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18きっぷ利用者はおなじみ? 消えゆく「中津川駅の駅そば&コーヒースタンド」を惜しむ

ホームから駅そば・コーヒーを頼める! 中津川駅の象徴が消える

 JR中央本線・中津川駅の1番ホームにある立ち食いそば「根の上そば」は、「青春18きっぷ」で名古屋~長野を移動したことがある方なら、かなりの方が食べたことがあるのではないか。そんな「根の上そば」が、2025年5月11日をもって閉店するという。

 そば店の横には、全国的にもめずらしい「ホームからも注文できる駅ナカ喫茶店」もあった。多くの人々に惜しまれつつ、まもなく消えゆく駅そば・喫茶店を惜しみつつ、写真とともに過去の記憶を振り返ってみよう。

ホーム側からの出窓とカウンターもあった

待合室側は「右はコーヒースタンド、左はそば店!」

JR中央本線・中津川駅ホーム

 根の上そばの店舗は中津川・改札外の待合室側にあり、2~3人ほど入ればいっぱいとなるカウンターからそば・うどんを出してくれた(待合室の椅子スペースでの飲食も可能)。また改札内・1番ホームの背後にも小さな出窓とカウンターがあり、改札を出ずともサッと注文して食べたり、ビールや地酒「女城主」をついでに頼む人もいた。

中津川駅の喫茶「コーヒースタンド」
喫茶「コーヒースタンド」のトーストセット

 また、ほかの駅と違うのは「喫茶店併設」であること。待合室側の「コーヒースタンド」看板下の引き戸を開けると、駅のベンチよりフカフカの椅子が数席分おかれていた。窓の外には特急「しなの」が発着しているのに、数m先の店内は、まるで純喫茶の佇まい。こんな光景が見られたのも、中津川駅だけだ。

 なお、そば店と喫茶店の厨房はつながっており、2店を運営する「梅信亭弁当部」(安藤商店)の社長さんが切り盛りされていた。過去には、筆者が喫茶店でくつろいだあと「そば屋さんにも行きます」というと、「めんどうならそのまま(喫茶店の席に)出そうか?」と仰っていただいたこともあるほど、根の上そばとコーヒースタンドは、完全に一体化した店舗だったのだ。

 中津川駅は特急しなの以外すべて乗り換えが必要で、次の駅そば・駅ナカ店舗は、約100km先の塩尻駅まで行かないとない……とあって、駅そばで腹ごしらえをする乗客も多かった。コーヒースタンドのコーヒーもホームから注文できるため、名古屋~塩尻・松本間で3時間以上かかる普通列車・乗り継ぎ旅のオアシスとして、2店は長らく営業を続けてきたのだ。

駅弁屋さんとして一世紀以上! 中津川駅とほぼ同じ歴史あり

昔の駅弁の掛け紙

 駅そばとしては半世紀ほどの歴史がある根の上そばだが、運営する梅信亭弁当部(安藤商店)の歴史は一世紀以上もある。

 もともと梅信亭は中津川で料亭を営んでおり、いまの中央線の建設の際に、訪れた官僚に「駅弁を売ってみては?」と勧められ、駅開業の翌年(1903年・明治36年)から販売を開始したという。

 なおこの当時は、駅の開業前に関わりがあった地元の店が、そのまま駅弁を製造するパターンはよくあった。1991年開業の山陽本線・岡山駅などは、事前に関係者から鉄道建設の話を聞かされ、土地を提供した旅館「三好野」が、今も駅弁も製造・販売している。

 時は流れ、そば店の開業後も順調に歴史を重ねてきた。この一帯は栗が名産ということもあり、「栗おこわ弁当」「木曽路釜めし」などを製造。梅信亭と書かれた1番ホーム上の小さな建物で駅弁を販売していた。2011年の駅弁撤退後もそば店・コーヒースタンドは営業を続けてきたが、あと数日で一世紀以上におよぶ中津川駅・梅信亭の歴史は閉じられる。

駅そばも、コーヒースタンドも、元ダイエーも消えゆく中津川

コーヒースタンド店内
中津川駅 駅舎

 なお、筆者が2024年の夏にコーヒ―スタンドを訪れた際には体調が優れなかったようで、「こっち(喫茶店)だけ閉めるかもしれない」と仰られていた。長らく温かいそばとコーヒーを提供してきた梅信亭弁当部・安藤商店には感謝しかない。

 旧中山道沿いの中津川は宿場町・馬籠宿へのバスが発着することもあり、近年はインバウンド観光客にぎわいを取り戻している。しかし駅の象徴でもあった駅そば・コーヒースタンドは消え、駅前にある「中津川市にぎわい交流館」(旧・ダイエー中津川店)も老朽化のため解体される方針だという。まもなく、中津川駅や街の当たり前の景色は変わりゆくだろう。

 根の上そば・コーヒースタンドを惜しむとともに、いつ消えるか分からないこういったなにげない景色を、もっと記憶しておきたい。