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オーストラリア政府観光局 国際担当GMインタビュー。日本人旅客は4%成長、2018年は西海岸を訴求

2018年4月16日~19日 開催

オーストラリア政府観光局 インターナショナル・エグゼクティブ・ゼネラル・マネジャー フィリッパ・ハリソン氏(右)とオーストラリア政府観光局 日本局長 中沢ジョー氏(左)

 オーストラリアの観光業界向けイベント「Australian Tourism Exchange 18」(ATE 18)が、4月16日~19日(現地時間)の4日間にわたって、オーストラリア 南オーストラリア州 アデレード市にあるアデレード・コンベンションセンターにおいて開催された。

 このなかで、主催者のオーストラリア政府観光局 インターナショナル・エグゼクティブ・ゼネラル・マネジャーのフィリッパ・ハリソン氏、オーストラリア政府観光局 日本局長の中沢ジョー氏による、日本の報道関係者を対象にしたグループインタビューが行なわれたので、その模様をお届けする。

日本市場も成長を続けており、オーストラリアへの旅客数は前年対比で4%のアップ

――オーストラリア旅行業界における日本市場の現状を教えてほしい。

ハリソン氏:日本の旅行業界はオーストラリアに多大な貢献をしている。実際、2017年日本からオーストラリアに渡航した旅客数は約43万4000人、前年対比で4%と大きく増加している。その最大の要因は5つの都市に就航しているフライトで、2017年9月にJAL(日本航空)の成田~メルボルン線が新しく就航し、12月にはカンタス航空の関空~シドニー線が就航したことが挙げられる。それと同時に、オーストラリアは安全安心な観光地であると広く認知が進んだということもあり、大きなイベントも増えている。

 そして大自然、ここにしかいないカンガルーやコアラなどの動物、素晴らしいワイン、そしてそれらを体験するプログラムといった観光資産の充実が日本のお客さまに対して訴求しているのではないか。

オーストラリア政府観光局 インターナショナル・エグゼクティブ・ゼネラル・マネジャー フィリッパ・ハリソン氏

――記者会見ではオーストラリア政府観光局の目標として2020年までに観光客の年間支出を1300~1400億オーストラリアドルとしていたが、日本の旅客の支出はどうか?

ハリソン氏:日本からのお客さまは非常に価値があり、オーストラリアで多くの支出をしてくれる存在だ。2017年の日本人の支出は180億オーストラリアドルで、対前年比で2%増えている。2020年のターゲットである1300~1400億オーストラリアドルを達成するために、日本人の支出目標を270~330億オーストラリアドルに設定している。

 そして、こうして日本からのお客さまがオーストラリア経済に貢献しているのと同時に、われわれもアウトバウンド(日本にとってのインバウンド)需要で日本経済に貢献したいと考えている。われわれが日本へ送り出している観光客も年々増えており、それが日本経済への貢献につながっていると考えている。

――オーストラリアのアウトバウンド旅客は日本のどこに魅力を感じているのか。例えば北海道のスキーなどか?

ハリソン氏:スキーはもちろんだが、日本のユニークな文化やそれに基づく体験が重要だ。日本の旅行業界の皆さんは、オーストラリアで非常によい仕事をしており、オーストラリアの旅客に対して日本の魅力を説明できている。

 そしてそれと同じように、われわれも日本のお客さまに対して、オーストラリアの魅力を訴えていきたい。新しい何かを提案していくことが重要だ。例えば、すでにシドニーやゴールドコーストを体験した人には、それ以外の地域の魅力をアピールしていく。日本局がそうした取り組みを行なっており、これから数カ月もやっていきたい。

中沢氏:日本局では新しい観光地や新しい製品の紹介に取り組んでいる。ゴールドコーストやシドニーなどは日本の観光客になじみ深いと思うが、それに加えて新しい観光地を日本人に理解してもらうことが重要だ。以前に比べて個人旅行が増えており、イルカ体験、釣りなどの新しい体験プログラムも人気を集めるようになるなど、ニーズが多様化している。オーストラリアはそれを提供できると考えており、素晴らしい食事やカフェ文化、ワインといった基本的なコンテンツに加えて、そうした新しい体験を提供していくことが重要だ。

