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「東京国際クルーズターミナル」工事現場公開。2020年7月開業、9月に「クイーン・エリザベス」入港予定
「船の科学館」の近くに大型客船対応の新ターミナル
2018年12月17日 11:55
- 2018年12月12日 現場公開
- 2020年6月 竣工予定
東京都港湾局は12月12日、整備中の「東京国際クルーズターミナル」の工事現場を公開した。当日は雨の降りしきるなか、海底に打ち込んだ杭にジャケットを被せる作業(ジャケット工法)で桟橋製作する「ジャケット架設」(約854トン)を実施した。
現場説明会では、東京都港湾局 港湾経営部 広域港湾連携担当課長の西平倫治氏が整備の概要を解説。1990年に約462万人だったクルーズ人口は2016年には約2500万人、アジアのクルーズ市場についても10年ほどで3倍の約208万人。日本へのクルーズ船寄港は、2013年に約1000回だったものが2017年には約2500回を超えていると紹介した。
利用価格が比較的リーズナブルになった分、客船自体が大型化。レインボーブリッジの最低桁下高52mが影響し大型クルーズ客船が通過できない現状を打破するために、橋の影響を受けない「東京国際クルーズターミナル」の建設に至ったとのこと。現在は係留施設1バースとターミナルビルを建設している。
臨海副都心エリアが選ばれた理由は、東京駅や品川駅など将来的にリニア中央新幹線が通る要所や、浅草や銀座などの観光エリアに近いこと。さらにフライ&クルーズのニーズに対応するため羽田空港から約25分、成田国際空港からも約60分とアクセスのしやすさが大きな理由。最寄駅はゆりかもめの「東京国際クルーズターミナル駅」(現「船の科学館駅」、2019年3月に改称予定)となる。りんかい線 東京テレポート駅まではシャトルバスなどの交通移動手段の提供も検討中。観光エリアに宿泊施設や温泉、公園なども周辺にあり、まさに観光地の中心に「東京国際クルーズターミナル」が生まれることとなる。
「東京国際クルーズターミナル」のふ頭係留施設は、エアドラフト制限なし(高さ制限なし)で世界最大級のクルーズ客船に対応。例えば「Oasis of the Seas(オアシス・オブ・ザ・シーズ)」レベルの客船も係船が可能。岸壁延長430m(1バース)で水深11.5m。この水深は喫水10.3mの「Queen Mary 2(クイーン・メリー2)」も利用ができる深さ。エプロン幅は30mで防舷材はV型(厚さ1m・縦型)、係船柱も100kN×10本、150kN×9本で世界最大の客船に対応できるスペックと本数だ。
ターミナル施設は365日受け入れ可能で、臨海副都心の新たなランドマーク的存在に。床面積は1万9000m2(4階建て)、ボーディングブリッジが2基。フロアレイアウトは1階がエントランス、手荷物チェックイン、事務所。2階がCIQ(Customs:税関/Immigration:出入国管理/Quarantine:検疫)エリア、バゲージホール。3階はCIQエリア、チェックインカウンター。4階が多目的室、VIPルーム、送迎デッキとなる。
東京湾へのクルーズ客船寄港状況については、現在大型のクルーズ客船が受け入れできない状況の中、2008年から2017年の間で伸びているため今後も期待できるとした。
現在「東京国際クルーズターミナル」の開業にあたり誘致を強化。施策として、客船インセンティブ制度(入港料・岸壁使用料など入港にかかる使用料の減免)、東京湾等旅客誘致促進補助制度などを例に挙げた。PRにおいてはシンボルマークの作成や海外コンベンションへの参加を積極的に行なうとした。
さらに、開業後寄港する大型クルーズ客船についても言及。2020年7月14日第1船として「Spectrum of the Seas(スペクトラム・オブ・ザ・シーズ)」。2020年9月28日にクルーズ客船の代名詞とも言える「Queen Elizabeth(クイーン・エリザベス)」が初入港。その後も10月に3回入港予定で話題を集めていることなどを紹介した。
ジャケットの据付は今年度中にすべて完了予定、2019年はターミナルビルの建築などが中心
