旅レポ

今こそ行きたい日本はじまりの地、奈良。神武天皇を祀った橿原神宮で古代のロマンに触れる

初代天皇である神武天皇が祀られている橿原(かしはら)神宮。広大な敷地と立派な社殿を持つ格式の高い神社だ

 新しい元号「令和」が始まり、10月22日には天皇陛下の御即位を広く披露する「即位礼正殿の儀」が執り行なわれる。新しい時代の始まりであるが、「日本のはじまりの地」として今注目されているのが奈良県の橿原(かしはら)神宮と飛鳥地方だ。

 JR東海(東海旅客鉄道)は奈良県をPRするキャンペーン「うまし うるわし 奈良」を2005年より行なっているが、今年はこの“飛鳥”エリアにスポットを当てて展開している。その飛鳥を巡るプレスツアーに参加してきたので、前編と後編に分けて紹介しよう。なお、橿原神宮の通常公開されていない施設などの写真については、特別に許可を得て撮影したものであることをお断りしておく。

神武天皇と皇后を祀る橿原神宮

 最初に紹介するのは初代天皇である「神武天皇」と皇后「ヒメタタライスズヒメノミコト(媛蹈韛五十鈴媛命)」が祀られている「橿原神宮」。

 奈良県中部の橿原市にあり、大和三山(耳成山、畝傍山、天香久山)である畝傍山の東南に位置する。日本最古の正史ともされる「日本書紀」によると、今よりはるか昔2600年前に、天照大神の血を引く神倭伊波禮毘古命(後の神武天皇)が九州の高千穂からこの地に移り、橿原宮を創建して第一代天皇として即位されたと伝えられている。その後は、飛鳥京、藤原京、平城京と遷都され、跡地は長らく畑地となっていた。

 動きがあったのは幕末の文久3年(1863年)で、神武天皇の御陵が畝傍山の北東に定められる。明治10年代になると橿原宮址を調査し、これを顕彰しようという動きから、民間から橿原神社の建築の出願が相次いだ。これを受け、明治政府は明治22年(1889年)に神社創建を認可し、社殿として京都御所の賢所と神嘉殿の2棟が下げ渡された。明治23年(1890年)1月に移築が完了し、3月に社号を橿原神宮に、4月2日には格式の高い官幣大社に列せられることになった。神武天皇は幾多の苦難を乗り越えて都を開いたことから、開運・招福のご利益があるとされている。また、言い伝えでは127歳の長寿であったことから、健康・延寿を願う多くの人が参拝に訪れている。

表参道に建てられている第一鳥居も立派だ。現在は改修工事が行なわれており、その先に見えるはずの第二鳥居は台座のみになっているが、近々新しい鳥居がお目見えする予定だ
振り返ると第一鳥居の先には水墨画のような美しい奈良の山々が広がる
神武天皇にまつわる鮎を用いた「鮎みくじ」と、幸運を呼ぶとされる金鵄を用いた「金鵄みくじ」。かわいいフォルムが女性に人気だとか

 創建以来、宮域の拡張整備が行なわれてきたこともあり、約16万坪と広大な敷地を誇る橿原神宮。“橿原”という地名から昔は樫の木が生い茂っていたと推測されることから、境内にはカシ類を主として約8万本が植栽されており、深い緑に包まれているのが特徴だ。

 敷地にはいくつもの施設が建立されており、見どころはたくさんあるが、重厚で壮大な社殿は一見の価値がある。両脇に長い廻廊を連ねた入母屋造りの外拝殿、整備された外院斎庭の奥にある美しい内拝殿など、参拝に訪れる人の心を清々しいものにしてくれる。後背には緑が映える畝傍山も見え、古来大和の趣を感じることができるのも特筆すべき点だ。ちなみに畝傍山は標高199.8mの高さであり、北参道の途中にある登山口から登って、頂上から橿原の街並みを一望できるそうだ。

廻廊から内拝殿を見たところ。内拝殿の奥には祝詞(のりと)を奏上する幣殿、ご神体が鎮座する本殿が続く。釣燈篭にはカシの葉をモチーフにしたマークが入っている
廻廊から外拝殿を見たところ。通常は外拝殿で参拝を行なうので、ここまで入ることはできない
外拝殿からは内拝殿とちらりと見える幣殿までを拝むことができる