各ブースではオーストラリアの文化になっているカフェ文化をアピールする意味で、入れ立てのコーヒーを振る舞うのが一般的

ハリソン氏:オーストラリアにはここにしかない体験プログラムがあり、その情報を積極的に提供していきたい。オーストラリアの大自然体験や、先住民体験、素晴らしいゴルフコース、そうした多様性を持ったプログラムが135も用意されており、それを日本のお客さまに対して積極的に紹介していく。

 それに加えて、われわれは日本のJTBと密接なパートナーシップを構築していくことを、今年発表した。言うまでもなく、日本市場で重要なディストリビュータであるJTBとはこれまでも長い間パートナーとしてやってきたが、JTBが今年重要視して取り上げる旅行先としてオーストラリアを選択し、2月の発表から多くの商品をお客さまや彼らのパートナーなどに紹介している。

ATE 18での、オーストラリア政府観光局のブース

――団体旅行と個人旅行ではどちらの方が多いのか。

中沢氏:依然として団体旅行が大多数を占めており、大雑把にいうと7:3ぐらいになっている。

ハリソン氏:旅行代理店のネットワークは非常に重要だ。80%の予約は旅行代理店経由で入っている。旅行客の多くはオンラインで検索しているが、予約するとなると安全性が重視されるためか、旅行代理店経由で予約されることが多い。このため、われわれは今後も旅行代理店を最重視していく。

ATE 18でのオーストラリアの観光事業者のブース。ATEはB2Bのトレードショーなので、オーストラリアの観光事業者のブースを旅行代理店が訪れてプレゼンを受ける形になる。アポイントは事前にWebサイトでマッチングする仕組みで、なかなかよくできている

オーストラリア側としては新規路線、特に西海岸の路線を欲しており、関係各所に働きかけを続ける

――エアラインの状況はどうか。

ハリソン氏:オーストラリアへ来るにはフライトが必要になるので、その動向を注視している。次の12カ月は、航空業界にとってはやや減速すると考えているが、航空会社とのパートナーシップはより強化していきたい。

 航空業界にとっての大きなチャンスは、オーストラリアの西海岸への直行便だ。すでに日本からは東海岸の5都市に直行便が就航しているが、西海岸にはまだない。西海岸にはキャセイ・パシフィック航空やシンガポール航空などが直行便を飛ばしており、そこに新しい機会があると考えている。この点を、日本局が航空業界に対して働きかけているところだ。

ATE 18でのヴァージン・オーストラリア航空のブース
ATE 18でのエティハド航空のブース

――日本市場の成長についてはどう考えているか。

ハリソン氏:引き続き1桁台の成長があると予測している。新しい直行便の増加によるキャパシティの増加、JTBとの新しいパートナーシップなどがよい影響があると考えている。

中沢氏:2020年の東京オリンピックに向けて羽田空港がスロットを増やすと考えられており、オーストラリアからの便もそこに割り当ててもらえるように国交省航空局などに働きかけを続けていきたい。

 東京のような大都市には大きな需要があり、羽田空港のスロットをオーストラリアからの便に割り当ててもらえることは、日本市場でのわれわれの成長にとっても、日本へのインバウンド需要という意味でも非常に重要だだ。よく知られているとおり、成田空港はオープンスカイだが、羽田空港は限定されたオープンスカイで、24時間空港としての機能にも制限があるが、引き続き関係各所に働きかけを続けていきたい。そう考えると1桁台の成長予測というのは確実な線だと考えている。

――1桁台の成長とは高い方の1桁台か、それとも低い方の1桁台か。

中沢氏:もちろん高い方を目指している。

ハリソン氏:2桁台を目指してほしいとわれわれは考えている(笑)

中沢氏:2桁台は楽観的な目標としては見えているが、確実な成長ということを目指すなら、1桁台でも高い方の数字を目指していきたい。オーストラリア政府観光局は確実な成長を目指しており、一瞬だけのムリな数字というのを目指しているわけではない。

