旅レポ

豊かな自然と歴史に彩られた匠の技を一気に味わう山口県の旅(その2)

風情ある金魚ちょうちんから天然より美味しい養殖ヒラメ、工場夜景までバラエティ豊かな旅路

 本州最西端、九州側から見れば本州の玄関口といえる山口県。関門海峡をはさみ南に瀬戸内海、北に日本海と性格の異なる2つの海を有し豊かな海の幸にも恵まれ、内陸部には日本最大のカルスト台地「秋吉台」、日本最大級の鍾乳洞「秋芳洞」を抱え観光資源にも恵まれた県です。しかしながらその多様さゆえか、いま一つ全体像というか県のイメージがはっきりしないなぁ、なんて思う筆者の不勉強さを払拭すべく、今回山口県が行なったプレスツアーに参加してきました。

 関門海峡をはさみ、南に瀬戸内海、北に日本海と性格の異なる2つの海を有し、豊かな海の幸に恵まれ、高杉晋作や吉田松陰、そして伊藤博文ら日本の歴史に名を残す偉人らを数多く輩出し、歴史的な建造物も豊富な山口県。そんな山口県の瀬戸内沿いをめぐるプレスツアーの第2回目は柳井市、下松市、周南市の3都市を巡ります。

商都として賑わった江戸時代の面影を今に残す柳井市の町並み

白壁が印象的な町並みのある柳井市

 江戸時代の商家の家が今なお並ぶ国の重要伝統的構造物保存地区を有し、その町割りはさらに遡った室町時代から生きているという歴史的な趣の残る町、それが柳井(やない)市でした。JR山陽本線 柳井駅から約500m、歩いて10分程度のところに白壁が印象的な町並みがあります。その一軒一軒の軒下には幕末期に柳井の商人が子供たちのために考案したというこの町の民芸品「金魚ちょうちん」が飾ってあり、趣と愛嬌が相まったその風情は、とても独特のものです。また、ここのエリアには金魚ちょうちん作りを体験したり、この町の伝統的な木綿織物「柳井縞(やないじま)」を織る体験ができるギャラリー併設の体験工房「やない西蔵」や、江戸時代にこの町の商人が発明した独特の製法による「甘露醤油」を今なおこの地で醸造しつづけている蔵があり、その町並みの風景だけではなく100年以上昔の生活感もそこはかとなく感じられる落ち着きのある町でした。

 柳井市の観光名所ともなっているこのエリアにはもちろん金魚ちょうちんにまつわるさまざまなグッズをはじめ、町の特産品を購入したり国の重要文化財にも指定されている建物の見学ができたりもしますが、同時に今なおこの地に暮らす人の生活エリアの側面も併せ持っています。この日の小雨まじりのしっとりとした天気も相まって、それがこの町並みの落ち着きを維持してるように感じました。かわいい金魚ちょうちんに彩られながらも、どちらかといえば大人の散歩道って風情です。

軒下の金魚が印象的な街路には時折カニ(アカテガニ)が通るそうです。付近に河口に近い川が流れているとはいえ不思議な感じです
マンホールの蓋も金魚……ではなくあくまで「金魚ちょうちん」。この町に金魚そのものはいないそうです
ギャラリー併設の体験工房「やない西蔵」
「やない西蔵」内観
「やない西蔵」での金魚ちょうちん作り体験
柳井市の伝統的な木綿織物「柳井縞(やないじま)」製作実演
2016年のプロ野球日本シリーズは山口県のお隣、広島のカープとファイターズでしたね
Wi-Fi使えます
江戸時代にこの町の商人が発明した独特の製法による「甘露醤油」を今なおこの地で醸造するのは1830年に創業した佐川醤油蔵
奥に杉の三十石桶が並ぶ蔵は見学が自由にでき、いろいろな醤油の知識も得られます
「甘露醤油」は通常の手作り醤油の二倍の歳月がかかる再仕込み醤油だが塩分はむしろ少なく味はかなりまろやか。刺身などに使われることが多く、煮物などには向かないとのことです
歴史を感じる瓶が並んでいますが、その一部は平成まで使われていたそうです
ここの醤油にも使われる美味しい地下水は敷地内の水道で誰でも自由に使うことができるそうです
金魚ちょうちんグッズも豊富な木阪賞文堂
さまざまな金魚ちょうちんグッズ
カラフルでかわいい商品はノートからお菓子まで幅広く見ているだけで楽しい

