旅レポ
「愛知デスティネーションキャンペーン」で徳川や食の歴史に触れる旅(前編)
2018年10月23日 14:33
JR東海(東海旅客鉄道)およびJRグループ、愛知県内の自治体や観光事業者は、10月1日から12月31日まで秋の愛知県にスポットを当てて観光名所をPRする「愛知デスティネーションキャンペーン(愛知DC)」を開催している。このキャンペーンは「未来クリエイター 愛知~想像を超える旅へ。」をコンセプトに、日本の礎を築いた英傑たちの歴史関連施設から、近代から現代までの歴史的な施設や博物館などにフォーカスしたもので、パッケージツアーも数多く用意されている。
今回、2日間かけて行なわれたプレスツアーでは、2018年6月に完成した名古屋城本丸御殿や徳川美術館、愛知を代表する企業の一つであるミツカンの企業ミュージアムやJR東海のリニア・鉄道館を案内してもらったので、その模様をお伝えしよう。
「愛知デスティネーションキャンペーン」で愛知の食・歴史を旅する
尾張徳川家の豪華なアイテムを所蔵する徳川美術館
プレスツアーの1日目は「徳川美術館」からスタート。こちらは徳川家康の遺品をはじめ、尾張徳川家の初代である徳川義直(家康の9男)から続く歴代当主の遺愛品を中心におよそ1万件を収蔵している歴史的価値の高い美術館だ。
徳川御三家の筆頭として62万石を治めた大名(紀州家は56万石、水戸家は35万石)であることから、武具や防具、美術品から生活用品にいたるまで、とにかくよいものを使っていたのがうかがい知れる。それらを見学できる展示室は全部で9室あり、第1展示室から第6展示室までがテーマに沿った常設ルームで、第7展示室から第9展示室までが企画展を行なう部屋として区分けされているのが特徴だ。
常設展示室は、第1が武家のシンボル「武具・刀剣」、第2が大名の数寄「茶の湯」、第3が室礼装飾「書院飾り」、第4が武家の式楽「能」、第5が大名の雅道具「奥道具」、第6が王朝の華「源氏物語絵巻」となっており、当時の徳川家の様子を知るうえで非常に興味深いテーマになっている。
スタッフの話によると、尾張徳川家は代々伝わる品物をそのまま残すことを大切にしており、当時の雰囲気が分かるものが多いそうだ。例えば刀剣などがそれにあたり、「最近の刀剣は美術品として刃紋がキレイに見えるようにピカピカに研ぎ直しているものが多いのですが、こちらに残されているものは当時の研ぎ方でそのまま。変わらぬ姿がここにあります」と言っていたのが印象的だった。国宝である源氏物語絵巻はさすがに劣化するので復元したレプリカを常設展示しているのだが、11月3日から12月16日までは修復が完了したオリジナルを4場面ほど、入れ替えながら特別に展示するとのことだ。
入館料には廊下でつながっている「蓬左文庫」も含まれている。こちらは主に尾張徳川家の旧蔵書を所蔵しており、名古屋の城下図や古地図、屋敷図や庭園図など、多彩な内容の絵図も見どころになっているので、合わせて見学しておきたい。
徳川美術館
所在地: 愛知県名古屋市東区徳川町1017
営業時間: 10時~17時(最終入場16時30分)
休館日: 月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
料金: 一般1400円、高校・大学生700円、子供500円、毎週土曜日は小中高生無料
Webサイト: 徳川美術館
日本初の白だしを作った七福醸造の見学
七福醸造は日本で初めて「白だし」を作った会社。現在、白だしは和食の味付け用として、各メーカーからいろいろな商品が販売されているのでご存じの方も多いかと思う。白だしは白しょうゆにダシを加えたもので、料理の手間を省けるスグレモノ。そのもととなる白しょうゆは、こちらの碧南市で江戸時代後期の1800年ごろに誕生したと言われている。
その名のとおり、色が薄くて琥珀色の液体は薄口しょうゆよりも明るい色合いで、原材料は小麦が9割、大豆が1割の配合で作られているので、小麦のほんのりとした甘さが特徴となっている。ちなみに濃口醤油は小麦と大豆が半々の割合になっている。
