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JR東日本、山手線E235系の自動運転試験を公開。ドライバーレスの無人運転に向けた実証実験

2019年1月7日 公開

JR東日本が山手線でE235系を用いたATO(自動列車運転装置)の試験走行を実施

 JR東日本(東日本旅客鉄道)は1月6日の終電後となる1月7日、2018年12月末から終電後に実施してきた山手線のATO(Automatic Train Operation:自動列車運転装置)ならびに投影型HUD(ヘッドアップディスプレイ)の実験を報道公開した。同社が2018年7月に公開した経営ビジョン「変革2027」で掲げているドライバーレス運転の実用化に向けた取り組みの一環となる。

 2018年12月7日に試験走行の実施を発表していた(関連記事「JR東日本、山手線(E235系)の自動運転試験を終電後に実施」)もので、当初予定では2018年12月29日と30日、1月5日と6日の終電後に実施予定だったが、12月30日終電後の試験走行を実施しなかったため、1月6日終電後の試験が3回目。計4回実施の計画は変えておらず、4回目の試験走行は日を改めて実施するという。

 報道公開された試験走行は、山手線の外回りを2周するもので、1周目は定時運行を想定したもの。2周目は若干の遅延を想定して、各駅間の時間を短縮して定時運行へと戻す、いわゆる回復運転するパターンを実施。具体的には1周目と2周目では各駅間の所要時間に約10秒の差をつけて走行した。また、駒込駅~田端駅間にある山手線唯一の踏切では減速して走行するように設定しており、これが正しく反映されるかも確認した。

ATO搭載のE235系試験車両が大崎駅に到着する様子
ATO装置が組み込まれたE235系の試験車両
行先表示が「試運転」と表示されている
大崎駅を起点に山手線外回りを試験走行する

 ちなみに、JR東日本ではドライバーレス運転に向け、周囲の環境や前後列車の間隔などに応じて走行パターンを変更できるように最適化して運行する「高度なATO」の開発を目指している。ただ、現時点では、決められた走行パターンに沿って加減速を行なう一般的なATOとなっており、JR東日本 執行役員 鉄道事業本部 運輸車両部担当部長の得永諭一郎氏は、今回の試験を「当社としても初めて実際の車両、線路を使っての試験ということになる。高度なATOを実用化するにあたっての第一歩」と今回の試験走行の主旨を説明した。

 ATO装置はE235系車両に組み込んでおり、運転士が出発ボタンを押すことで駅から発車。駅間をどのような速度で走行すべきかの目標速度が設定された走行パターンに沿って加速、惰行、減速を繰り返すものとなる。

 運転士は駅からの発車時に出発ボタンを押したあとは、左手側にあるマスコン(マスターコントローラ、主幹制御器)には手を触れずに周囲を監視するのみ。右手は黒いレバーを握っているが、これは山手線では利用していない機能が組み込まれたもので、姿勢の安定のために手を添えているだけという。

 ちなみに駅での停車については、JR東日本 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター所長の菊地隆寛氏によると、「現在の山手線は半自動化されており、ある程度の速度までの減速は運転士が行なうが、ホームの端付近から先はTASC(Train Automatic Stop Control system)装置を利用して機械が停めている。これは、ホームドアがある駅もない駅も同様で、今日の試運転と普段は同じ仕組みで停止している」という。

 TASC装置とは、停止位置目標からの位置を正確に伝えるためのもので、駅内の線路に停止位置目標を伝えるために必要な地上子が設置されている。併せて、ホームドア地上子というものも設置されており、この地上子と車両が通信することでホームドアと車両のドアを連動させて開閉を行なう。ここで停車駅の情報も受け取っており、ATOにおいては、ここで受け取った停車駅情報を基に、この先の運転パターンの生成が行なわれることになる。

大崎駅に設置されたTASC(Train Automatic Stop Control system)地上子
同じく大崎駅のホームドア地上子
東日本旅客鉄道株式会社 鉄道事業本部 運輸車両部 車両技術センター所長 菊地隆寛氏

 駅間においては、発車後にまず目標速度まで加速し、一定の速度で走行すべき区間では惰行に入る。ここで空気抵抗や線路の摩擦によって緩やかな減速が発生し、目標速度との差が大きくなると再度加速して、駅(停止すべき位置)が近づくとブレーキがかけられ、決められた位置に停止することになる。