 もし、早起きができるなら、橿原市観光協会が実施している「橿原神宮朝拝体験ツアー」(1000円)がオススメ。朝8時に集合し、神職の案内のもと、普段は立ち入ることのできない儀式殿にて朝拝を体験し、内拝殿からお参りすることができる。朝拝は毎日職員が集まって行なう朝のお参りで、穢れを祓って本来の自己に立ち還るために唱える「大祓詞(おおはらえことば)」を奏上するものだ。厳かな雰囲気のなか、参加者も渡された大祓詞を一緒に唱えて奏上する。清々しい空気でキリッと始まる朝もここでしか味わえない体験だ。

 ツアーは基本的に祭典や行事が行なわれていない金曜、土曜、日曜に実施されているが、申し込み方法も含めて、橿原市観光協会のWebサイトをチェックしてもらいたい。

伊勢神宮よりまるごと移築された儀式殿。ここでは結婚式のほか、毎朝の朝拝が執り行なわれる
神職をはじめとする橿原神宮の職員が毎朝集い、大祓詞と神社拝詞を奏上する。二拝二拍手一拝などの所作が美しい
橿原神宮

参拝時間: 日の出から日没まで(5時~19時、季節によって変更)
所在地: 奈良県橿原市久米町934

勅使館が10月23日から特別公開

 そのほかでは、通常は非公開である「勅使館」が10月23日から12月8日まで特別公開される。この勅使館は天皇陛下の御代理である勅使が、例祭「紀元際」や重要な祭典の前に参籠(祈願のために籠る)、潔斎(神事前に身を清める)をする場所である。

 これまで非公開であった「上段の間」も公開されるほか、午前と午後には神職による施設の解説も実施。また、東海道新幹線の「EXご利用票」(ご参拝の当日または前日に京都駅または新大阪駅着であるもの)か、JR東海ツアーズ「橿原神宮 勅使館特別拝観」チケットを持参した人には、鳥居の古材で調製された「開運延寿鳥居古材木札」が進呈される。

身を清める場所であることから設えは簡素でありながらも、貴人を招くための格式を感じさせる装飾が各所に施されている。手前にあるのが御神前にお供えする「御幣物」と、その御幣物を納める「辛櫃」で、こちらも特別に公開される
大正6年(1917年)に建てられた勅使館は入母屋造瓦葺屋根が特徴で、枯山水庭園の隆盛によって珍しい存在となった寝殿造庭園も見どころの一つ
勅使館 特別公開

公開期間: 2019年10月23日~12月8日
拝観時間: 9時30分~15時30分
拝観料: 500円(未就学児童は無料)
午前中休館日: 11月1日、3日、11日、21日、12月1日
全日休館日: 10月25日、31日、11月2日、10日、12日、13日、14日、15日、20日、30日

 橿原神宮の北には神武天皇陵があるので、散策がてらこちらも訪れてみたい。御陵の正式名称は「畝傍山東北陵」であり、円丘状で周囲は約100m、高さ5.5mの植込みと幅約16mの周濠を巡らせている。高木に覆われた御陵は厳かな雰囲気が漂い、神聖な場所であることが認識できる。

 こちらの神武天皇陵では、天皇陛下、皇后陛下が伊勢神宮や歴代天皇陵に参拝し、一連の儀式を終えたことを報告される「親謁の儀」が11月27日に執り行なわれる予定だ。

神武天皇陵では11月27日、天皇陛下と皇后陛下が儀式の終了を報告する親謁の儀が執り行なわれる

 日本の歴史と文化の発祥の地でもある橿原は日本の原点とも言えるエリアであり、古代のロマンがたくさん詰まっている。新しい元号とともに注目されている今、秋の旅の目的地としてはいかがだろうか。後半では、重要文化財である飛鳥大仏、江戸の町並みが今も残る今井町、古民家を改装したオシャレなカフェやレストランを紹介する。

野村シンヤ

IT系出版社で雑誌や書籍編集に携わった後、現在はフリーのライター・エディターとして活動中。PCやスマートフォン、デジタルカメラを中心に雑誌やWeb媒体での執筆や編集を行なっている。気ままにバイク旅をしたいなと思う今日この頃。