旅レポ

ドイツ・ハンブルクにオープンするコンサートホール「エルプフィルハーモニー・ハンブルク」を一足早く見てきた

1月11日にグランドオープン。日本の音響設計技術も導入

2017年1月11日 グランドオープン

2017年1月11日にオープンするエルプフィルハーモニー・ハンブルク。もっとも高いところで110mある。ハンブルク市では建物の高さは厳しく制限されているのでよく目立つ

 ドイツ北部の中心都市であるハンブルク。エルベ川沿いに位置する港町として発展してきたこの都市では、ヨーロッパ最大の市街地再開発プロジェクトである「ハーフェンシティ」地区の整備が進められている。そのハーフェンシティの最西端に建設されたコンサートホールが、「エルプフィルハーモニー・ハンブルク(Elbphilharmonie Hamburg)」(以下、エルプフィルハーモニー)だ。

 コンサートホールの初演を含めたグランドオープンは2017年1月11日~12日の予定だが、それに先立ち、工事完成の引き渡しセレモニーと展望広場の一般公開があったので紹介しよう。

 エルプフィルハーモニーは、2つのコンサートホール、地上37mから港周辺を見渡せる広場、音楽教育の部屋、レストラン、244室のホテル、45戸のアパートメントからなる多目的コンサートホール。建物の外観は、ハンブルクの街をイメージさせる赤レンガ造りに、曲面ガラスを多用した現代建築を合わせたユニークな構造で、ハーフェンシティ地区、ひいてはハンブルクのランドマークとしてひと際存在感を放っている。

ハンブルク市はドイツの北側、エルベ川沿いに位置する。ハンブルク市の旧港湾地区の再開発であるハーフェンシティの最西端に、エルプフィルハーモニーが建設された

 このエルプフィルハーモニーを設計したのは世界的に有名な建築ユニット「ヘルツォーク&ド・ムーロン(Herzog & de Meuron)」。日本でも東京・表参道にある「プラダ青山店」の設計を担当している。エルプフィルハーモニーは、ハンブルク出身の著名な建築家であるヴェアナー・カルモルゲン(Werner Kallmorgen)が1966年に設計したレンガ造りの倉庫、「カイシュパイヒャーA(KaispeicherA)」を残しながら現代的な建築物に仕上げたものだ。

 伝統的な赤レンガ造りがハンブルクの歴史を表わし、ほぼすべてが個別に加工された約1100枚に及ぶガラス板によって波を表現、かつ眺める角度によってエルベ川周辺の水、空、街が映し出されるようにしているそうだ。このように建物には非常に手間とコストがかかっており、総工費は7.89億ユーロ(約946億8000万円、1ユーロ=120円換算)となっている。

曲面ガラス板を用いて、空に向かって波がたゆたう姿を表現しているという外壁
赤レンガ造りとガラス板造りのジョイント部分が展望広場になっている
上層階には約1100枚のガラス板が使われており、その1枚1枚が場所に合わせて偏光・遮光処理や曲面加工が施されている

 セレモニーでは、ハンブルク市長であるオラフ・ショルツ(Olaf Scholz)氏が登壇し、「ヘルツォーク&ド・ムーロンは説得力のあるファーストクラスのデザインを提供し、建設会社であるホッホティーフ(Hochtief AG)は優れたクオリティで施工してくれました。そのほか、継続的によい仕事をしてきてくれた数千人のエンジニアや技術者、職人に感謝します。彼らのおかげでエルプフィルハーモニーが完成しました」と喜びを語った。

 また、大コンサートホールは日本の永田音響設計の豊田泰久氏が担当したことにも触れ、「豊田泰久氏はエルプフィルハーモニーのために新しく革新的なコンセプトで設計を担当してくれました。大ホールには約2100人が収容できますが、それぞれの場所は最前列に座っているようなものです。どこの席からも、オーケストラを近くで感じることができる実に素晴らしい景色を提供してくれます。

 また、音響的にも素晴らしく、1万枚に及ぶカスタマイズされた石膏プレートが、どの席に座っていても中央に座っているような感覚で音を運んできてくれます。非常によい場所はどこにでも存在することを自分自身で体験して納得しました」と語った。

 最後に「ハンブルクは現在、世界で最高のコンサートホールの一つをもっています。ハンブルク市民にもぜひコンサートを見てほしいです。私はあなたがコンサートに訪れ、友人を招待することを願っています。すべてのハンブルクの学校の子供たちは、エルプフィルハーモニーの音楽に触れ合う機会をもつべきです。

 エルプフィルハーモニーはすべてのためのホームです。ハンブルクの音楽における議会のようなものです。世界を刺激するコンサートホールとして、私はすべての演目を楽しみにしています。ありがとうございます!」と締めくくった。

記念の赤レンガを贈られてご満悦のオラフ・ショルツ氏(中央)。左から、総合芸術監督のクリストフ・リーベン・セウタ―氏、ホッホティーフのCEOであるフェルナンデス・ベルデス氏、ハンブルク市長のオラフ・ショルツ氏、ヘルツォーク&ド・ムーロンの1人であるピエール・ド・ムーロン氏、ヘルツォーク&ド・ムーロンの会社パートナーでエルプフィルハーモニーの建築責任者であるアスカン・メルゲンターラー氏
地元のマーチンバンドも登場し、セレモニーを華やかに演出