 さて、次の行程は瀬戸内に沈む夕日の名所となっていますがあいにく小雨まじりの天気。それでもツアー一行は奇跡を信じ、いや、ホントはほぼ諦めてはいるのですがそれでも次なる目的地、その名もズバリ「夕日岬」へ向かいます。ここは柳井市の西に位置する下松(くだまつ)市です。

豊かな水産資源と匠の技が光る水産業&工業のハイブリッドな街、下松市

多くのカメラマンが訪れる人気スポット「夕日岬」から臨む瀬戸内の夕日(写真提供:山口県下松市産業観光課)
我々が行った際には残念ながら……

 さて、そんな状況のなか、とりあえず向かった先は瀬戸内海に突き出た笠戸島。笠戸大橋を渡って程なく着いた「夕日岬」は想定内の曇り空。雨がやんだだけでもラッキーだと思うことにして市の観光課の方からいただいた素晴らしい夕日の写真を眺めつつ、この岬への再訪を誓いながらサクッと次の行程へ。目的地はこの島に3件しかないという宿泊施設のうちの1件。今年の11月にリニューアルしたばかりの国民宿舎「大城」です。

 施設内に入るとなにやら不思議な雰囲気。ロビーに並べられたソファーはなぜか新幹線のシート。かつて700系新幹線のグリーン車で使われていたものだそうです。かたわらに置いてあった妙に詳しい説明書きによると、ここのシートは2000年9月に営業運転が開始され、翌年7月にはJR東海からJR西日本へ譲渡。その後、2016年の9月にその役目を終えたC17編成の8号車(グリーン車)で使用されていたものだそうです。

 好きな人には多分貴重、しかしながら全室オーシャンビューのこの宿舎で素晴らしい風景と海の幸を堪能したい人には興味が湧かない情報が書き連ねられているわけは、下松市が新幹線の車両を製造する「日立製作所笠戸事業所」のある町だからだそうです。

 そんな日本の誇る高速鉄道の故郷でもある下松市の宿のロビーで窓側の席を陣取り、グリーン車のシートで海を眺めるのもまた違った旅情を感じられていいかもしれません。晴れていればきっと我々ツアー一行が眺められなかった素晴らしい風景が堪能できることでしょう。ちなみにこのC17編成、総走行距離は707万9719kmだそうです。

11月にリニューアルしたばかりの国民宿舎 大城(おおじょう)、そして天然温泉の大城温泉。(写真提供:山口県下松市産業観光課)
ロビーに並べられた700系新幹線のグリーン席が不思議な雰囲気です

 海に囲まれた(島ですから当たり前ですが……)笠戸島の名物といえば、天然モノより美味いとの評判の養殖ひらめ「笠戸ひらめ」です。もちろん我々ツアー一行もありがたく堪能させていただきました。

 養殖ゆえ四季を問わず食べられるこの「笠戸ひらめ」の故郷は、「下松市栽培漁業センター」という今から約34年前の1983年にスタートした施設です。きっかけは昭和30~40年代の高度成長期に日本各地で進んでしまった海洋汚染。そんな時代が「美味しい魚より安全な魚を食べたい! 食べさせたい!」との思いを生み、それが当時困難であった養殖事業への原動力だったそうです。今でこそ生産者の思いがこもったブランド食材が日本各地に星の数ほどありますが、ここのスタートは実にシンプルなものだったようです。ただただ安全な魚が食べたかったのだそうです。結局そこを突き詰めると美味しさにたどり着くのは自然なことだったのかもしれません。

