旅レポ

「愛知デスティネーションキャンペーン」で尾張名古屋の名城を巡る旅(後編)

名古屋のシンボルともいうべき名古屋城は金の鯱でも有名。国の特別史跡に指定されており、櫓や門は国の重要文化財に指定されている

 JR東海(東海旅客鉄道)およびJRグループ、愛知県内の自治体や観光事業者は、10月1日から12月31日まで秋の愛知県にスポットを当てて観光名所をPRする「愛知デスティネーションキャンペーン(愛知DC)」を開催している。このキャンペーンは「未来クリエイター 愛知~想像を超える旅へ。」をコンセプトに、日本の礎を築いた英傑たちの歴史関連施設から、近代から現代までの歴史的な施設や博物館などにフォーカスしたもので、パッケージツアーも数多く用意されている。

 そんな愛知デスティネーションキャンペーンのプレスツアー、2日目はお城めぐり。名古屋のシンボルでもある名古屋城に木曽川沿いに建てられた犬山城を訪問した。金鯱(きんしゃち、きんこ)で有名な名古屋城は市内にあるので目にしたことがある人も多いかもしれないが、6月に全体公開が始まった本丸御殿は一見の価値あり。一方の犬山城は岐阜県との県境にあり、日本では5つしかない国宝の城でもある。城好きはもとより、美しい景観はこれまた訪れる価値は大いにありだ。

復元された豪華な本丸御殿が見どころの名古屋城

 1612年に完成した名古屋城は、徳川家康の命により諸大名を動員した「天下普請」として築城が行なわれたもので、そのなかには築城名人とうたわれた加藤清正の名前もあった。尾張初代藩主として家康の9男である義直が入り、以降は御三家筆頭尾張徳川家の居城となったものだ。1930年(昭和30年)には国宝として認定されたものの、太平洋戦争の空襲により本丸付近は焼失し、現在の天守などは戦後に再建されたものだ。

 コンクリート造りで建てられた天守の内部は博物館として利用されていたが、経年劣化によるものと耐震性が低いことから建て直すことになった。今度はガラリと変わり、当時を再現するような木造建築になる予定で、現在は周囲に足場が組まれるなど解体工事が進められている。残念ながら入場できなくなった天守だが、11月30日まではVRゴーグルを使って、一足早く木造復元イメージを体験できる催しが開催されている。こちらは無料になっているので(名古屋城の観覧料は入り口で支払う)、訪れた際は試してみてもらいたい。

天守は木造にするための建て替え工事に入る。「金城温古録」や「昭和実測図」「ガラス乾板写真」など、城を知る貴重な資料や写真が残っていることも後押しになっている
本丸広場の一角に建てられているイベントスペースのなかでは、木造で復元した天守の内部を360度で見渡せるVR体験ができる

 今一番の見どころは本丸御殿だ。名古屋城には住居と政庁として使用するための本丸御殿が1615年に建てられているが、こちらも空襲によって焼失。2009年から復元工事が開始され、2013年に玄関と表書院が完成して公開、続いて2016年に対面所と下御膳所を公開、そして今年の6月8日に上洛殿が完成し、全体公開されることになった。

 御殿内部は徳川家の力を誇示するかのように内部は華のある空間だが、そのなかでも上洛殿は徳川将軍が京都に向かう途中、宿泊するための場所として建設されたことからひときわ絢爛豪華な造りになっており、訪れたものを驚かせる。美しい花鳥画や床、そして天井にいたるまで装飾が施された空間を再現しており、見事の一言だ。おもしろいところでは、将軍専用の蒸し風呂場である湯殿書院なども復元されている。今でいう“サウナ”だ。この時代はまだ湯舟につかるといったものではなかったことにも驚かされる。

天守の横に建つ本丸御殿。当初は藩主用だったが、将軍用に増改築が行なわれた。そのため藩主は二之丸御殿を拠点にしていたとのことだ
正規の客がまず通される玄関には一之間と二之間が置かれ、周囲の壁や襖には勇猛な虎と竹林が描かれている
玄関から大廊下を通った先には表書院がある。こちらは藩主が来客や家臣の公的な謁見に用いられていたもので、5つの部屋で構成されている。天井の作りにも趣向が凝らされている
藩主が家臣との私的な謁見や宴席に使っていた対面所。天井は二重折上げ小組格になっており、金箔に黒漆塗りと、かなり豪華になっている
極め付きは徳川家光の上洛に合わせて増築された上洛殿。将軍用であるため本丸御殿のなかでも一番格式の高い場所になる
天井には板絵、部屋の境には極彩色の彫刻欄間がはめ込まれている。表面に複雑な彫刻が施された飾り金具まで、ありとあらゆるものがきらびやかに彩られている
将軍のお風呂に使われた湯殿書院。かまどでお湯を沸かし、その湯気を屋形内に引き込む仕組み