土木構造物設計と工事の観点からの解説は東京都港湾局 東京港建設事務所 港湾整備課長の佐竹禎司氏が担当。ロケーションに関してはレインボーブリッジの外側に作る必要があるが、陸地にスペースがないため海上に人口地盤を作りターミナルを作ることとなった経緯を改めて説明。今回、作業が公開されたエリアは7基のジャケットと呼ばれる建造物が設置される場所で、クルーズ客船が接岸するエプロンだ。全長が約430mで奥行きが約30m。ターミナル部分の4基を合わせて合計11基で広さが2.1ヘクタール(サッカー場3面分)となる。特にターミナル下のジャケットは大きく1基あたり長さが約70m、奥行きが約40m。重量も最大1300トン。
これらのジャケットを支えるために合計200本の基礎杭が打たれているが、東京湾は地盤条件があまりよくなく、支持層と呼ばれる固い地盤がかなり深いところにある。そのため基礎部分が長くなっており、最大で約55mほどになると説明。また、ターミナルが乗る部分は比重が重くなるため杭径も約2mの太さとのことだ。
既存の小型桟橋や防波堤の撤去&再設置などを説明したあとは、整備スケジュールについて言及した。現在一番進んでいるのがターミナル部分で、4つのジャケットがすべて据付されいる状態。岸壁の7基のジャケットのうち2基が11月末に据付され、取材日は3基目の部分。4基目は翌週、残りの3基は2019年2月ごろを予定。今期中に11基すべてのジャケットの据付が完了する。なお、ジャケットは津市と北九州市にて2か所で製造。今回は津から2日間かけて曳航されて到着したものだ。
ジャケット設置以降は建設工事が活発になり、ターミナルビルが建ち上がるとした。陸地からターミナルビルまでの連絡通路(車道)はほぼ完成しており、歩行者用の連絡通路は現在設置中。できあがると歩道が「船の科学館」横の「東八塩緑道公園」に通じることとなる。
当日のジャケット据付スケジュールは、30分ほどかけて吊り上げ、1時間かけて台船の移動や位置調整。その後1時間かけて基礎杭へ被せる段取り。起重機船のワイヤーがピンと張り、最後の取り外し作業が行なわれ緊張感が走るなか、台船に乗せられたジャケットがゆっくりながら一気に持ち上がり約90度回転。なお、今回の起重機船のクレーンは最大1800トンまで持ち上げることができる。
90度回転し一度待機、その間に台船を移動し作業をしやすいようにする。その後待機中の起重機船の位置をタグボートで微調整。前に若干出し基礎杭に据付やすい位置へ。場所が決まったら、ゆっくりと迷いなくジャケットを下ろしていく。約3時間ほどの工程ながら、サポートする船の動きやクレーン、ジャケットの動きを見ているとあっという間。予定よりスムーズな据付となり匠の技を感じた。
日本を感じるデザインが特徴、5000人規模の乗降が可能なターミナルビルに
「東京国際クルーズターミナル」のターミナルビルに関しては、東京都港湾局 東京港建設事務所 建築調整担当課長 谷井隆氏が解説。ターミナルビル下のジャケットには2m大の48本の杭があり、中に上部構造としてターミナルの建物の柱がそのまま一体化し上部に建ち上がる、国内でも稀な構造であることを紹介。2019年春先から鉄骨が48本建ち始め、秋口までには構造体が完成。2020年3月までには外観を含めて出来上がる予定。また2019年10月ごろには2つのボーディングブリッジも。今回2階、3階への移動で使用するボーディングブリッジの乗降口は、日本初の上下移動式となる。
ターミナルビルのデザインのポイントは大屋根。波頭と帆掛船の帆、そして日本の伝統建築の寺社仏閣の反り屋根の3つのイメージを組み合わせている。太陽光パネルも設置予定だ。内部の天井は木質調で落ち着きのある雰囲気に。
2階のロビーエリアではクルーズ客船の規模と人数に合わせてイミグレーションや税関などのサイズを変えることも可能。なお、寄港がないタイミングでは多目的ホールに使え、音楽コンサートや各種展示会で利用ができる。
1階部分はメインエントランスがあり、片側はピロティ化。奥には観光バス8台と乗用車24台分のスペース。タクシープールは20台分。観光バスが5台同時に乗り降りできるバスベイも設けている。5000人規模の観光客が乗り降りがスムーズにできるように空間デザインされているとのことだ。
なお、「新客船ふ頭整備事業インフォメーションセンター」も工事現場近くにオープン中。こちらには500分の1スケールの「東京国際クルーズターミナル」の模型などを展示。今回作業が行なわれたジャケット部分の構造に関する模型や使用する船などの解説が楽しめる。