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1020社が集結する「名古屋 ものづくり ワールド 2017」で見た日本の航空機産業

航空機産業に対する日本と中小企業の取り組みや、川崎重工の旅客機製造の裏側とは

2017年4月12日~14日 開催

「名古屋 ものづくり ワールド 2017」が開催されたポートメッセなごや

 4月12~14日の3日間にわたり、愛知県のポートメッセなごやで「名古屋 ものづくり ワールド 2017」が開催されている。ものづくりに関わる4つの技術展示会が集結したもので、ポートメッセなごやにある3つの展示館をすべて使い、「第2回 名古屋 機械要素技術展」「第2回 名古屋 設計・製造ソリューション展」「第1回 名古屋 工場設備・備品展」「第1回 名古屋 航空・宇宙機器開発展」がそれぞれ開かれている。

 ここでは、同展示会の講演会場で行なわれた、経済産業省と川崎重工業による航空機産業に関する特別講演の内容についてお届けする。

開幕を祝して、河村たかし名古屋市長や政治家、製造業の大企業役員ら総勢36人が「大テープカット」を実施
展示会場の様子

伸張する航空機産業の、高い参入障壁。クリアの鍵は「クラスター」

経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 航空機部品・素材産業室 室長 北廣雅之氏

「航空機産業の今後の展望と経済産業省の施策について」というタイトルで最初の特別講演を務めたのは、経済産業省の北廣雅之氏。肩書きは「製造産業局 航空機武器宇宙産業課 航空機部品・素材産業室 室長」ということで、民間航空機やロケットの“ものづくり”に精通した人物だ。

 同氏が講演で訴えたのは、今後も大きな成長が見込まれる航空機産業において、日本の企業が製造に関わる割合を今以上に増やすべきであり、そのための“ものづくり”を手がける企業、人材の育成が急務である、というもの。同氏によれば、昨今は世界的に民間航空機の需要が急速に伸びてきており、旅客需要は年率5%の割合で増加。現在世界に2万機ある旅客機が、今後20年間で3万機以上に拡大する見通しだとしている。

 こうしたなかで、特にボーイングのような代表的な航空機メーカーにおいては、国内外の企業が多数関わる国際共同開発が盛んになってきている。例えば日本は、ボーイングの航空機製造に対する部品の寄与率が約35%と高く、日本企業からの部品調達額も2008年におよそ10億ドルだったのが、2015年には53億ドルに拡大するなど、著しい成長を見せている。

 ところが、国ごとの航空機関連の産業規模は、日本は米国の10分の1以下、欧州各国と比較しても数分の1程度で、日本国内の自動車産業と比較しても30分の1ほどと極めて低いのが実情だ。需要は見込めるが、その産業を担う日本企業が少なく、これをいかにして増やしていくかが大きな課題となっている。そこで、同氏は各事業分野におけるいくつかの具体的な動きや施策を紹介した。

 1つは「完成機事業」において、三菱航空機が手がけるリージョナルジェット「MRJ」がすでに世界から447機の受注を獲得している、という国内企業の動き。YS-11以来半世紀ぶりの国産旅客機開発は、リージョナルジェット市場を「ブラジルの航空会社であるエンブラエル社と二分する」だろうと同氏は期待をかける。

 次に、着実な成長を続けている「機体構造」と「エンジン」分野。これらは国際共同開発が進み、機体については日本企業の参加比率がボーイング 787型機で35%、ボーイング 777X型機で21%となっている。また、エンジンはボーイング 787型機が15%、ボーイング 777X型機が10.5%という状況だ。

 一方、「装備品」分野はまだ開拓の余地がある。内装品を手がけるジャムコ、着陸脚のシステムを製造する住友精密工業、飛行制御システムのナプテスコなどが、リージョナルジェットや大型旅客機の製造にすでに関わっている。しかしながら、航空機全体の価値から見て、その4割ほどを占めるとされている装備品には、これから参入しても少なくないチャンスがあると見ている。炭素繊維複合材やセラミックス基複合材、各種合金など航空機材料の分野も同様の状況となっている。

 とはいえ、企業の自助努力だけに頼りきりというわけではなく、国としても、政府間レベルの国際協力を推し進めてきている。同氏は、2013年6月に署名した日仏民間航空機協力と、日EU民間航空機共同研究協力、2014年11月からたびたびミーティングを開いている日加民間航空機協力を具体的な施策として挙げた。

 エアバスも日本企業との国際共同開発を望んでいると伝えられており、客室の設計技術、3Dプリンタの活用、ロボットによる自動組立といった部分でニーズが高いとしている。最近はLCCの登場によって、整備・修理・オーバーホールの外注化が徐々に進んでおり、そうしたMRO(Maintenance Repair and Overhaul)ビジネスが拡大しつつあることも報告した。

 企業が持つ高い技術力に対するニーズは高いものの、「優秀な人材を確保するのが難しくなってきている」というリソース面での課題もある。これについては、航空関係団体や関係省庁が協力して「Skyworks」というWebサイトを立ち上げ、パイロット、航空整備士、航空製造技術者になるための若者向けの情報提供を行なっている。

 航空機産業への参入の難しさは、人材だけの問題ではない。例えば、航空機に使用される部品には極めて高い安全性が求められるため、必然的に初期投資が高くなるうえに、一定した品質レベルを保証するため、生産時のトレーサビリティを確保しなければならない。一度開発したものについては、その後20年、30年にわたって供給責任が発生し、各種認証の取得も必要だ。航空機メーカーは海外企業が多いため、外国語でのコミュニケーション能力も求められる。