エルプフィルハーモニー・ハンブルク

所在地:Platz der Deutschen Einheit 1, 20457 Hamburg
Webサイト:Elbphilharmonie Hamburg(英語)

 エルプフィルハーモニーは多目的コンサートホールとして建設されたため、いくつかのゾーンに分かれている。下の断面図にあるように、上層部は大ホールを中心に構成されており、その左側にあたる道路に隣接している部分にウェスティンホテルとリサイタルホールが配置され、右側の三方向を川に囲まれた部分がアパートメントになっている。

 上層部と下層部をつなぐ部分は「プラツァ」と呼ばれる広場になっており、コンサートホールやホテルに移動できる。また、建物の外周部は歩道になっており、37mの高さから360度のパノラマビューを楽しめるようになっている。下層部分は道路に面しているエントランス、そこから上層に向かって続く「チューブ」と呼ばれる長さ約80mのエスカレータ、エスカレータ出口付近にあるレストラン、ほか音楽教室用の「Kaistudios」、駐車場などを備えている。

エルプフィルハーモニーの断面図(C)Herzog & de Meuron/bloomimages

エントランスからプラツァまで

 エントランスのある下層部分は伝統的な赤レンガ造りを残しつつ建設していったもので、赤レンガはこの場所を語るうえで、なくてはならないものとなっている。その歴史は古く、1875年に船で運ばれてきた積荷を保管するための倉庫「カイシュパイヒャー(Kaispeicher)」として建設されるも、第二次世界大戦で空襲を受けて破壊されてしまう。

 その後、1966年に新しく「カイシュパイヒャーA」が建設され、カカオやタバコ、コーヒー、紅茶などを保管する倉庫として1990年代まで使用されていたとのことだ。

エルプフィルハーモニーを正面から見たところ。真ん中が駐車場への出入口で、その右側にウェスティンホテルのエントランス、プラツァに続くエスカレータ「チューブ」が配置されている
外壁には保存した赤レンガを使用しており、歴史を感じさせる
内部にもレンガ造りと分かる部分が残されている。この写真では左側がレンガ造りの外壁
エントランス部分。奥にウェスティンホテルのエントランスが見える
プラツァまで続く全長80mのエスカレータ
緩いカーブが施されており、上からも下からも降り口が見えない仕掛けになっている
周囲の壁面にはガラスのスパンコールが数多く埋め込まれている
エスカレータを降りると、プラツァに続く階段が現われる

一般にも開放されているプラツァ

 プラツァは伝統的な作りを残した下層部と現代建築の上層部をジョイントする部分であり、コンサートホールやウェスティンホテルのロビーにつながるメインエントランスの役割をもっている。建物の外周部分は一般開放されており、コンサートの来場者やホテルの宿泊客でなくても眺望を楽しむことができる。

プラツァからコンサートホールやホテルにアクセスできる。大ホールに向かう階段
37mの高さから眺望を楽しめる展望デッキ。天井のフォルムも景色に合わせており、港側は低くて緩やかなカーブ、市街地側は高く、教会のようなアーチを描いている

誰もが最高の音楽を楽しめるコンサートホール

 上層部には、2100人を収容できる「大ホール」と550席が用意された「リサイタルホール」の2つのコンサートホールがある。大ホールはエルプフィルハーモニーの心臓部ともいえるもので、ホールの高さは50mに達する。ブドウ畑をコンセプトとして客席がオーケストラを取り囲むように上へ上へと配置されており、もっとも遠い席でも指揮者から30mを超えないようになっている。

 また、永田音響設計の豊田泰久氏が技術協力して特別な壁と天井構造を開発。「白い皮膚」と呼ばれる、ミリ単位で個別に成型された1万枚の石膏ファイバープレートを壁に用いることで、ホール全体を意図したとおりの音で包み込み、天井に取り付けられたマッシュルームのような反射板が理想的に音を分散させてくれるとのことだ。これにより、聴衆は音楽家を目の前にして最高の音を楽しめるという。

 小ホールとも呼ばれるリサイタルホールは、おもに室内楽を想定して作られている。壁面は波を打つように成型された木製パネルで構築されており、こちらも見事な音響効果を実現しているとのことだ。

 大ホールは「北ドイツ放送エルプフィルハーモニー管弦楽団(NDR Elbphilharmonie Orchestra、旧称:北ドイツ放送交響楽団)」の本拠地となり、リサイタルホールは「アンサンブル・レゾナンツ(Ensemble Resonanz)」の本拠地となる。

2100席が用意されている大ホール
「白い皮膚」と呼ばれる石膏ファイバープレート
4765本のパイプを使ったパイプオルガンもある
550席のリサイタルホール。取材時の11月はまだ未完成で、工事が進められていた
壁面には特殊な加工が施された木製パネルを使用

野村シンヤ