 マスコンによる加減速は数段階の加減速の強度調整が可能だが、ATOの内部制御においても同じように制御。目標速度との差を判断して強度を切り替え。また、車両重量も把握しており、ブレーキのかけ方などを調整しているという。

 実際に試験走行の車両に乗ってみると、特に1周目の定時運行パターンにおいて走行中の加減速が多いように感じられた。この差について菊地氏は、「(1周目のように)低い一定の速度で走ろうとしたときに、機械は速度に合わせようとして加減速するが、運転士は先が分かっているので無駄がない。2周目は時間を縮めるために加速と減速の時間が長めになるので、惰行時の加減速の繰り返しが少なくなる」と説明。

ATOによる東京駅から新橋駅への自動運転
運転台
出発ボタンを押して駅から出発
右手は添えているだけ。左手のマスコンには手が置かれていない
走行中の様子

 試験車両には、目標速度と実際の走行速度をリアルタイムに可視化してディスプレイも設置されていたが、記者の取材中も、駅への停止のためにブレーキをかけはじめるべき位置の目前であるにも関わらず、惰行による減速によって目標速度との差が大きくなって加速するという状況が見られた。

 この点について得永氏は試験走行後の囲み取材で、「運転士がマニュアルで運転しているものに比べると、若干細かな加減速があった。お客さまにご乗車いただいているときに、運転士が運転しているのか、自動運転などかが分からない、できれば運転士よりも滑らかな運転ができるようになればよいのではないかと考えている。今日までの3日間の試験が最初なので、このデータを活かして次の試験に向けて、ブラッシュアップしたい」と話している。

 また、菊地氏は将来的な展望として、「基本的に消費電力は変わらないが、より経済的な運転を別の研究で行なっており、それと組み合わせて、運転士よりも経済的な省エネ運転ができるといったことも狙っていきたい」との意欲も示した。

 このほか、今回の試験走行中、2周目の五反田駅で目標よりもやや手前で停止し、その次の目黒駅では駅ホームに到達する前に停止してしまうという事態が発生した。この事象については、五反田駅で停止位置がずれた際にドアの開閉を行なわなかったためであろうと予測されており、「お客さまの乗っている列車では停止位置を直してドアの開閉をするので、このようなことは起こらないはずだと考えている。これらのトラブルについても、細かいものも含めて分析、解析して、実用化に向けて活かしていきたい」と得永氏は説明した。

有楽町から新橋駅へ向かった際の目標速度(紫色の線)と実際の速度(黄色い線)
浜松町から田町へ向かった際の速度。目標速度との差が大きくなったために加速を行なっているが、直後に減速を開始していることが分かる
試験車両内には検査員ら多数の係員が乗車して試験をチェックしている

 一方、同時に試験を行なっている投影型HUDについて、菊地氏は「乗務員に対してのなんらかの支援ができないか、情報をいかに提供するかのアイテムの一つとしてヘッドアップディスプレイを試みている」と目的を説明。表示する情報は列車情報管理装置から取得したもので、試験では速度、加速/減速指令、開くべきドアの方向、ATOによる停止制度などをコンバイナーへ投影。解像度は480×260ピクセルで、25m先に虚像が表示される仕組みとなっている。

 このHUDによるメリットは、「運転士の視線移動が減ること」と「25m先に虚像が出るので手前(の情報板)と奥(進行方向)とで目の焦点距離を大きく変える必要がない」という2点が挙げられている。

運転士が装着したウェアラブルカメラの映像。少し見にくいがHUDによる情報が映し出されている
「試験中画像」と書かれた下部の表示がリアルタイムにHUDに映し出されている情報
駅が近づき、10km/hを下まわるころに停止位置との差が表示される
停止時。誤差±35cmに収まった位置に停止した

「まずはATOをなるべく早く実用化。最初の導入路線は検討中」

東日本旅客鉄道株式会社 執行役員 鉄道事業本部 運輸車両部担当部長 得永諭一郎氏

 試験後の囲み取材で得永氏は、「若干のトラブルはあったが、おおむね順調に試験を終えることができた。次のステージに向けて課題を抽出し、次の試験に向けて活かし、なるべく早い段階で当社のATO、そして、その先のドライバーレス運転に向けて実用化を目指し、開発をスピードアップしたい」とコメントした。