 航空機産業にはそういった高い参入障壁があるわけだが、中小企業単独では困難でも、複数の企業が集まれば可能になることもある。国内には、複数の企業からなる事業協同組合とした「航空機産業クラスター」を形成する動きが活発化しており、例えば三重県松阪市では、航空機部品メーカー10社が「松阪部品クラスター」を2015年に発足。一括受注、一貫生産体制を構築し、生産リードタイムの大幅な短縮につなげているという。

 政府も、航空宇宙産業の部品製造に必要とされる「JISQ9100」や「Nadcap」といった品質マネジメント認証の取得を支援するため、情報収集やその提供、取得時の参考になるガイドブックの作成を行なっている。また、大手製造会社と中小企業とのビジネスマッチングの仕組みを用意しているほか、非破壊検査員の育成のため、2017年度中に国内に養成機関などを設ける計画もある。

 自治体によっては認証取得にかかる費用の助成などを実施しているところもあるとし、会場に集まった関係者に積極的な航空産業への参入検討を呼びかけた。

展示会場にあった、東芝ITコントロールシステムのX線非破壊検査システム
最大600mm四方の物体の内部を一切損傷することなく見ることができる
JAXAなども同システムを利用。例えば、炭素複合素材や金属素材を対象に、製作後の内部の繊維や構造の状態を見て品質を確認したり、せん断試験後に内部がどうなっているのかを確認したりするのに使われることがあるという
航空機からは離れるが、ロケットや衛星、発電所などに使われる“バネ”も展示されている
伸縮自在のロール形状のバネ。衛星のソーラーパネル展開時の支柱、あるいはスペースデブリをキャッチする時のアームなどに使うことを想定しているという

ボーイング 787、ボーイング 777Xの部品を製造する川重の技術

川崎重工業株式会社 代表取締役副社長 石川主典氏

 次に登壇した川崎重工業の石川主典氏は、「川崎重工業における航空機製造」と題して同社の現在の航空機製造体制について解説した。

 同社は現在、主に自衛隊向けの輸送機、哨戒機と、旅客機の部品製造を行なっている。生産拠点は、名古屋港にある名古屋第一、第二工場の2つと、岐阜工場の計3カ所。名古屋の工場はボーイング 787-8型機、787-9型機、787-10型機の複合材部品の製造・組み立てなどを行ない、ボーイング 777X型機の部品組み立て用の工場も新設したばかり。

 同社の製造担当箇所は、787型機が主翼前方の胴体の一部(前胴部)、主翼固定後縁部、主脚格納部。777X型機が前胴部と中胴部、貨物扉、主脚格納部、後部圧力隔壁となっている。

 このうち、胴体部については、複合材による一体成形を可能にするため、6×15m(直径×長さ)、約72トンという超大型の成形型が用いられる。自重たわみが0.5mm以下、形状精度が±0.1mmという高い精度を誇り、熱膨張も極小に抑えられたもので、これに自動積層機を利用して複合材を高速に積層し、オートクレーブによる熱硬化を行ない、成形型を取り外すと輪切りにしたような巨大で精密な胴体部ができあがる。さらにトリム・ドリル加工によって窓など必要な穴開けを行なった後、高精度NC制御による完全自動の非破壊検査で品質を確認、オートリベッターによる組み立てへと進んでいく。

 777X型機においては、ボーイングが最終組立ラインを“革新的に変更”してコストダウンを図っていることにより、川崎重工業が新設した777X型機用の組立工場でも、“治工具レス”やロボットなどによる“自動化”を進めた新たな技術開発に注力しているという。

 特に現在取り組んでいる「生産性向上に向けた改善活動」として挙げたのが、「Kawasaki Production System(KPS)」というもの。元は同社の二輪事業などを手がける「モーターサイクル&エンジンカンパニー」で誕生した製造工程管理の仕組みで、「作業標準の設定→問題点抽出→改善→改善結果の標準化」というサイクルを回しながら精度を高めていくものだ。

 しかしながら、生産リードタイムが長く、求められる仕様が厳密なうえに、多品種少量生産という航空機部品の製造現場には、KPSはなじみにくい手法でもある。そのため、1カ所の職場で数万行におよぶ細分化された工程のデータベースを作成し、そのデータベースから作業者全員の日々の「生産管理板」を作成する仕組みを構築した。各作業ごとの目標時間と実績時間を記録し、差異があった場合は理由も記述して、目標時間に到達できるよう改善していく。これにより、想定される習熟曲線より低い工数低減を実現したという。

 今後は、ビッグデータやICT/IoTを活用した「スマートファクトリー構想」も推し進めていくと同氏。RFIDやカラーコードによる部品の個体識別を可能にし、設備の稼働データを収集して稼働率の向上を図る。さらには生産管理板をデジタル化することで、作業指示やリアルタイムの生産実績情報の収集を実現し、それらビッグデータをもとにした分析と全体最適化を目指す、とした。

航空機に関わるソリューションとして、ダッソー・システムズが部材の軽量化にフォーカスしたソフトウェアなどを展示していた
用意した設計データに対して自動的に軽量化できる設計に作り変え、3Dプリンタで出力する。設計ソフト「CATIA V6」で導入される予定の機能となっている
カーボン素材で積層できるMarkforged製3Dプリンタ「The Mark Two」。CATIAはこのほか、金属素材やプラスチック素材を使う3Dプリンタにも対応する
中央が通常のCADで作った一般的な形状の航空機用部材。左がCATIAの新機能で再設計され、3Dプリンタで出力されたカーボン素材の部品。右が同じく金属素材の部品
明らかに構造が異なるが、作り変えられたものは強度を維持しながら大幅な軽量化を果たしている
プラスチック素材でも同様に軽量化と強度を両立した部品をすばやく作成できる