッサリだがモチモチとした弾力のある身をもつ魚が多い。それらの特徴を存分に味わえるちらし寿司だ。
そして甘口醤油がメジャーな九州だが、こちらでは辛口の醤油も用意されていて、遠方からの観光客も、いつもどおりの感覚で刺身や寿司を楽しめる。小鉢とデザートまで付いており、大満足でお店をあとにした。
海月の並びには、土産物屋「南風屋(はいや)」、表通りに古民家を改装した「下田珈琲」がある。下田珈琲では、ホットとアイスそれぞれ豆を1種類しか使用していないというこだわりのカフェだが、気さくな店主に長崎弁を教わりながら飲むコーヒーが美味しい。地元の窯元にオーダーしたというカップセットには十字架のマークがデザインされており「潜伏キリシタンをイメージして注文したら、コレができ上がってきました。いいでしょ?」と店主も満足気。
さらに、護岸に船を係留しておく「カケ」があり、「お休み処 よらんかな」といった古民家施設では自由に休憩できる。先ほど登場した「海上のマリア像」が見られる撮影スポットにも定食屋があるので、好きなタイミングで食事やスイーツを楽しめる集落ということがお分かりいただけると思う。
ここまで来たらよっておきたいポイント「大江天主堂」
陸路を使って天草下島の南まで、となると九州在住の人間でも「遠い」という。距離にしてみれば熊本中心部から150kmもないほどだが、天草の本土に入ると鉄道や高速道路が整備されておらず、自動車での移動となり、ひたすら一般道を走ることから、そうした印象も強くなるのだろう。
しかし天草でしか見られない風景は確実に存在していること、さらにキリスト教伝来の歴史に触れることができて、今まで天草に馴染みのなかった読者にとっても「わざわざ行ってみる」価値は高いのではないだろうか。
今回は、﨑津集落を中心に街歩きをしてみたが、ここからさらに南方の牛深エリア、あるいは国道389号をさらに進んで西海岸を北上していくコースなど、見どころはまだまだ存在しているので、天草地方は何度来ても楽しめるエリアだ。
最後に﨑津集落からほど近い「大江天主堂」(天草市天草町大江1782)を紹介しよう。大江天主堂は、キリスト教が解禁されて間もない1933年に建立された。こちらもフランス人宣教師のガルニエ神父が関わっているが、﨑津天主堂とは違い、ロマネスク様式の教会だ。こちらも内部の撮影は許可されていない。