旅レポ

オーストラリア「アデレード・ヒル」への日帰りツアー

コアラやカンガルーと触れ合える動物公園やドイツ村が至近。オーストラリアワインを堪能

アデレードの近郊にあるクリーランド・ワイルドライフ・パークのコアラ

 オーストラリアの観光業界向けのコンベンションとなる「ATE(Australian Tourism Exchange)18」が、4月16日~4月19日(現地時間)の4日間に渡り、オーストラリア連邦南オーストリア州アデレード市にあるアデレード・コンベンションセンターで開催されている。

 それに先だって主催者となるオーストラリア観光局主催のFAM(視察)ツアーが行なわれた。カンガルー島への2泊3日のFAMツアーに関しては下記一覧のとおりだが、ここではアデレードの郊外に位置するアデレード・ヒル(Adelaide Hills)への日帰りツアーの様子を紹介していきたい。

 アデレードの中心街からクルマで数十分というところにある、アデレード・ヒルにはカンガルーやコアラなどに近づいて観察したり触ったりすることができる動物公園や、ドイツ移民が作った村となるハーンドルフ(Hahndorf)などがあるほか、オーストラリアのワイン生産の60%を占めるという南オーストラリア州を象徴するようなワイナリーが多数あり、ワインのテイスティングなどを楽しむことができる。

南オーストラリア州の州都となるアデレード、古い建物も残っている町並み

 2018年のATE 18が行なわれるアデレード市は、南オーストリア州の州都が置かれている、オーストラリアとしては大都市となる。ただし、「オーストラリアとしては」と断ったように人口は約112万人なので、日本なら広島市や仙台市ぐらいの規模だろう。

夕方のアデレードのショッピング街の様子

t アデレードの街は19世紀にイギリスの植民都市として建設が始まったが、そのときから計画的に作られており、市の中心となるダウンタウンは、周囲を公園や川などで囲まれて、その内部は碁盤の目のように道が縦横に引かされているという、日本の京都や、そのモデルになった中国の王朝の都(長安や洛陽など)のような構造になっている。ただし、現在は人口が増えているので、多くの人は郊外に住んでおり、ダウンタウンにはオフィスやホテル、そして今回のATE 18が行なわれるコンベンションセンターなどがある構造になっている。

 もう1つの特徴は、歴史的な建造物が現在の都市にそのまま活かされていることだ。オーストラリアという国自体が比較的に新しい国であることを反映して、歴史的な建造物をとても大事にしており、古い建物をむやみに壊したりしないで、外観を残しつつ内部だけリノベーションして使ったりするのが一般的。また、教会などの建物はそのまま残されており、近代的なビルとそうした歴史的な建造物が並んでいたりする。

アデレードの町並みは新しい風景と古い建物がマッチしている

 このほかにも、アデレード(というよりオーストラリア全体)が観光に力を入れており、外国からの観光客、国内からの観光客の双方にアピールできるような施設を次々と建設している。MICE向けの事業としてはアデレードコンベンションセンターの新しいホールを建設し、オーストラリア・フットボールやクリケットの試合が行なわれるスタジアムとしてアデレード・オーヴァルが建設され、実際に試合などに使われているという。それに合わせて、ダウンタウンの北方を流れる川の夜景も新しい観光地になりつつある。

アデレード・コンベンションセンターの新ホール
クリケットやオーストラリア・フットボールが行なわれるアデレード・オーヴァル
ライトアップされている教会

 そうしたアデレードだが、オーストラリアは南半球にあるため、日本とは季節がちょうど反対になる。日本は春を迎えたところだが、オーストラリアは晩夏から秋へと向かいつつあるところ。筆者がオーストラリアに着いた日は、35℃だったが、ATE 18開催前の週末はあいにくの雨。このため温度も急速に下がっており、最高気温は20℃、最低気温は12℃で、夜は上着がないと寒いほどだ。

1995年までアデレードで行なわれていたオーストラリアGPの跡地を通過

 今回筆者たちがFAMツアーに向かった日も前日の夜から雨が降り続いているあいにくの天気だ。バスに乗って出発したが、何日も前から遠足を楽しみにしていたのに、雨でがっかりした小学生バリに気持ちは「↓↓↓↓」こんな感じだったが、バスのドライバーさんがそんな筆者の気持ちを推し量ってくれたのか、「ここが昔オーストラリアGPで行なわれていた時代に、アデレード・市街地・サーキットのストレートがあった場所だ」というところを通ってくれた。