――2020年の目標について確認したい。オーストラリア政府観光局の目標は、観光客の支出であって、観光客の増加ではないという理解で正しいか。

ハリソン氏:そうだ。目標は支出の方にある。このため、より多くの支出をしてくれるハイバリューな観光客の獲得を第一目標にしており、観光客数の増加は2番目の目標だ。

中沢氏:付け加えると、日本市場では観光客数の数字が指標として使われるのが一般的だ。このためわれわれは、日本では2020年の目標として「70万人の日本からの観光客の獲得を目指す」と2年前に発表している。これは日本の実情に合わせてこうなっており、本国とはやや違っている。

ビジネス向けの市場では企画力が重要になる。オーストラリアにはそれがあると中沢局長

――日本からの観光客を獲得するキャンペーンなどは計画しているか?

ハリソン氏:すでにいくつかの活動を行なっている。政府からの予算を得てユース市場向けのキャンペーンを行なっているほか、「Aussie News Today」というプログラムを実施している。

中沢氏:ユース市場向けのキャンペーンは非常に重要だ。具体的には高校の修学旅行などが該当する。直接学校にアクセスするということではなく、旅行代理店向けのセミナーやワークショップ、そしてFAM(視察)ツアーなどの取り組みが重要だ。

 日本の教育市場では、修学旅行や体験旅行などが大きな需要になっており、おおむね1週間近くの滞在ということが少なくない。現在大多数は、高校の体験旅行になっており、非常に大きなユースプログラムになっている。

ハリソン氏:そうした従来のアプローチも引き続き行なっていくが、それと同時にSNSなどでのアピールも重要になっており、そちらも充実させていく。

中沢氏:2017年の例になるが、埼玉や千葉の私立高校などで、オーストラリアの魅力について語ってほしいという依頼を受けた。数百人の生徒がいる前で話したのだが、ニュー・サウス州のことを説明する特別なプレゼンテーションを行なった。イミグレーションのこと、オーストラリアの文化のこと、さまざまなことを生徒に説明した。そうした活動が重要だと考えている。

――MICEの市場に関してはどうか。

ハリソン氏:ビジネスイベントには多大な注力をしている。グローバル市場全体で見れば15%の成長をしており、われわれの大臣もビジネスイベントの招致に大変な力を入れている。そのなかでも日本は鍵となる重要な市場だと考えている。オーストラリアで国際的な会議を行なってもらうことも重要だし、そして何より企業の成果報酬的なインセンティブ・トラベルも引き続き重要で、特に日本市場ではそれが重要だと理解している。

中沢氏:ビジネスイベント市場で何よりも重要になってくるのは企画力だ。企業にとっては他社がやっていない、あるいはこれまでやったことがないような斬新な企画をやりたいというニーズが強い。しかし、他国でそれをやろうとすると規制の壁があって難しいことも多い。それに対してオーストラリアでは規制が比較的少ないので、斬新なアイディアの企画でもとおりやすいという側面がある。この点を評価していただき、オーストラリアへインセンティブ旅行やビジネスイベントを決定する企業は多い。

――先日JATAから「ツーリズムEXPOジャパン 2018」の概要に関してアナウンス(関連記事「日本旅行業協会、『2018年度事業方針』と『ツーリズムEXPOジャパン2018 商談会』を説明」)があったが、オーストラリア政府観光局の取り組みはどうか?

中沢氏:現在出展する、しないも含めて検討中で、現時点で決定している事項はない。近年のツーリズムEXPOジャパンはどちらかと言えば、日本の観光地を紹介するというインバウンド需要に焦点が当たっており、われわれのようなアウトバウンドには必ずしも焦点が当たっていると言えない状況。このため、費用対効果の観点から、どうするべきか慎重に検討していきたい。

――2018年、日本の観光客へ訴求したいオーストラリアのポイントは?

ハリソン氏:西オーストラリアが日本の観光客にとっては新しい発見になると思っている、食事や手つかずの自然などが日本のお客さまにとって魅力的な選択肢となるはずだ。