 いろいろと見どころが増えている名古屋城だが、周辺にも人を呼び込むためのエリアが整備されている。3月にオープンした「金シャチ横丁」は、名古屋めしと呼ばれる昔ながらの地元の味を伝える飲食店と、新しい食文化を生み出す飲食店が立ち並ぶ。正門に近い「義直ゾーン」が伝統、東門に近い「宗春ゾーン」が革新をコンセプトにした場所であり、建屋からして異なるので、それぞれの雰囲気と料理を楽しんでもらいたい。

多くの飲食店が軒を連ねる金シャチ横丁。こちらは伝統的な名古屋めしが楽しめる義直ゾーン
名古屋城

所在地:愛知県名古屋市中区本丸1-1
開園時間:9時~16時30分(最終入場16時)
休園日:年末年始
料金:大人500円、中学生以下無料
Webサイト:名古屋城

国宝・犬山城からの景色は一見の価値あり

 名古屋城でこれでもかと当時の徳川家の威光を目の当たりにしたあとは、国宝でもある犬山城に向かった。お城のある犬山市は愛知県の北部、岐阜県との県境を流れる木曽川沿いにある。日本の国宝に指定されている城は、姫路城(兵庫県)、彦根城(滋賀県)、松江城(島根県)、松本城(長野県)に犬山城を加えた5つであり、史跡価値はきわめて高い。1537年に織田信長の叔父である織田信康によって築城され、尾張と美濃の要所にあることからも重要拠点として活用された。戦国時代は目まぐるしく城主も変わったが、江戸時代からは徳川義直の家老であった成瀬正成が当主となり、そのあとは2004年まで個人所有として成瀬家が守ってきた歴史がある。現在の所有者は公益財団法人犬山城白帝文庫。

 見どころは何と言っても、天守からみた景色だろう。木曽川の小高い丘の上に建つ犬山城は辺り一面を見渡すことができ、眺望のよさはバツグンだ。ただし、最上階の4階まではかなり急な階段を上らなくてはならない。古城あるあるだ。それ以外にも防御施設である付櫓や石落とし、武具の間など、昔からの姿がそこにある。

木曽川沿いの丘に建つ犬山城。天守の高さは19mほどで、それほど大きくはない
歴史を感じさせる城内。とにかく階段の勾配はかなりキツイ
最上階までたどり着くと、周囲を一望できる絶景が待っている。当日はあいにくの雨模様だったが、晴れて澄んだ日には名古屋城や岐阜城も見えるそうだ
犬山城

所在地:愛知県犬山市犬山北古券65-2
開園時間:9時~17時(最終入場16時30分)
休園日:年末年始
料金:一般550円、小・中学生110円
Webサイト:犬山城

犬山の歴史とからくり文化に触れられる博物館

 犬山城の近くには「城とまちミュージアム」があり、こちらで犬山の歴史を学ぶことができる。館内のエントランスには犬山城とその城下町のジオラマがあり、昔の町並みを見ることができる。ほか、成瀬家が寄贈した武器や武具、絵画に工芸品、古文書や絵図なども展示されている。

当時の町並みがリアルに再現されたジオラマ
当時の合戦の様子
木曽川は鵜飼いでも有名

 別館として「からくり展示館」もあり、こちらも見学させていただいた。館内にはからくり人形が多数展示されており、歴史や仕組みを知ることができる。当日はからくり人形師である、九代玉屋庄兵衛氏が代表的なからくり人形の説明と実演をしてくれた。最初に登場したのは「弓曳童子」。江戸時代後期から明治時代に活躍した田中久重の最高傑作の一つであり、人形が矢立てから矢を取り、的を狙って弓を引くというもの。真鍮製のゼンマイが動力源で、カムと糸で各部に動きを伝える。動きや仕草がなんとも人間くさく仕上げられており、見るものを魅了する。もう一つは「文字書き人形」で、こちらはセットされた紙に筆で字を書くというものだ。どちらのからくり人形も動きは秀逸で、その場にいたギャラリーからは感嘆の声が上がっていた。

館内には数多くのからくり人形が展示されている
こちらは人が操作する山車からくり
お茶を運んで戻ってくる茶運人形
多くのからくり人形を復元させた九代玉屋庄兵衛氏
ゼンマイを巻くと、矢を取り弓を引く弓曳童子
セットした紙に筆で字を書く文字書き人形
城とまちミュージアム(犬山市文化史料館)

所在地:愛知県犬山市犬山北古券8
開館時間:9時~17時(最終入館16時30分)
休館日:年末年始
料金(からくり展示館も含む):一般100円、中学生以下無料
Webサイト:城とまちミュージアム

「未来クリエイター 愛知~想像を超える旅へ。」をコンセプトにした愛知デスティネーションキャンペーン。今回は中世から続く歴史や食文化、近代における発展まで、愛知県の時代の流れを知ることができた。今回訪れた場所以外にも見どころはたくさんあり、それらをパッケージにしたツアーも数多く用意されている。秋の旅がまだお決まりでない方はぜひとも検討してみてはいかがだろうか。今まで知らなかった愛知県の魅力が発見できるはずだ。

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。