アデレード・市街地・サーキットのストレート

 実は筆者は三度の飯よりもF1好きというマニアで、日本でテレビ放送が始まった1987年からは欠かさず全戦を見ている。アデレードでオーストラリアGPが初めて開催されたのは1985年で、そのときに優勝したのは、今や2016年のF1世界チャンピオンであるニコ・ロズベルグの父親という紹介がされる、1982年のF1世界チャンピオンであるケケ・ロズベルグ。ロズベルグ父は、ウィリアムズ・ホンダを駆って最初のオーストラリアGPで見事優勝したのだ。その後、翌86年には、マクラーレン・TAGポルシェのアラン・プロストと、ウィリアムズ・ホンダのナイジェル・マンセルとネルソン・ピケの3人がチャンピオンを争っていて、裏ストレートでマンセルのタイヤがバーストして、プロストが大逆転でチャンピオンを獲得という舞台になった。

アデレードのビクトリア公園。レースのときにはここにメインスタンドやピット施設が仮設で設営される

 日本のオールドファンであれば、1989年のオーストラリアGPで、アイルトン・セナがマーティン・ブランドル(先日の中国GPで表彰台でインタビューしていた)に雨の中突っ込み、チャンピオンを完全に失ったレースであり、このレースがロータスでの最後のレースになった中嶋悟が日本人として初めてファステストラップを記録したレースとして記憶に残っているだろう。

 また、1994年のレースも非常に印象深いレースだった。この年はアイルトン・セナがサンマリノGPの事故で世を去ってから、そのチームメイトだったデーモン・ヒルと新鋭ミハエル・シューマッハが最終戦まで激しくタイトルを争っていた。結局、最終戦のオーストラリアGPで、ウォールに突っ込んでしまったシューマッハは、その後抜こうとしたヒルのウィリアムズに接触し、ヒルのサスペンションも壊れてリタイアに追い込むことで、自身初のタイトルを確定して論争となった。

 そうしたアデレードのオーストラリアGPだが、1995年の最終戦がアデレードで開催されたのを最後に、翌1996年からはメルボルンで開幕戦が行なわれるようになり現在に至っている。その後アデレードでは、日本のSUPER GTのようなオーストラリアの人気のツーリングカー・シリーズとなるV8スーパーカー・シリーズの1戦としてアデレード500というレースがアデレード・市街地・サーキットで行なわれている。

 なお、このアデレード・市街地・サーキットのメインストレートなどがある場所は、ビクトリア公園という公園になっており、レースがないときには仮設スタンドやピット施設などが撤去されて、普通に公園として市民の憩いの場となっている。すでに2018年のアデレード500は3月4日に終わっているので、ビクトリア公園では仮設スタンドの撤去が進められていた。

クリーランド・ワイルドライフ・パークでコアラとカンガルーに再び遭遇

 さて、そうしたビクトリア公園を横目に見て、昔のF1のレースに想いを馳せていると、この日の最初の目的地であるアデレード・ヒルにある「クリーランド・ワイルドライフ・パーク(Cleland Wildlife Park)」に到着した。クリーランド・ワイルドライフ・パークは、いわゆる動物園というよりは動物公園に近い施設で、施設の中ではカンガルーやワラビーなどの動物が放し飼いになっている。また、コアラ舎が用意されており、そこではコアラと触れ合うこともできる。

クリーランド・ワイルドライフ・パーク(Cleland Wildlife Park)
園内の案内図
木につかまって寝ているコアラ、飼育員によればコアラの毛皮は「ウオータープルーフ」らしく、こんなにぬれてても冷たくないそうで、起きたらブルブルっとして雨を払えばおしまいとのこと

 カンガルー島でコアラに触れ合ったときは、コアラを抱いてみることが可能だったが、ここクリーランド・ワイルドライフ・パークでは、ユーカリの木に留まっているコアラを抱きしめるという形でやや違った形になっていた。コアラの重さを感じることはできなかったが、コアラに手を添えて抱きしめながら写真を撮ることができた。すでにカンガルー島へのツアー(関連記事「オーストラリア・カンガルー島の大自然を満喫する(その2)」)でコアラを抱いていたため2回目ということで、1回目ほどの感激はなかったのは事実だが、それでもコアラに触れる機会などは日本では絶対にないため、こちらもよい思い出になった。

ユーカリの木に飼育員がコアラを移動させてくれる
ご機嫌そうなコアラ
こんな感じに直接触れたりできる
ツンデレなのか、向こうを向かれてしまう……
飼育員がエサをあげている間に記念撮影