 その実用化の時期については、「未定」としながらも、「ATOとしての運転、ドライバーレス運転の2段階がある。ATOの実用化に向けてはなるべく早い段階で実用化したい。ドライバーレス運転では、山手線で言えば踏切の問題やそのほかの安全確保など、さまざまな設備要件が必要になる。それは社内や、国土交通省主催の検討会でも検討が進められているところなのでそれらの知見も活かしながら、なるべく早く実用化できればと考えている」と話す。

 ちなみに、鉄道における自動運転については、国際的な自動運転レベルとしてGoA(Grades of Automation)という基準があり、GoA1~4が定められている。ATOによる自動運転は運転士が乗って速度調整などを自動で行なうGoA2となり、JR東日本が目指すドライバーレス運転については、「首都圏においては車内に係員は乗っているが、運転操縦を行なう運転士ではないという意味でのドライバーレスをまずは目指したい」とし、運転士による運転操縦操作を行なわないが係員が乗務するGoA3を目指す。

 ドライバーレス運転導入の目的としては、「限られた人材が人ならではの創造的な仕事を行なうということを目指したい。運転士の養成は非常に時間もかかる。そのなかでこれらの新しい技術を取り入れて、車内に係員はいるが、現在の運転士、あるいは運転免許も含めて、同じレベルの係員ではない者になれば、より当社としても限られた人材の有効活用ができると思っている。また、ドライバーレス運転は安全レベルがより向上すると考えている」と、2つの理由を提示。

 その前段階であるATOによる自動運転においては運転士が必要となるが、「ヒューマンエラーの防止や運転士の負荷軽減、運転士の個人差なく同じ時間で駅間を運行できる」といったメリットを挙げる。これらの実用段階において運転士あるいはドライバーレス運転時の乗務員に必要な要件などについては、社内で検討すべき課題であるとしている。

 ちなみに、山手線においては「現在でも省令上はワンマン運転も可能」というが、「お客さまの多い駅を発車していくので、安全の確保が必要。順次導入されているホームドアが全駅に入った段階で一つの検討になるのではないか」と述べた。

 なお、今回の試験は山手線で行なわれているが、ATOによる自動運転などの最初の導入路線については、「山手線が最初の導入路線になるかも含めて検討中」とコメント。「ドライバーレスになった際に踏み切りは大きな課題の一つと考えている。また、ホームドアは山手線は比較的早い段階で整備が終了すると考えている」と早期導入における山手線の優位性を示す一方で、「周回運行の路線なので、列車が遅れたときに時間調整で定時運行に戻すことができないなど課題は多い。運転士がマニュアルで運転している場合は、制限速度を示すATC信号のほかに、目視の範囲での先行列車の位置や、いまどのあたりにいるかなども加味して運転している。こうしたノウハウをATOにどう取り込んでいくかは課題」としており、山手線への導入目途については明言を避けた。

試験走行中の山手線内の駅の様子。使用するホームの電光案内板には「JR」の文字が表示されていた

 ちなみに、ATOによる自動運転は国内においても1970年代から営業運行に利用されるなど歴史は長いが、そこからドライバーレス運転へ進化しない理由の一つとして、線路上の障害物を避けられないという鉄道ならではの特性があるという。在来線については、人や物が線路に進入や落下しやすいため、その防止が大きな課題に挙げられており、線路周囲の構造物を管理している自治体などとも協議の必要があるとしている。実際、これまでにATOを導入している路線も、地下鉄や高架区間が多いなど、ある程度、線路が隔離されている路線が中心となっている。

 得永氏はこうした背景や今回の試験を踏まえ、「ATOそのものはすでにあるもので、当社ではさまざまな条件を加味して、運転パターンを臨機応変に変えられるようなATOを実現したいと考えている。今日の段階ではそこまで至っていない。さまざまな条件を加味して、スムーズな運転ができるようになることを次のステップと考えている。例えば、環境条件や、自身の遅れ、先行/後続列車の遅れ、前後列車の混雑率も加味して運転間隔を調整するといったことができれば、特に山手線という環状運転では有効だと考えている」と、ATOによる自動運転やドライバーレス運転に向けての次の目標を語った。