「七福醸造ありがとうの里」では、その白だしと白しょうゆが製造されており、予約をすれば工場見学ができる。残念なことに取材当日はメンテナンスのため稼働はしていなかったが、材料は有機栽培のものを使用し、塩は天日塩だけを使うなどこだわりの製法を紹介していただいた。工場内にはショップも併設されており、七福醸造の製品を味見しながら購入することもできる。
七福醸造ありがとうの里
所在地: 愛知県碧南市山神町2-7
営業時間: 9時~16時(最終入場15時)
休業日: 年末年始・お盆
見学予約・問い合わせ先: 0566-41-1508
Webサイト: 七福醸造ありがとうの里
ランチは地元食材を使った日本料理屋で楽しむ
昼食で訪れたのは同じ碧南市にある「小伴天はなれ 日本料理 一灯」。大正9年(1920年)に創業した地元の老舗日本料理店である「小伴天」の系列にあたる。小伴天では南三河の食材にこだわったメニューを提供しており、先ほど訪れた七福醸造の白だしや白しょうゆも使われている。この日のコースは前菜に始まり、温物、刺身、焼物、酢の物、煮物、食事、デザートが提供された。どれも地元産のこだわり食材を丁寧に調理し、白しょうゆなどで素材の味を堪能できる素晴らしい仕上がり。運ばれてくる料理をもくもくと口の中に放り込んでは幸せな時間を楽しむことができた。
小伴天はなれ 日本料理 一灯
所在地: 愛知県碧南市作塚町1-16
営業時間: 11時30分~14時、18時~21時(LO.20時30分)
休業日: 水曜日
Webサイト: 小伴天はなれ 日本料理 一灯
幻のビールが飲める半田赤レンガ建物
そのあとは碧南市のお隣にある半田市に移動。こちらでは明治の風情が残る「半田赤レンガ建物」を見学した。当時のレンガ造りを残した貴重な建物であるこちらは明治31年(1898年)にカブトビールの工場として誕生。カブトビールは日本のビール黎明期において、サッポロやアサヒ、キリン、エビスなどとしのぎを削っていたそうだ。カブトビールの前身である「丸三ビール」は中埜酢店4代目である中埜又左衛門と敷島製パン創業者の盛田善平によって設立されたもので、ミツカンとも深いつながりがある。製造方法の改良を重ねて品質を向上させていったカブトビールは、明治33年(1900年)にはパリ万国博覧会において金賞も受賞している。
建物内部は安定した温度や湿度を保つために中空構造を持つ複壁や多重アーチ床など、さまざまな施工技術を使った構造になっている。設計者は明治建築界の三巨匠の一人である妻木頼黄氏で、横浜赤レンガ倉庫や日本橋(装飾部)なども設計した偉人だ。
常設展示室では、半田赤レンガ建物やカブトビール誕生の歴史を学ぶことができる。模型や映像、写真などが数多く展示されているなかには当時のビール広告なども掲示されており、現在とは違う時代の空気を感じ取れる。カブトビールは時代の流れで社名変更や合併などにより現在は残っていないが、半田赤レンガ建物の保存活動を行なう赤煉瓦倶楽部半田の手によって当時の味を復刻。併設されているカフェでは、明治時代と大正時代の味を再現した生ビール(1杯600円)を楽しむこともできる。
半田赤レンガ建物
所在地: 愛知県半田市榎下町8番地
営業時間: 9時~17時
休館日: 年末年始
料金: 大人200円、中学生以下は無料
Webサイト: 半田赤レンガ建物
ミツカンが運営するMIZKAN MUSEUMはセンスのよさが大人気
醸造の街である半田市にはもう一つ、日本のお酢の代名詞とも言えるブランド「ミツカン」のMizkan Holdingsが存在する。本社の隣には、ミツカンの酢作りの歴史やこだわりなどが学べる体験型博物館「MIZKAN MUSEUM」があり、休日は予約が取りにくい大人気スポットになっている。こちらの博物館で注意したいのは、入場が完全予約制であること。インターネットや電話で見学したい日にちと時間を選択して申し込む必要がある。
ガイドも同行する「全館コース」(所要時間90分)がオススメなのだが、土日は大変な人気で埋まっている可能性が高いので、時間が取れるなら平日の予約を推奨したい。ほか、江戸時代の酢作りが学べる「大地の蔵コース」(所要時間30分)もあり、こちらは比較的予約が取りやすい。
