井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

SNS投稿はしたいが場所バレは避けたい

「さあこれからお出かけです」といって投稿するのはいいが、この写真を見れば列車も号車も丸分かりである

 筆者自身もときどきやるが、お出かけしたときに「いま、どこそこに来てます」「これから○○に乗ります」といった投稿を見かけることがある。それは個人の自由だが、所在が分かることで、要らぬ特定・追っかけに遭遇するリスクはある。ことに女性や著名人の場合、身の安全を考えると無視できない問題であろう。

居場所が分かる手がかり

 意図的にすべての情報を開示してしまう場合は話が別なので、これはおいておくとして。あくまで「意図せざる場所バレを防ぐ」という観点から話を進めることにする。

 この手の「実況系」の投稿では、大抵写真もワンセットになっている。「場所バレ避け」に際しては、まず、写真に何が映っているかが問題になる。

 前回の記事で書いたこととも重複するが、何か分かりやすいランドマークが写真のなかに映り込んでいれば、場所バレの可能性が高くなる。これは駅のホームや構内、駅前、車窓など、さまざまな場面についていえること。

 駅名の看板や駅名標が映っていれば一目瞭然なのは、いうまでもない。また、車両もヒントになりやすい。国鉄時代と違って、JRグループでは路線・方面ごとに専用仕様の車両を入れることが少なくないからだ。その辺の事情は民鉄各社にも共通する。すると「この車両がいるから○○線」と簡単に紐付けられる。

駅名標が映っていれば場所が一発で分かる。当たり前である
特急「みどり」用の783系、それとYC1系が並ぶ可能性がある高架駅といえば、佐世保駅ぐらいしかない

 ところが、そういう分かりやすいヒントでなくても、場所バレは起きる。

 例えば駅ホームの発車標。大抵番線の表示とワンセットになっているから、駅の構内図が頭に入っている人なら、「○○方面行きの△△番線がある駅なら××だな」と分かってしまう可能性が高くなる。

 変わったところでは、駅の構内にある施設などもヒントになる。「この店舗は○○駅にしかない」といった類の話である。

 また、新幹線の駅でラチ内コンコースに地元メーカーの自動車を展示しているところがいくつかあるが、広島ならマツダ、新大阪ならダイハツ、浜松ならスズキである。

駅名標は映り込んでいない。しかし、発車標を見ると「のぞみ46号」が17時03分に発車すると分かる。時刻表を調べれば、これが広島駅だと分かるわけだ
過日、その広島駅に行ったら、新幹線のラチ内コンコースにマツダ・ロードスターが展示されていた。さすがマツダの地元
こちらは東海道新幹線の浜松駅。このときにはスズキ・アルト(初代)が展示されていた

 また、つい見落としてしまいがちなところで、スマートフォンで撮影した写真を投稿する場面がある。過去回で書いたように、スマートフォンのカメラは位置情報をとってジオタグを付けるのが普通だから、それをそのまま投稿すれば撮影場所は丸分かりである。

 ただし、データ量を減らすために画像縮小ツールを使用する場合、その縮小ツールにジオタグを削除する機能があれば、この問題は回避できる。

画像ビューアによっては御親切なことに、ジオタグの緯度・経度データではなく地図で場所を教えてくれるものもある。これは、イギリスのミルトンケインズ駅での撮影。レッドブルF1のファクトリーがある街だ
筆者が使用している「Image Shrink Lite」の場合、「GPS情報を残す」チェックボックスをオフにすると、縮小の際にジオタグを削除する

細かいところまで見ると、こんなことも……

 実は、列車名や行先について書いていなくても、1枚の写真で案外といろいろ分かってしまうこともある。例えば、下の写真。

「これから特急『北斗』に乗ります」という1枚。さて、この写真でどこまでの情報が得られるだろうか?

 まず、ヘッドマークで特急「北斗」だと分かる。そして運転台の窓に編成番号「ST-12xx」とあるので、261系気動車のことが分かっている人が見れば、映っているのは札幌方先頭車だと分かる(函館方なら「ST-11xx」だ)。つまり、これは札幌行きの下り「北斗」ということになる。

 あとは、駅の構造、背後に映っている側線や建物などといった情報を加味することで、これが東室蘭駅だと分かってしまうわけである(「北斗」の停車駅で背景にルートインがあるところは限られている)。

 しかも、Googleストリートビューという、便利かつ物騒なものがあるので、自宅にいても「現場の様子」が分かって裏取りができるようになったのだからおそろしい。

 もっと細かい話をすると、東海道・山陽新幹線の普通車でアイスの写真が投稿されているのを見たときに、見る人が見ればN700系とN700AとN700Sの区別がつく。モケットの柄がみんな違うからだ。これは、場所バレにつながるわけではないが、「1枚の写真でも、こんな情報まで含まれている」という事例にはなる。

よくある「#シンカンセンスゴイカタイアイス」の写真だが、モケットの柄や腰掛の作りで、これがN700Sだというところまでは分かる

乗る列車は知らせても号車は分からないように

 どの列車に乗るかは公にするけれども、号車や席番は分からないようにする、という考え方には現実味がある。編成の端から端までしらみつぶしに探して回るのは、いささか骨の折れる話であるからだ。

 1両しかないローカル線になると話は違ってくるが、例えば新幹線なら最短でも6両、最長で17両ある。もっとも、グリーン車やグランクラスみたいに1編成中に1~3両しかない設備が出てくれば、また話は別であるが。

 ところが、「ハコの数が多いから大丈夫だろう」と油断していると、ちょっとしたヒントで対象となる号車を絞り込めてしまうことがある。その一例が、新幹線電車の座席に付いている背面テーブル。

 東海道・山陽新幹線の車両では、背面テーブルに「車内設備のご案内」が付いている。それを見ると、編成全体を載せているわけではなく、当該号車とその前後の号車だけを載せている。端から端まで載せても、それをすべて必要とするわけではないからだ。

 すると、背面テーブルが映っていれば、対象は一気に狭まってしまうことになる。新幹線の車内でアイスの写真を投稿するときは要注意である。

これはN700A普通車の背面テーブル。当該号車と、その前後の車両だけに的を絞って設備案内をしている

 もちろん、席番や号車番号が映り込まないように注意するのは当然のことだが、窓から見える外の風景も、場合によっては要注意だ。実際、東京駅で発車待ちしている「サンライズ」の車内からSNS投稿したら、号車を突き止められた事例がある。

時間差投稿という手もあるにはあるが

 リアルタイム投稿するから場所バレがリスクを増やす、といわれればそのとおりで、まさに正論。それを避けようとすれば、現場を離脱してから、あるいは1日の終わりにまとめて投稿する「時間差投稿」が最善ということになる。

 それはまさにそのとおりなのだが、「実況中継することの高揚感(?)」は失われるわけで、悩ましいところであるかもしれない。身の安全には代えられないだろう、といわれれば、ぐうの音も出ないが。

 現実問題として、「場所バレは断固阻止」となると何も投稿できなくなるし、何も考えずに投稿すれば場所バレが続発する。間をとって、ほどほどのところで妥協するのが現実的であるかもしれない。その「ほどほど」のレベルは、もちろん人それぞれということになるのだが。