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「高速そば」跡地でカレー店の“高速閉店”発生? テナント入れ替えが進む新開地駅の乗り換え事情
2026年4月13日 12:43
4社4路線が集う神戸高速鉄道 新開地駅の改札内で、飲食店テナントの“高速入れ替え”が起きている。
神戸電鉄と他社の乗り換え動線上にあった駅そば「高速そば」が2021年6月に閉店して以降、翌年にオープンした別の駅そば店も閉店。その入れ替わりで開店したカレー店もオープンからたった半年、2026年4月末をもって閉店……。40年以上も営業していた高速そばとは、対照的な新陳代謝ぶりだ。
この地で営業していた高速そばは、関西駅そばの代表格として長らく親しまれてきた。まずは、懐かしの高速そば現役時代を回想するとともに、乗り換える人々が減少してきたようにも見える、新開地駅のいまを探ってみよう。
知名度が高かった「高速そば」。理由は店名?
いまは跡形もないが、5年前まで営業していた高速そばが世に知られていた理由は、ズバリ「店名」。神戸高速鉄道の駅にあるから高速そばなのだが、「高速」という店名が提供スピードなのか何なのかと話題にするため、遠方からいろいろと確認しに訪れる鉄道ファン・駅そばファンも多かったのだ。
筆者ならびに同級生数名が20年ほど前に確認したところ、1杯の提供時間は「かけそば平均18秒程度」であったため、「食券を渡して水を飲んでいたらもう出てきた」という最速伝説は、高速そばの名にふさわしい真実で間違いない。
ただ、その店名になぞらえた伝説は数々あり、少し離れた高校に通っていた筆者は、以下のような風説を聞いたことがある。
・店が常に音速で動いているから高速そばであり、見えているカウンター、そば、大将はすべて残像
・受け取って食べる際に気を付けないと、音速移動中のそばが消滅する
・店内の物体がすべて高速で動くため、店員は神戸医大で三半規管を鍛える訓練を受けている
“高速そば伝説”の大半は間違いなくネタ話のたぐいではあるが、近隣の進学校では「高速そばは常に音速移動する」前提の小テスト問題を出されたことがあるようで(N高校の卒業生からヒアリング)、食べない人にも高速そばの存在は知られていたようだ。閉業の際も「高速そばが高速閉店」と話題になるなど、高速そば伝説はいまも尽きない。
高速そばなぜ店名をイジられた?
なぜ、高速そばの店名がイジりの対象となったのか? それは、新開地という土地が「学生と関西人が集結する乗り換え拠点」であったという事実も、関係するかもしれない。
新開地駅は、神戸電鉄(神鉄)の終点と阪急・阪神・山陽といった各社の電車が集結する。かつ、近隣には神港高校・兵庫商業・夢野台高校・夙川中高・湊川高校など(再編で統合対象になった学校含む)や、神戸大医学部キャンパスもあり、放課後の遊び場として「新開地の近辺に集合」する学生も多かった。さらに、神戸市南部の高校から神戸電鉄に乗り継いで北部(北区・西区)や小野市・三木市方面に帰る人々のたまり場でもある。
このエリアに集結する人々や学生は、言うまでもなく大半が「関西人」であり、食べたことがなくても目に入る高速そばは、とかくネタ話の対象になりやすかった。変な店名+通りがかりの関西人、という素地があったがゆえのイジりであったと言えるだろう。
しかし、いま考えると高速そばの営業スタイルも、いわゆる「ツッコミどころ」だらけであった。目の前の通路の傾斜に合わせたかのようなナナメな店構え、カウンターを覆う謎柄の壁紙、水槽で育てられている水耕栽培のイモなど……。それでも、名物の「和風ラーメン」が格安で食べられるサービスデーが末期まで残るなど、営業・集客への意欲は伺えた。
おなじく新開地駅の改札内にあり、カレーが名物であった「喫茶U」(2017年閉店)や「ヒロタのシュークリーム」販売店などとともに、在りし日の高速そばが惜しまれる。
なんと「ハチミツ無料」。美味でも消えゆく「新開地カレー」
そして2026年4月、まもなく閉店する「新開地カレー」に改めてお伺いした。改札内の立ち食いスタイルとはいえ、看板メニューの「欧風カレー」「ぼっかけカレー」はコクがあって美味だ。
かつ、養蜂場が経営しているためか「カウンターのハチミツかけ放題」(無料)や「巣蜜トッピング可能」(300円)など、なかなか変わったカレーショップだ。提供も早く店内もしっかり活気があり、半年で閉店を余儀なくされる店舗には、とても見えない。神戸高速鉄道に問い合わせたところ「店舗側から閉店の申し入れがあった」「今後のテナント誘致は決まっていない」とのことで、こちらも閉店が惜しまれる。