最初に見学する「大地の蔵」は、巨大な木桶や木製の醸造道具がズラリと並び、当時の製造方法が解説されており非常に興味深い内容になっている。その展示室の下には現在の醸造工場も置かれており、上から覗いて対比を楽しめるのもおもしろい。また、伝統的な製法である「静置発酵」の桶が並ぶ静置発酵室もガラス越しに見学できる。大地の蔵コースだとここまでだが、全館コースだとこの先にも進める。
運河を見ながら半田の歴史を語る写真や山車の紋章が飾られた「風の回廊」を抜けると、「時の蔵」に通される。こちらではミツカンの変革と挑戦してきた歴史を学ぶことができ、何と言ってもスゴイのは長さ20mの木造船「弁才船」を間近に見ることができる。半田から遠く離れた江戸までお酢を運んでいたこの船は甲板にも上がることができ、そちらでは当時の航海風景をイメージしたアニメーションも視聴できる。時間の関係で視聴はできなかったが、併設されている「水のシアター」では美しい四季と豊かな自然や食文化、食卓の風景を楽しむことができるそうだ。
最後にお酢を使った食の魅力に触れることができる「光の庭」に通される。こちらでは、全国の寿司のネタにまつわる知識やイミテーションを使った握りの実演、酢の試飲、オリジナルラベルの味ぽんが作れるようになっている。体験型コーナーが数多く設置されており、大人も子供も楽しめる仕掛けはファミリーにとても人気だとのことだ。出口にはショップが併設されているのだが、実はここではレアな限定醸造のお酢「千夜」と「三ツ判 山吹」を購入することができ、こちらを目当てに再訪する人もいるそうだ。
MIZKAN MUSEUM
所在地: 愛知県半田市中村町2-6
営業時間: 9時30分~17時・完全予約制
休館日: 木曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金(全館コース・所要時間90分): 大人300円、中高生200円、小学生100円、乳幼児は無料
料金(大地の蔵コース・所要時間約30分): 大人100円、小中高生50円、乳幼児は無料
Webサイト: MIZKAN MUSEUM
リニア・鉄道館は乗り物好きにはたまらないスポット
この日の最後に訪れたのはJR東海が運営する「リニア・鉄道館」。名古屋港の一画にあり、近くには2017年にオープンした「レゴランド・ジャパン」がある。広い屋内には日本の鉄道の発展に貢献してきた歴代の車両がズラリと並ぶ。特に、JR東海が管轄する東海道新幹線の車両も数多く展示されており、ダンゴ鼻の新幹線「0系21形」などは懐かしいフォルムにグッとくるものがある。またもう一つの目玉である超電導リニア「MLX01-1」も展示されており、新しい時代の到来を感じさせてくれる。展示されている39両は外観を自由に眺めることができ、一部の列車は中にも入れるので、とにかく飽きない空間になっている。
そのほかでは「鉄道会社が作ったので本気度が違う!」と天野満宏館長が語る鉄道ジオラマやリニアモーターカーの仕組みが分かる展示室なども設置されており、鉄道にまつわるいろいろな知識を楽しみながら身に付けることができる。なかでも鉄道シミュレータはこの施設の人気コーナーであり、新幹線シミュレータ「N700」と在来線シミュレータ「運転」「車掌」で実際の運転などを体験することができる。
新幹線シミュレータはN700系の実物大の運転台に座り、東京~名古屋間の運転を約15分間楽しめるものだが、1回あたり500円かかる。しかも抽選(希望者が多いと当選率は約1/50になることも)なのだが、リアルな操作感は体験すると非常に楽しく、人気があるのもうなずける内容だ。在来線シミュレータは、車掌は抽選(約15分、500円)、運転は先着順(約10分、100円)になっている。館内は広くて展示物も多く、一日中いても楽しめるので、名古屋観光でオススメしたいスポットの一つに挙げたい。
リニア・鉄道館
所在地: 愛知県名古屋市港区金城ふ頭3-2-2
営業時間: 10時~17時30分(最終入場17時)
休館日: 火曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
料金: 大人1000円、小中高生500円、幼児(3歳以上未就学児)200円
Webサイト: リニア・鉄道館