井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

渋谷、東京、大阪、どこがダンジョン? 駅の構造が複雑になる理由

「立派なターミナル駅の代名詞」みたいに扱われることが多い、阪急の大阪梅田駅。しかし、こういう広くてスッキリした駅ばかりとは限らない。いや、むしろそうではない方が多い

 最近はそれほどでもないが、ひところ「渋谷駅は複雑怪奇」といって、駅構内図付きで記事が載る場面が何回か見られた。その渋谷駅に限らず、大都市の主要ターミナル駅は往々にして、複雑な構造になっていて、初めて訪れる際には参照用の駅構内図が欲しくなる。

なぜ駅の構造が複雑になるのか

 いきなり結論を書いてしまうなら、段階的につぎはぎ拡張を繰り返すから、駅の構内が複雑になってしまう。

 需要の増大を受けてホームを延長したりコンコースを拡張したりする、改札の通路数が足りなくなったので増設する、新しい施設が近隣にできたのを受けて、アクセスしやすくするために改札を新設する、といった具合に、駅の構造に手が入る事由はいろいろある。

 ところが、すでにある駅に手を加えるとなると、既存の施設はそのままということが多い。さらに、周囲にある既存構造物の影響も受ける。既存の構造物を避けるために通路をまっすぐ通すことができず、アップダウンや屈曲が発生する場面は多い。

 例えばメジャーなところで東京駅。在来線のエリアを見ると、東西に並ぶホーム群を横断する形で、北通路・中央通路・南通路がある。ところが、その東端、新幹線ホーム直下のエリアまで進むと、新幹線のきっぷ売り場や乗り換え改札は階段を登った先にある。しかも、通路や壁がまっすぐではなく、でこぼこしたり斜めになったりしていて、あまりスッキリはしていない。

東京駅では在来線エリアと新幹線エリアの間に段差がある

 反対に、東海道新幹線で東京駅に到着した場面を考える。多くの利用者が通るのは中央乗り換え口であろうが、真正面に見える中間改札は入場専用。在来線に乗り換えるために出場するための中間改札は、左手に曲がって階段を降りた先にある(南乗り換え口は入出場の通路が横一線に並んでいるが)。

東海道新幹線の中央乗り換え口のうち、在来線のエリアに面した側は入場専用
出場用の改札は、そこから南方に曲がった先にある

 具体例を挙げ始めると際限がないが、この東京駅に限らず、大都市圏の主要ターミナル駅は往々にして、構造が複雑だったり、通路がまっすぐ通っていなかったり、改札の配置が分かりにくかったりする。

 当事者にしてみれば、好き好んで複雑にしているわけではない。すでにある駅構造物を改築したり、あるいはそこに増設したりする場面では、既存構造物を引き継いだり避けたりする関係で、複雑になったり狭隘になったりする場面が出てきてしまう。

ゼロから新規に作ればスッキリする

 もちろん、十分な敷地を確保してゼロから新規に構築した駅なら、そんなことにはならない。

 例えば、旭川駅。ホームから降りてきたところで東西に降りる階段とエスカレーターがあり、その先に東西の改札口がある。シンプルで分かりやすいだけでなく、頭上の空間には大きなゆとりがある。木材を活かした、温かみのある内装も評価が高い。

旭川駅の西改札口。スッキリした構造と頭上のゆとりを見てほしい
改札を入って1階層上がったところに、ホームとホームを結ぶ通路がある

 最近になって新しくできた駅だと、松山駅も同様。旭川と比べると規模が小さいが、高架下を横断する広い通路を設けて、その北側には商業施設、南側に駅務設備と改札。ラチ内では階段を上がった先で左右のホームに通路が分岐して、そこに待合室が隣接している。スッキリしていて分かりやすい。

松山駅のラチ外コンコース。これは北側の、商業施設がある側を向いている
そこから改札の側を見たのがこの写真。改札の先で1階層上がり、左右のホームにつながるところは旭川駅と似ている。連続立体化を契機にゼロベースで構築すれば、分かりやすくスッキリした駅ができる

移設と大改良が決まった名鉄名古屋

 駅施設を新規に起こせばスッキリする。しかし、そのために駅の営業や列車の運行を止めることはできないので、「ゼロから新規に作れば」といってもおいそれとは実現できない。空港のターミナルビルでは、別の敷地に新ターミナルを作って移転する手法は一般的だが。

 冒頭で引き合いに出した渋谷駅みたいに、駅とその周囲の再開発でガラガラポンする。あるいは、旭川駅や松山駅みたいに連続立体化事業で全面作り直し。というぐらいのことが起こらないと、全面的に再構築してスッキリさせるのは難しい。

 それをこれからやろうとしているのが、名鉄名古屋駅。名鉄名古屋駅は、もちろん名鉄の主要ターミナルだが、他社と比べると規模が小さい。3面2線しかなく、そこをひっきりなしに列車が通り抜ける。

豊橋方面と新岐阜方面で1線ずつしかないため、さまざまな方面に向かう、さまざまな種別の列車が発着する。そこで、先発列車の行先や停車駅を、こんなふうに案内している
方面別に乗車位置・停車位置を変えて、整列位置を分けている。こうしないとさばききれないのだ
また、特急の特別車(指定席車)みたいに、一部の列車・車両については中間のホーム(2・3番線)で乗降するようにしている

 しかも延長・拡張を重ねたため、ホームや線路はグネグネしている。ホームの幅は広いとはいえないし、しかも壁がでこぼこしているので、幅員が増減する。見通しはよくないし、動線が交錯して歩きにくい。

ホームの側壁がまっすぐ通っておらず、でこぼこしている。線路もまっすぐではない
もっとも規模が大きい中央改札口は「出口専用」。JRから名鉄名古屋駅に来た場合、階段を降りたところにある改札だが、ここからは入場できない。中央改札口(入場専用)は、左手の階段を降りて右に曲がった先にある
その階段を降りた先から振り返る。正面は中央改札口(出口専用)に通じており、中央改札口(入口専用)と出札口は左手にある
中央改札口(入口専用)から入場すると、豊橋方面に向かう4番線は階段を下りるだけだが、1~3番線に向かうときにはいったん階段を上る(左手)

 ところが名鉄名古屋駅は、拡張しようとしても場所がない。上は百貨店やホテルの建物、東側は地下鉄東山線、西側は近鉄名古屋線に挟まれている。これではどちら側にも拡張できない。

新岐阜方面ホームの壁の向こう側は近鉄名古屋駅で、境界部分に乗り換え改札がある。これでは拡張のしようがない
名鉄名古屋駅の構内図(名鉄Webサイトより引用)。これは平面図で描いたもの
名鉄名古屋駅の構内図(名鉄Webサイトより引用)。これは立体図で描いたもの。一見さんには分かりづらい構造だが、悪意があってこうしているわけではない。こうならざるを得なかったのだ

 そのため、抜本的な改良は再開発の話が持ち上がるまで待たざるを得なかった。

 まず、頭上にある百貨店やホテルの建物を取り壊して造り直す。地下駅の方は、現在地のままでは左右方向の拡張ができないので、現在地より南方に新たな駅を構築する。それでようやく左右の余裕ができるので、最終的には2面4線に拡大する。

 このように周辺条件が整わないと、なかなか抜本的改良や全面作り直しは実現できない。ただ、南方に移転することでJRからの乗り換えが遠くなってしまうが、そこは関係者も悩んで決めたところではないだろうか。