井上孝司の「鉄道旅行のヒント」

グループ旅行にいかが? 一度は乗りたい「列車の個室」

東武N100系「スペーシアX」のコンパートメント。仕切壁と扉で完全に独立した区画が作られている

 新幹線や在来線特急に乗車すると、全体的にビジネス客が多く、車内がシーンとしていることがある。とはいっても、全員が全員ビジネス客というわけではない。なかには親子連れもいるし、グループでの観光旅行もある。

列車によっては個室の設定があることも

 しかし、まわりがシーンとして張り詰めた空気だと、グループや家族で盛り上がるのは、少しはばかられるかもしれない。

 それが問題になるのは、いわゆる開放室だからだ。グループあるいは家族だけで独立した区画を確保できれば、周囲に対して気兼ねをする度合は低下する。要するに個室(コンパートメント)である。

 ただ、日本では個室が設置されている車両が少ない。ときどき出てくるのだが、なかなか定着しないのが実情だ。それでも2025年初頭の時点で、いくつかの列車に個室の設定がある。

 いわゆる観光列車やクルーズトレイン、寝台列車を除外して、定期運行されている昼行列車に限定しても、以下のような顔ぶれがある。これらは普通車扱いのものもあれば、グリーン車など上級設備扱いのものもある。

・E261系「サフィール踊り子」(JR東日本)
・N100系「スペーシアX」と100系「スペーシア」(東武鉄道)
・山陽新幹線・博多南線の700系「こだま」(JR西日本)
・787系「リレーかもめ」などのグリーン車(JR九州)
・50000系「しまかぜ」(近畿日本鉄道)
・2100系「スノーモンキー」(長野電鉄)

「スペーシアX」の6号車は、「コンパートメント」と「コックピットスイート」で専有され、開放室がない
JR九州の787系に設けられている4人用グリーン個室
700系「こだま」の8号車に設けられている個室部分の通路。奥の博多寄りは開放室になっている
700系「こだま」の個室。こんな撮り方ができることでお分かりのとおり、仕切壁の上部は素通しになっている

 また、完全に個室というほどではないが、グループ客向けに「半個室」みたいな作りにした客席の事例もいくつかある。

・273系「やくも」(JR西日本)
・787系「リレーかもめ」などの普通車(JR九州)
・23000系「伊勢志摩ライナー」(近畿日本鉄道)
・30000系「ビスタEX」(近畿日本鉄道)
・N100系「スペーシアX」(東武鉄道)
・8000系「フジサン特急」(富士山麓電気鉄道)

 このうち、「ビスタEX」はちょっと変わっている。2両の中間車について、車両の中央にある出入台の前後に1区画ずつ、階下の区画を設けた構造。行き止まりなので、ほかの乗客がそこを通り過ぎることはない。

273系「やくも」のセミコンパートメント。左側が4人用、右側が2人用の区画
近鉄の「伊勢志摩ライナー」サロン席。現在はリニューアルで内装が変わっているが、基本構造は同じ
近鉄の「ビスタEX」階下席。これも現在はリニューアルで内装が変わっているが、基本構造は同じ
「スペーシアX」の5号車にある「ボックスシート」。2人用の区画だが、幅に余裕があるので、小さな子供なら大人と並んで座れる
787系の普通車ボックスシート。列車によっては自由席になっている

 このほか、JR東海の「伊那路」「ふじかわ」で使われている373系みたいに、車端部に独立区画のボックス席を設けている車両もある。

373系の車端部はボックス席。ただし開放的な作りで、個室とか半個室とかいうには語弊があるように思える。釜石線の快速「はまゆり」で使われている110系気動車にも似たような席があるが、そちらはテーブルはない

個室の設定がある列車を見つける

 個室の設備があっても営業していないとか、同じ系列の車両でも個室がある編成とない編成があるとかいった事情から、「個室の設定がある列車を見つける」という手間が発生することがある。これは列車によるのだが。

 例えばJR九州の787系の場合、紙の時刻表で「DXグリーンがあります」との注がある列車なら、グリーン個室と普通車ボックス席がある。DXグリーン車の設定がない4両編成では、これらの設備もない。

 山陽新幹線「こだま」の700系では、列車によって個室を営業している場合としていない場合がある。「JRおでかけネット」によると、個室の営業がある「こだま」は、845・847・865・840・856・858・860・866号の8列車のみ(2025年1月現在)。そのほかの列車では、個室の設備はあるが営業していない。

個室を利用することのメリットとデメリット

 遊び・観光で利用するグループ客にとっては、周囲に気兼ねする度合が少なくなるのが、こうした個室・半個室を利用することの最大のメリットといえる。

 また、個室の多くは向かい合わせに設置した腰掛の間に大きめのテーブルを設置する設えなので、お弁当やお菓子や飲み物を広げるにも具合がよい。

 ただし、スペースには限りがあるので、大きな荷物を持ち込むのは難しいことがある。車両によっては頭上に荷棚がないこともあるので、そうなると荷物は足元や腰掛の上に置くしかなくなってしまう。

 逆に、近鉄の「伊勢志摩ライナー」に設定されているサロン席、あるいは273系「やくも」のセミコンパートメントみたいに、区画の境界となる背ずりと背ずりの間に空間を設けて、大きな荷物を置けるようにしている車両もある。

273系「やくも」では、区画の境界に大型荷物置場が設置されている

 そして、窓口の削減が進む昨今では、個室の多くでネット予約ができないことが最大のネックといえるかもしれない。例えば、「こだま」700系の個室は、EXサービスでもe5489でも選択肢に現われない。

 787系のグリーン個室や普通車ボックスシートも、JR九州のネット予約サービスで試してみたところ、選択肢に現われなかった。ただし列車によっては自由席になっていることがあり、その場合には空いていれば使える。

 逆に、近鉄特急はネット予約画面を調べてみたところ、ちゃんとサロン席なども現われるようになっていた。

 なお、こうした個室や半個室は大抵、人数に下限がある。例えば、787系の普通車ボックスシートには「3人以上のときに発売」という条件がある。他社もだいたい同じ傾向だ。

使えるものなら試してみたい設備

 こうした事情があるので、利用に際してのハードルがやや高い傾向があるのは事実。とはいえ、グループ旅行の機会があれば、個室や半個室の利用を試してみるのもよいのではないだろうか。

 なお、個室や半個室の多くは2~4名用だが、東武の「スペーシアX」には7人で占有できる「コックピットスイート」がある。

「スペーシアX」の6号車に1室だけある「コックピットスイート」。浅草に向かう日中の上り列車なら、前面展望も楽しめそうだ