 重要なことは、このクリーランド・ワイルドライフ・パークはアデレードの市街からクルマで十数分で来られてしまう場所にあるということだ。カンガルー島のような手つかずの自然が残るところに観光に行くのがもちろんベストだが、旅行のスケジュールの関係で、アデレードには1~2日しかいられないとなると、カンガルー島に行くような時間がもったいないという場合があるだろう。そうしたときにはクリーランド・ワイルドライフ・パークのような郊外の動物公園に行くというのはアリだと思う。

このようにワラビーに餌をあげたりできる
園内にはいろいろな動物がいる

 コアラを堪能したあとは、カンガルーを見に行った。このクリーランド・ワイルドライフ・パークでは、入り口で動物のエサを買うことができるのだが、それをカンガルーやワラビーなどに与えることができる。カンガルー島では、カンガルーは野生であるため人間が来ると逃げてしまっていたが、ここでは餌付けされているため、エサをあげると動物の方から寄ってきてくれる。動物と一緒に撮影したい人などにはむしろお勧めだろう。もちろん、自然のままの状態の動物を観察したいというのなら、カンガルー島のような手つかずの自然が残っているところをお勧めする。このあたりは、かかる時間とニーズに応じて選べばよいと感じた。

雨に濡れてちょっとかわいそうだが、やはりそんなに寒くはないとのこと
エサをあげようとすると、だんだんと寄ってくる

 コアラとカンガルーに近接したあとは、「バード・イン・ハード・ワイナリー(Bird in Hand Winery)」へと行き、昼食を取ることになった。バード・イン・ハード・ワイナリーは家族経営されているワイナリーで、1997年に現在のオーナーが所有する前から、ワイナリーとして運営されてきた。現在のオーナーが入手した後で、レストランやテイスティングができるように施設の改良を進め、多くの観光客がテイスティングやワインの購入だけでなく、ランチやディナーを取るために訪れるという施設になっている。メインはラム肉のステーキだったが、非常に柔らかくて味がしっかりついており大変美味しかった。

バード・イン・ハード・ワイナリー、この頃にはすっかり雨が上がっていた
ワイナリーの前に葡萄畑が広がっていた
芝生とワイン
ワイナリーの内部、ここで食事を取ることができる
かつてのワインの搬送に使われていた車
明るい席も用意されている
テイスティングができるバーカウンター
バード・イン・ハード・ワイナリーでの昼食

ドイツの町並みが残るハーンドルフとその近郊のワイナリーを訪問

ハーンドルフは1839年に作られたドイツ村

 昼食を取ってお腹がいっぱいになったあとは、ハーンドルフ(Hahndorf)を訪問した。ハーンドルフという名前の由来は、ハーンは人の名前で、ドルフはドイツ語で村という意味になる。人の名前”ハーン”の方は、19世紀にこの村を開拓したドイツ人グループのリーダーで、ハーン船長(Captain Hahn)という呼び方で歴史に残っている。つまり、ハーンドルフとは「ハーン船長の村」という意味になる。

ハーン船長記念公園

 このため、ハーンドルフは街の雰囲気がドイツそのものになる。古くから残っている建造物もドイツ風だし、現在残っている町並みもかなりドイツ風だ。このため、特にオーストラリア国内からの観光客に人気があるようで、日本人や中国人などの東洋人はあまり多くない印象だった。

ハーンドルフの風景

 このツアーの最後の目的地はハーンドルフ近郊にある、ハーンドルフ・ヒル・ワイナリー(Hahndorf Hill Winery)。ここでは、ワイナリーで生産しているチョコレートとワインのコンビネーションを楽しんだ(つまりおやつだ)。出されたワインは赤ワインと、フルーツワインなのだが、特にチョコレートとフルーツワインの組み合わせは苦みがまったくなく、「あの苦みが苦手でワインが……」という人でも楽しめると感じた。

ハーンドルフ・ヒル・ワイナリー
出されたチョコレートとワイン
出されたチョコレートとワインを組み合わせて楽しむと美味しかった

 そのあとはバスに乗って街に戻りツアー終了。アデレード市街からアデレード・ヒルまでは場所によるが20分程度あれば着いてしまう。この近さなのに、多数のワイナリーなどがあって食事やワインが楽しめたり、クリーランド・ワイルドライフ・パークやハーンドルフなどファミリーで楽しめる観光地があったりと、街から出かけて気軽に自然やワイナリーを楽しむことができたので、アデレードに滞在する機会があって、半日空いてしまったなどのときにはぜひ観光を検討してみるといいだろう。

笠原一輝