旅レポ

グルメ、景色、歴史をまとめて味わう山口県1泊2日の旅(その1)

農業体験施設で鹿やイノシシの肉「ジビエ」のグルメ体験

道の駅「北浦街道ほうほく」のマスコットキャラクター「ほっくん」。インパクトに残ったキャラだったので表紙を飾ってもらったが、彼の話題は次回以降で

 本州の最西端に位置する山口県。下関のふぐ、萩の城下町、関門海峡、秋吉台など、全国的にも知られる強力な観光資源がある県だ。風光明媚な景色、自然、歴史、そしてグルメと、その多様性も魅力である……ことが実はあまり知られてないんじゃないの? ということで山口県が同地の魅力を伝えるべくプレスツアーを実施した。数回に分けてレポートをお届けする。

 山口県には観光地は多いし、海の幸は美味しいと聞くし、2015年7月に萩市を含む「明治日本の産業革命遺産」が世界遺産に登録されたり、9月には「Mine秋吉台ジオパーク」が日本ジオパークに認定されたりと話題性も十分。いま乗りに乗ってる県の1つではないだろうか。

 ただ、山口宇部空港による空路が羽田便しかなかったり、岩国錦帯橋空港は鉄道駅から近く「錦帯橋」という観光スポットにも近いものの隣県の広島市や宮島へのアクセスに便利な立地だったり、新幹線も「のぞみ」や「さくら」の停車数が少なかったりと、いざ山口県観光に行こうと思ったときに、微妙にアクセスが不便なのは惜しいところ。とはいえ、山口宇部空港の羽田便は1日10往復/20便と多いし、実は近隣県の萩岩見空港や北九州空港も県境付近の観光地からそう遠くない。また新幹線は5駅もあり、ネットワークが充実していないだけで、ハード面での余力は十分にある。集客力と観光地としての潜在能力は高く、眠れる志士もとい眠れる獅子と表現してもよいだろう。

【お詫びと訂正】初出時、新幹線の駅数に誤りがありました。お詫びして訂正いたします。

山口宇部空港

 さて、プレスツアーでは、羽田空港から山口宇部空港への直行便で移動した。そこからの県内移動は電車、バス、クルマと選択肢があり、山口宇部空港から新山口駅、山口駅、下関駅、宇部新川駅への路線バスが運行されているが、県内を走る鉄道路線の運行本数が少ないのがネック。効率よく巡るならクルマがお勧めだ。その点で山口宇部空港は便利で、ターミナルに隣接した建屋にレンタカーターミナルが入っているので、バスの送迎などを待たずにレンタカーを借りることができる。

 このほか、土日祝には「やまぐち観光周遊バス」が運行されている。山口宇部空港~JR新山口駅~湯田温泉~山口市~秋芳洞~仙崎~湯本温泉~JR東萩駅~湯田温泉~JR新山口駅を巡るコース、JR新山口駅~湯田温泉~JR東萩駅~萩~津和野~湯だ温泉~JR新山口駅~山口宇部空港を巡る2つのコースが用意される。地域消費喚起型交付金の補助により、料金はバスガイド付きで2500円と安価に効率よく観光できる。事前予約が必要で、期間は2016年3月27日まで。行ってみたい地域とのニーズが合うなら利用を検討してみるとよいだろう。

国際線ターミナル1階には「観光情報プラザ」が入っており、県内各地域の観光スポットの紹介やチラシの配布などが行なわれている
鉄道駅とを結ぶ路線バスが運行されている
国内線ターミナルに隣接する「空港ビルアネックス」にレンタカーターミナルが入っている

鹿やイノシシの肉「ジビエ」を味わえる「みのりの丘」

「下関市豊田農業公園 みのりの丘」

 空港からまず向かったのは、下関市の「下関市豊田農業公園 みのりの丘」。農業体験やそば打ちの加工体験などを行なえる約20ヘクタールの農業公園だ。といっても農業公園的なアクティビティを楽しみに来たわけではなく、この施設内にあるお食事処「茶屋 竹膳」が最初の目的地。さらに突き詰めると、ここで提供されている「鹿」や「イノシシ」の肉を使った料理が目的だ。

