ニュース
北海道三大駅そばの一角「遠軽の駅そば」復活開業! 現時点で“日本最北の駅そば”になった事情
2025年6月5日 12:30
7年ぶりに「遠軽の駅そば」復活!
石北本線 遠軽(えんがる)駅の駅そば「北一そば」が、同じ場所・同じ建物で、7年ぶりに復活開業した。2025年6月時点で、駅構内にある駅そば店舗としては、現時点で日本最北に位置するという。
この駅に北一そばが誕生したのは、1941年(昭和16年)のこと。2019年に一度閉店ののち、当時の店で駅そばを知る地元出身のファンによって、2025年3月に復活開業を遂げた。遠軽駅の利用者は全盛期の約1割、100人少々にとどまっているにもかかわらず、北一そばは売り上げが1日5万円を突破することもあるほど、多くの人々でにぎわっているという。
かつては新得駅・音威子府駅とともに「北海道・三大駅そば」と呼ばれた遠軽駅の北一そばは、なぜ復活できたのか。まず、2025年時点で“日本最北の構内駅そば”だという北一そばの一杯を味わうべく、東京から千数百キロも北東にある北海道・遠軽町に飛んだ。
復活した遠軽の駅そば、まさかの「ジビエそば」もアリ
石北本線(網走方面・旭川本線)に加えて、紋別方面(名寄本線、1989年廃止)にも線路が分かれていただけあって、ホーム2面と3線の乗り場を擁する遠軽駅は、ことさら構内が広くて巨大だ。
そんな遠軽駅で、北一そばは1番線ホーム(駅舎側)側の白い小さな建物で営業している。昔はホーム側・駅外側の両方から注文できたが、今はまだホーム側は営業しておらず、いったん改札を出て外側に食べに行く必要がある。
メニューはシンプルな和そばがメインで、トッピングは天ぷら・玉子がある。卵はこういったそば店ではめずらしく半熟での提供で、トッピングしても黄身がすぐ解けずに、出汁の味が保たれる。
駅そばとしては、ごく普通のほどよい美味しさだ。しかし遠軽駅はキオスクなども閉店しており、列車の時間待ち中に温かいそばでサッと腹ごしらえができるのはうれしい。
そしてこの店には、駅そば店としてはオンリーワンのメニュー「遠軽ジビエそば」がある。
遠軽町がある北海道・オホーツク地区は鹿などのジビエ(獣肉)猟がさかんで、捕獲2時間内に処理場に持ち込むなど基準が厳格な「オホーツクジビエ」があり、その鹿肉を圧力鍋でしっかり煮込んで、肉の旨味が染みた大根とともに提供する。
なぜ、そば店の限られたスペースでジビエを提供できるのか? お話を伺ったところ、店を切り盛りする女将さんがもともと沖縄・西表島でゲストハウスをされていて、ジビエを取り扱っていたとのこと。肉が新鮮なだけあって臭みもなく、旨味とボリュームがすごい!
ただ1日に提供できる数量が少なく、食べに来られた方のなかには「出張のたびに売り切れていて、3回目の訪問でようやく食べることができた!」と大喜びしている方もいた。駅そばとしてはおそらく全国で遠軽駅だけの「ジビエそば」を食べるには、開店時間に近い時間帯で早めに訪問、注文するのがよいかもしれない。
女将さんと話が弾んで1時間近く滞在している間にも、通りすがりの人々は「えっ、北一そば復活したの?」とばかりに店を眺めたり、「どうしても来たかった!」とクルマで高齢者を連れて来店したり、朝食をとりに駅員さんが訪れたり……。旅行者にも地元の方にも、鉄道関係者にも重宝されているようで、コンパクトな店にもかかわらず、売り上げが1日5万円を越えることもあるほどにぎわっているという。
なお、基本的にカウンターで立ち食いだった昔と違い、野外の空きスペースに椅子とテーブルが並べられている。遠軽駅は市街地駅から3mほど高台にあり、街並みを見下ろしながらすする駅そばは、また格別だ。
では、遠軽駅の駅そばがなぜ消滅し、復活できたかについて触れていこう。
突然だった北一そば消滅。復活したら「最北駅そば」だった事情
この場所で営業していた北一そばが70余年の歴史を閉じたのは、2019年のこと。長らく店を切り盛りしていた勝本一子さんが亡くなられ、突然の閉店を余儀なくされた。
「北海道三大駅そば」の一角であった北一そば閉店は多くの人々に惜しまれ、地元・遠軽高校の卒業生である萩原和浩さんが、店の復活に向けて動き始めた。普段はミュージシャンをされているという萩原さんは、クラウドファンディングで資金を募りつつ、関連各社への調整に奔走する。そこで「さまざまな手続き処理に時間がかかった」(萩原さん)というやむを得ない事情が発生し、当初の開店予定が大幅に遅れるなどしたものの、紆余曲折を経て2025年のオープンにこぎつけたのだ。
なお、遠軽での北一そば閉店後、「北海道三大駅そば」の一角であった「常盤軒」(宗谷本線 音威子府駅)が、店主が亡くなられたことで閉店。さらに2024年には、音威子府駅から「最北駅そば」のバトンを受け継いだ士別駅「フーズサービスささき」も、店主の急死によって店を閉じざるを得なくなった。
日本最北の鉄道駅・稚内駅の改札近くにそば店があるものの、場所は駅構内ではなく(駅併設の複合施設内)、遠軽の北一そばは2025年6月時点で日本最北の鉄道駅構内駅そばということになる。萩原さんも、ネット上での「日本最北の駅そば、バトンがそちらに行きました!」という声で気が付いたようで、改めて気を引き締めての北一そば復活開業となったという。
今後の北一そばは、ホームでも販売できるようなごはん物の販売などを検討しているという。営業再開を果たした北一そばの今後を見守っていきたい。