 そんな経緯で生まれた笠戸ひらめは、いまや肉厚で甘みがある贅沢な高級食材と成長したものの、ほとんど外には出ることはなく、約90%は下松市内で消費されているとのこと。なにしろ「(自分たちが)安全な魚を食べたい! (自分たちの子供に安全な魚を)食べさせたい!」が原動力ですから当然といえば当然なのですが、これってつまるところ最近話題の「地産地消」ってヤツですよね。

 下松市は新幹線の故郷だったり、ブランド魚の養殖を行なっていたり、地産地消を以前から実現していたり、と地味ながら常に時代の最先端を歩いているようにも思えます。この地を訪ねなければ食べられない「笠戸ひらめ」、ぜひおすすめします。肉厚で脂が乗って甘みがあるのが特徴とはいえ、そこはヒラメ。決してしつこくはないし、いくら食べても飽きませんから心ゆくまで食べてみてください。

完全に管理された元で養殖された笠戸ひらめは、かつて全国でひらめの食中毒が多発した際にも大丈夫だったほどの安全性と、この地でしか食べられない地産地消ゆえの新鮮さでこの地を訪れる人をもてなしています
ここ笠戸島ではひらめ以外の魚ももちろん新鮮で美味しいのです
肉料理も山口県産。周南市の鹿野ファームの豚の角煮

圧巻の工場夜景に萌える周南市散歩

JR徳山駅にも近い晴海親水公園から見る工場夜景。撮影環境も抜群の見学スポット

 羽田空港を朝に出発し、岩国市に到着してから4つ目の町。ツアー初日の最終目的地は、町をあげて工場夜景を推す周南市でした。夕食で笠戸ひらめをたらふく食べたので、寝る前に少しの運動と目の保養によいかな、なんて不埒なことを考えながら眺めた町の工場夜景は圧巻でした。

 なにしろ単一工場としては日本最大規模の敷地面積を誇る東ソーの工場群をはじめ、数々の工場が海岸線を埋め尽くす周南コンビナート群に一斉に明かりが灯るのですから。町が作る観光マップだけでも8カ所もの見学スポットが紹介されている周南市ですが、今回は時間の関係で3カ所のみを見学しました。

 まず初めはJR徳山駅から徒歩でも行ける晴海親水公園へ。ここは海越しに見える定番にして王道の工場夜景。広々とした公園で、しばらく海風に当たってボーッとしながら眺めるもよし。見学する環境、撮影環境ともにピカイチです。

 次に向かったのは三笹町から眺めるトクヤマ南陽工場。この工場は晴海親水公園からも見えましたが、こちらは至近距離。その雰囲気は大分異なります。

 最後に周南大橋。橋上から見渡す明かりは信越ポリマーや東ソーの工場群。写真を撮るもよし、夜景を眺めながらのドライブもよし。3カ所3様の風景を楽しめました。今回はクルマを利用しましたが、所要時間60分程度の工場夜景観光タクシーや、クルーズ船、工場夜景を窓から楽しめるホテルなど、この町ではさまざまな楽しみ方ができるようです。

三笹町から眺めるトクヤマ南陽工場。35mmフルサイズ機で24mmレンズを使ってこんな感じ。かなりの至近距離
周南大橋から見渡す工場群

 なお、周南市の工場群は地元に帰ってくる人のために毎年年末に全灯点灯を実施しているとのことですので、年の瀬には一層素晴らしい工場夜景が眺められそうです。ちなみに工場の灯はすべて企業の施設の灯。本音では、極端な部分アップの撮影は避けてほしいと思っている会社もあるようなので、工場側の粋な計らいにはこちらも節度を持って臨みたいものです。

 柳井市、下松市、周南市と巡ってきたツアーですが次回は再び下松市に戻り今度は新幹線の故郷を訪ねに行きます。

高橋 学

1966年 北海道生まれ。仕事柄、国内外へ出かける機会が多く、滞在先では空いた時間に街を散歩するのが楽しみ。国内の温泉地から東南アジアの山岳地帯やジャングルまで様々なフィールドで目にした感動をお届けしたいと思っています。