 下関市では、野生の鹿やイノシシによる農林作物被害が深刻な問題となっている。空港からの道程で見かけた田んぼには鳥獣除けのフェンスが張り巡らしてあり、当地で合流した下関市の担当者も「ここに来る途中で鹿とか見ませんでした? 普通に見られますよ」と話すなど、日常的に農村に姿を現わしているのをうかがえる。

 そうした農林被害をもたらす鹿やイノシシを、逆に地域資源として活用しようと、下関市は2013年に条例を制定し、みのりの丘の敷地内に「ジビエセンター」を開所した。「ジビエ」とはフランス語で、狩猟などで捕獲した天然動物の食肉を表わす。このジビエセンターでは、地元猟友会の人達が捕獲した鹿やイノシシを買い取り、処理し、販売するという取り組みを行なっており、週末に持ち込まれる鹿やイノシシを1日あたり6頭、年間約600頭を処理することを目標にしている。ちなみに、厚生労働省が「野生鳥獣肉の衛生管理に関する指針」を発したのは2014年のことだが、下関市はそれに先だって条例化したことになる。

捕獲された鹿やイノシシを食肉に加工する「ジビエセンター」。解体された肉は冷凍保存している。飲食店などとの直接取引で販売することもあるそうだ。また、人間の食肉に適さない部位についてもペットフードにするなど、命を無駄にしないよう取り組んでいるという

 ……と、山口県の魅力を伝えるプレスツアーのはずが、初っぱなから重い話になってしまっているので、「茶屋 竹善」に話を戻したい。茶屋 竹善は、手打ちそばなどを楽しめる定食のお店。テーブル席のほかに小上がりの座敷がある。営業時間は11時~15時(毎週火曜定休)。

「茶屋 竹膳」

 ここで提供されているジビエメニューは、「シカウインナー」「イノシシウインナー」(各400円)、「イノシカメンチカツ」(2個で450円)。さらにこの日はイノシシの焼き肉料理もいただいた。

 普段食べ慣れない動物の肉は、臭みがありそうとか固そうとか勝手な思い込みがあったが、ウインナーは多少スパイスを利かせている印象はあったものの嫌な臭みはなく、香りは弱め。多少の歯ごたえはあるものの、思った以上に柔らかく食べやすい。メンチカツに至っては、普通の牛豚肉のメンチカツとの違いはさらに少ない。筆者の舌はちょっと鈍感なので、気がつく人はメンチカツでも変わったお肉に思うのかも知れないが、少なくとも嫌な臭みで食べたくないとまで感じる人は少ないのではないかと思う。ちなみに脂の乗り具合もあって、シカは夏、イノシシは冬に捕獲したものが味がよいという。

 ついでに、「この歯ごたえ、ちょっとクセになるかも~」といったように気に入ったならば、茶屋 竹善に隣接している「特産品販売所」で、鹿、イノシシの焼き肉向けロース肉やミンチ、ウインナーなどを冷凍販売している。ロースでグラム300円台と決して安くはないが、近所のスーパーで普通に買えるようなお肉ではないので、(捕獲の目的が害獣駆除とはいえ)プレミア感を考えると妥当な値段なのではないかと思う。

鹿(左)とイノシシ(右)のウインナー。ちょっとスパイスを利かせているが臭みなどはなく美味しい
「イノシカのメンチカツ」。ここまでしっかり調理すると、肉らしい風味はある一方で、牛豚でないことへの違和感も少ない
「イノシシの焼き肉」。イメージしていたよりも柔らかかった
茶屋 竹善の隣にある「特産品販売所」で鹿肉やイノシシ肉を購入できる
メンチカツやウインナーも販売
ジビエを使った料理のレシピ集も提供している。表紙を飾るのはマスコットの「シーカー」「イノシー」
特産品販売所では、ジビエだけでなく、同施設内や地元の産品を扱っている

 このように、農業体験施設というベジタブルな語感とは裏腹に、人生初のお肉を食し、加工施設も見学するという刺激的な体験で幕を開けた山口県プレスツアー。みのりの丘を後にし、海の幸とエメラルドグリーンの美しい海を味わいに次の目的地へ向かった。

編集部:多和田新也