ただ、店舗から出てまわりを見渡す限り、新開地駅の乗り換えコンコースは、昔よりにぎわいが薄れたように見える。現実として、乗り入れている神戸電鉄の利用者は1992年度の「1840万人」から、2023年度に「691万人」まで減少しており、新開地駅もその影響を受けていることは確かだ。
実は、新開地駅に乗り入れる神戸電鉄の経営事情が、2001年の「ライバルの路線バス開業」、2020年の「北神急行・市営化」によって、かなり激変してしまった。この2つの事象について、検証してみよう。
鉄道を食い尽くした「1日100本の高速バス」
神戸電鉄の列車はすべて新開地駅に乗り入れるが、新開地駅~湊川駅までの設備は神戸高速鉄道に乗り入れる形をとる。湊川駅からは自社路線となり、山を駆け上った先にある鈴蘭台駅で三木・小野方面(粟生線)、有馬温泉・三田方面(有馬線・三田線・公園都市線)に分かれている。
まず、神戸電鉄粟生線にほぼ並行する高速バス「恵比須快速線」の開業(2001年)は、新開地駅に乗り入れる2方向のうち、粟生線側の乗客を激減させてしまった。
高速バスが鉄道より優れていたのは、第一に「三宮への所要時間」。神戸市最大の交通ターミナルは三宮エリアであり、神戸電鉄の列車が乗り入れる新開地からは3kmほど離れている。三宮に向かうには新開地駅で阪神・阪急の列車に乗り継ぐ必要があったが、粟生線・恵比寿駅から発車する恵比須快速線は、新開地駅経由での鉄道利用より100円程度安く、三宮エリアに速めに到着できた。
さらに優れていたのは「バス停と宅地の近さ」。山深い粟生線の沿線は「団地は山の上、線路は山の下」といった状態で家と駅が遠いような場所も多く、高速バスは「見津が丘」「緑が丘」といった、駅が遠い住宅団地を経由してくれた。朝晩ごとに駅と自宅までの坂道を往復しなくていいとあって、住民はこぞってバス通勤に切り替えてしまった。
そして、高速バスは増便を重ねて、ついに1日100便以上にも達した。「安くて、すぐ来て、近所に来てくれる」高速バスに沿線住民がことごとく飛びついたために、粟生線の利用者は激減。年間10億円程度の赤字を出すようになり、路線そのものの存廃問題にまで発展している。
ライバルの地下鉄が「一気に半額」に
そしてもう一つ、有馬線・三田線ユーザーの転機となったのが「旧・北神急行の市営化」だ。
1988年に開業した第3セクター鉄道「北神急行」は、有馬線・谷上駅から7.5kmの山岳トンネルを貫き、新開地経由だと乗り換え1回・40分はかかる谷上駅~三宮駅間を2駅・10分で結んだ。そのまま地下鉄に乗り入れるため「実質上は市営地下鉄路線」であったものの、約700億円もの建設費用がのしかかった高額な運賃がもとで、遠回りでも神戸電鉄を利用する人々が、まだ多くいた。
しかし2020年6月、神戸市が北神急行を買収したうえで正式に地下鉄路線に取り込んだことで、この2駅間の運賃は550円→280円と一気に半額に。神戸電鉄は遠回りなうえに、最後の1区間である湊川駅~新開地駅間で100円以上の加算運賃が生じるため、運賃面で地下鉄に太刀打ちできなくなってしまった。
地下鉄は新開地に乗り入れないものの、たった400m北側の湊川駅を通る。地下鉄利用に転出した神戸市北区の人々は、わざわざ新開地駅で乗り換えることもなくなったのだ。
こうして、新開地駅に乗り入れる2方向の路線は、どちらも違う理由で衰退の一途を辿ってしまった。実質的な終点である新開地駅で、神戸電鉄~阪神・阪急の乗り換えが減少し、あいだの動線にあった駅そば・カレー店が苦戦してしまうのは、もはや時代の波としか言いようがない。
乗り換えついでに名店へ! あえて行きたい「新開地駅」
訪れる機会の少なくなってしまった新開地駅だが、かつての「一大乗り換え駅」のにぎわいを思い起こさせる地下商店街「メトロこうべ」は、いまも健在だ。
この地で乗り換えついでに寄りたいのは、ピロシキやあんフライ、おにぎり、おでんなどが美味しい「よつばや」(旧店名は「おやつセンター」)、独特のレトロな雰囲気を漂わせる格安店「メトロ理容」など。いまは改修でずいぶん明るい雰囲気になったが、老朽化で全体が薄暗かった「メトロこうべ」を、懐かしく思い出すときもある。
「乗換駅」としては機能が低落してしまった新開地駅だが、「一大ターミナル直結の地下街」は健在だ。あいにく改札内には高速そばはないが、ぶらぶらと遊びに行ってみるのもよいだろう。もちろん新開地カレーも、2026年4月末まで営業している。






























