井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

ハッと目覚めて、現在位置(ここ)はどこ?

居眠りからハッと目覚めて外を見て……ところでここはどのあたり?

 以前に、車中での居眠りについて書いたことがあった。実のところ、居眠りに起因する寝過ごしは旅程崩壊を生む原因の1つだが、それだけではない。ハッと目覚めて慌てて降りたら、降りる駅を間違えた……そんな事例もある。

 居眠りしないで済むなら、それに越したことはない。ただ、眠くなることもあるのはいたしかたない。せめて、目覚めたときに現在位置をパッと把握できる手段はないものか。

車内放送を聞く、現在時刻を見る

 次の停車駅に関する放送は必ず行なわれるから、基本はこれであろう。しかし、常に放送が流れているわけではないから、放送がかからなければ分からないという難点はある。

 また、時計で現在時刻を確認して停車駅(と、そこでの発着時刻)と照合する方法もある。ただしこれは所定運行の場合にしか通用しない手で、遅延が生じると役に立たない。しかも、遅延が生じたときにこそ「いま、どこまで来ているのか」を知りたいものである。

車内情報表示装置

 今では大都市圏だとすっかり「当たり前」の仕掛けになったのが、車内情報表示装置。大別すると、「路線図式」「LEDで文字だけ表示」「液晶ディスプレイで映像を表示」の3種類がある。

「路線図式」とは、側扉の上に路線図と同じデザインの装置があって、いま、どこの駅間にいるかをランプ(実際にはLEDだが)の点灯で表示するもの。営団地下鉄01系の導入事例が知られており、その後もあちこちで導入された。ただ、路線の新設・廃止や駅の新設・廃止・改称があると、その度に装置を交換あるいは改造する必要があるのが難点といえる。

路線図式表示装置の例(東京メトロ01系)
路線図式表示装置の例(つくばエクスプレスTX-2000系)。快速運転があるので、現在位置だけでなく、駅ごとの点灯の有無で停車駅も表示する仕組み

「LEDで文字だけ表示」が、もっともポピュラーかもしれない。100系新幹線で大々的に導入されて、そのあとに各線に普及した。

JR東日本のE231系が装備するLEDディスプレイ。すべての側扉の上に設置されている。E233系では、導入路線によってLEDディスプレイと液晶ディスプレイが使い分けられている
長野電鉄の1000系は、LED表示装置を後付けした事例
JR北海道の283系気動車で見かけた表示。こんな使い方もある

 液晶ディスプレイは最近の新造車で導入事例が多いほか、既存の車両に後付けした事例も少なくない。表示内容を柔軟に切り替えたり、デザインに工夫したりできるのは、この方式の利点。実は1990年代初期から導入事例があったが、当時の液晶は出来がわるく、あまり普及しなかった。

近鉄8A系は横長のディスプレイを設置している。近鉄では、既存車のリニューアルでも横長の液晶ディスプレイを追設した事例がある
東京メトロ銀座線で01系の後継として導入された1000系では、側扉ごとに2面の液晶ディスプレイを設置した
N700系はフルカラーLEDディスプレイだったが、N700Sでは液晶ディスプレイになった。これは駅通過時の表示で、N700系にも同様の仕掛けがあった
現在、どこの駅間にいるかを表示するようになったのはN700Sの新機軸

ワンマン列車なら運賃表を見る手もある

 ワンマン運転の列車では、運転台の直後に運賃箱があり、その頭上に運賃表が表示されるのが通例だ。その運賃表では次駅の表示がなされるものだから、これは参考になろう。駅ごとの運賃を表示するために、駅一覧が表示されているのも便利ではある。

ワンマン運転の列車で表示される運賃表の例。次駅の表示があるのが通例だ

車窓の風景

 筆者に限らず、「○○線に頻繁に乗っているので、外をパッと見たときに現在位置がどの辺なのかが分かるようになってしまった」という方は少なくないだろう。

 何か目立つランドマークが沿線にあれば、この方法はけっこう有用。その極め付きが、東海道新幹線の「富士山」ではないかと思われる。富士山以外でもランドマークになっている山はいろいろあるが、知らないと分からない。個人的には、東北新幹線で盛岡に近付くと岩手山が見えてくるのがメジャーな事例だが。

 それ以外でも、建物や施設など、「車窓のランドマーク」はいろいろある。ただしいずれにしても、何回も乗っていて頭に入っているから意味があるので、初めて乗った路線では何があるのか分からない。

東海道新幹線で富士山が見えれば、「三島駅~新富士駅~富士川橋梁付近か」ということになる。相手が大き過ぎて見える時間が長いので、あまりピンポイントの位置標定にはならないが
東海道新幹線の車窓で、一部で話題のランドマーク。それが岐阜県の垂井警察署。なぜかひらがなで「たるいけいさつ」と書かれている
大きな河川では、川岸に河川の名称を書いた看板が設置されていることがある。これは天竜川
山陽新幹線の下り列車が新大阪駅を出発して少しすると、左側(A席側)の車窓に車両基地(網干総合車両所宮原支所)が見える

 なお、途中で停車あるいは通過する駅の駅名標を読み取る方法もあるが、これは実際にやってみるとなかなか難しく、動体視力が試される。山陽新幹線の駅みたいに、ホーム端に駅名を大書した看板があれば話は別だ。

スマホの地図

 スマートフォンはみんなGNSSの受信器を内蔵しており、地図アプリも用意されているものだ。だから、実はスマホを取り出して地図アプリを起動するのが、2025年現在ではもっとも手っ取り早い方法といえる。筆者も、ことに海外ではこの手を多用する。

現在、もっともお手軽な方法はスマホの地図機能だろう。ただし衛星からの電波を受けられる場合に限る

 ただしこれには、ちょっとした制約がある。地下鉄、あるいはトンネル内を走行していると、衛星からの電波を受けられないから使えない。地下鉄はそもそも地下を走るのが前提だから、もう「そういうもの」とあきらめてほかの方法を用いるしかない。

 地下鉄でなくても、山岳路線ではトンネルが多いことが間々ある。また、山陽新幹線以降にできた新幹線は、トンネル区間が多くを占めることが多い。新幹線のトンネルでは、移動体通信の「圏外」は解消されたが、GNSSの方はどうにもならない。

「あと40km」「あと20km」

 LED表示装置で次の停車駅を表示する仕掛けならめずらしくないが、JR北海道の特急列車では、距離も表示してくれる。ただしその単位が大きい。「○○まで、あと20km」は日常茶飯で、ときには「○○まで、あと40km」から始まることもある。広大な上に駅間距離も長い、北海道ならではの光景といえそうだ。

「次の停車駅は丸瀬布」
「丸瀬布まで、あと40km」と表示される(!)

最後に余談

「現在位置をピンポイントで知る」話とは違うが、車窓の風景に地域差が現われることがある。例えば住宅の構造には、案外と地域差が存在する。近畿地方でよく見られる「文化住宅」は、その一例。

 また、北海道に行くと瓦屋根が使われていなかったり、玄関の外に風除室が付いていたり、大きな石油タンクが設置されていたりする。車窓の風景から、そんな地域差を知るのも楽しいものだ。

瓦屋根がない北海道とは対照的に、山陰本線で西の方に行くと、赤い石州瓦の家が目立つことがある